監査役の独立性の保障(選任議案への同意・意見陳述・報酬)とは
かんさやくのどくりつせいのほしょう
監査役の独立性の保障とは、監査される側である取締役が監査役の人事や待遇を握って監査を骨抜きにしないよう、会社法が監査役の地位を守るために置いた一連の規律のことです。取締役が監査役の選任議案を株主総会に提出するには監査役(監査役会設置会社では監査役会)の同意が要ること(343条)、監査役が株主総会で選任・解任・辞任について意見を述べられること(345条4項)、報酬は取締役と別に定款又は株主総会の決議で定め配分は監査役の協議によること(387条)、任期を短縮できないこと(336条)、解任には特別決議が要ること(309条2項7号)がこれに当たります。
監査役は取締役の仕事を見張る係ですが、その監査役を選ぶ議案を作り、給料を決めるのが取締役だとしたら、監査役は取締役に逆らえなくなります。そこで会社法は、監査役の選任議案を出すには監査役側の同意を要し、監査役が株主総会で自分の選任・解任・辞任について直接株主に意見を言え、報酬は取締役と別枠で株主総会が決め、その配分も取締役ではなく監査役どうしの協議で決める、という仕組みにしました。任期を定款で短くできないことや、解任に特別決議が要ることも、取締役が人事で圧力をかけられないようにするための規律です。
取締役が監査役の選任議案を株主総会に提出するには、監査役(監査役会設置会社では監査役会)の同意が要ります
取締役は、監査役がある場合において、監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査役(監査役が2人以上ある場合はその過半数)の同意を得なければなりません(343条1項)。監査役会設置会社では「監査役(その過半数)」が「監査役会」に読み替えられ、監査役会の同意が要ります(同条3項)。「取締役が監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには,監査役会の同意を得なければならない」という肢は、監査役会設置会社を前提にして正しいです。監査役(監査役会)はさらに、取締役に対し、監査役の選任を株主総会の目的とすることや、監査役の選任に関する議案を株主総会に提出することを請求できます(同条2項・3項)。監査される側が監査する側の候補者を独占して選べば、取締役に都合のよい人ばかりが監査役になってしまうので、人事の入口で監査役側に同意権と提案権を与えたものです。「監査役会設置会社において,取締役が監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには,監査役会の同意を得なければならないとの規律」は、監査役の独立性確保を目的とする規律です。これに対し、補欠の役員を選任できるという規律(329条3項)は、取締役・会計参与・監査役に共通する欠員対策の制度であって、監査役の独立性を確保するための規律ではありません。「補欠の監査役を選任することができるとの規律」は、独立性確保を目的としない規律として扱われます。監査役会の決議を監査役の過半数で行うという規律(393条1項)も、合議体の意思決定の方法を定めたもので、独立性確保を目的とする規律ではありません。監査等委員会設置会社では、監査等委員である取締役の選任議案の提出に監査等委員会の同意が要るという同じ構造の規定があります(344条の2第1項)。
監査役は株主総会で自分の選任・解任・辞任について意見を述べることができ、辞任した者は辞任後最初の株主総会で理由を述べることができます
監査役は、株主総会において、監査役の選任若しくは解任又は辞任について意見を述べることができます(345条4項・1項)。自分が再任されない場合も、現任者を候補者としない選任議案が出される場面なので、選任についての意見陳述としてこの権利が及びます。「監査役は,株主総会において,自分が再任されないことについて意見を述べることができる」という肢は正しいです。監査役を辞任した者は、辞任後最初に招集される株主総会に出席して、辞任した旨及びその理由を述べることができ(同条4項・2項)、取締役はその者に株主総会を招集する旨と日時・場所を通知しなければなりません(同条4項・3項)。取締役から圧力を受けて辞任させられた監査役が、その経緯を株主の前で明らかにできるようにして、人事上の圧力を抑えるための規律です。「監査役を辞任した者は,辞任後最初に招集される株主総会に出席して,辞任した旨及びその理由を述べることができるとの規律」は、独立性確保を目的とする規律です。同じ規定は会計参与(345条1項・2項)、会計監査人(同条5項)、監査等委員である取締役(342条の2第1項・2項)にはありますが、指名委員会等設置会社の監査委員を辞任した者にはありません。監査委員は取締役会が選定・解職する委員会の委員にすぎず、株主総会との間に直接の人事の関係がないからです。「監査役を辞任した者及び監査委員を辞任した者は,いずれも,辞任後最初に招集される株主総会に出席して,辞任した旨及びその理由を述べることができる」という肢は、監査委員について誤りです。
監査役の報酬は取締役とは別に定款又は株主総会の決議で定め、総額だけ定めたときの配分は監査役の協議によります
監査役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定めます(387条1項)。取締役の報酬等(361条1項)とは別の決議で、取締役の報酬の枠の中から監査役の報酬を取締役に配分させることはできません。監査役が2人以上ある場合に、各監査役の報酬等について定款の定めや株主総会の決議がないときは、総額の範囲内で監査役の協議によって定めます(同条2項)。協議は監査役全員の合意による決定で、取締役会の決定でも、監査役会の多数決でもありません。監査役会設置会社でも同じです。「監査役報酬について,株主総会決議では,監査役ごとに報酬額を定めることなく監査役全員に支給する総額のみを定め,各監査役に対する具体的配分は,取締役会の決定に委ねることができる」という肢は誤りです。「各監査役の個人別の報酬の額は,当該総額の範囲内において,監査役の過半数をもって行う監査役会の決議によって定めなければならない」という肢も誤りです。監査役は株主総会で監査役の報酬等について意見を述べることができます(同条3項)。監査役が職務の執行のために費用の前払や償還を請求したときは、会社はその費用が職務の執行に必要でないことを証明しない限り拒めません(388条)。報酬や費用の面で取締役に握られないようにする規律です。
任期は定款でも短縮できず、解任には株主総会の特別決議が要ります
監査役の任期は、選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです(336条1項)。取締役の任期(332条1項)には定款又は株主総会の決議で短縮できるというただし書がありますが、監査役にはこれに当たる規定がなく、定款でも短縮できないと解されています。任期を短くすれば、取締役が再任をちらつかせて監査役に圧力をかけられるからです。「会社は,定款の定めにより,当該会社の監査役の任期を,選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとすることができる」という肢は誤りです。「監査役の任期は,定款の定めによって短縮することができないとの規律」は、独立性確保を目的とする規律です。公開会社でない株式会社では、定款で10年まで伸長することはできます(336条2項)。解任についても、役員及び会計監査人はいつでも株主総会の決議で解任できますが(339条1項)、監査役の解任の決議は特別決議によらなければなりません(309条2項7号)。取締役の解任は普通決議(定足数を3分の1未満にできない341条の決議)で足りるのと違い、監査役については341条の適用が外され(343条4項)、特別決議が要ります。「監査役を解任する株主総会の決議は,定款に別段の定めがない限り,議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う」という肢と、「監査役は,定款に別段の定めがある場合を除き,議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う株主総会決議で解任される」という肢は誤りです。もっとも、特別決議があればいつでも解任でき、正当な理由は解任の要件ではありません。正当な理由がなければ、解任された監査役が会社に損害賠償を請求できるにとどまります(339条2項)。「監査役は,正当な理由がない限り,株主総会の特別決議によっても,解任することができない」という肢は誤りです。
監査役の独立性を保障する規律の一覧
- 選任: 選任議案の提出に監査役(過半数)・監査役会の同意(343条1項・3項)。監査役側からの議題・議案の提出請求(同条2項)
- 意見陳述: 選任・解任・辞任について株主総会で意見(345条4項・1項)。辞任者は辞任後最初の株主総会で理由を述べられる(同条4項・2項)。監査委員を辞任した者にはこの規定がない
- 報酬: 定款又は株主総会の決議で取締役と別に定める(387条1項)。配分は監査役の協議(同条2項)。報酬について株主総会で意見(同条3項)。費用の請求を会社は原則拒めない(388条)
- 任期: 4年で定款でも短縮不可(336条1項)。非公開会社は10年まで伸長可(同条2項)
- 解任: 特別決議(309条2項7号・343条4項)。正当な理由は不要で、無ければ損害賠償(339条2項)
- 独立性確保を目的としない規律の例: 補欠の役員の選任(329条3項)、監査役会の決議は監査役の過半数(393条1項)
会社法343条1項
取締役は、監査役がある場合において、監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査役(監査役が二人以上ある場合にあっては、その過半数)の同意を得なければならない。
会社法387条1項・2項
監査役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
2 監査役が二人以上ある場合において、各監査役の報酬等について定款の定め又は株主総会の決議がないときは、当該報酬等は、前項の報酬等の範囲内において、監査役の協議によって定める。
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