/ 刑法

共犯と身分|65条1項・2項の解釈と適用関係

刑法65条1項・2項の共犯と身分を体系的に解説。真正身分犯と不真正身分犯の区別、1項・2項の適用関係をめぐる学説対立と判例を整理します。

この記事のポイント

刑法65条は、身分のない者が身分犯に関与した場合の処理を定める。 1項は「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは…共犯とする」、2項は「身分によって特に刑の軽重があるときは…通常の刑を科する」と規定するが、両項の関係については激しい学説の対立がある。


身分犯の分類

真正身分犯(構成的身分犯)

身分が犯罪の成立要件となる類型。身分がなければ犯罪自体が成立しない。

犯罪 身分 条文 収賄罪 公務員 197条 背任罪 他人の事務処理者 247条 偽証罪 法律により宣誓した証人 169条 虚偽公文書作成罪 公務員 156条

不真正身分犯(加減的身分犯)

身分が刑の加重・減軽の要素となる類型。身分がなくても基本犯は成立する。

犯罪 身分 基本犯 条文 業務上横領罪 業務者 横領罪 253条 常習賭博罪 常習者 賭博罪 186条 保護責任者遺棄罪 保護責任者 遺棄罪 218条

65条1項・2項の解釈

判例の立場

判例(最判昭31.5.24、最判昭32.11.19)は以下の解釈をとる。

  • 1項:真正身分犯への適用。非身分者が真正身分犯に加功した場合、共犯として成立する
  • 2項:不真正身分犯への適用。非身分者には通常の刑(基本犯の刑)を科する

学説の対立

学説 1項の適用範囲 2項の適用範囲 非身分者の処理 判例 真正身分犯 不真正身分犯 1項で成立、2項で科刑 通説 真正身分犯 不真正身分犯 判例と同旨 団藤説 違法身分 責任身分 違法身分は連帯、責任身分は個別化 西田説 違法身分(連帯的作用) 責任身分(個別的作用) 身分の性質で区別

具体的事例の処理

事例1:非公務員が収賄に加功した場合

公務員Aが賄賂を受け取る行為に、非公務員Bが加功した場合。

  • 65条1項により、Bにも収賄罪の共犯が成立する
  • 収賄罪は真正身分犯であり、非身分者も共犯として処罰される

事例2:非業務者が業務上横領に加功した場合

業務上占有者Aの横領行為に、非業務者Bが教唆した場合。

判例の処理:
1. 65条1項により、Bにも業務上横領罪の共犯が成立
2. 65条2項により、Bには単純横領罪の刑を科する

結論:Bは業務上横領罪の教唆犯が成立するが、科刑は単純横領罪の刑による。

事例3:身分者が非身分者に加功した場合(逆の場合)

非占有者Aが窃取行為をし、占有者である所有者Bが教唆した場合。

  • Aには窃盗罪が成立
  • Bの処理:自己の物に対する窃盗の教唆犯の成否が問題となる

65条の「身分」の意義

判例の定義

最判昭27.9.19は、65条の「身分」について、「男女の性別、内外国人の別、親族の関係、公務員たる資格のような関係のみに限らず、総て一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位又は状態」と定義した。

身分に含まれるもの

  • 公務員(197条)
  • 業務者(211条、253条)
  • 保護責任者(218条)
  • 営利目的(刑法上の目的犯における目的)

身分に含まれるか争いがあるもの

要素 肯定説の理由 否定説の理由 目的 人的関係の一種 主観的超過要素に過ぎない 常習性 行為者の属性 行為の態様 65歳以上 一定の地位 通常の構成要件要素

消極的身分(身分による刑の減免)

問題の所在

身分によって刑が減軽・免除される場合(消極的身分犯)に、非身分者が加功したときの処理。

  • 親族間の犯罪に関する特例(244条):親族間の窃盗は刑が免除される
  • 親族による犯人蔵匿(105条):親族は刑が免除される

処理方法

65条2項の「身分によって特に刑の軽重があるとき」に含まれると解し、非身分者には通常の刑を科する。


まとめ

  • 65条1項真正身分犯2項不真正身分犯に適用される(判例・通説)
  • 有力説は身分の性質(違法身分か責任身分か)で区別する
  • 非身分者が不真正身分犯に加功した場合、成立は1項で、科刑は2項で処理
  • 「身分」の概念は広く解され、人的関係の特殊な地位・状態を含む
  • 消極的身分(刑の減免)も65条2項で処理される

FAQ

Q1. 65条1項の「共犯」には共同正犯は含まれますか?

判例(最判昭32.11.19)は含まれると解しています。非身分者であっても、共謀共同正犯として真正身分犯の共同正犯となりうるとしています。

Q2. 団藤説と判例の結論の違いは?

多くの場合は結論が一致しますが、常習犯や営利目的犯など身分の性質が違法身分か責任身分か争いがある類型で結論が異なりえます。

Q3. 答案ではどの立場をとるべきですか?

判例・通説の立場(1項=真正身分犯、2項=不真正身分犯)を基本としつつ、有力説の批判に言及するのが答案戦略として有効です。


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