刑法事例問題の解き方
刑法事例問題の解き方を実践的に解説。犯罪検討の順序、行為者ごとの検討方法、論点の優先順位、答案構成の時間配分を体系的に整理します。
この記事のポイント
刑法の事例問題は、「誰の」「どの行為について」「何罪が成立するか」を体系的に検討する能力が問われる。検討の基本順序は、構成要件該当性→違法性阻却事由→責任阻却事由→共犯→罪数である。行為者ごと・行為ごとに検討を行い、最後に罪数処理でまとめるという手順を身につけることが、安定した得点につながる。
本記事では、検索意図として多い「刑法 事例問題 解き方」「刑法 答案 書き方」「構成要件 答案」の三つに正面から答える。第一は問題文を分解して犯罪を検出し体系的に検討する思考プロセス、第二はその思考を採点者に伝わる文章へ落とし込む表現技法、第三は犯罪論体系の出発点である構成要件該当性をどの順で・どう書くかである。これらは車の両輪であり、解き方だけ磨いても答案に書けなければ点にならず、書き方だけ整えても検討内容が薄ければ評価されない。本記事は司法試験・予備試験の論文式を念頭に、思考から表現までを一気通貫で解説する。
「刑法 事例問題 解き方」とは — 端的な定義
刑法事例問題の「解き方」とは、与えられた具体的事実から問題となる犯罪を漏れなく拾い出し(犯罪の検出)、各犯罪について構成要件該当性・違法性・責任の順に検討し、共犯関係と罪数を整理して結論を導く一連の思考手順をいう。
要点を一文で言えば、「事実を行為に分解し、行為ごとに犯罪成立要件を当てはめる」作業である。事例問題は知識を問うているように見えて、実際には次の三つの能力を測っている。
- 検出力: 事実の中に潜む犯罪・論点を見落とさずに拾う力
- 体系力: 犯罪論体系(構成要件→違法性→責任)に沿って整理する力
- あてはめ力: 規範に対して問題文の具体的事実を対応させ、評価を加える力
この三つのうち、合否を分けるのは多くの場合あてはめ力である。論点の規範を正確に書けても、問題文の事実を拾って評価できなければ「論証の貼り付け」と見なされ、点が伸びない。逆に、規範の暗記がやや不正確でも、問題文の事実を丁寧に拾って規範に対応づけられれば、相応の評価が得られる。司法試験・予備試験の採点実感でも、繰り返し「事実の評価が不十分」「規範を立てるだけで当てはめが薄い」という指摘がなされており、出題者がもっとも見ているのは事実と規範の架橋である。
「解き方」が崩れる典型パターン
初学者の答案が崩れる原因は、ほぼ次の三つに集約される。第一に行為の特定を飛ばして罪名から書き始めること。これをやると、後から「ではその行為はいつのどの行為か」が曖昧になり、因果関係や故意の検討が空中分解する。第二に論点に飛びついて体系を無視すること。たとえば正当防衛が問題になりそうだと気づくと、構成要件該当性を検討せずいきなり違法性の話を始めてしまう。第三に罪数処理を時間切れで落とすこと。罪数は配点こそ大きくないが、ここを落とすと「犯罪を成立させただけで処理を完結していない」という印象を与える。
これらはいずれも「型」を守れば防げる。型とは、後述する五つのステップであり、犯罪論体系(構成要件→違法性→責任)であり、法的三段論法である。型に乗せることは思考の自由を奪うものではなく、むしろ思考のリソースを論点の中身に集中させるための足場である。
「刑法 答案 書き方」とは — 端的な定義
刑法答案の「書き方」とは、検出・検討した内容を、採点者が論理の流れを追えるように『問題提起→規範定立→あてはめ→結論』の順序で言語化する表現技法をいう。
法律答案の基本骨格は、いわゆる法的三段論法である。
- 大前提(規範): 条文・解釈によって導かれるルール
- 小前提(事実): 問題文から摘示した具体的事実
- 結論: 規範に事実を当てはめた帰結
刑法答案では、これを犯罪ごと・要件ごとに繰り返す。「解き方」で得た検討結果を、この三段論法の型に流し込むのが「書き方」である。重要なのは、三段論法は答案全体に一回だけ現れるのではなく、争いのある要件ごとに何度も入れ子で現れるという点である。たとえば一つの傷害罪を検討する中でも、実行行為性、因果関係、故意のそれぞれについて、必要に応じて小さな三段論法が回る。以下、まず解き方(思考プロセス)を解説し、後半で書き方(表現技法)を詳述する。
「構成要件 答案」とは — 検討の出発点
構成要件該当性とは、ある行為が刑罰法規の定める犯罪類型(構成要件)に形式的に当てはまるかの判断であり、犯罪成立の第一関門である。 答案では必ずここから書き出す。構成要件は客観面と主観面に分かれ、客観的構成要件として主体・実行行為・結果・因果関係・客体を、主観的構成要件として故意(および目的犯では目的)を検討する。
「構成要件 答案」で受験生が悩むのは、どの要件を厚く書き、どの要件を一行で流すかの判断である。原則は明快で、問題文の事実に争いがある要件だけを三段論法で厚く書き、争いのない要件は端的に認定する。たとえば人を包丁で刺して死亡させた事案で「人」「死亡結果」を長々と論じる必要はない。一方で、刺してから死亡までに第三者の暴行が介在したなら、因果関係こそが主戦場になる。構成要件の各要素を機械的に均等配分するのは典型的な失敗であり、メリハリこそが答案の質を決める。
事例問題の全体的な解法手順
5つのステップ
ステップ 内容 所要時間の目安 1. 事実の整理 登場人物・時系列・行為の特定 5〜10分 2. 犯罪の検出 各行為について問題となる犯罪を洗い出す 5〜10分 3. 犯罪の検討 構成要件→違法性→責任の順で検討 答案の中心 4. 共犯の検討 共同正犯・教唆犯・幇助犯の検討 必要に応じて 5. 罪数処理 成立する犯罪の個数と関係を確定 最後に簡潔にこの五ステップは、どんな刑法事例問題にも共通する不変の骨格である。問題が複雑になるほど、この骨格に忠実であることの価値が高まる。複数の行為者・複数の被害者・複数の行為が絡む大型問題では、頭の中だけで処理しようとすると必ず破綻するため、ステップ1とステップ2を答案構成用紙上で図解化することが不可欠である。
ステップ1: 事実の整理
時系列の整理
問題文を読みながら、以下の情報を整理する。
- 登場人物: 甲・乙・丙等の行為者と被害者
- 行為の時系列: いつ、誰が、何をしたか
- 因果関係: どの行為がどの結果を生じさせたか
- 主観面: 各行為者が何を認識・意図していたか
時系列の整理で特に重要なのが主観面の変化を追うことである。刑法では、行為時の故意の有無、犯意の発生時期、認識した事実の内容が、罪責を大きく左右する。たとえば「当初は脅すつもりだったが、途中で殺意が生じた」という記述があれば、行為のどの段階で殺意が発生したかにより、殺人未遂と傷害の区別、あるいは実行の着手時期の問題が浮上する。問題文の主観面の記述は、出題者が論点を仕込んでいるサインと考えてよい。
答案構成用のメモ
甲の行為:
①○月○日 Aに対して暴行 → 傷害? 殺人未遂?
②同日 Bの財布を持ち去る → 窃盗? 強盗?
乙の行為:
③○月○日 甲に凶器を渡す → 共犯? 幇助?
このようにナンバリングしておくと、後の検討で「①の行為について」「②の行為について」と見出しを立てやすくなり、論点落ちも防げる。行為に番号を振ることは、答案の構造化と検出漏れ防止の両方に効く、最も費用対効果の高い習慣である。
ステップ2: 犯罪の検出
検出の順序
事例問題で問題となりうる犯罪を漏れなく検出することが重要である。検出は「保護法益」を軸に整理すると体系的に行える。刑法各論は保護法益によって個人法益・社会法益・国家法益に大別されるため、各行為についてどの法益が侵害されたかを問えば、検討すべき罪名が自然に浮かび上がる。
個人法益に対する罪の検出
法益 検出すべき犯罪 検出のきっかけ 生命 殺人・殺人未遂・過失致死 死亡結果、殺意の有無 身体 傷害・暴行・過失傷害 負傷結果、有形力の行使 自由 逮捕監禁・脅迫・強要 身体拘束、害悪の告知 財産 窃盗・強盗・詐欺・恐喝・横領 財物の移転、利益の取得 名誉 名誉毀損・侮辱 社会的評価の低下社会法益に対する罪の検出
- 放火罪: 建造物等への点火行為
- 文書偽造罪: 文書の作成・改変行為
- 通貨偽造罪: 通貨の模造行為
国家法益に対する罪の検出
- 公務執行妨害罪: 公務員に対する暴行・脅迫
- 犯人蔵匿・証拠隠滅罪: 犯人の隠匿、証拠の破壊
- 収賄罪: 公務員の賄賂の収受
検出のコツ
- 被害者ごとに犯罪を検討する
- 結果から遡って犯罪を特定する(死亡→殺人? 傷害致死?)
- 行為の態様に注目する(暴行→窃盗=強盗?、欺罔→財物交付=詐欺?)
- 付随的な犯罪を見落とさない(住居侵入、器物損壊等)
財産犯の検出は特に間違えやすい。同じ「財物を取った」でも、暴行・脅迫を手段としたなら強盗、欺いたなら詐欺、すでに占有を委ねられていたものを着服したなら横領(または業務上横領)、他人の占有を侵害して持ち去ったなら窃盗である。手段と占有の所在を確認するだけで、財産犯の罪名は機械的に絞り込める。たとえば「人を脅して財物を交付させた」場合、被害者が畏怖して交付したなら恐喝、反抗を抑圧する程度の脅迫なら強盗となり、脅迫の程度が分水嶺となる。
ステップ3: 犯罪の検討
犯罪検討の基本順序
1. 構成要件該当性
├── 客観的構成要件
│ ├── 主体
│ ├── 行為(実行行為)
│ ├── 結果
│ ├── 因果関係
│ └── 客体
└── 主観的構成要件
├── 故意
└── 目的犯の場合は目的
2. 違法性阻却事由
├── 正当行為(35条)
├── 正当防衛(36条1項)
├── 緊急避難(37条1項)
└── 被害者の同意
3. 責任阻却事由
├── 責任能力(39条・41条)
├── 故意の不存在(38条1項)
├── 違法性の意識の可能性
└── 期待可能性
この順序は単なる答案作法ではなく、犯罪論体系そのものを反映している。構成要件該当性が肯定されてはじめて違法性の検討に進み、違法性が阻却されなければ責任の検討に進む。逆に言えば、構成要件該当性が否定されればそこで検討は終了し、違法性・責任を論じる必要はない。この段階的な検討構造を守ることで、論理の飛躍を防げる。
構成要件該当性の検討方法
実行行為の認定
- 問題文の事実から、構成要件に該当する行為を特定する
- 行為の特定が答案の出発点であり、ここを間違えると全体が崩れる
- 作為か不作為かの区別にも注意
実行行為とは、構成要件的結果発生の現実的危険性を有する行為をいう。不作為犯が問題となる場面では、作為義務(保障人的地位)の発生根拠を、法令・契約・事務管理・先行行為・排他的支配等の観点から検討する。不真正不作為犯は実行行為性の認定が答案の中心になるため、なぜその不作為が作為と同視できるのか(同価値性)を丁寧に論じる必要がある。
因果関係の検討
因果関係が問題となる場面:
- 介在事情がある場合: 被害者の行動、第三者の行為、自然現象等
- 行為後の事情変更: 医療過誤、被害者の特殊事情等
因果関係の判断基準:
- 条件関係: 行為がなければ結果は発生しなかったか(あれなければこれなし)
- 相当因果関係/危険の現実化: 行為の危険性が結果に現実化したか
現在の判例・通説は、危険の現実化説に立つと理解されている。すなわち、実行行為の危険性が結果へと現実化したと評価できるかを、①実行行為の危険性の大小、②介在事情の異常性、③介在事情の結果への寄与度の三点から総合的に判断する。介在事情があっても、それが実行行為の危険性に誘発された通常起こりうるものであれば因果関係は肯定され、実行行為とは無関係な異常な介在事情が結果を直接惹起した場合は否定される方向に働く。
故意の認定
故意の種類 内容 認定のポイント 確定的故意 結果の発生を確実と認識 行為態様・凶器の使用等 未必の故意 結果の発生を認容 危険の認識と行為の継続 概括的故意 複数の客体のいずれかへの故意 不特定の対象への攻撃故意(38条1項)とは、構成要件該当事実の認識・認容をいう。事例問題では「殺意があったか」がしばしば争点となり、未必の故意の有無が殺人未遂と傷害の分かれ目になる。殺意の認定では、凶器の種類と用法(鋭利な刃物か否か)、創傷の部位(頸部・胸部等の枢要部か)、創傷の程度、動機の有無といった客観的事情から行為者の認識・認容を推認するのが実務の手法であり、答案でもこれら客観的事情を摘示して殺意の有無を論証する。
錯誤の処理
錯誤の類型 内容 処理 具体的事実の錯誤(客体の錯誤) AをBと誤認して攻撃 法定的符合説により故意を認定 具体的事実の錯誤(方法の錯誤) Aを狙ったがBに命中 法定的符合説vs具体的符合説 抽象的事実の錯誤 構成要件間の錯誤 重なり合う範囲で軽い犯罪の故意錯誤論は、認識した事実と発生した事実が食い違った場合に故意責任を問えるかの問題である。判例は法定的符合説(構成要件的符合説)を採り、認識した事実と発生した事実が同一の構成要件の範囲内で符合する限り故意を阻却しないとする。方法の錯誤の事例(狙ったAではなく隣のBに命中した場合)について、判例は法定的符合説の数故意犯説的な処理により、認識していたAに対する故意とBに対する故意の双方を認める立場をとっている。抽象的事実の錯誤では、認識した罪と発生した罪の構成要件が実質的に重なり合う限度で、軽い罪の故意既遂を認める。
違法性阻却事由の検討
問題文に以下の事情がある場合、違法性阻却を検討する。
- 「身を守るために」: 正当防衛(36条1項)
- 「やむを得ず」: 緊急避難(37条1項)
- 「被害者が同意して」: 被害者の同意
- 「正当な業務として」: 正当行為(35条)
正当防衛の検討ポイント
- 急迫不正の侵害: 現在の違法な侵害が存在するか
- 防衛の意思: 防衛の意思があるか(攻撃の意思が併存しても可)
- やむを得ずした行為: 防衛行為の相当性
- 過剰防衛(36条2項): 相当性を超えた場合の処理
正当防衛は事例問題の頻出論点であり、各要件の順に丁寧に検討する。「急迫」は侵害が間近に押し迫っていることを意味するが、侵害を予期していた場合でも直ちに急迫性が失われるわけではない。もっとも、判例は、行為者が侵害を予期した上で積極的加害意思をもって侵害に臨んだ場合には急迫性が否定されうるとし、近年の最高裁決定(最決平29.4.26)では、行為全般の状況に照らして刑法36条の趣旨に反するといえる場合に侵害の急迫性が否定されるとの枠組みを示している。「やむを得ずした行為」は防衛手段としての相当性を意味し、必要最小限度であることまでは要求されないが、防衛行為が相当性を超えれば過剰防衛として刑の任意的減免にとどまる。
ステップ4: 共犯の検討
共犯検討の順序
1. 正犯性の検討
├── 単独正犯
├── 共同正犯(60条)
└── 間接正犯
2. 共犯の検討(正犯でない場合)
├── 教唆犯(61条)
└── 幇助犯(62条)
共同正犯の認定
要件 内容 判断基準 共謀 犯罪実行の意思連絡 明示・黙示を問わない 正犯意思 自己の犯罪として行う意思 犯罪への関与の程度・利益の帰属 実行行為 共謀に基づく実行 一部実行全部責任共同正犯(60条)の核心は「一部実行全部責任」、すなわち共謀に基づいて一部の行為を分担した者が、共犯者全員の行為から生じた結果全体について正犯としての責任を負う点にある。その根拠は、共謀に基づく相互利用・補充関係により、各人の行為が結果に対して因果性を持つことに求められる。答案では、まず共謀(意思連絡)の存在を認定し、次に正犯意思(自己の犯罪を行う意思)の有無を、関与の程度・動機・利益の帰属等から評価する。
共犯の特殊問題
- 共謀共同正犯: 実行行為を分担しない者の正犯性
- 承継的共同正犯: 実行着手後に加功した者の帰責範囲
- 共犯からの離脱: 因果関係の遮断の有無
- 共犯と身分: 65条1項・2項の適用
承継的共同正犯については、後行者が先行者の行為や結果を認識・認容して加功した場合でも、自己が関与する前にすでに生じた結果についてまで責任を負うかが争われる。判例(最決平24.11.6)は、後行者は自己が関与した後の行為とそれによって生じた結果についてのみ責任を負うとし、関与前にすでに生じていた傷害結果については承継を否定する立場を明らかにした。共犯からの離脱は、離脱者の行為と結果との間の因果性が遮断されたといえるかで判断し、実行の着手前か着手後か、首謀者か否かによって離脱に必要な行為の程度が異なる。
ステップ5: 罪数処理
答案での書き方
罪数処理は答案の最後に簡潔に記載する。複数の犯罪が成立する場合、それらが本来的に一罪か、科刑上一罪(観念的競合・牽連犯)か、併合罪かを確定する。罪数を誤ると処断刑が変わるため、配点は小さくとも処理の正確さが求められる。
書き方のパターン
パターン1: 科刑上一罪
以上より、甲には①住居侵入罪と②窃盗罪が成立する。
両罪は牽連犯(54条1項後段)として処理される。
パターン2: 併合罪
以上より、甲には①傷害罪と②窃盗罪が成立する。
両罪は併合罪(45条前段)として処理される。
パターン3: 複合的な処理
以上より、甲には①住居侵入罪、②窃盗罪、③傷害罪が成立する。
①と②は牽連犯として科刑上一罪となり、これと③は併合罪として処理される。
観念的競合(54条1項前段)は「一個の行為が二個以上の罪名に触れる」場合、牽連犯(同項後段)は「犯罪の手段または結果である行為が他の罪名に触れる」場合である。一個の行為かどうかは、判例(最大判昭49.5.29)によれば、法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為が社会的見解上一個のものと評価されるかで判断する。住居侵入と窃盗・殺人等の関係は牽連犯の典型例である。
論点の優先順位
答案で厚く論じるべき論点
優先度 論点の種類 理由 高 出題意図が明確な論点 配点が高い 高 学説の対立がある論点 論証力が問われる 中 事実認定が問題となる論点 あてはめの力が問われる 低 争いのない論点 結論のみ簡潔に論点の見つけ方
- 問題文に不自然な記述がある箇所: 出題者が論点を示唆している
- 複数の解釈が可能な事実: 学説の対立が問題となりうる
- 「なお」「ところで」等の接続詞の後: 追加的な論点が隠されている
- 登場人物の主観面の記述: 故意・過失の認定が問題となる
論点の優先順位を見誤ると、争いのない論点に紙幅を費やし、本来の主戦場が手薄になる。出題者は無駄な事実を書かないという前提に立ち、なぜこの事実が書かれているのかを一文ごとに問う習慣をつけると、論点の所在が浮かび上がる。たとえば被害者の持病や特異体質の記述があれば因果関係、行為者の飲酒や精神状態の記述があれば責任能力(39条)、第三者の介入があれば因果関係や共犯が論点だと当たりをつけられる。
答案構成の時間配分
2時間の試験の場合
作業 時間 内容 問題文の読解 15分 2回読み、事実を整理 答案構成 25分 犯罪の検出、論点の優先順位決定 答案執筆 70分 論点ごとの記述 見直し 10分 誤字・論理矛盾のチェック答案構成のコツ
- 全体の見通しを先に立てる: いきなり書き始めない
- 論点ごとに配分を決める: 主要論点に多くの分量を割く
- 結論を先に決める: 結論が決まらないまま書き始めると一貫性を失う
- 時間切れを防ぐ: 最後の罪数処理まで必ず書き切る
時間配分で最も避けるべきは、前半の論点を厚く書きすぎて後半が尻すぼみになることである。論文式試験では、答案全体のバランスが評価される。書き始める前に「この論点は何行、この論点は何行」とおおまかな分量配分を決めておけば、途中で時間を浪費していることに気づける。見直しの10分は軽視されがちだが、罪数処理の書き漏れや、成立を認めた犯罪と結論部分の不整合を発見できる重要な工程である。
答案の書き方のポイント
構成要件の検討の書き方
1. 甲がAを殴打した行為について
甲がAの顔面を拳で殴打した行為は、暴行罪(208条)の
構成要件に該当する。さらに、Aが全治2週間の傷害を
負っていることから、傷害罪(204条)の成否が問題となる。
甲の暴行とAの傷害結果との間には因果関係が認められるため、
傷害罪の構成要件に該当する。
冒頭で「甲がAを殴打した行為について」と行為を特定した見出しを立てるのが、構成要件答案の鉄則である。見出しによって採点者は「いまどの行為を検討しているか」を即座に把握でき、論点落ちの自己チェックにも役立つ。争いのない要件(「人」「故意」等)は「〜は明らかである」「〜が認められる」と一行で認定し、争点となる要件にこそ三段論法を割り当てる。
論点の論じ方
ここで、○○が「△△」に該当するかが問題となる。
この点、A説は〜と解する。しかし、〜という批判がある。
思うに、〜と解すべきである。なぜなら、〜だからである。
本件では、〜という事実があるため、「△△」に該当する。
論点の論じ方で重要なのは、学説の対立そのものを書くことが目的ではないという点である。学説紹介は規範を導く理由づけの一部にすぎず、最終目的は「本件で○○が△△に該当するか」を判定することにある。したがって、対立する学説を網羅的に並べるより、自説の規範を簡潔に立て、その規範に本件事実を当てはめる部分(あてはめ)に紙幅を割くべきである。あてはめでは、問題文の事実を引用符でくくって摘示し、それが規範のどの要素を満たすのかを「〜という事実は、〜という点で〜にあたる」という形で評価を加える。事実を並べるだけで評価を加えない答案は「事実の羅列」として低評価になる。
あてはめの具体例
たとえば正当防衛の「やむを得ずした行為(相当性)」を論じる場合、次のように書く。「本件で甲は、素手で殴りかかってきたAに対し、所持していた木刀で頭部を一回殴打している。Aの攻撃は素手であり生命に対する危険は低かったのに対し、甲の反撃は頭部という枢要部への木刀による打撃であって、生じうる侵害の程度に著しい不均衡がある。したがって、甲の行為は防衛手段としての相当性を欠き、『やむを得ずした行為』とはいえない。」このように、侵害の態様と反撃の態様を対比させ、不均衡を指摘することで、評価を伴うあてはめになる。
避けるべき書き方
- 問題文の丸写し: 必要な事実のみ摘示する
- 学説の羅列のみ: 自説を明確にし、理由を示す
- 論点落ち: 検出段階で漏れがないよう注意
- 罪数処理の省略: 必ず最後に記載する
- 規範と当てはめの分離: 立てた規範の文言を当てはめでそのまま使う
特に「規範と当てはめの分離」は見落とされがちな失敗である。規範で「結果発生の現実的危険性」と書いたのに、当てはめでその文言を使わず別の言葉で評価してしまうと、規範を立てた意味が失われる。規範で用いたキーワードを当てはめでも反復することで、三段論法のつながりが採点者に明確に伝わる。
試験対策での位置づけ
刑法の事例問題は、体系的思考力と事実へのあてはめ能力の両方が試される。以下の訓練が有効である。
- 過去問の答案構成練習: 時間を計って答案構成を行う
- 判例の事案分析: 判例の事案を事例問題として解く訓練
- 論証の暗記よりも理解: 論点の背景にある価値判断を理解する
- 罪数処理の練習: 複数の犯罪が絡む事案での処理を繰り返し練習
判例の事案分析は特に効果が高い。重要判例の事案は、そのまま事例問題の素材として通用するため、判例集を読む際に「自分ならこの事案をどう構成するか」を考える癖をつけると、検出力とあてはめ力が同時に鍛えられる。また、論証の暗記は出発点としては有効だが、暗記した論証をそのまま貼り付ける答案は出題者に見抜かれる。論証の背後にある価値判断(なぜその規範が妥当なのか)を理解していれば、問題文の事案に応じて論証を変形・調整できるようになる。
よくある質問(FAQ)
Q1. 構成要件・違法性・責任の順序を崩してもよいか
原則として崩すべきではない。犯罪論体系の段階的構造に対応した順序であり、これを守ることが論理的整合性の担保になる。ただし、問題の中心が明らかに違法性(正当防衛等)にある場合でも、構成要件該当性をまず簡潔に認定してから違法性の検討に進む。構成要件該当性を飛ばすと、何の犯罪の違法性を論じているのかが不明確になる。
Q2. 学説の対立はどこまで書くべきか
争点となっている要件についてのみ、必要な限度で書く。対立する学説を網羅的に紹介する必要はなく、判例・通説の規範を簡潔に立て、その理由を一言添えれば足りる。学説対立に紙幅を割くより、あてはめを充実させた方が高評価につながる。
Q3. 罪数処理は本当に必要か
必要である。罪数処理を落とすと、犯罪を成立させただけで処理を完結していないという印象を与える。配点は大きくなくとも、答案を締めくくる必須の要素であるため、時間切れにならないよう最後の数行で必ず記載する。
Q4. あてはめが薄くなってしまう原因は何か
多くの場合、規範を立てた後に問題文へ戻って事実を拾う作業を省略していることが原因である。規範を立てたら必ず問題文に戻り、その規範の各要素に対応する事実を探して摘示する。事実を摘示したら、それが規範のどの要素を満たすのかを「評価」する一文を必ず加える。事実の摘示と評価はワンセットである。
Q5. 問題文のどの記述に注目すれば論点に気づけるか
主観面の記述(認識・意図・動機)、被害者の特異な事情(持病・体質)、第三者の介入、時間的経過、行為の態様(凶器・部位)に注目する。出題者は無駄な事実を書かないため、一見すると結論に関係なさそうな細かい事実こそ、論点を示唆していることが多い。
Q6. 未遂・既遂の区別はどう書けばよいか
まず実行の着手(43条本文)の有無を判断し、着手が認められれば次に結果発生の有無を確認する。実行の着手は、構成要件的結果発生の現実的危険性を含む行為を開始した時点に認められる。結果が発生しなかった、あるいは行為と結果の間に因果関係が認められない場合は未遂にとどまる。なお、自己の意思により犯罪を中止した場合は中止未遂(43条但書)として刑の必要的減免が問題となるため、行為者が任意に中止したという事実があれば見落とさないこと。
Q7. 過失犯はどう検討するか
過失犯では、結果回避義務違反(注意義務違反)の有無が中心となる。具体的には、結果の予見可能性を前提として、結果回避のために必要とされる行為を怠ったかを検討する。新過失論の立場からは、行為者に求められる基準行為を設定し、現実の行為がそれを下回ったかを評価する。事例問題では「予見可能であったか」「どのような回避措置が可能であったか」を問題文の事実から具体的に摘示することが求められる。
Q8. 一つの行為に複数の犯罪が成立しそうなときの整理は
まずそれぞれの犯罪の構成要件該当性を独立に検討し、すべて成立を認めたうえで罪数処理に進む。検討段階で罪数を先取りして「これは強盗だから窃盗は検討しない」と決めつけると、強盗の成立が否定された場合に窃盗を拾えなくなる。各犯罪を独立に検討し、最後に観念的競合・牽連犯・併合罪・法条競合(吸収関係等)のいずれにあたるかを判断するのが安全な手順である。
関連判例
- 練馬事件(最大判昭33.5.28): 共謀共同正犯のリーディングケース
- 最大判昭49.5.29: 観念的競合における「一個の行為」の意義
- 最判昭54.12.14: 牽連犯の判断基準
- 大阪南港事件(最決平2.11.20): 行為後の介在事情と因果関係に関する重要判例
- 最決平29.4.26: 侵害の急迫性の判断枠組み(積極的加害意思と36条の趣旨)
- 最決平24.11.6: 承継的共同正犯における後行者の帰責範囲
まとめ
刑法の事例問題は、事実の整理→犯罪の検出→犯罪の検討(構成要件→違法性→責任)→共犯の検討→罪数処理という体系的な手順で解答する。「解き方」の核心は、事実を行為に分解し行為ごとに犯罪成立要件を当てはめることであり、合否を分けるのは規範の暗記ではなく事実へのあてはめ力である。「書き方」の核心は、問題提起→規範定立→あてはめ→結論という法的三段論法を、争いのある要件ごとに入れ子で回すことにある。「構成要件答案」は、争いのない要件を端的に認定し、争点となる要件に三段論法を集中させるメリハリが命である。
論点の優先順位を適切に判断し、主要論点に十分な分量を割きつつ全体のバランスを保ち、答案構成に十分な時間を充てて見通しを立ててから執筆に入る。日頃から過去問と重要判例を用いた答案構成の訓練を繰り返し、体系的思考と評価を伴うあてはめ能力を磨くことが、安定した得点への最短路である。