商業登記の効力(登記前の対抗・登記後の正当な事由・不実の登記)とは
しょうぎょうとうきのこうりょく
商業登記の効力とは、商法・会社法の規定により登記すべき事項について、登記の前は善意の第三者に対抗できず、登記の後は第三者が正当な事由によって登記があることを知らなかったときを除いて対抗できるという規律(商法9条1項・会社法908条1項)と、故意又は過失によって不実の事項を登記した者はその事項が不実であることを善意の第三者に対抗できないという規律(商法9条2項・会社法908条2項)のことです。
商人が支配人を解任したのに登記を直さないでいると、何も知らずにその人と取引した相手は、支配人だと信じて契約したのに無効だと言われては困ります。そこで商法は、登記すべき事項は登記するまで知らない相手には主張できないと定め、逆に登記した後は、登記簿を見れば分かるのだから、見なかった相手にも原則として主張できることにしました。登記簿に正しい情報を載せれば守られ、載せなければ守られないという仕組みで、商人に登記を促しています。さらに、事実と違う登記をわざと又は不注意でした者は、その登記を信じた相手に本当は違うと言えません。
登記すべき事項は、登記の前は善意の第三者に対抗できませんが、悪意の第三者には登記前でも対抗できます
商法・会社法の規定により登記すべき事項は、登記の後でなければ善意の第三者に対抗することができません(商法9条1項前段・会社法908条1項前段)。登記していない間は、その事実を知らない第三者に対して主張できないという消極的な効力です。「商法の規定によって登記すべき事項は,登記の後でなければ,善意の第三者に対抗することができない」という部分は正しく、「商人が支配人を解任したにもかかわらずその旨の登記をしていない場合,解任を知らなかった第三者との関係では,当該商人は,解任の事実を対抗することができない」という肢は正しいです。対抗できないのは善意の第三者に対してだけなので、その事実を知っている悪意の第三者には登記前でも対抗できます。「株式会社の代表取締役の就任は,その登記の前でも,悪意の第三者に対抗することができる」という肢は正しいです。登記の申請をしたのに登記官の過誤で登記がされなかった場合も、登記が無い以上は善意の第三者に対抗できません。「会社法の規定により登記すべき事項について、登記の申請がされたものの、登記官の過誤により当該登記がされなかった場合には、当該登記の申請者は、当該事項を善意の第三者に対抗することができない」という肢は正しいです。
登記の後でも、正当な事由によって登記を知らなかった第三者には対抗できませんが、正当な事由は負傷などの主観的事情を含みません
登記の後は、第三者が善意でも対抗することができます。登記簿を見れば分かる状態になったので、知らなかったことを第三者の不利益にしてよいからです(積極的公示力)。ただし、登記の後であっても、第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかったときは対抗できません(商法9条1項後段・会社法908条1項後段)。「登記の後であっても,その登記があることを正当な事由によって知らなかった第三者に対しては対抗することができない」という部分も正しく、この両方を述べる「商法の規定によって登記すべき事項は,登記の後でなければ,善意の第三者に対抗することができないが,登記の後であっても,その登記があることを正当な事由によって知らなかった第三者に対しては対抗することができない」という肢は正しいです。「株式会社の支配人の退任による代理権の消滅は,その登記の後でも,第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかったときは,その第三者に対抗することができない」という肢と、「個人商人の支配人の代理権の消滅は,その登記の後でも,第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかったときは,当該第三者に対抗することができない」という肢は正しいです。判例は、正当な事由とは、災害で交通が途絶したり登記簿が滅失したりして登記簿を閲覧できないといった客観的な障害のことで、第三者の病気や多忙のような主観的な事情は含まないとしています(最判昭和52年12月23日)。「会社法の規定により登記すべき事項が登記された後であっても、過失なく負傷したため登記簿を閲覧することができなかったことにより、その登記があることを知らなかった者に対しては、当該事項を対抗することができない」という肢は誤りです。
第三者の側から登記前の事実を主張することはでき、訴訟で誰が会社を代表するかには登記の効力の規定は適用されません
登記前に善意の第三者に対抗できないのは、登記を怠った当事者の側です。第三者の側から、登記されていない事実を認めて主張することは妨げられません。判例は、支配人選任の登記が無くても、第三者から支配人を選任した営業主に対して選任の事実を対抗することは妨げられないとしています(大判明治41年10月12日)。「判例の趣旨によれば,個人商人が支配人を選任した場合には,その登記の前でも,その支配人と取引をした第三者は,その個人商人に支配人の選任を対抗することができる」という肢と、「判例の趣旨によれば,個人商人が支配人を選任したが,その登記をする前である場合において,当該支配人が当該個人商人の支配人として第三者と取引をしたときは,当該第三者は,当該個人商人に当該取引の効果が帰属することを主張することができる」という肢はいずれも正しいです。また、登記は対抗要件であって、登記が無くても実体に合った取引は実体どおりに扱われるので、商人は選任登記前に支配人がした取引が有効であることを主張できます。「商人が支配人を選任したが,その旨の登記をしていない場合において,その支配人が当該商人のために第三者と契約を締結したときは,当該商人は,当該選任の事実を知らない第三者に対して契約が有効であることを主張することはできない」という肢と、「支配人を選任したものの,その登記をしていない場合は,商人は,その支配人が当該商人のためにすることを示して行った取引の相手方に対し,当該取引が有効であると主張することができない」という肢はいずれも誤りです。就任登記前の代表取締役が会社を代表して振り出した手形も会社が責任を負い(最判昭和35年4月14日)、「代表取締役が会社を代表して約束手形を振り出した場合であっても,代表取締役の就任につき登記がされていないときは,その代表取締役が個人として手形上の責任を負う」という肢は誤りです。さらに、登記の効力の規定は会社と取引関係に立つ第三者を保護するもので、判例は、民事訴訟において誰が当事者である会社を代表する権限を有するかを定めるに当たっては会社法908条1項の適用は無いとしています(最判昭和43年11月1日)。「判例の趣旨によれば,株式会社の代表取締役は,その登記の後でなければ,民事訴訟における当事者である株式会社を代表する権限を有する者とはならない」という肢は誤りで、「株式会社の代表取締役は、代表取締役である旨の登記がされているか否かにかかわらず、当該株式会社を代表して取引先である会社に対する売買代金請求の訴えを提起することができる」という肢は正しいです。
退任や解任の登記をした後は、民法の代理権消滅後の表見代理の規定は適用も類推適用もされません
代表取締役の退任や支配人の解任を登記した後に、その者がなお代表者・支配人と称して取引をした場合、相手方は民法112条の表見代理で守られるかが問題になります。判例は、代表取締役の退任と代表権の喪失を登記したときは専ら登記の効力の規定(現在の会社法908条1項)が適用され、登記後は善意の第三者にも対抗できるのであって、別に民法112条を適用又は類推適用する余地は無いとしました(最判昭和49年3月22日)。登記後の第三者を正当な事由がある場合に限って保護する規定の趣旨を、民法の表見代理で覆さないためです。「代表取締役が退任してその代表権を喪失し,退任の登記がされたときは,その後その者が会社の代表者として第三者とした取引については,民法第112条の規定は,適用されない」という肢は正しく、「判例の趣旨によれば,代表取締役の退任について株式会社が登記したときは,その後にその者が当該株式会社の代表者として第三者とした取引については,民法の代理権消滅後の表見代理に関する規定が適用又は類推適用される」という肢は誤りです。支配人の解任についても同じで、「判例の趣旨に照らせば,商人が支配人を解任し,その旨の登記をした後は,第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかったときでない限り,当該商人は善意の第三者に対しても解任を対抗することができ,解任された支配人が支配人と称して当該商人をなおも代理して第三者と契約を締結したとしても表見代理が成立する余地はない」という肢は正しいです。なお、商業登記には登記された事項が真実であるという法律上の推定力はなく、事実上の推定が働くにとどまります。「商業登記には,登記された事項が真実であるという法律上の推定力がある」という肢は誤りです。
故意又は過失によって不実の事項を登記した者は、その不実を善意の第三者に対抗できず、就任登記を承諾した者は役員等の第三者責任を負います
故意又は過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができません(商法9条2項・会社法908条2項)。登記を信じた第三者を保護する規定で、対抗できない相手は善意の第三者です。「株式会社の代表取締役として選定されていない者について,故意又は過失によりその就任の登記をした株式会社は,その事項が不実であることを悪意の第三者に対抗することができない」という肢は誤りです。この規定は登記をした者の故意・過失を要件とするので、登記官の過誤で誤った内容が登記された場合には申請者に故意・過失が無く、申請者は不実であることを善意の第三者に対抗できます。「申請された登記事項について登記官の過誤により誤った内容が登記された場合には、当該登記の申請者は、当該事項が不実であることを善意の第三者に対抗することができない」という肢は誤りです。判例は、この規定が適用されるには原則として登記が申請権者の申請に基づいてされたことを要するとし、代表取締役でない者が勝手に自らを代表取締役とする就任登記を申請した場合、会社はその登記を自らの申請に基づく登記と同視すべき特段の事情が無い限り、善意の第三者にもその者が代表取締役でないことを対抗できるとしました(最判昭和55年9月11日)。「代表取締役でない者が,自ら会社の代表者として代表取締役の就任の登記の申請をしたことにより,その旨の登記がされたときは,その会社は,その登記を自らの申請に基づく登記と同視するのを相当とするような特段の事情がない限り,善意の第三者に対しても,その者が代表取締役でないことを対抗することができる」という肢は正しいです。他方、登記の申請者でない者でも、不実の登記の出現に加功した者には規定が類推適用されます。判例は、取締役に選任されていないのに就任の登記に承諾を与えた者は、不実の登記の出現に加功した者として、善意の第三者に対して自己が取締役でないことを対抗できず、積極的に取締役として行為をしていなくても役員等の第三者に対する責任(会社法429条1項)を免れないとしています(最判昭和47年6月15日)。「取締役でないのに取締役として就任の登記をされた者が故意又は過失によりその登記につき承諾を与えていたときは,その者は,自己が取締役でないことをもって善意の第三者に対抗することができない」という肢は正しく、「株式会社の取締役として選任されていない者は、自己を取締役として登記することについて承諾し、その旨の登記がされた場合であっても、積極的に取締役として対外的又は内部的な行為をしない限り、会社法第429条第1項の役員等としての責任を負わない」という肢は誤りです。辞任した取締役については、判例は、辞任登記未了のまま放置することを明示的に承諾していたなどの特段の事情がある場合に限り、善意の第三者に取締役でないことを対抗できないとしています(最判昭和62年4月16日)。過失で登記未了を知らずに放置していただけでは対抗できます。「取締役を退任したにもかかわらずその旨の登記がされていない場合には,退任した取締役は,過失により退任の登記がされていないことを知らなかったためこれを放置していたときであっても,善意の第三者に対し,自己が取締役でないことを対抗することができない」という肢は誤りです。
商業登記の効力の整理(商法9条・会社法908条)
- 登記前(1項前段): 善意の第三者に対抗できない。悪意の第三者には対抗できる。登記官の過誤で登記されなかった場合も同じ
- 第三者側からの主張: 登記前でも第三者は事実を主張できる(大判明41.10.12)。実体に合った取引は当事者も有効と主張できる(最判昭35.4.14)
- 登記後(1項後段): 善意の第三者にも対抗できる。正当な事由(災害・登記簿の滅失など客観的障害。病気・負傷は含まない。最判昭52.12.23)がある第三者には対抗できない
- 民法112条との関係: 退任・解任の登記後は民法112条の適用・類推適用なし(最判昭49.3.22)
- 訴訟上の代表権: 908条1項は適用されない。登記前でも代表取締役は訴訟で会社を代表できる(最判昭43.11.1)
- 推定力: 法律上の推定力はない
- 不実の登記(2項): 故意・過失で不実の登記をした者は善意の第三者に対抗できない。登記官の過誤には不適用。申請権者の申請に基づく登記であることが原則(最判昭55.9.11)
- 類推適用: 就任登記を承諾した者(最判昭47.6.15。429条1項の責任も負う)。辞任登記未了の放置は明示の承諾など特段の事情がある場合に限る(最判昭62.4.16)
商法9条1項
この編の規定により登記すべき事項は、登記の後でなければ、これをもって善意の第三者に対抗することができない。登記の後であっても、第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかったときは、同様とする。
商法9条2項
故意又は過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができない。
論文ではこう使う
論文で退任した代表取締役や解任された支配人がした取引の効果帰属を論じるときは、まず会社法908条1項(商法9条1項)で登記の前後を分け、登記前なら善意の第三者に対抗できないので取引は会社に帰属し、登記後なら正当な事由の有無を検討して原則として対抗できることを示します。そのうえで、相手方が民法112条の表見代理を主張しても、判例(最判昭49.3.22)は登記後は専ら908条1項が適用され民法112条の適用・類推適用の余地は無いとしていることを書き、表見代表取締役(354条)や表見支配人(商法24条)の規定が別に働く余地だけ検討します。登記簿上の取締役の責任を論じるときは、908条2項の類推適用(最判昭47.6.15)から429条1項の責任につなぎ、辞任登記未了の者は特段の事情(最判昭62.4.16)の有無で分けます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。