共同正犯の成立要件|共謀共同正犯と実行共同正犯
刑法60条の共同正犯を体系的に解説。共謀共同正犯の判例法理、共犯の処罰根拠、共犯と身分、共犯からの離脱を整理します。
この記事のポイント
共同正犯(刑法60条)は「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする」と規定し、各共同正犯者に犯罪の全部について正犯としての罪責を帰属させる制度である。 判例は、実行行為を分担する実行共同正犯のみならず、実行行為を担当しない者についても共謀共同正犯の成立を認めている。共犯論は司法試験において最も出題頻度の高い分野の一つであり、体系的理解が不可欠である。
共同正犯の意義と処罰根拠
一部実行全部責任の原則
共同正犯の最も重要な効果は一部実行全部責任の原則である。各共同正犯者は、自己が直接実行した部分だけでなく、他の共同正犯者が実行した部分についても正犯としての責任を負う。
処罰根拠
一部実行全部責任の根拠については、以下の見解がある。
- 相互利用・補充関係: 共同正犯者は相互に他者の行為を利用し補充し合うことで犯罪を実現する
- 共同惹起説: 共同正犯者は共同して法益侵害の結果を惹起したものと評価される
共同正犯の成立要件
共同正犯が成立するためには、以下の2つの要件が必要である。
共謀(意思の連絡)
共謀とは、二人以上の者が特定の犯罪を行うことについて互いに意思を通じ合うことをいう。
- 明示の合意に限られず、黙示の意思の連絡でも足りる
- 順次共謀(A→B→Cと順次に意思を通じる場合)も認められる
- 犯罪の細部についてまで合意がある必要はなく、犯罪の大綱について意思の連絡があれば足りる
共同実行の事実
実行共同正犯の場合、各共同正犯者が実行行為の全部または一部を分担することが必要である。
共謀共同正犯
意義
共謀共同正犯とは、二人以上の者が犯罪の共謀を行い、そのうちの一部の者のみが実行行為を担当した場合に、実行行為を担当しなかった者も共同正犯として処罰される場合をいう。
判例法理
練馬事件(最大判昭33.5.28)
判例は、共謀共同正犯の成立を肯定し、以下のように判示した。
共謀共同正犯が成立するには、二人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪を実行した事実が認められなければならない
共謀共同正犯の成立要件
- 共謀(謀議)の存在: 特定の犯罪を行うことについての意思の合致
- 正犯意思: 自己の犯罪として行う意思(単なる幇助の意思では足りない)
- 共謀に基づく実行: 共謀に基づいて共謀者の一部が犯罪を実行したこと
正犯意思と幇助の意思の区別
共謀共同正犯と幇助犯の区別は、行為者が正犯意思(自己の犯罪として行う意思)を有していたか、幇助の意思(他人の犯罪を手助けする意思)にとどまっていたかによる。
判例は、以下の事情を総合的に考慮して判断する。
- 犯行の動機・利益の帰属
- 犯行における役割の重要性
- 犯行の主導性
- 犯行への関与の程度
スワット事件(最決平15.5.1)は、暴力団組長が配下の者による拳銃所持について、直接の指示がなくても、組長としての地位に基づく黙示の意思連絡を認め、共謀共同正犯の成立を肯定した。
共犯の錯誤
同一構成要件内の錯誤
共同正犯者間で客体の認識にずれがある場合、事実の錯誤の処理に準じて、法定的符合説の立場からは構成要件の範囲内で故意が認められる。
異なる構成要件間の錯誤(抽象的事実の錯誤)
共謀の内容と実行された犯罪が異なる構成要件に属する場合は、構成要件の重なり合う範囲で軽い犯罪の共同正犯が成立する。
(例)AとBが傷害を共謀したが、Bが殺人を実行した場合
→ Aは傷害致死の限度で共同正犯の罪責を負う(構成要件の重なり合い)
共犯からの離脱
離脱の意義
共犯者の一人が犯行の途中で翻意した場合、離脱以後の他の共犯者の行為について共犯としての罪責を免れることができるかが問題となる。
判例の判断枠組み
着手前の離脱
着手前の離脱は比較的認められやすく、以下の場合に離脱が肯定される。
- 他の共犯者に対して離脱の意思を表明し、了承を得た場合
- 共謀関係が解消されたと認められる場合
着手後の離脱
着手後の離脱は厳格に判断される。単に離脱の意思を表明しただけでは足りず、それまでの自己の行為の因果的影響力を除去する積極的措置が必要とされる。
共犯と身分
65条の解釈
刑法65条は共犯と身分の関係について規定する。
65条1項: 犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする
65条2項: 身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する
判例・通説の解釈
- 1項: 真正身分犯(身分が犯罪の成立要件となる場合)に関する規定
- 2項: 不真正身分犯(身分が刑の加減事由となる場合)に関する規定
(例)非公務員が公務員と共同して収賄行為を行った場合
→ 65条1項により、非公務員も収賄罪の共犯となる
(例)非業務者が業務者と共同して横領行為を行った場合
→ 65条2項により、非業務者には単純横領罪の刑が科される(判例は1項で共犯の成立を認め、2項で科刑を処理する)
試験での出題ポイント
論文式試験での検討手順
- 共謀の認定: 明示・黙示の意思連絡があったかを事実認定
- 正犯意思の有無: 共謀共同正犯か幇助犯かの区別
- 一部実行全部責任: 他の共犯者の行為についての罪責の帰属
- 共犯の錯誤: 共謀内容と実行結果のずれがある場合の処理
- 離脱の成否: 離脱の意思表明と因果的影響力の除去の有無
- 身分犯の共犯: 65条1項・2項の適用
重要判例
- 練馬事件(最大判昭33.5.28): 共謀共同正犯の肯定
- スワット事件(最決平15.5.1): 黙示の共謀
- 最決平21.6.30: 共犯からの離脱
まとめ
- 共同正犯は一部実行全部責任の原則により、各共犯者に犯罪全部の罪責を帰属させる
- 共謀共同正犯は実行行為を担当しない者も正犯とする判例法理である
- 共謀共同正犯と幇助犯の区別は正犯意思の有無による
- 共犯からの離脱は着手前は比較的緩やかに、着手後は因果的影響力の除去が必要
- 共犯と身分は65条1項(真正身分犯)と2項(不真正身分犯)で処理する
FAQ
Q1. 共謀共同正犯と教唆犯はどう違いますか?
共謀共同正犯は自己の犯罪として行う正犯意思を有し、教唆犯は他人に犯罪を決意させる者です。共謀共同正犯は正犯として犯罪全部の責任を負いますが、教唆犯は従犯です。
Q2. 黙示の共謀はどのような場合に認められますか?
暴力団組長と配下の関係のように、組織的な上下関係がある場合や、従前の経緯から犯行について了解があったと認められる場合に黙示の共謀が認定されることがあります。
Q3. 共犯から離脱するにはどうすればよいですか?
着手前であれば離脱の意思を表明し他の共犯者の了承を得ること、着手後であれば自己の行為の因果的影響力を除去する積極的措置(凶器の回収、被害者の救助等)が必要です。