表見支配人とその他の商業使用人(ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人・物品販売店舗の使用人)とは
ひょうけんしはいにんとそのたのしょうぎょうしようにん
表見支配人とは、支配人ではないのに、商人の営業所(会社では本店又は支店)の営業の主任者であることを示す名称を付された使用人のことで、相手方が悪意の場合を除き、その営業所の営業に関する一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなされます(商法24条・会社法13条)。その他の商業使用人として、ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人はその事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を持ち(商法25条・会社法14条)、物品の販売等を目的とする店舗の使用人は相手方が悪意の場合を除き店舗に在る物品の販売等をする権限を有するものとみなされます(商法26条・会社法15条)。
「支店長」の名刺を持つ人と契約した相手は、その人に支店の取引を任されていると信じます。実は会社が支配人として選任していなくても、支店長という肩書を付けたのは会社ですから、信じた相手を守って、その支店の営業に関する取引は有効に会社に帰属させます。これが表見支配人です。ただし守られるのは裁判外の取引までで、訴訟の代理までは含みません。同じ考え方で、仕入担当の部長はその担当事項の取引ができ、店頭の店員は店にある商品を売る権限があるものとして扱われます。いずれも相手方が知っていた場合は守られません。
営業の主任者であることを示す名称を付した使用人は、相手方が悪意の場合を除き、その営業所の営業に関する一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなされます
商人の営業所の営業の主任者であることを示す名称を付した使用人は、その営業所の営業に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなされ、相手方が悪意であったときはこの限りでありません(24条。会社の本店・支店については会社法13条)。支店長・営業所長・本店営業部長のように、その営業所の営業を統括する者であることを示す名称がこれに当たります。みなされる権限は「一切の裁判外の行為」で、支配人が持つ裁判上の行為の権限(21条1項)は含まれません。訴訟行為まで表見法理で有効にする必要は無いからです。したがって、表見支配人を「支配人と同一の権限を有するものとみなされる」と書いた肢や、裁判上の行為の権限を認める肢は誤りです。「商人の営業所の営業の主任者であることを示す名称を付した使用人は,善意の相手方に対しては,当該営業所の営業に関し,支配人と同一の権限を有するものとみなされる」という肢は誤りです。また、権限があるとみなされるのは「当該営業所の営業に関し」てで、商人の営業全体についてではありません。「支店長、副支店長その他商人を代理する権限を有するものと認められる名称を付した使用人は、相手方が悪意である場合を除き、当該商人の営業に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなされる」という肢は、みなされる権限の範囲を商人の営業全体に広げている点で誤りです。支店長・副支店長は営業の主任者であることを示す名称の典型ですが、保護されるのはその営業所の責任者らしい外観への信頼なので、権限もその営業所の営業に限られます。相手方の主観については、悪意の相手方が保護されないほか、重大な過失がある相手方も悪意の相手方と同じく保護されないと解されており、「商人が支店の使用人であって支配人でないものに支配人の肩書を付与した場合,その者が支配人であると善意かつ無過失で信頼して契約を締結した第三者に対しては,当該商人は,契約の無効を主張することができない」という肢は正しいです。
表見支配人に支配人の選任登記は要りませんが、判例は名称を付された場所が営業所としての実質を備えていることを要求します
表見支配人の規定は、商人が営業の主任者であることを示す名称を使用人に付した(又は使用を許した)という外観に責任を負わせるもので、商人がその者を支配人に選任した旨の登記をしていることは要件ではありません。登記があればそもそも真の支配人です。支配人の選任と代理権の消滅は登記事項なので(22条)、「支配人の選任及びその代理権の消滅については,その登記をしなければならない」という肢は正しいです。「商人が支店の使用人であって支配人でないものに支配人の肩書を付与したとしても,当該商人がその者について支配人に選任した旨の登記をしない限りは,当該使用人が表見支配人に当たることはない」という肢は誤りです。一方、条文が「営業所の営業の主任者」と定めていることから、判例は、名称を付された場所が、ある範囲で独立して営業活動を決定し対外的な取引をする営業所としての実質を備えていることを要し、営業所としての実質を欠く場所を営業所と称してそこに置いた使用人に支配人類似の名称を付しても、表見支配人の規定は適用されないとしました(最判昭和37年5月1日)。「判例の趣旨によれば,会社の支店の事業の主任者であることを示す名称を付した使用人が,善意の相手方に対し当該支店の支配人と同一の権限を有するものとみなされるのは,当該支店が営業所としての実質を備えている場合に限られる」という肢は正しく、「判例によれば,営業所としての実質がない場所を営業所と称し,そこに置いた使用人に支配人類似の名称を付している場合には,この使用人は表見支配人に該当する」という肢は誤りです。営業所の実質を欠く場合でも、民法の表見代理(109条・110条)が成立する余地は残ります。
表見支配人の権限はその営業所の営業に関する行為に限られ、ある営業所の支配人が他の営業所の営業について行為をしても表見支配人に当たりません
表見支配人とみなされる権限は、名称を付された営業所の営業に関する行為に限られます。判例は、A営業所の支配人として選任された者がB営業所の営業に属する行為をした事案で、その者はB営業所について営業の主任者であることを示す名称を付されていないので、B営業所の営業に関して表見支配人の規定は適用されないとしました(最判昭和54年5月1日)。表見支配人は、その営業所における営業の目的である行為について代理権を有するものとみなされるにとどまるからです。「判例の趣旨によれば,個人商人のA営業所のみの支配人として選任された者がB営業所の営業に関する行為を行った場合には,その者は,善意の第三者に対しては,B営業所の支配人と同一の権限を有するものとみなされる」という肢は誤りです。真の支配人の代理権も選任された営業所の営業に限られるので、この場合は無権代理となり、民法の表見代理の成否が別に問題になります。
ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人の権限は裁判外の行為に限られ、物品販売店舗の使用人は店舗に在る物品を販売する権限があるものとみなされます
商人の営業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、その事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有し、その代理権に加えた制限は善意の第三者に対抗できません(25条・会社法14条)。仕入部長・販売課長などがこれに当たり、委任された事項の範囲では包括的な代理権を持ちますが、裁判上の行為の権限はありません。「商人の営業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する」という肢は誤りです。物品の販売等(販売・賃貸その他これらに類する行為)を目的とする店舗の使用人は、その店舗に在る物品の販売等をする権限を有するものとみなされ、相手方が悪意であったときはこの限りでありません(26条・会社法15条)。店頭の店員に販売の権限が無いと言われては客が安心して買えないからで、店員に実際の代理権が無くても、善意の客との売買は有効です。「物品の販売を目的とする店舗の使用人は,善意の相手方に対しては,その店舗内に在る物品の販売をする権限を有するものとみなされる」という肢は正しいです。なお、商業使用人は商人に従属して営業を補助する者で、代理商は商人のために取引の代理・媒介をする独立の商人であって商業使用人ではありません(27条)。「代理商は,商業使用人の一種である」という肢は誤りです。
商業使用人の権限の比較
- 支配人(21条): 営業に関する一切の裁判上・裁判外の行為。選任・消滅は登記
- 表見支配人(24条): 営業所の営業の主任者の名称を付した使用人。その営業所の営業に関する一切の裁判外の行為の権限があるとみなす。相手方の悪意(重過失)で不適用。選任登記は不要。営業所の実質が必要(最判昭37.5.1)。他の営業所の営業には及ばない(最判昭54.5.1)
- ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人(25条): その事項に関する一切の裁判外の行為。制限は善意の第三者に対抗不可
- 物品販売店舗の使用人(26条): 店舗に在る物品の販売等の権限があるとみなす。相手方の悪意で不適用
- 代理商(27条): 商業使用人ではなく独立の商人
商法24条
商人の営業所の営業の主任者であることを示す名称を付した使用人は、当該営業所の営業に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなす。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。
商法25条1項
商人の営業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する。
商法26条
物品の販売等(販売、賃貸その他これらに類する行為をいう。以下この条において同じ。)を目的とする店舗の使用人は、その店舗に在る物品の販売等をする権限を有するものとみなす。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。
論文ではこう使う
論文で支店長や営業所長がした権限外の取引の効果帰属を論じるときは、会社法13条(商法24条)の要件として、①本店・支店(営業所)の実質を備えた場所であること(最判昭37.5.1)、②事業の主任者であることを示す名称を会社が付したこと、③その営業所の事業に関する裁判外の行為であること(最判昭54.5.1)、④相手方が悪意・重過失でないこと、を当てはめ、要件を欠く場合は民法109条・110条の表見代理を検討します。部長・課長の取引なら会社法14条(商法25条)で委任された事項の範囲と代理権の制限(善意の第三者に対抗不可)を論じます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。