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違法収集証拠排除法則|証拠禁止の理論と判例

違法収集証拠排除法則を体系的に解説。最判昭53.9.7の排除基準、令状主義の精神を没却する重大な違法と排除相当性、毒樹の果実論まで司法試験対策として整理します。

この記事のポイント

違法収集証拠排除法則とは、違法な手続により収集された証拠の証拠能力(公判で事実認定の資料とする資格)を否定する刑事訴訟法上の法理である。 判例(最判昭53.9.7)は、「令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合」に証拠を排除するとした。この二段階テスト(重大な違法+排除相当性)は、現在も証拠排除の基本的枠組みとして機能している。本記事では、排除法則の意義・根拠から、要件、リーディングケースとなる判例の正確な整理、適用範囲、派生証拠(毒樹の果実)の問題、答案での書き方まで体系的に解説する。

この記事で押さえる検索意図
- 違法収集証拠排除法則とは何か(定義・根拠・条文上の位置づけ)
- 違法収集証拠の判例(最判昭53.9.7を中心としたリーディングケースの正確な整理)
検索でこの2つを調べている読者が、定義・要件・判例・答案の書き方まで一気に確認できるように構成している。


違法収集証拠排除法則とは(定義)

一文での定義

違法収集証拠排除法則とは、捜査機関が違法な手続によって収集した証拠について、その証拠能力を否定し、公判での事実認定の資料として用いることを禁止する法理をいう。 英米法の "exclusionary rule" に由来する考え方で、日本では明文の規定を欠くものの、判例法理として確立している。

「違法収集証拠」とは、収集の手続が違法である証拠を指す。証拠の内容(証明力)が問題なのではなく、その証拠がどのようにして手に入れられたかという収集過程の違法を理由に、証拠としての資格(証拠能力)を奪う点に特徴がある。したがって、証拠物そのものに改変がなく、内容として信用できる場合でも、収集手続が違法であれば排除されうる。

「証拠能力の否定」という効果の意味

刑事裁判では、証拠は次の三つの段階を経て事実認定に用いられる。

段階 内容 排除法則の作用 証拠能力 証拠として法廷に提出し取り調べる資格 ここを否定する(=証拠禁止) 証拠調べ 法廷で取り調べる手続 証拠能力がなければ取り調べられない 証明力 事実認定に役立つ証拠の価値 排除法則は証明力の問題ではない

排除法則は、証拠能力の段階で証拠を遮断する「証拠禁止」の一場面である。証明力が高い(真実発見に有用な)証拠であっても、収集手続の違法を理由に最初から事実認定の土俵に乗せないところに、この法則の眼目がある。

適用される証拠の範囲

排除法則は、典型的には証拠物(覚醒剤・凶器・押収物など)の収集手続の違法について論じられる。供述証拠(自白)の場合は、まず自白法則(憲法38条2項・刑訴法319条1項)による任意性の規律が及ぶため、両法則の関係が問題となる(後述)。


違法収集証拠排除法則の意義

法則の位置づけ

違法収集証拠排除法則は、刑訴法に明文の規定はないが、判例法理として確立された証拠法上の原則である。

項目 内容 条文上の根拠 明文なし(憲法31条・35条の趣旨に由来) 判例法理の確立 最判昭53.9.7 効果 違法に収集された証拠の証拠能力の否定 性質 証拠禁止(証拠能力の制限)

排除法則の根拠

排除法則の理論的根拠については、以下の見解が主張されている。

見解 内容 特徴 司法の廉潔性 裁判所が違法に収集された証拠を利用すべきでない 司法の信頼性確保 違法捜査抑止 証拠排除により違法捜査を抑止する 将来の違法捜査防止 適正手続の保障 憲法31条の適正手続の要請 基本的人権の保護 司法の廉潔性+違法捜査抑止(判例) 両面を考慮 総合的判断

最判昭53.9.7は、「証拠物は押収手続が違法であつても、物それ自体の性質・形状に変異をきたすことはなく、その存在・形状等に関する価値に変りのないことなど証拠物の証拠としての価値に変りのない」ことを認めつつ、それでもなお、令状主義の精神を没却する重大な違法がある場合には証拠能力を否定すべきとした。すなわち、証拠物の証明力が損なわれないことを前提にしてもなお排除を認める点に、適正手続・違法捜査抑止という政策的根拠が現れている。

根拠論が実益を持つ場面

排除法則の根拠をどこに求めるかは、単なる理論問題ではなく、排除の範囲・例外の認否に影響する。

  • 違法捜査抑止を強調すると、捜査官の主観(意図性・反復可能性)や将来への抑止効果が重視され、排除相当性の判断(第2段階)に直結する。
  • 司法の廉潔性を強調すると、裁判所が違法の産物を利用すること自体への嫌悪が前面に出るため、捜査官の主観を問わず重大な違法があれば排除に傾きやすい。
  • 適正手続(憲法31条)を強調すると、被処分者の権利侵害の重大性が排除の中心的指標となる。

判例は特定の根拠に純化せず、司法の廉潔性と違法捜査抑止の双方を踏まえた総合判断を採る点を押さえておきたい。


違法収集証拠の判例(リーディングケース)

検索で「違法収集証拠 判例」を調べる読者がまず確認すべきは、排除法則を確立した最判昭53.9.7である。以下、リーディングケースを年代順に正確に整理する。

判例 事案の骨子 判断 最判昭53.9.7 承諾なく上衣内ポケットに手を入れ覚醒剤を取り出した 排除基準を初めて定立。結論は本件証拠の証拠能力は否定せず(基準に照らし重大な違法までは認めず) 最判平15.2.14 違法な逮捕手続・捜索に密接に関連して採取された尿の鑑定書 派生証拠の証拠能力を否定(密接関連性による排除) 最決平6.9.16 採尿に至る過程に違法はあるが令状による採尿自体は適法 証拠排除には至らないとした 最大判昭44.12.24(京都府学連事件) 公道上のデモ参加者の写真撮影 一定の要件下で令状なき撮影を許容

正確な引用のための注記:最判昭53.9.7は「排除基準を初めて示した」判例として極めて重要だが、当該事案の結論としては証拠能力を肯定(排除せず)した点に注意。基準の定立と当てはめの結論を取り違えないこと。各判例の事件名・年月日は本記事の既出の記述に従い、不確実な番号・年月日を新たに付加しないこと。


最判昭53.9.7の排除基準

事案の概要

覚せい剤所持事件で、警察官が被告人の承諾なく上衣の内ポケットに手を差し入れて覚せい剤を取り出した行為の適法性が争われた。被告人に対する所持品検査の過程で、承諾を得ないまま、かつ捜索差押許可状を得ないまま、ポケット内部を探索した点が、令状主義(憲法35条・刑訴法218条1項)との関係で問題となった。

判旨

証拠物の押収等の手続に、憲法35条及びこれを受けた刑訴法218条1項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定されるものと解すべきである。

二段階テスト

判例の排除基準は、以下の二段階で構成される。

段階 要件 判断基準 第1段階 令状主義の精神を没却するような重大な違法 違法の程度が重大か 第2段階 排除相当性 将来の違法捜査抑制の見地から排除が相当か

両要件をいずれも充足した場合にのみ、証拠が排除される。

基準の定立と本件の結論

注意すべきは、最判昭53.9.7が上記の一般的排除基準を初めて明示した点にこそ最大の意義があり、当該事案そのものについては、所持品検査の過程に違法はあるとしても、なお令状主義の精神を没却するような重大な違法とまではいえないとして、証拠能力を否定しなかったことである。

つまり、この判例は「排除法則を承認した」判例であって、「証拠を排除した」判例ではない。答案・学習でこの両者を混同しやすいため、次のように整理しておくとよい。

観点 最判昭53.9.7の内容 法理(規範)として 二段階の排除基準を初めて定立した(リーディングケース) 当該事案の結論 重大な違法とまではいえず、証拠能力を肯定(排除せず) 後世への影響 以後の証拠排除の判断枠組みとして定着

「重大な違法」の判断

判断要素

重大な違法の有無は、以下の要素を総合的に考慮して判断される。

判断要素 内容 違法行為の態様 令状主義の精神との乖離の程度 法規違反の程度 法律の規定からの逸脱の度合い 捜査官の意図 令状主義を意図的に潜脱したか 権利侵害の程度 被処分者の権利・利益の侵害の大きさ

重大な違法の判断における「令状主義の潜脱」

「重大な違法」の中核にあるのは、令状主義を意図的に回避・潜脱したかどうかである。令状を取得できたはずなのにあえて取得せず、令状によらずに同等の処分を行った場合は、令状主義の精神を真正面から没却するものとして重大な違法に傾く。逆に、緊急の事態でやむを得ず行われた処分や、適法行為との区別が微妙な領域での逸脱は、重大な違法とまでは評価されにくい。

判断にあたっては、次の点を具体的事実に即して検討する。

  • 令状を得る時間的・手続的余裕があったか(あえて令状を回避したか)
  • 処分が任意捜査の限界を超え、強制処分に踏み込んでいないか
  • 被処分者の権利・利益(プライバシー・身体の自由)への侵害の質と量

重大な違法が認められた判例

最判平15.2.14: 逮捕手続に先行して行われたホテル客室の捜索差押えについて、令状主義の精神を没却する重大な違法があるとし、これと密接に関連する尿の鑑定書の証拠能力を否定した。

重大な違法が否定された判例

最判昭53.9.7: 所持品検査の過程に違法はあるとしても、令状主義の精神を没却するような重大な違法とまではいえないとして、覚醒剤の証拠能力を肯定した(前述)。

最決平6.9.16: 採尿に至る手続(留め置き等)に違法があったとしても、令状に基づく採尿自体は適法であるとして、証拠排除には至らないとした。


「排除相当性」の判断

判断の視点

排除相当性は、将来における違法な捜査の抑制の見地から判断される。具体的には以下の要素が考慮される。

考慮要素 排除肯定方向 排除否定方向 違法の意図性 意図的・計画的な違法 過失的・偶発的な違法 違法の反復可能性 構造的・反復的な違法 一回的・例外的な違法 証拠の重要性 他に証拠がある 有罪立証に不可欠 犯罪の重大性 軽微な犯罪 重大犯罪

注意点

排除相当性の判断において、犯罪の重大性を過度に考慮すると「重大犯罪ほど違法捜査が許容される」という不当な結論に至るため、この要素は慎重に扱うべきとする見解が有力である。重大犯罪であればあるほど真実発見の要請が強く、証拠を排除しにくくなるが、それは同時に「重大な犯罪の捜査では令状主義を破ってもよい」というメッセージを捜査機関に与えかねない。違法捜査抑止の見地からは、犯罪の重大性は決定的要素とすべきでない。

「重大な違法」と「排除相当性」の関係

二段階テストは形式的には独立の要件だが、実際の判断では相互に連関する。

場面 第1段階(重大な違法) 第2段階(排除相当性) 結論 典型的排除事例 令状主義の意図的潜脱で重大 抑止の必要が高く相当 排除 違法はあるが軽微 重大な違法に至らない (判断するまでもない) 不排除 重大だが偶発的 重大な違法あり 過失的・一回的で抑止効果薄い 排除に消極の余地

実務的には、第1段階で重大な違法が肯定されれば、第2段階の排除相当性も肯定される例が多い。ただし理論上は別個の判断であり、答案でも両段階を分けて論じるのが原則である。


派生証拠の問題(毒樹の果実論)

毒樹の果実論とは

毒樹の果実論(fruit of the poisonous tree doctrine)とは、違法に収集された証拠(毒樹)から派生して得られた二次的証拠(果実)についても証拠能力を否定する法理である。

例えば、違法な逮捕→違法な取調べ→自白→自白に基づく捜索差押え→証拠物、という流れで得られた証拠物の証拠能力が問題となる。

日本の判例の立場

日本の判例は毒樹の果実論を正面から採用したものは少ないが、先行手続の違法が後続の証拠収集に影響する場合には、派生証拠の証拠能力を否定している。

最判平15.2.14: ホテル客室の違法な捜索差押えで得た覚せい剤から、その後に適法な令状により採取された被告人の尿中の覚せい剤の証拠能力を否定。先行する違法な捜索差押えと密接な関連を有する証拠として排除した。

この判例が「密接な関連」という枠組みを用いた点は重要である。日本の判例は、米国流の「毒樹の果実」という用語や因果関係論を正面から採用するのではなく、先行手続の違法と後続証拠との関連性の密接さを指標として、後続証拠まで違法の影響が及ぶかを判断している。関連が密接であれば後続証拠も排除され、関連が希薄化・断絶していれば後続証拠は排除されない、という構造である。

密接関連性の判断要素

先行する違法手続と後続の証拠収集の関連が「密接」といえるかは、おおむね次の点から検討される。

  • 先行違法と後続証拠収集との時間的・場所的近接性
  • 両者の間に新たな適法な捜査行為が介在したか
  • 後続手続が先行違法を直接利用して行われたか(違法行為で得た情報・物を基礎にしているか)
  • 被処分者の任意の意思による行為(自由な承諾・自白)が介在したか

毒樹の果実論の限界

アメリカ法では、毒樹の果実論の例外として以下が認められている。日本でもこれらの考え方は参考となる。

例外法理 内容 独立の出所(independent source) 違法行為とは独立した適法な手段で同一の証拠が入手可能であった場合 不可避の発見(inevitable discovery) 違法行為がなくてもいずれ適法に発見されたであろう場合 希薄化(attenuated connection) 違法行為と証拠の発見の間に十分な因果の断絶がある場合

これらは、いずれも「先行違法と後続証拠の因果が切れている」ことを理由に排除を免れさせる発想である。日本の「密接関連性」の判断も、実質的にはこれらの例外法理と同じ問題意識(どこまで違法の影響を遡及させるか)に立っている。

具体例で見る派生証拠の処理

次のような事例を想定する。

違法な無令状捜索でメモが発見された → そのメモの記載を手がかりに被疑者を取り調べ → 被疑者が任意に自白した → 自白に基づき適法な捜索差押許可状を得て凶器を押収した。

この場合、(a)違法捜索で得たメモ自体は重大な違法があれば排除されうる。(b)凶器については、メモという違法収集証拠を直接の手がかりとしている以上、密接関連性が問われる。もっとも、被疑者の任意の自白が介在しているとみれば、その点で違法との関連が希薄化したと評価できる余地があり、凶器の証拠能力を肯定する方向の事情となる。逆に、自白が違法捜索の圧力の下でなされた実質を持つ場合には、関連の希薄化は認められず、凶器も排除に傾く。

このように、派生証拠の問題は「先行違法の重大性」と「後続証拠までの関連の密接さ/希薄化」という二つの軸を、事案の具体的事実に即して論じることになる。


具体例で学ぶあてはめ

排除法則の理解は、抽象的な基準の暗記ではなく、具体的事案へのあてはめを通じて深まる。代表的な類型ごとに、検討の筋道を示す。

類型1:無令状での所持品検査

警察官が職務質問中、被疑者の承諾を得ないまま、上着のポケットに手を差し入れて中身を取り出した。

  • 手続の違法性:所持品検査は職務質問に付随して許容される場合があるが、承諾なくポケット内部に手を入れる行為は、捜索に類する強制処分であり、令状なしには原則として許されない(最判昭53.9.7の事案類型)。
  • 重大な違法:令状を得る余裕があったか、緊急性があったか、所持品検査として許される限度をどの程度逸脱したかを評価する。承諾を得る努力もなく内部を探索した態様であれば、令状主義の潜脱として重大性が高まる。
  • 排除相当性:同種の違法が反復されるおそれ、捜査官の意図性を踏まえて判断する。

最判昭53.9.7自身は、この類型で違法を認めつつも重大な違法とまではいえないとして排除を否定した。したがって、あてはめの結論は事実の細部(承諾を得る努力の有無、検査の態様、緊急性の程度)によって分かれうる。

類型2:違法逮捕に続く証拠採取

逮捕の要件を欠く違法な逮捕の後、その身柄拘束を利用して尿を採取し、覚醒剤反応が出た。

  • 先行する逮捕の違法が、後続の尿の採取にどこまで及ぶかが核心となる。
  • 逮捕と採尿が時間的・場所的に近接し、違法な身柄拘束を直接利用して採尿が行われていれば、密接関連性が認められ、尿の鑑定書も排除に傾く(最判平15.2.14の発想)。
  • 逆に、間に適法な令状(採尿令状)が介在し、その執行自体に違法がなければ、排除を免れる余地がある(最決平6.9.16の発想)。

類型3:第三者宅の違法捜索で得た物

Aを被疑者とする捜索差押許可状に基づき、無関係なB宅を捜索して証拠を発見した。

  • 令状の効力が及ばない場所での捜索は令状主義違反となる。
  • 名宛人・対象場所を逸脱した捜索は令状主義の根幹に触れるため、重大な違法と評価されやすい。
  • 被処分者であるBの権利侵害の重大性も、排除を後押しする事情となる。

あてはめの共通フレーム

検討項目 着眼点 違法の特定 どの条文・原則に反するか(令状主義、任意捜査の限界、比例原則) 違法の重大性 潜脱の意図、緊急性の有無、権利侵害の質と量 排除相当性 抑止の必要、違法の反復可能性、偶発性 派生証拠 先行違法との密接関連性/希薄化

比較整理:違法収集証拠排除法則と関連法理

排除法則は、証拠能力を制限する複数の法理の一つである。混同しやすい隣接概念と区別しておく。

法理 制限される証拠 根拠 中心的判断 違法収集証拠排除法則 主に証拠物 判例法理(令状主義の精神) 重大な違法+排除相当性 自白法則 自白 憲法38条2項・刑訴法319条1項 任意性 伝聞法則 公判外供述 刑訴法320条以下 反対尋問の機会の有無 補強法則 自白のみによる有罪 憲法38条3項・刑訴法319条2項 補強証拠の要否

違法収集証拠排除法則は収集手続の違法に着目する点で、供述の任意性に着目する自白法則、供述証拠の信用性担保に着目する伝聞法則とは、問題関心を異にする。同じ証拠について複数の法理が重畳的に問題となる場合もあり(違法な取調べによる自白は排除法則・自白法則の双方が問題となりうる)、各法理の守備範囲を意識して論じる必要がある。


私人による違法収集証拠

問題の所在

排除法則は国家機関による違法捜査を前提としているが、私人が違法に収集した証拠(例:盗聴テープ、無断撮影の写真)の証拠能力についても問題となる。

判例・学説の立場

見解 内容 排除否定説 私人は令状主義の名宛人ではなく、排除法則は適用されない 限定的排除説(有力説) 著しく反社会的な方法による収集の場合は排除

私人の行為に捜査機関の関与・教唆がある場合は、国家行為と同視して排除法則を適用する余地がある。

東京高判昭52.7.15: 私人による盗聴テープについて、著しく反社会的な手段によるものでない限り証拠能力は否定されないとした。


違法な写真・ビデオ撮影と証拠能力

問題の構造

写真・ビデオ撮影の証拠能力は、①撮影行為の適法性と②排除法則の適用の二段階で検討される。

撮影行為の適法性

最大判昭44.12.24(京都府学連事件): 現に犯罪が行われ又は行われた後間がないと認められる場合で、証拠保全の必要性・緊急性があり、相当な方法で行われる限り許容される。

防犯カメラ映像

公道上や店舗内の防犯カメラによる撮影は、通常、被撮影者のプライバシーへの合理的期待が低く、適法とされることが多い。

写真・ビデオ撮影での検討手順

段階 検討内容 第1段階 撮影行為が許容されるか(京都府学連事件の枠組み:犯罪の現行性、必要性・緊急性、相当な方法) 第2段階 撮影が違法な場合、最判昭53.9.7の排除基準により証拠能力を判断

撮影行為が適法であれば、得られた写真・映像は証拠能力を有する。撮影行為が違法な場合に初めて排除法則の出番となり、令状主義の精神を没却する重大な違法と排除相当性が検討される。撮影は捜索・押収とは異なる態様の権利侵害(みだりに容ぼう等を撮影されない自由、憲法13条)であるため、令状主義「そのもの」の没却というより、適正手続・プライバシー保護の観点から重大性を評価することになる。


違法収集証拠排除法則と自白法則の関係

二つの法則の守備範囲

違法な手続で自白が得られた場合、適用されうる法則が二つある。

法則 根拠条文 規律対象 排除の理由 自白法則 憲法38条2項・刑訴法319条1項 供述証拠(自白) 任意性に疑いのある自白の排除 違法収集証拠排除法則 明文なし(判例法理) 主に証拠物 収集手続の違法

違法排除説と任意性説

違法な取調べによる自白を排除する根拠について、学説は大きく分かれる。

  • 任意性説:自白法則は、自白の任意性(虚偽排除・人権擁護)に着目するもので、取調べの違法は任意性判断の一要素にすぎないとする。
  • 違法排除説:自白法則を、違法な手続で得た自白を排除する違法収集証拠排除法則の自白版と捉える。この立場では、取調べ手続の違法それ自体が排除の根拠となり、両法則の射程が大きく重なる。

違法排除説に立つと、自白についても証拠物と同様に「収集手続の違法」を理由に排除できることになり、自白法則と排除法則は連続的に理解される。


試験対策での位置づけ

答案の基本的な流れ

  1. 証拠収集手続の違法性を特定(令状主義違反、任意捜査の限界逸脱等)
  2. 最判昭53.9.7の排除基準を提示
  3. 第1段階:重大な違法の検討(違法の態様・程度・意図・権利侵害を具体的に論じる)
  4. 第2段階:排除相当性の検討(将来の違法捜査抑制の見地から相当か)
  5. 派生証拠の問題(先行手続の違法が後続の証拠に及ぶか)

出題での注意点

  • 排除基準の定立に際し、最判昭53.9.7の判旨を正確に引用できるようにしておく
  • 重大な違法の判断では、具体的事実の当てはめが重要であり、抽象論に終始しない
  • 派生証拠の問題では、先行手続の違法と後続の証拠収集の因果関係の密接性を論じる

答案での規範定立の型

排除基準を定立する部分は、次のように最判昭53.9.7の判旨に沿って書くと安定する。

違法収集証拠の証拠能力について、刑訴法に明文の規定はないが、証拠物の押収等の手続に、令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合には、その証拠能力は否定されると解する。

その上で、

  1. 重大な違法の当てはめ:違法行為の態様、令状主義潜脱の意図の有無、被処分者の権利侵害の程度を具体的事実から評価する。
  2. 排除相当性の当てはめ:違法の意図性・反復可能性、抑止の必要性を論じる(犯罪の重大性に引きずられない)。
  3. 必要に応じて派生証拠:先行違法と後続証拠の密接関連性/希薄化を検討する。

よくある失敗

  • 最判昭53.9.7を「証拠を排除した判例」と誤記する(実際は基準を定立しつつ当該証拠は排除せず)。
  • 規範だけ書いて当てはめが抽象論に終わる。重大な違法は事実の評価が勝負どころである。
  • 第1段階と第2段階を融合させてしまう。形式的には別要件として書き分ける。

よくある質問(FAQ)

Q1. 違法収集証拠排除法則に明文の根拠はないのか?

明文の規定はない。判例は憲法35条および刑訴法218条1項等の令状主義の精神から排除法則を導いている。学説上は、憲法31条の適正手続の保障を根拠とする見解も有力である。

Q2. 「重大な違法」と「排除相当性」は独立した要件か?

判例の枠組みでは独立した要件であり、両方を満たす必要がある。実務上は重大な違法が認められれば排除相当性も認められることが多いが、理論上は別個の判断である。

Q3. 軽微な手続違反でも証拠排除されるか?

原則として排除されない。排除法則は「令状主義の精神を没却するような重大な違法」を要求しており、軽微な手続違反は排除基準に達しない。

Q4. 毒樹の果実論は日本の判例で認められているか?

正面から毒樹の果実論を宣言した判例はないが、最判平15.2.14は先行する違法手続と「密接な関連」を有する派生証拠の証拠能力を否定しており、実質的に毒樹の果実論的な判断を行っている。

Q5. 違法収集証拠排除と自白法則の関係は?

自白法則(319条1項)は任意性のない自白の証拠能力を否定する規定であり、違法収集証拠排除法則とは異なる法理である。もっとも、違法な取調べによる自白は、自白法則と排除法則の両面から証拠能力が問題となりうる。違法排除説に立つと、両者の射程が重なる部分が大きくなる。

Q6. 「違法収集証拠 判例」で最初に押さえるべき判例は?

最判昭53.9.7である。排除法則の二段階基準(令状主義の精神を没却する重大な違法+排除相当性)を初めて明示したリーディングケースであり、答案ではこの判旨をそのまま規範として使う。ただし当該事案の結論は証拠能力を肯定(排除せず)した点に注意する。派生証拠については最判平15.2.14が重要である。

Q7. 違法収集証拠でも被告人が同意すれば証拠にできるか?

証拠能力の有無は、収集手続の違法という客観的事情によって判断されるため、当事者の同意(刑訴法326条)によって当然に治癒されるわけではない。重大な違法があり排除相当性が認められる場合には、同意があっても排除されると解する余地がある。

Q8. 排除されると事件はどうなるのか?

当該証拠が事実認定から除外される。その証拠が有罪立証に不可欠であった場合には、他の証拠だけでは犯罪事実を証明できず、無罪となることがある。排除法則が「将来の違法捜査の抑制」を根拠とするのは、こうした不利益を捜査機関に引き受けさせることで、適法な捜査を促す趣旨である。


まとめ

  • 違法収集証拠排除法則は明文なき判例法理として確立された
  • 排除基準は二段階テスト:①令状主義の精神を没却する重大な違法+②排除相当性
  • 重大な違法の判断では違法の態様・程度・意図・権利侵害を総合考慮
  • 排除相当性は将来の違法捜査抑制の見地から判断
  • 毒樹の果実論は明示的に採用されていないが、先行手続と密接な関連を有する派生証拠は排除されうる
  • 私人による違法収集証拠は原則として排除されないが、著しく反社会的な方法による場合は例外
  • 答案では最判昭53.9.7の基準を正確に定立し、具体的事実を丁寧に当てはめる

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