刑法事例問題の解き方
刑法事例問題の解き方を実践的に解説。犯罪検討の順序、行為者ごとの検討方法、論点の優先順位、答案構成の時間配分を体系的に整理します。
この記事のポイント
刑法の事例問題は、「誰の」「どの行為について」「何罪が成立するか」を体系的に検討する能力が問われる。検討の基本順序は、構成要件該当性→違法性阻却事由→責任阻却事由→共犯→罪数である。行為者ごと・行為ごとに検討を行い、最後に罪数処理でまとめるという手順を身につけることが、安定した得点につながる。
事例問題の全体的な解法手順
5つのステップ
ステップ 内容 所要時間の目安 1. 事実の整理 登場人物・時系列・行為の特定 5〜10分 2. 犯罪の検出 各行為について問題となる犯罪を洗い出す 5〜10分 3. 犯罪の検討 構成要件→違法性→責任の順で検討 答案の中心 4. 共犯の検討 共同正犯・教唆犯・幇助犯の検討 必要に応じて 5. 罪数処理 成立する犯罪の個数と関係を確定 最後に簡潔にステップ1: 事実の整理
時系列の整理
問題文を読みながら、以下の情報を整理する。
- 登場人物: 甲・乙・丙等の行為者と被害者
- 行為の時系列: いつ、誰が、何をしたか
- 因果関係: どの行為がどの結果を生じさせたか
- 主観面: 各行為者が何を認識・意図していたか
答案構成用のメモ
甲の行為:
①○月○日 Aに対して暴行 → 傷害? 殺人未遂?
②同日 Bの財布を持ち去る → 窃盗? 強盗?
乙の行為:
③○月○日 甲に凶器を渡す → 共犯? 幇助?
ステップ2: 犯罪の検出
検出の順序
事例問題で問題となりうる犯罪を漏れなく検出することが重要である。
個人法益に対する罪の検出
法益 検出すべき犯罪 検出のきっかけ 生命 殺人・殺人未遂・過失致死 死亡結果、殺意の有無 身体 傷害・暴行・過失傷害 負傷結果、有形力の行使 自由 逮捕監禁・脅迫・強要 身体拘束、害悪の告知 財産 窃盗・強盗・詐欺・恐喝・横領 財物の移転、利益の取得 名誉 名誉毀損・侮辱 社会的評価の低下社会法益に対する罪の検出
- 放火罪: 建造物等への点火行為
- 文書偽造罪: 文書の作成・改変行為
- 通貨偽造罪: 通貨の模造行為
国家法益に対する罪の検出
- 公務執行妨害罪: 公務員に対する暴行・脅迫
- 犯人蔵匿・証拠隠滅罪: 犯人の隠匿、証拠の破壊
- 収賄罪: 公務員の賄賂の収受
検出のコツ
- 被害者ごとに犯罪を検討する
- 結果から遡って犯罪を特定する(死亡→殺人? 傷害致死?)
- 行為の態様に注目する(暴行→窃盗=強盗?、欺罔→財物交付=詐欺?)
- 付随的な犯罪を見落とさない(住居侵入、器物損壊等)
ステップ3: 犯罪の検討
犯罪検討の基本順序
1. 構成要件該当性
├── 客観的構成要件
│ ├── 主体
│ ├── 行為(実行行為)
│ ├── 結果
│ ├── 因果関係
│ └── 客体
└── 主観的構成要件
├── 故意
└── 目的犯の場合は目的
2. 違法性阻却事由
├── 正当行為(35条)
├── 正当防衛(36条1項)
├── 緊急避難(37条1項)
└── 被害者の同意
3. 責任阻却事由
├── 責任能力(39条・41条)
├── 故意の不存在(38条1項)
├── 違法性の意識の可能性
└── 期待可能性
構成要件該当性の検討方法
実行行為の認定
- 問題文の事実から、構成要件に該当する行為を特定する
- 行為の特定が答案の出発点であり、ここを間違えると全体が崩れる
- 作為か不作為かの区別にも注意
因果関係の検討
因果関係が問題となる場面:
- 介在事情がある場合: 被害者の行動、第三者の行為、自然現象等
- 行為後の事情変更: 医療過誤、被害者の特殊事情等
因果関係の判断基準:
- 条件関係: 行為がなければ結果は発生しなかったか
- 相当因果関係/危険の現実化: 行為の危険性が結果に現実化したか
故意の認定
故意の種類 内容 認定のポイント 確定的故意 結果の発生を確実と認識 行為態様・凶器の使用等 未必の故意 結果の発生を認容 危険の認識と行為の継続 概括的故意 複数の客体のいずれかへの故意 不特定の対象への攻撃錯誤の処理
錯誤の類型 内容 処理 具体的事実の錯誤(客体の錯誤) AをBと誤認して攻撃 法定的符合説により故意を認定 具体的事実の錯誤(方法の錯誤) Aを狙ったがBに命中 法定的符合説vs具体的符合説 抽象的事実の錯誤 構成要件間の錯誤 重なり合う範囲で軽い犯罪の故意違法性阻却事由の検討
問題文に以下の事情がある場合、違法性阻却を検討する。
- 「身を守るために」: 正当防衛(36条1項)
- 「やむを得ず」: 緊急避難(37条1項)
- 「被害者が同意して」: 被害者の同意
- 「正当な業務として」: 正当行為(35条)
正当防衛の検討ポイント
- 急迫不正の侵害: 現在の違法な侵害が存在するか
- 防衛の意思: 防衛の意思があるか(攻撃の意思が併存しても可)
- やむを得ずした行為: 防衛行為の相当性
- 過剰防衛(36条2項): 相当性を超えた場合の処理
ステップ4: 共犯の検討
共犯検討の順序
1. 正犯性の検討
├── 単独正犯
├── 共同正犯(60条)
└── 間接正犯
2. 共犯の検討(正犯でない場合)
├── 教唆犯(61条)
└── 幇助犯(62条)
共同正犯の認定
要件 内容 判断基準 共謀 犯罪実行の意思連絡 明示・黙示を問わない 正犯意思 自己の犯罪として行う意思 犯罪への関与の程度・利益の帰属 実行行為 共謀に基づく実行 一部実行全部責任共犯の特殊問題
- 共謀共同正犯: 実行行為を分担しない者の正犯性
- 承継的共同正犯: 実行着手後に加功した者の帰責範囲
- 共犯からの離脱: 因果関係の遮断の有無
- 共犯と身分: 65条1項・2項の適用
ステップ5: 罪数処理
答案での書き方
罪数処理は答案の最後に簡潔に記載する。
書き方のパターン
パターン1: 科刑上一罪
以上より、甲には①住居侵入罪と②窃盗罪が成立する。
両罪は牽連犯(54条1項後段)として処理される。
パターン2: 併合罪
以上より、甲には①傷害罪と②窃盗罪が成立する。
両罪は併合罪(45条前段)として処理される。
パターン3: 複合的な処理
以上より、甲には①住居侵入罪、②窃盗罪、③傷害罪が成立する。
①と②は牽連犯として科刑上一罪となり、これと③は併合罪として処理される。
論点の優先順位
答案で厚く論じるべき論点
優先度 論点の種類 理由 高 出題意図が明確な論点 配点が高い 高 学説の対立がある論点 論証力が問われる 中 事実認定が問題となる論点 あてはめの力が問われる 低 争いのない論点 結論のみ簡潔に論点の見つけ方
- 問題文に不自然な記述がある箇所: 出題者が論点を示唆している
- 複数の解釈が可能な事実: 学説の対立が問題となりうる
- 「なお」「ところで」等の接続詞の後: 追加的な論点が隠されている
- 登場人物の主観面の記述: 故意・過失の認定が問題となる
答案構成の時間配分
2時間の試験の場合
作業 時間 内容 問題文の読解 15分 2回読み、事実を整理 答案構成 25分 犯罪の検出、論点の優先順位決定 答案執筆 70分 論点ごとの記述 見直し 10分 誤字・論理矛盾のチェック答案構成のコツ
- 全体の見通しを先に立てる: いきなり書き始めない
- 論点ごとに配分を決める: 主要論点に多くの分量を割く
- 結論を先に決める: 結論が決まらないまま書き始めると一貫性を失う
- 時間切れを防ぐ: 最後の罪数処理まで必ず書き切る
答案の書き方のポイント
構成要件の検討の書き方
1. 甲がAを殴打した行為について
甲がAの顔面を拳で殴打した行為は、暴行罪(208条)の
構成要件に該当する。さらに、Aが全治2週間の傷害を
負っていることから、傷害罪(204条)の成否が問題となる。
甲の暴行とAの傷害結果との間には因果関係が認められるため、
傷害罪の構成要件に該当する。
論点の論じ方
ここで、○○が「△△」に該当するかが問題となる。
この点、A説は〜と解する。しかし、〜という批判がある。
思うに、〜と解すべきである。なぜなら、〜だからである。
本件では、〜という事実があるため、「△△」に該当する。
避けるべき書き方
- 問題文の丸写し: 必要な事実のみ摘示する
- 学説の羅列のみ: 自説を明確にし、理由を示す
- 論点落ち: 検出段階で漏れがないよう注意
- 罪数処理の省略: 必ず最後に記載する
試験対策での位置づけ
刑法の事例問題は、体系的思考力と事実へのあてはめ能力の両方が試される。以下の訓練が有効である。
- 過去問の答案構成練習: 時間を計って答案構成を行う
- 判例の事案分析: 判例の事案を事例問題として解く訓練
- 論証の暗記よりも理解: 論点の背景にある価値判断を理解する
- 罪数処理の練習: 複数の犯罪が絡む事案での処理を繰り返し練習
関連判例
- 練馬事件(最大判昭33.5.28): 共謀共同正犯のリーディングケース
- 最大判昭49.5.29: 観念的競合における「一個の行為」の意義
- 最判昭54.12.14: 牽連犯の判断基準
- 大阪南港事件(最決平2.11.20): 因果関係の判断に関する重要判例
まとめ
刑法の事例問題は、事実の整理→犯罪の検出→犯罪の検討(構成要件→違法性→責任)→共犯の検討→罪数処理という体系的な手順で解答する。論点の優先順位を適切に判断し、主要論点に十分な分量を割きつつ、全体のバランスを保つことが重要である。答案構成に十分な時間を充て、全体の見通しを立てた上で執筆に入ることが、安定した得点を獲得するための鍵となる。日頃から過去問を用いた答案構成の訓練を繰り返し、体系的思考とあてはめ能力を磨くことが求められる。