/ 刑法

共犯論の体系|教唆犯・幇助犯の要件と処罰根拠

教唆犯と幇助犯の成立要件を体系的に解説。共犯の処罰根拠、因果的共犯論、間接正犯との区別、共犯の従属性を整理します。

この記事のポイント

教唆犯(刑法61条)は「人を教唆して犯罪を実行させた者」、幇助犯(刑法62条)は「正犯を幇助した者」であり、いずれも正犯の犯罪行為に加功する従犯(広義の共犯)である。 共犯の処罰根拠は、正犯を通じて法益侵害を惹起した点に求められる(因果的共犯論・惹起説)。共犯の従属性の程度、間接正犯との区別、共犯と正犯の錯誤などが重要論点である。


共犯の処罰根拠

因果的共犯論(惹起説)

通説は因果的共犯論(惹起説)に立ち、共犯の処罰根拠を、正犯を介して間接的に法益侵害の結果を惹起した点に求める。

  • 純粋惹起説: 共犯独自の違法性を問題とし、正犯の違法性に従属しない
  • 混合惹起説(通説): 正犯の違法性に従属しつつ、共犯独自の違法性も必要
  • 修正惹起説: 正犯の違法性に完全に従属する

責任共犯論(否定説)

共犯の処罰根拠を、正犯者を犯罪に陥れた(堕落させた)点に求める見解。現在では少数説にとどまる。


共犯の従属性

実行従属性

共犯が成立するためには、正犯が実行行為に着手することが必要である。正犯が実行に着手しなければ、教唆犯・幇助犯は成立しない。

要素従属性

正犯行為がどの程度の犯罪成立要件を備える必要があるかについて、以下の対立がある。

学説 正犯に必要な要素 最小限従属性説 構成要件該当性のみ 制限従属性説(通説) 構成要件該当性 + 違法性 極端従属性説 構成要件該当性 + 違法性 + 有責性

通説の制限従属性説によれば、正犯の行為が構成要件に該当し違法であれば、正犯に責任がなくても共犯は成立する。


教唆犯

成立要件

  1. 教唆行為: 犯罪の意思を有しない者に犯罪の決意を生じさせること
  2. 正犯の実行: 被教唆者が教唆に基づいて犯罪を実行すること
  3. 因果関係: 教唆行為と正犯の犯罪実行との間に因果関係があること

教唆の方法

教唆の方法に制限はなく、言葉による唆し、暗示、依頼、命令、嘆願等いずれの方法でもよい。

教唆犯の処罰

教唆犯は正犯の刑を科される(61条1項)。法定刑の減軽はない。

再間接教唆

教唆者を教唆した者(間接教唆)にも正犯の刑が科される(61条2項)。さらにその教唆者を教唆した場合(再間接教唆)も同様である。


幇助犯

成立要件

  1. 幇助行為: 正犯の犯罪行為を容易にすること
  2. 正犯の実行: 正犯が犯罪を実行すること
  3. 因果関係: 幇助行為と正犯の犯罪実行の容易化との間に因果関係があること
  4. 幇助の故意: 正犯の犯罪を容易にすることの認識・認容

幇助の態様

  • 物理的幇助: 凶器の提供、逃走用車両の準備、見張りなど
  • 精神的幇助: 犯罪の方法の教示、激励、助言など

因果関係の要否

幇助犯の因果関係について、幇助行為が正犯の犯罪を物理的または心理的に容易にしたことで足りるとするのが通説・判例である。正犯が幇助行為なしには犯罪を実行できなかったという条件関係は不要である。

幇助犯の処罰

幇助犯は正犯の刑を減軽した刑が科される(63条)。

中立的行為による幇助

日常的な取引行為や業務行為が結果的に犯罪を容易にした場合(中立的行為による幇助)の処理が問題となる。

判例は、行為者が正犯の犯罪計画を認識しつつ、その犯罪を積極的に促進する意思で行った場合には幇助犯の成立を認める傾向にある(Winny事件・最決平23.12.19)。


間接正犯との区別

間接正犯の意義

間接正犯とは、他人を道具として利用して犯罪を実行する場合をいう。利用者が正犯であり、被利用者は道具にすぎない。

区別の基準

間接正犯 教唆犯 被利用者の意思決定 自由な意思決定がない 自由な意思決定がある 被利用者の責任 責任なし(道具) 責任あり(正犯) 利用者の地位 正犯 従犯

具体例

  • 責任無能力者を利用する場合 → 間接正犯
  • 情を知らない者を利用する場合 → 間接正犯
  • 強制された者を利用する場合 → 間接正犯
  • 自由な意思で行為する者を唆す場合 → 教唆犯

片面的共犯

片面的幇助犯

相手方の認識なく一方的に犯罪を容易にした場合(片面的幇助)について、判例は肯定している(大判大14.1.22)。

片面的共同正犯

一方的に他人の犯罪に加功する片面的共同正犯については、意思の連絡がないことから、否定説が有力である。


試験での出題ポイント

論文式試験での検討手順

  1. 正犯と共犯の区別: 実行行為を行ったか、加功にとどまるかを判断
  2. 共同正犯か教唆・幇助か: 正犯意思の有無で区別
  3. 教唆犯か幇助犯か: 犯罪の決意を生じさせたか、既存の決意を強化・促進したかで区別
  4. 共犯の従属性: 正犯の行為が構成要件に該当し違法であるかを確認
  5. 因果関係: 共犯行為と正犯の犯罪との間の因果関係を検討

まとめ

  • 教唆犯は犯罪の決意を生じさせる者であり、正犯の刑が科される
  • 幇助犯は犯罪を容易にする者であり、正犯の刑を減軽した刑が科される
  • 共犯の処罰根拠は因果的共犯論(惹起説)により説明される
  • 通説は制限従属性説に立ち、正犯の構成要件該当性と違法性を要求する
  • 間接正犯は被利用者に自由な意思決定がない場合に成立する

FAQ

Q1. 教唆犯と幇助犯の違いは何ですか?

教唆犯は犯罪の意思がない者に犯罪の決意を生じさせる者、幇助犯は既に犯罪の決意がある者の犯行を容易にする者です。法定刑も異なり、教唆犯は正犯の刑、幇助犯は減軽した刑です。

Q2. 共犯の従属性とは何ですか?

共犯が成立するために正犯の行為がどの程度の要件を備える必要があるかの問題です。通説の制限従属性説は、正犯行為に構成要件該当性と違法性があれば共犯は成立するとします。

Q3. Winny事件の幇助犯の判断基準は?

最高裁は、ソフト提供行為が犯罪に利用されることの認識だけでは幇助犯は成立せず、犯罪の用途に使われることを認識・認容し、それを積極的に推進する意思がある場合に限り幇助犯が成立するとしました。


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