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株主の権利の行使に関する利益の供与とは

かぶぬしのけんりのこうしにかんするりえきのきょうよ

商法 株式の内容と株主の権利

株主の権利の行使に関する利益の供与とは、株式会社が、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、会社又はその子会社の計算において財産上の利益を供与することで、会社法120条1項が禁じています。違反した供与を受けた者は利益を会社に返還し、供与に関与した取締役は連帯して供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負います(同条3項・4項)。

株主総会を静かに終わらせるために、会社が特定の株主にお金や品物を渡して議決権の行使や発言を控えてもらう、あるいは会社に都合のよい票を入れてもらうとします。会社の財産が総会の運営をゆがめるために流出し総会屋を生む温床になるので、会社法120条はこれを禁じています。禁じられるのは「株主の権利の行使に関し」会社の計算で財産上の利益を供与することで、相手は株主に限らず「何人に対しても」です。立証が難しいので特定の株主への無償の供与は利益の供与と推定され、受けた者には返還義務、関与した取締役には支払義務が課されています。

株主総会の会場の裏手の廊下の場面。先生が監査役役(札「監査役」)で立ち、目の前で会社の男性取締役(札「取締役」)が、強面の男性株主(札「特定の株主」)に会社の金庫から出した封筒(札「会社の計算」)を渡そうとしている。封筒を深紅の斜線で大きく

禁じられるのは会社又は子会社の計算による供与で、株主が自分の財産で他の株主に供与しても当たりません

株式会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしてはなりません(120条1項)。この財産上の利益の供与は「当該株式会社又はその子会社の計算においてするものに限る」とされています。規制の狙いは、会社の財産が株主総会の運営をゆがめるために流出することを防ぎ、会社運営の健全性を保つことにあるので、名宛人は会社であり、原資が会社の財産であることが要件です。株主が自分の財産から他の株主に議決権の行使に関して利益を供与しても、会社の財産は減らないので120条1項には当たりません。「株主が,自己の計算において,株主総会における議決権の行使に関し,他の株主に対して財産上の利益の供与をした場合には,株主の権利の行使に関する利益の供与に該当する」という肢は誤りです。他方、供与を受ける相手は「何人」でもよく、株主でない第三者に供与しても要件を満たします。取締役などが会社の計算で利益を供与すれば、刑罰の対象にもなります(970条1項)。

特定の株主に無償で供与すれば、株主の権利の行使に関する供与と推定され、みなされるのではありません

供与が「株主の権利の行使に関し」されたことは会社の内部事情なので、外部の株主や債権者が立証するのは困難です。そこで、株式会社が特定の株主に対して無償で財産上の利益の供与をしたときは、株主の権利の行使に関し財産上の利益の供与をしたものと推定されます(120条2項前段)。有償でも、会社又はその子会社の受けた利益が供与した財産上の利益に比して著しく少ないときは同様に推定されます(同項後段)。「会社が,自己の計算において,特定の株主に対して無償で財産上の利益の供与をした場合には,その会社は,株主の権利の行使に関する利益の供与をしたものと推定される」という肢は正しいです。これは法律上の推定なので、会社の側で権利の行使と無関係であることを証明すれば覆せます。「みなされる」とすると反証の余地が無くなってしまうので、「株主の権利の行使に関し財産上の利益の供与をしたものとみなされる」という肢は誤りです。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座り、左に会社側の男性代理人(札「株式会社」)、右に原告の男性株主(札「株主」)。法壇の前に証拠の札が2枚立つ。「特定の株主に無償で商品券を渡した」「→ 株主の権利の行使に関する供与と推定(

好ましくない株主の権利行使を避ける目的で株式を譲り受ける対価を供与することも、株主の権利の行使に関する供与に当たります

株式の譲渡は株主たる地位の移転そのものであり、株主の権利の行使ではありません。そのため、会社が株式を譲渡することの対価として誰かに利益を供与しても、当然には120条1項が禁じる利益の供与に当たりません。しかし判例は、会社から見て好ましくないと判断される株主が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で、その株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は、株主の権利の行使に関し利益を供与する行為に当たるとしました(最判平成18年4月10日)。暴力団関係者が大株主として経営に干渉する事態を避けるために、巨額の金員を迂回融資の形で交付した事案です。「会社から見て好ましくない株主が議決権を行使することを回避する目的で,会社が,自己の計算において,第三者に対してその株主から株式を譲り受けるための対価を供与した場合には,株主の権利の行使に関する利益の供与に該当する」という肢は正しいです。権利を行使させる方向の供与だけでなく、権利を行使させない方向の供与も「権利の行使に関し」に含まれます。

供与を受けた者は返還し、関与した取締役は連帯して支払義務を負いますが、供与をした取締役本人だけは免責されません

会社が120条1項に違反して財産上の利益の供与をしたときは、供与を受けた者は、これを会社又はその子会社に返還しなければなりません(同条3項)。この返還を求める訴えは、受けた者が取締役・会計参与・監査役・執行役・会計監査人でない総会屋などの第三者であっても、株主が責任追及等の訴え(株主代表訴訟)として提起できます(847条1項)。利益の供与は経営陣が自分の保身のためにすることが多く、会社が自ら返還を求めることは期待しにくいからです。「利益の供与を受けた者が取締役,会計参与,監査役,執行役又は会計監査人でない場合には,その者に対してその利益の返還を求める株主代表訴訟は,提起することができない」という肢は誤りです。あわせて、供与に関与した取締役(指名委員会等設置会社では執行役を含む)として法務省令で定める者は、会社に対して連帯して、供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負います(120条4項本文)。ただし、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した者は義務を免れます(同項ただし書)。この免責から「当該利益の供与をした取締役」は除かれているので、供与をした取締役本人は無過失を証明しても免れません。「それに関与した取締役は,自らその財産上の利益の供与をしたときを除き,その職務を行うにつき注意を怠らなかったことを証明することにより,その供与した利益の価額に相当する額を会社に対し支払う義務を免れる」という肢は正しいです。「当該取締役は,その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したとしてもなお,供与した利益の価額に相当する額を会社に対し支払う義務を負う」という肢(供与をした取締役本人について)も正しいです。これに対し、「関与した他の取締役は,その職務を行うについて注意を怠ったかどうかにかかわらず,会社に対し,供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負う」という肢は誤りです。この支払義務は総株主の同意がなければ免除できません(同条5項)。

違反した供与の後始末

  • 供与を受けた者: 会社又は子会社に返還する(120条3項)。引換えに給付したものがあれば返還を受けられる。返還を求める訴えは株主代表訴訟の対象(847条1項)
  • 供与をした取締役本人: 供与した利益の価額に相当する額を支払う。注意を怠らなかったことを証明しても免れない(120条4項ただし書括弧書)
  • 供与に関与した他の取締役・執行役: 連帯して同額を支払う。注意を怠らなかったことを証明すれば免れる(120条4項ただし書)
  • 支払義務の免除: 総株主の同意が要る(120条5項)

会社法120条1項・2項

株式会社は、何人に対しても、株主の権利(略)の行使に関し、財産上の利益の供与(当該株式会社又はその子会社の計算においてするものに限る。以下この条において同じ。)をしてはならない。
2 株式会社が特定の株主に対して無償で財産上の利益の供与をしたときは、当該株式会社は、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしたものと推定する。株式会社が特定の株主に対して有償で財産上の利益の供与をした場合において、当該株式会社又はその子会社の受けた利益が当該財産上の利益に比して著しく少ないときも、同様とする。

会社法120条4項

株式会社が第一項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは、当該利益の供与をすることに関与した取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役を含む。以下この項において同じ。)として法務省令で定める者は、当該株式会社に対して、連帯して、供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負う。ただし、その者(当該利益の供与をした取締役を除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。

論文ではこう使う

論文では、会社が株主や第三者に金銭や物を渡した事実が出てきたときに、それが「株主の権利の行使に関し」会社の計算でされた供与かを検討します。「株式の譲渡は株主たる地位の移転であり、それ自体は株主の権利の行使ではないから、株式の譲渡の対価の供与は当然には会社法120条1項の利益の供与に当たらない。しかし、会社から見て好ましくない株主が議決権等を行使することを回避する目的で、その株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は、同項にいう株主の権利の行使に関する利益の供与に当たる(最判平成18年4月10日)」と規範を立て、供与の目的と原資が会社の計算かを事実から当てはめます。特定の株主への無償の供与なら120条2項の推定を使い、会社側の反証の可能性に触れます。結論として違反に当たるなら、受けた者の返還義務(120条3項)と、供与をした取締役と関与した取締役の支払義務の違い(同条4項)まで書きます。

試験ではこう問われる

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