伝聞法則の体系|伝聞と非伝聞の区別から伝聞例外まで
伝聞法則を体系的に解説。伝聞と非伝聞の区別(要証事実による判断)、321条〜328条の伝聞例外の要件、検面調書と員面調書の差異まで司法試験対策として整理します。
この記事のポイント
伝聞法則(320条1項)は、公判廷外の供述を内容とする証拠の証拠能力を原則として否定する証拠法上の大原則である。 その趣旨は、供述証拠の信用性を反対尋問によって吟味する機会を保障する点にある。伝聞と非伝聞の区別は「要証事実」との関係で判断され、供述内容の真実性が問題となる場合が伝聞証拠に該当する。刑訴法は321条以下で伝聞例外を類型的に規定しており、各条文の要件を正確に理解することが試験対策上不可欠である。
伝聞法則の趣旨
320条1項の規定
第三百二十条 第三百二十一条乃至第三百二十八条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。
伝聞法則の根拠
伝聞法則の趣旨は、供述証拠の信用性を反対尋問によって吟味する機会を保障する点にある。
供述証拠は、以下の過程を経て形成されるため、各段階で誤りが混入する危険がある。
過程 誤りの危険 知覚 見間違い・聞き間違い 記憶 記憶の変容・欠落 表現・叙述 言い間違い・誤解を招く表現 真摯性 嘘・誇張反対尋問は、これらの各段階における誤りを公判廷でテストする手段であり、伝聞法則は反対尋問による吟味を経ない供述の証拠能力を否定するものである。
伝聞と非伝聞の区別
区別の基準:要証事実
伝聞と非伝聞の区別は、当該証拠の要証事実(証拠によって証明しようとする事実)との関係で判断される。
区分 要証事実との関係 証拠能力 伝聞 供述内容の真実性が問題となる 原則否定(320条1項) 非伝聞 供述内容の真実性は問題とならない 伝聞法則の適用なし非伝聞となる場合
供述証拠が非伝聞として証拠能力を認められる典型的な場合は以下のとおりである。
1. 供述の存在自体が要証事実の場合
例:脅迫罪の立証において、被告人が「殺すぞ」と言ったという目撃者Wの証言。ここでは被告人が実際にそう発言した事実(供述の存在)が要証事実であり、発言内容が真実か(本当に殺す意思があったか)は問題とならない。
2. 供述者の精神状態を示す場合
例:被告人が犯行直後に「やってしまった」と述べたという証言。ここでは被告人の心理状態(犯行の認識)を推認する間接事実として用いるものであり、供述内容の真実性が直接の問題ではない。
3. 行為の言語的部分(言語行為)
例:契約の申込み・承諾の言葉、遺言の言葉。これらは行為そのものの一部であり、供述内容の真実性の問題ではない。
伝聞・非伝聞の区別が問題となる重要判例
最決平17.9.27: 犯行再現写真の証拠能力について、再現者の供述を内容とする実質を有するものは伝聞証拠に該当するとした。再現された動作や状況が供述の内容を具現化したものであれば、その真実性が問題となるため伝聞に当たる。
最判昭30.12.9: メモの証拠能力について、メモが供述を記載したものである場合は伝聞証拠に該当する。もっとも、メモの存在自体が要証事実(例:記載時点での認識を示す間接事実)である場合は非伝聞となりうる。
伝聞例外の体系
全体像
刑訴法321条以下は、伝聞法則の例外として、一定の要件の下で公判廷外の供述の証拠能力を認めている。
条文 証拠の種類 主な要件 321条1項1号 裁判官面前調書 前段:供述不能、後段:相反供述+特信性 321条1項2号 検察官面前調書 前段:供述不能+特信性、後段:相反供述+特信性 321条1項3号 員面調書 供述不能+不可欠性+特信性 321条2項 検証調書 真正作成(裁判官作成は無条件) 321条3項 鑑定書 鑑定人の署名・押印+真正作成 321条4項 捜査書類(実況見分調書等) 真正作成 322条1項 被告人の供述書・調書 不利益事実の承認+任意性 323条 業務文書等 特に信用すべき情況の下での作成 324条 伝聞供述 原供述の伝聞例外要件の準用 325条 証明力を争う証拠 関連性 326条 同意書面 相手方の同意+相当性 327条 合意書面 当事者双方の合意 328条 弾劾証拠 証明力を争うための使用書面の伝聞例外(321条)
裁判官面前調書(321条1項1号)
裁判官の面前での供述を内容とする調書は、最も証拠能力が認められやすい。裁判官の面前では偽証の危険が低く、供述の信用性が類型的に高いためである。
区分 要件 前段 供述者が死亡・心身の故障・所在不明・国外にいるため公判準備又は公判期日に供述することができないとき 後段 公判準備又は公判期日における供述と相反するか又は実質的に異なった供述をしたとき+前の供述を信用すべき特別の情況の存すること検察官面前調書(321条1項2号)
検察官面前調書は、実務上最も使用頻度が高い伝聞例外規定である。
区分 要件 特信性の比較対象 前段 供述不能+特信性 公判外供述時の外部的付随事情 後段 相反供述+特信性 検面調書の供述と公判供述の比較(相対的特信性)2号前段の「供述不能」: 死亡、心身の故障、所在不明、国外所在の4事由に限定される。
2号後段の「相反するか又は実質的に異なった供述」: 公判廷での証言と検面調書の供述が矛盾する場合だけでなく、重要な部分で実質的に異なる場合を含む。
2号後段の「特信性」: 検面調書の供述が公判供述よりも信用すべき特別の情況にあることをいう。具体的には、供述時の状況(供述者の心理状態、供述の一貫性、供述に至る経緯等)を比較して判断される。
員面調書(321条1項3号)
司法警察員の面前における供述を内容とする調書は、検面調書よりも厳格な要件が課される。
要件 内容 供述不能 死亡、心身の故障、所在不明、国外所在 不可欠性 その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであること 特信性 その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであること3号の要件が2号よりも厳格なのは、司法警察員による取調べは検察官による取調べに比べて供述の信用性が類型的に低いと考えられるためである。
被告人の供述書・調書(322条)
322条1項の要件
被告人の供述書(被告人自身が作成した書面)又は被告人の供述調書(取調べで録取された調書)については、以下の要件の下で証拠能力が認められる。
供述内容 要件 不利益事実の承認を内容とするもの 任意にされたものであること 不利益事実の承認以外を内容とするもの 特に信用すべき情況の下にされたものであること「不利益な事実の承認」の範囲
不利益な事実の承認には、自白(犯罪事実の全部又は主要部分の承認)だけでなく、犯罪事実に関連する不利益な事実の承認も含まれる。
同意書面(326条)
326条の趣旨
伝聞法則は反対尋問権の保障を趣旨とするものであるから、相手方が同意した場合には、反対尋問権を放棄したものとして伝聞例外が認められる。
要件
要件 内容 同意 相手方の同意(明示的同意・擬制同意326条2項) 相当性 裁判所が相当と認めること実務上の重要性
実務上、検察官請求の書証の多くは弁護人の同意により326条で採用されている。弁護人が「不同意」とした書面については、321条以下の個別の伝聞例外の要件を検討する必要がある。
弾劾証拠(328条)
328条の規定
第三百二十八条 第三百二十一条乃至第三百二十七条の規定により証拠とすることができない書面又は供述であっても、公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述の証明力を争うために、これを証拠とすることができる。
使用目的の制限
328条の証拠は、証明力を争う(弾劾する)目的でのみ使用することができ、犯罪事実の認定に用いること(実質証拠としての使用)はできない。
最判平18.11.7の重要判例
刑訴法328条により許容される証拠は、信用性を争う供述をした者のそれと矛盾する内容の供述が、同人の供述書、供述調書(署名又は押印のあるもの)中に現れている部分に限られる。
この判例により、328条で使用できる証拠は、当該証人自身の矛盾供述を記載した書面に限られ、第三者の供述書面を弾劾証拠として使用することはできないとされた。
再伝聞の問題
再伝聞とは
再伝聞とは、公判廷外の供述の中にさらに別の公判廷外の供述が含まれている場合をいう。例えば、Aの検面調書の中にBの供述が引用されている場合、Bの供述は再伝聞となる。
再伝聞の証拠能力
再伝聞は、各層ごとに伝聞例外の要件を満たす必要がある(324条参照)。上記の例では、①Aの検面調書について321条1項2号の要件を満たし、かつ②Bの供述について324条により準用される伝聞例外の要件を満たす必要がある。
試験対策での位置づけ
答案の基本的な流れ
- 当該証拠が伝聞証拠に該当するか(要証事実との関係で判断)
- 伝聞に該当する場合、該当する伝聞例外規定を特定(321条〜328条のいずれか)
- 当該伝聞例外の要件を充足するか検討(供述不能・特信性等の各要件の当てはめ)
- 再伝聞の問題がないか確認(供述内容に他者の供述が含まれる場合)
出題上の注意点
- 要証事実の設定が伝聞・非伝聞の区別を決定するため、問題文から要証事実を正確に読み取ることが重要
- 321条1項2号後段(検面調書の相反供述+相対的特信性)は最も出題頻度が高い
- 328条の弾劾証拠の範囲は最判平18.11.7を踏まえて限定的に論じる
- 322条1項の「不利益事実の承認」の範囲を正確に理解する
よくある質問(FAQ)
Q1. 伝聞と非伝聞の区別で最も重要なポイントは?
要証事実との関係である。同一の証拠であっても、立証趣旨(何を証明するために用いるか)によって伝聞にも非伝聞にもなりうる。供述内容の真実性が問題となるか否かが区別の核心である。
Q2. 検面調書(2号書面)と員面調書(3号書面)の要件の違いは?
3号書面は2号書面よりも厳格であり、供述不能に加えて「不可欠性」(犯罪事実の存否の証明に欠くことができない)の要件が加重されている。また、2号後段のような「相反供述」の場合の伝聞例外は3号にはない。
Q3. 326条の同意と321条以下の関係は?
326条の同意があれば、321条以下の要件を検討する必要はない。実務上、書証の多くは326条の同意により採用されており、321条以下が問題となるのは弁護人が不同意とした場合である。
Q4. 写真は伝聞証拠に当たるか?
機械的に撮影された写真は、人の知覚・記憶・表現の過程を経ないため、原則として非供述証拠であり伝聞証拠に当たらない。ただし、犯行再現写真のように供述者の供述を具現化したものは伝聞証拠に該当する(最決平17.9.27)。
Q5. 伝聞証拠に該当しても同意がなくても証拠能力が認められる場合は?
321条以下の法定の伝聞例外要件を満たす場合に証拠能力が認められる。具体的には、書面については321条〜323条、供述については324条の要件を充足する必要がある。
まとめ
- 伝聞法則(320条1項)は公判廷外の供述の証拠能力を原則否定する
- 趣旨は反対尋問による供述の信用性の吟味を保障する点にある
- 伝聞・非伝聞の区別は要証事実との関係で判断される
- 321条1項: 裁判官面前調書(1号)>検面調書(2号)>員面調書(3号)の順で要件が厳格化
- 322条: 被告人の供述書・調書は不利益事実の承認+任意性で証拠能力
- 326条: 相手方の同意により伝聞例外が認められる(実務上最も重要)
- 328条: 弾劾証拠としての使用は限定的(最判平18.11.7)