営業譲渡・事業譲渡の効果と譲渡人の競業避止義務(詐害営業譲渡)とは
えいぎょうじょうとじぎょうじょうとのこうかとじょうとにんのきょうぎょうひしぎむ
営業譲渡・事業譲渡とは、一定の営業目的のため組織化され有機的一体として機能する財産を譲渡し、譲渡人がその営業活動を譲受人に受け継がせる契約のことで、合併と違って資産や債権債務は当然には移転せず個別の移転手続を要します。譲渡人の競業避止義務とは、営業を譲渡した商人・事業を譲渡した会社が、別段の意思表示がない限り、同一・隣接の市町村の区域内で20年間同一の営業を行ってはならない義務のことです(商法16条・会社法21条)。詐害営業譲渡とは、譲渡人が残存債権者を害することを知ってした営業譲渡のことで、残存債権者は承継した財産の価額を限度として譲受人に債務の履行を請求できます(商法18条の2・会社法23条の2)。
店を丸ごと売るといっても、合併のように会社が溶け合うわけではありません。土地は登記を移し、売掛金は譲渡の通知をし、借金は債権者の承諾を得て引き受けてもらう、という個別の手続を一つずつ踏みます。店を売った側は、隣で同じ商売を始めて客を取り返してはいけませんが、この義務は当事者の合意で外すこともできます。一方、借金を残したまま財産だけを他人に移して債権者から逃げるような譲渡には、債権者が譲受人に直接請求できる道が用意されています。
営業・事業の譲渡は取引法上の契約で、資産や債権債務は当然には移転せず、個別の移転手続と債権者の同意を要します
営業譲渡(個人商人)・事業譲渡(会社)は、営業・事業を構成する財産を一括して譲渡する契約ですが、法律上は売買などと同じ取引法上の行為で、合併のように権利義務が包括的に承継されるわけではありません。不動産は登記、動産は引渡し、債権は譲渡の通知・承諾(民法467条)という個別の移転手続が要り、債務を譲受人に免責的に引き受けさせるには個々の債権者の同意が必要です(民法472条)。「営業又は事業の譲渡の効果として、特段の手続を要することなく、営業又は事業を構成する資産及び債権債務は譲渡人から譲受人に当然に移転する」という肢は誤りで、「吸収合併の場合には,消滅会社の債務は個々の債権者の同意なくして存続会社に承継されるが,事業譲渡の場合には,譲渡の相手方が譲渡会社の債務を免責的に引き受けるためには,個々の債権者の同意を得なければならない」という肢は正しいです。吸収分割では分割契約で定めた債務が債権者の個別の同意なく承継会社に承継されるので(会社法759条1項)、個別の同意が要るのは事業譲渡のほうです。「甲社がその債務を乙社に免責的に承継させようとする場合に当該債務に係る債権者の個別の同意を得る必要があるのは、吸収分割の方法による場合のみである」という肢は誤りです。同じ理由で、事業譲渡には債権者異議手続が無く(吸収分割では、分割後に吸収分割会社に対して債務の履行を請求することができなくなる債権者が異議を述べられます。789条1項2号)、事業譲渡の無効は訴えによらなくても主張できます(吸収分割の無効は828条1項9号の訴えによります)。「事業譲渡については,債権者異議手続をすることを要しないが,吸収分割については,債権者異議手続をしなければならないことがある」という肢は正しく、「事業譲渡の無効及び吸収分割の無効は,いずれも訴えをもってのみ主張することができる」という肢は誤りです。
判例は、事業の譲渡を有機的一体として機能する財産の譲渡と解し、単なる事業用財産の譲渡は重大な影響を及ぼすものでも事業の譲渡に当たらないとしています
会社法467条1項の株主総会の特別決議を要する「事業の譲渡」の意義について、判例は、一定の営業目的のため組織化され有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む)の全部又は重要な一部を譲渡し、これによって譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部又は重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその限度で法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴うものをいうとしました(最大判昭和40年9月22日)。商法上の営業譲渡と同じ意義です。この立場では、工場の土地建物のような事業用財産を譲渡しただけでは、それが譲渡会社に重大な影響を及ぼすものであっても、組織化された財産の譲渡でも営業活動の承継でもないので、事業の譲渡には当たりません。「判例の趣旨によれば、単なる事業用財産の譲渡は、たとえそれが譲渡会社に重大な影響を及ぼすようなものであっても事業の譲渡に該当しない」という肢は正しいです。株主総会の決議の要否や反対株主の株式買取請求(469条)はこの意義を前提に判断されます。
譲渡人の競業避止義務は合意で免除でき、加重する特約は30年の期間内に限り効力を有します
営業を譲渡した商人は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内では、譲渡の日から20年間、同一の営業を行ってはなりません(16条1項。会社は会社法21条1項)。譲受人は営業の得意先や信用も含めて対価を払っているので、譲渡人が近くで同じ営業を始めて客を取り返すのを防ぐためです。この義務は「当事者の別段の意思表示がない限り」負うものなので任意規定で、譲渡人と譲受人の合意で免除したり期間・区域を狭めたりすることができます。「営業又は事業の譲渡が行われた場合に生じる譲渡人の競業避止義務は、譲渡人と譲受人との間の合意によってもこれを免除することはできない」という肢は誤りです。逆に、譲渡人が同一の営業を行わない旨の特約をして義務を加重した場合、その特約は譲渡の日から30年の期間内に限り効力を有します(16条2項)。「Aは,同一の営業をしない旨の特約をした場合であっても,営業譲渡の日から30年を経過すれば,乙市内において同一の営業をすることができる」という肢は正しいです。期間や区域にかかわらず、譲渡人は不正の競争の目的をもって同一の営業を行うことはできません(同条3項)。この競業避止義務は事業譲渡に特有のもので、吸収分割の分割会社について同様の明文の規定はありません。「譲渡会社及び吸収分割会社のいずれについても,当事会社の別段の意思表示がない限り競業避止義務を負う旨が会社法に規定されている」という肢は誤りです。
譲渡人が残存債権者を害することを知って譲渡し譲受人も悪意なら、商号の続用がなくても残存債権者は承継した財産の価額を限度に譲受人に請求できます
譲渡人が、譲受人に承継されない債務の債権者(残存債権者)を害することを知って営業を譲渡した場合には、残存債権者は、譲受人に対して、承継した財産の価額を限度として、その債務の履行を請求することができます(18条の2第1項本文。会社は会社法23条の2)。ただし、譲受人が譲渡の効力が生じた時に残存債権者を害することを知らなかったときは請求できません(同項ただし書)。平成26年の会社法改正で詐害的な会社分割の残存債権者の請求(759条4項など)が設けられたのに合わせ、商法と会社法総則に置かれた規定で、優良な財産だけを譲受人に移して債務を譲渡人に残す濫用を防ぎます。商号の続用(17条)や債務引受けの広告(18条)が無くても使えますが、譲受人の責任は承継した財産の価額が限度です。「営業又は事業の譲渡人が、譲受人に承継されない債務の債権者を害することを知って営業又は事業を譲渡し、当該譲受人が、当該譲渡の効力が生じた時までに当該債権者を害することを知っていた場合には、当該譲受人が当該譲渡人の商号を続用しないときであっても、当該債権者は、当該譲受人に対し、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行の請求をすることができる」という肢は正しいです。吸収分割の残存債権者の請求(759条4項)と並んで事業譲渡についても会社法に明文があるので、「吸収分割会社が吸収分割承継会社に承継されない債務の債権者を害することを知って吸収分割をした場合には,当該債権者が吸収分割承継会社に対して当該債務の履行を請求することができるときがあることが会社法に規定されているが,譲渡会社が譲受会社に承継されない債務の債権者を害することを知って事業譲渡をした場合には,当該債権者が譲受会社に対して当該債務の履行を請求することができるときがあることは会社法に規定されていない」という肢は誤りです。この責任は、譲渡人が残存債権者を害することを知って譲渡したことを残存債権者が知った時から2年以内に請求又は請求の予告をしないと消滅し、譲渡の効力発生日から10年を経過したときも消滅します(18条の2第2項)。譲渡人に破産手続開始・再生手続開始の決定があったときは、残存債権者は請求できません(同条3項)。
営業譲渡・事業譲渡と合併・会社分割の比較
- 権利義務の移転: 事業譲渡は個別の移転手続(登記・引渡し・債権譲渡の対抗要件・債務引受けの債権者同意)。合併・会社分割は包括承継(750条・759条)
- 意義(最大判昭40.9.22): 有機的一体として機能する財産の譲渡+営業活動の承継+競業避止義務。単なる事業用財産の譲渡は当たらない
- 株主総会: 事業の全部・重要な一部の譲渡は特別決議(467条1項)。反対株主の株式買取請求(469条)
- 競業避止義務: 事業譲渡の譲渡人のみ(商法16条・会社法21条)。別段の意思表示で免除可。特約で加重は30年まで。不正競争目的は常に禁止。会社分割には明文なし
- 債権者異議手続: 事業譲渡には無い。吸収分割は分割後に分割会社に債務の履行を請求できなくなる債権者が異議を述べられる(789条1項2号)
- 無効の主張: 事業譲渡は一般の無効主張。会社分割は無効の訴えのみ(828条1項9号・10号)
- 詐害的な譲渡・分割: 残存債権者は承継財産の価額を限度に請求(商法18条の2・会社法23条の2・759条4項)。譲受人・承継会社の悪意が要件。2年・10年で消滅、破産・再生手続開始で行使不可
商法16条1項
営業を譲渡した商人(以下この章において「譲渡人」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(特別区を含むものとし、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあっては、区又は総合区。以下同じ。)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その営業を譲渡した日から二十年間は、同一の営業を行ってはならない。
商法18条の2第1項
譲渡人が譲受人に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って営業を譲渡した場合には、残存債権者は、その譲受人に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、その譲受人が営業の譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
論文ではこう使う
論文で事業譲渡の意義が問われる場面(株主総会の特別決議の要否、467条1項)では、最大判昭40.9.22 の定義を、①有機的一体として機能する財産の譲渡、②営業的活動の承継、③競業避止義務を負う結果、の3点で示し、事案の譲渡対象が単なる事業用財産か組織化された財産かを当てはめます。残存債権者の救済を論じる場面では、商号続用責任(22条1項)、債務引受けの広告(23条)、詐害事業譲渡(23条の2。譲渡会社と譲受会社の悪意、承継財産の価額の限度)、詐害行為取消権、法人格否認の順に検討します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。