組織再編の差止請求と無効の訴えとは
そしきさいへんのさしとめせいきゅうとむこうのうったえ
組織再編の差止請求とは、合併・会社分割・株式交換・株式移転が法令又は定款に違反する場合などに、不利益を受けるおそれのある株主が効力発生前に自分の会社に対してその組織再編をやめることを請求できる制度です(会社法784条の2・796条の2・805条の2)。組織再編の無効の訴えとは、効力発生後にその無効を主張するための訴えで、効力発生日から6か月以内に株主等・破産管財人・承認しなかった債権者などが提起でき、認容判決は第三者にも効力が及び、組織再編は将来に向かって効力を失います(828条1項7号〜12号、838条、839条)。
合併が済んでしまった後で「あの合併は手続がおかしかった」と誰でもいつでも言えるとしたら、合併を前提に積み重ねた取引や雇用がすべて揺らぎます。そこで組織再編の無効は、効力発生から6か月以内に、限られた人が訴えでしか主張できず、無効になっても過去にさかのぼらない仕組みになっています。逆に言えば、効力が生じる前に止めたいなら、法令や定款に違反する組織再編で不利益を受ける株主が差止めを請求するのが筋です。合併の条件が不公平だという不満は、買取請求で出口を得られるので、無効の理由にはならないと考えられています。
組織再編の無効は効力発生日から6か月以内に訴えによってのみ主張でき、提訴できるのは株主等・破産管財人・承認しなかった債権者などで、新設合併の被告は設立会社です
吸収合併・新設合併・吸収分割・新設分割・株式交換・株式移転・株式交付の無効は、効力が生じた日から6か月以内に、訴えをもってのみ主張することができます(828条1項7号〜13号)。組織再編を前提に多数の法律関係が積み重なるので、無効を主張できる期間と方法を限って法律関係を安定させる趣旨です。「吸収合併無効の訴えは,吸収合併の効力が生じた日から6か月以内に提起しなければならない」という肢と「吸収分割の無効は,吸収分割の効力が生じた日から6か月以内に,吸収分割の無効の訴えをもってのみ,主張することができる」という肢は正しいです。事業譲渡は828条に掲げられていないので、無効は訴えによらずに主張できます。「事業譲渡の無効及び吸収分割の無効は,いずれも訴えをもってのみ主張することができる」という肢は誤りです。提訴権者は、効力発生日に当事会社の株主等(株主・取締役・監査役・執行役・清算人)であった者、効力発生後の各当事会社の株主等、破産管財人、組織再編について承認をしなかった債権者です(828条2項7号〜13号)。反対株主が株式買取請求をしていても、株主等であることに変わりはないので訴えを提起できます。「吸収分割株式会社の反対株主は,吸収分割株式会社に対し,会社法所定の手続に従って,自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができるが,吸収分割の無効の訴えを提起することはできない」という肢は誤りです。被告は、吸収合併では存続会社、新設合併では設立会社、吸収分割では分割会社と承継会社、株式交換では完全親会社と完全子会社です(834条7号〜12号)。消滅会社は効力発生で消えているので被告になりません。「新設合併の場合,新設合併契約を承認した消滅会社の株主総会の決議に瑕疵があることを理由として新設合併の無効の訴えを提起するときは,設立会社を被告としなければならない」という肢は正しいです。無効原因は条文にありませんが、承認決議の瑕疵、債権者異議手続の欠缺、事前開示の重大な不備など、手続の重大な法令違反が無効原因になると解されています。承認決議に取消事由がある場合は、効力発生後は決議取消しの訴えではなく組織再編無効の訴えで争います。
認容判決には対世効があり棄却判決にはなく、組織再編は将来に向かって効力を失い、効力発生日にさかのぼりません
会社の組織に関する訴えに係る請求を認容する確定判決は、第三者に対してもその効力を有します(838条)。同じ合併がある人には有効で別の人には無効という事態を避けるためです。「吸収合併等の無効の訴えに係る請求を認容する判決は,第三者に対してもその効力を有する」という肢は正しいです。この規律は法律関係を画一的に確定するためのものであって、株主保護を直接の目的とする規律には当たりません。対世効があるのは認容判決だけで、請求を棄却する確定判決には第三者効を認める規定がなく、他の提訴権者は期間内であれば改めて訴えを提起できます。「株式交換の無効の訴えに係る請求を棄却する確定判決は,第三者に対してもその効力を有する」という肢は誤りです。認容判決が確定したときは、無効とされた組織再編は将来に向かってその効力を失い(839条)、効力発生日にさかのぼって無効になるわけではありません。「吸収分割は,吸収分割の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定したときには,吸収分割の効力が生じた日にさかのぼってその効力を失う」という肢は誤りです。合併や会社分割の無効判決が確定したときは、存続会社等が効力発生後に負担した債務は当事会社が連帯して弁済し、取得した財産は共有になります(843条)。株式交換・株式移転の無効判決が確定したときは、旧完全親会社は判決確定時の株主に旧完全子会社の株式を交付します(844条)。
合併比率の不公正は無効原因にならないとする見解の論拠は、比率の算定方式の多様性・株式買取請求権の存在・特別決議があれば有利発行も許されることで、決議の取消事由や債権者異議手続はふさわしくありません
合併比率が不公正であることが合併無効の原因になるかについて、下級審の裁判例は、合併比率が不当であっても承認決議に反対した株主は株式買取請求権を行使できるので、比率の不当や不公正それ自体は無効原因にならないとし、仮に著しく不公正な比率が無効原因になるとしても、株式の価値は多くの事情を勘案して種々の方式で算定され唯一の数値には確定できないので、企業価値の測定として許される範囲を超えない限り著しく不当とはいえないとしました(東京高判平成2年1月31日)。この見解の論拠としては、「合併比率の算定に当たっては,多くの事情を勘案しなければならず,その算定の方式にも種々のものがある」こと、「反対株主は,原則として,会社に対し,株式買取請求権を行使することができる」こと、「株主総会の特別決議があれば,募集株式を引き受ける者に特に有利な払込金額で募集株式を発行することができる」こと(特別決議を経れば既存株主の持分の希釈も許される以上、特別決議で承認された合併比率も同様に扱えること)がふさわしいものに当たります。これに対して、「株主総会の決議の方法が法令又は定款に違反するときは,その違反は,その決議の取消事由となる」ことは、決議の手続の瑕疵という別の無効原因の話であって合併比率の内容の問題とは関係がなく、「会社は,原則として,一定の期間内に異議を述べた債権者に対し,弁済し,又は相当の担保を提供しなければならない」ことは、債権者を守る規律で株主の不利益とは関係がないので、いずれもこの見解の論拠としてふさわしくないものに当たります。合併比率の不公正を無効原因と認める見解は、特別支配株主が議決権を行使して著しく不公正な比率を承認させた場合などに、株式買取請求だけでは救済が足りないことを理由にします。
法令・定款違反で株主が不利益を受けるおそれがあるときは株主が自分の会社に差止めを請求でき、略式手続の場合もできますが、簡易手続の要件を満たす存続会社等の株主にはできません
吸収合併等が法令又は定款に違反する場合に、消滅株式会社等の株主が不利益を受けるおそれがあるときは、その株主は消滅株式会社等に対し、吸収合併等をやめることを請求することができます(784条の2第1号)。存続株式会社等の株主も同じです(796条の2第1号)。新設型にも同じ規定があります(805条の2)。平成26年改正で、略式組織再編に限られていた差止請求が組織再編全般に広げられました。「吸収合併が法令又は定款に違反する場合であって,消滅会社の株主が不利益を受けるおそれがあるときは,当該消滅会社の株主は,当該消滅会社に対し,当該吸収合併をやめることを請求することができる」という肢は正しいです。差止めを請求する相手は自分が株主である会社であって、相手方の当事会社ではありません。略式手続の場合は、株主総会の決議がないことの代わりに、法令・定款違反の場合に加えて、対価が会社の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当である場合にも差止めを請求できます(784条の2第2号・796条の2第2号)。「吸収分割承継株式会社が吸収分割株式会社の特別支配会社である場合であっても,吸収分割が法令又は定款に違反するときであって,当該吸収分割株式会社の株主が不利益を受けるおそれがあるときは,当該吸収分割株式会社の株主は,当該吸収分割株式会社に対し,当該吸収分割をやめることを請求することができる」という肢は正しく、「吸収分割承継株式会社が吸収分割株式会社の特別支配会社であるいわゆる略式分割においては,当該略式分割が法令又は定款に違反する場合であって,吸収分割株式会社の株主が不利益を受けるおそれがあるときであっても,当該株主は,当該吸収分割株式会社に対し,当該略式分割をやめることを請求することができない」という肢は誤りです。他方、簡易手続の要件を満たす場合、すなわち簡易分割の分割会社の株主(784条の2ただし書・805条の2ただし書)と簡易手続による存続会社等の株主(796条の2ただし書)には差止請求権がありません。株主への影響が軽いからです。「吸収合併等の各当事会社の株主は,一定の場合には,自己が株式を有する会社に対し,吸収合併等をやめることを請求することができる」という規律は、違法な組織再編を効力発生前に株主自身が止める手段なので、株主保護を直接の目的とする規律に当たります(簡易手続の側の株主には認められない点には注意が要ります)。
無効の訴えと差止請求
- 無効の訴え: 効力発生日から6か月以内、訴えによってのみ(828条1項7号〜13号)。事業譲渡には無い
- 提訴権者: 株主等・破産管財人・承認をしなかった債権者(828条2項)。買取請求をした反対株主も可
- 被告: 吸収合併は存続会社、新設合併は設立会社、吸収分割は分割会社と承継会社、株式交換は両当事会社(834条)
- 判決の効力: 認容判決は対世効(838条)、棄却判決には無い。将来に向かって効力を失う(839条)。合併・分割は843条、株式交換・移転は844条で後始末
- 差止請求: 法令・定款違反+株主の不利益のおそれ(784条の2・796条の2・805条の2)。略式では対価の著しい不当も理由になる。簡易手続の側の株主にはできない
- 合併比率の不公正: 無効原因にならないとする見解の論拠は、算定方式の多様性・買取請求権・特別決議による有利発行の許容
会社法828条1項
株式会社における次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。(略)七 会社の吸収合併 吸収合併の効力が生じた日から六箇月以内 八 会社の新設合併 新設合併の効力が生じた日から六箇月以内 九 会社の吸収分割 吸収分割の効力が生じた日から六箇月以内 十 会社の新設分割 新設分割の効力が生じた日から六箇月以内 十一 株式会社の株式交換 株式交換の効力が生じた日から六箇月以内 十二 株式会社の株式移転 株式移転の効力が生じた日から六箇月以内
会社法838条
会社の組織に関する訴えに係る請求を認容する確定判決は、第三者に対してもその効力を有する。
会社法784条の2
次に掲げる場合において、消滅株式会社等の株主が不利益を受けるおそれがあるときは、消滅株式会社等の株主は、消滅株式会社等に対し、吸収合併等をやめることを請求することができる。ただし、前条第二項に規定する場合は、この限りでない。一 当該吸収合併等が法令又は定款に違反する場合 二 前条第一項本文に規定する場合において、第七百四十九条第一項第二号若しくは第三号、第七百五十一条第一項第三号若しくは第四号、第七百五十八条第四号、第七百六十条第四号若しくは第五号、第七百六十八条第一項第二号若しくは第三号又は第七百七十条第一項第三号若しくは第四号に掲げる事項が消滅株式会社等又は存続会社等の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当であるとき。
論文ではこう使う
論文で合併比率の不公正を争う株主の救済を書くときは、①効力発生前なら差止請求(784条の2・796条の2)、ただし通常の手続では法令・定款違反が要るので、比率の不公正だけでは原則として差し止められず、取締役の善管注意義務違反や開示の不備を法令違反として構成できるかを検討し、②株式買取請求(785条・797条)で退出できること、③効力発生後は無効の訴え(828条1項7号)で、比率の不公正が無効原因になるかについて、買取請求権があることと算定方式の多様性を理由に否定する見解と、特別支配株主の議決権行使で著しく不公正な比率が承認された場合に肯定する見解を対比して書きます。承認決議の瑕疵(特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議など)を無効原因とする構成も忘れないようにします。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。