公判手続の体系|公判前整理手続から判決まで
公判手続を体系的に解説。起訴状一本主義、公判前整理手続、冒頭手続から判決まで、訴因変更の要否と可否の判断基準を司法試験対策として整理します。
この記事のポイント
公判手続は、起訴から判決に至る刑事訴訟の中核的手続である。 検察官の起訴に際しては起訴状一本主義(256条6項)が採用され、裁判官の予断を排除する制度設計がなされている。公判前整理手続(316条の2以下)は争点整理と証拠整理を行う手続であり、裁判員裁判では必要的に実施される。公判期日における訴因変更の要否と可否は刑訴法の最重要論点の一つであり、判例・学説の理解が不可欠である。
公訴の提起
起訴独占主義と起訴便宜主義
原則 内容 根拠条文 起訴独占主義 公訴の提起は検察官のみが行う 247条 起訴便宜主義 犯罪の嫌疑があっても諸般の事情を考慮して起訴を猶予できる 248条例外として、検察審査会による起訴議決に基づく強制起訴の制度がある(検察審査会法41条の6以下)。
起訴状一本主義
256条6項: 起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめるおそれのある書類その他の物を添附し、又はその内容を引用してはならない。
趣旨 内容 予断排除 裁判官が証拠調べ前に予断を持つことを防止 当事者主義の保障 証拠は公判廷での証拠調べを通じて提出 被告人の防御権保障 起訴状から審判対象が明確化起訴状一本主義に違反する場合
起訴状一本主義に違反した場合の効果については争いがある。
見解 効果 公訴棄却説(判例・通説) 起訴手続の法令違反として公訴棄却(338条4号) 起訴状の訂正で足りるとする説 違反部分の削除で治癒起訴状の記載と訴因
起訴状の記載事項
起訴状には、以下の事項を記載しなければならない(256条)。
記載事項 条文 内容 被告人の表示 256条2項1号 被告人を特定するに足りる事項 公訴事実 256条2項2号 訴因を明示して記載 罪名 256条2項3号 適用すべき罰条訴因の機能
訴因は以下の二つの機能を有する。
機能 内容 識別機能 審判対象を他の犯罪事実から識別する 防御機能(告知機能) 被告人に防御の対象を告知する訴因の特定(256条3項)
訴因は、「できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定して」記載しなければならない。
訴因の特定の程度については、最決昭56.4.25が重要である。同決定は、「訴因の特定に欠けるところはない」として、犯行の日時・場所等が概括的な記載であっても、他の犯罪事実と識別でき被告人の防御に不利益が生じなければ足りるとした。
公判前整理手続
制度の概要
公判前整理手続(316条の2以下)は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため、事件の争点及び証拠を整理するための公判準備手続である。
項目 内容 実施 裁判所の決定により実施(316条の2第1項)。裁判員裁判では必要的 参加者 裁判官、検察官、被告人・弁護人 時期 第一回公判期日前手続の流れ
- 検察官の証明予定事実の提示(316条の13)
- 検察官請求証拠の開示(316条の14)
- 弁護人による類型証拠開示請求(316条の15)
- 弁護人の予定主張の明示(316条の17)
- 弁護人による主張関連証拠開示請求(316条の20)
- 争点及び証拠の整理結果の確認(316条の24)
- 審理計画の策定(316条の25)
証拠開示制度
公判前整理手続における証拠開示は、以下の三段階で行われる。
段階 内容 条文 第1段階 検察官請求証拠の開示 316条の14 第2段階 類型証拠の開示 316条の15 第3段階 主張関連証拠の開示 316条の20公判前整理手続後の証拠請求の制限
公判前整理手続終了後は、やむを得ない事由がない限り、新たな証拠の請求をすることができない(316条の32第1項)。この制限は、公判前整理手続の実効性を確保するためのものである。
公判期日の手続
手続の流れ
公判期日における手続は、以下の順序で進行する。
順序 手続 内容 1 人定質問 被告人の氏名等の確認(規則196条) 2 起訴状朗読 検察官が起訴状を朗読(291条1項) 3 黙秘権の告知 裁判長が被告人に黙秘権を告知(291条4項) 4 被告人・弁護人の意見陳述 被告事件についての陳述(291条の2) 5 証拠調べ 検察側立証→弁護側立証 6 被告人質問 311条 7 論告・求刑 検察官の意見陳述(293条1項) 8 弁論 弁護人の意見陳述(293条2項) 9 被告人の最終陳述 293条2項 10 判決宣告 判決の言渡し証拠調べの方式
証拠の種類 調べの方式 証人 証人尋問(主尋問→反対尋問→再主尋問) 鑑定人 鑑定人尋問 書面 朗読又は要旨の告知(305条) 証拠物 展示(306条)訴因変更
訴因変更の意義
訴因変更とは、検察官が起訴状に記載された訴因を変更する手続をいう(312条1項)。訴因変更は、公訴事実の同一性を害しない限度において認められる。
訴因変更の可否(312条1項)
訴因変更が許されるか(可否)は、公訴事実の同一性が認められるかによって判断される。
見解 判断基準 基本的事実同一説(判例) 社会的事実として基本的に同一であるか 狭義の同一性+単一性 狭義の同一性(非両立性)又は単一性(事実の単一性)が認められるか最決昭53.3.6: 窃盗の訴因から盗品等有償譲受けの訴因への変更について、公訴事実の同一性が認められるとした。
訴因変更の要否
訴因変更が必要か否か(要否)は、訴因と認定事実の間にどの程度の差異があれば訴因変更が必要となるかの問題である。
抽象的防御説と具体的防御説
見解 訴因変更が必要となる場合 抽象的防御説 訴因と認定事実が抽象的に被告人の防御に影響する場合 具体的防御説 訴因と認定事実の相違が具体的に被告人の防御に不利益を生じる場合判例の立場
最決平13.4.11: 殺人の訴因で起訴されたが共謀共同正犯としての殺人を認定した事案で、共謀の事実は「訴因における罪となるべき事実を構成する具体的事実にほかならないから、訴因変更が必要」とした。
最判平24.2.29: 訴因変更の要否について、①訴因と認定事実が「審判対象の画定という見地からは、訴因変更が必要とされる場合ではない」としても、②「被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるもの」であれば、例外的に訴因変更が必要とした。
この判例は、訴因変更の要否を以下の二段階で判断する枠組みを示している。
段階 判断基準 内容 第1段階 審判対象の画定 訴因と認定事実の間に審判対象の画定に影響する差異があるか 第2段階 被告人の防御 不意打ちとなるか否か(争点からの乖離)訴因変更命令
裁判所は、訴因変更を命じることができる(312条2項)。訴因変更命令には義務説と裁量説の対立がある。
見解 内容 義務説 一定の場合には訴因変更を命じる義務がある 裁量説(判例) 訴因変更命令は裁判所の裁量に委ねられる最決昭58.9.6: 裁判所は訴因変更を促す義務を一般的に負うものではないとした。
判決
有罪判決の要件
有罪判決を言い渡すためには、合理的な疑いを容れない程度の証明(「疑わしきは被告人の利益に」の原則)が必要である。
判決の種類 内容 根拠 有罪判決 犯罪の証明があったとき 333条1項 無罪判決 犯罪の証明がないとき(疑わしきは被告人の利益に) 336条 公訴棄却判決 訴訟条件を欠くとき 338条 免訴判決 確定判決・大赦・公訴時効完成・刑の廃止 337条択一的認定の問題
訴因として掲げられた犯罪事実は証明されないが、訴因変更なしに別の犯罪事実を認定できるか(択一的認定)が問題となる。判例は厳格な訴因制度の下では原則として許されないとするが、縮小認定(大きい犯罪から小さい犯罪の認定)は訴因変更なしに可能とする。
試験対策での位置づけ
出題頻度の高い論点
- 訴因変更の要否: 最決平13.4.11、最判平24.2.29の判断枠組み
- 訴因変更の可否: 公訴事実の同一性の判断
- 起訴状一本主義: 256条6項の趣旨と違反の効果
- 公判前整理手続後の証拠制限: 316条の32の「やむを得ない事由」
答案の基本的な流れ(訴因変更の要否)
- 訴因と認定しようとする事実の相違を特定
- 審判対象の画定に影響するか(第1段階:訴因の識別機能の観点)
- 影響する場合→訴因変更が必要
- 影響しない場合→被告人の防御に不意打ちとならないか(第2段階)
- 不意打ちとなる場合→例外的に訴因変更が必要
よくある質問(FAQ)
Q1. 起訴状一本主義に違反するとどうなるか?
判例・通説は公訴棄却(338条4号)とする。起訴状に予断を生ぜしめるおそれのある書類を添付した場合、起訴手続の法令違反として公訴棄却される。
Q2. 訴因変更と公訴事実の同一性の判断基準は?
判例は基本的事実同一説に立ち、訴因変更前後の事実が社会的に見て基本的に同一の事実といえるかで判断する。非両立性(一方が成立すれば他方は成立しない関係)は有力な判断要素であるが、非両立でなくても同一性が認められる場合がある。
Q3. 縮小認定に訴因変更は必要か?
不要とするのが判例の立場である。例えば、強盗の訴因で窃盗を認定する場合、窃盗は強盗の縮小的事実であるため、訴因変更なしに認定できる。
Q4. 公判前整理手続は全ての事件で実施されるか?
裁判員裁判対象事件では必要的に実施されるが、それ以外の事件では裁判所の裁量による。もっとも、複雑な事件では裁判員裁判以外でも実施されることがある。
Q5. 訴因変更命令に従わなかった場合はどうなるか?
検察官が訴因変更命令に従わない場合でも、裁判所が職権で訴因を変更することはできない(当事者主義)。裁判所は現在の訴因の範囲で審判するしかなく、証拠が不十分であれば無罪判決となる。
まとめ
- 起訴状一本主義(256条6項)により裁判官の予断排除が図られている
- 訴因は審判対象を画定し、被告人の防御の範囲を告知する機能を有する
- 公判前整理手続は争点・証拠の整理を行い、裁判員裁判では必要的
- 訴因変更の可否は公訴事実の同一性(基本的事実同一説)で判断
- 訴因変更の要否は審判対象の画定+被告人の防御の二段階で判断(最判平24.2.29)
- 有罪判決には合理的な疑いを容れない程度の証明が必要