組織再編の体系|合併・会社分割・株式交換等の手続と差止め
組織再編を体系的に解説。合併・会社分割・株式交換・株式移転の手続、反対株主の株式買取請求権、債権者異議手続、組織再編の無効の訴え、キャッシュアウトまで整理します。
この記事のポイント
組織再編は、合併・会社分割・株式交換・株式移転・株式交付を含む、会社の組織を変更する法的手続の総称である。 組織再編は会社の利害関係者(株主・債権者等)に重大な影響を及ぼすため、株主総会の承認、反対株主の株式買取請求権、債権者異議手続等の手続的保障が設けられている。また、組織再編の効力を争う方法として無効の訴え(828条1項7号等)が法定されている。本記事では、組織再編の全体像を体系的に整理し、手続の流れ、利害関係者の保護、効力を争う方法まで解説する。
組織再編の全体像
組織再編の類型
類型 内容 条文 吸収合併 一方の会社が他方の会社の権利義務を包括的に承継 748条以下 新設合併 新設会社が消滅会社の権利義務を包括的に承継 753条以下 吸収分割 事業に関する権利義務の全部又は一部を既存の会社に承継 757条以下 新設分割 事業に関する権利義務の全部又は一部を新設会社に承継 762条以下 株式交換 完全子会社化(既存の完全親会社) 767条以下 株式移転 完全子会社化(新設の完全親会社) 772条以下 株式交付 他の会社を子会社化するために自社株式を交付 774条の2以下組織再編の特徴
特徴 内容 包括承継 合併・会社分割では権利義務が包括的に承継される 対価の柔軟化 合併対価として金銭その他の財産を交付可能(対価柔軟化) 簡易手続・略式手続 一定の場合に株主総会の承認を省略可能吸収合併の手続
手続の流れ
段階 手続 条文 1 合併契約の締結 748条・749条 2 事前開示書面の備置き 782条・794条 3 株主総会の承認 783条1項・795条1項 4 反対株主の株式買取請求 785条・797条 5 債権者異議手続 789条・799条 6 合併の効力発生 750条(効力発生日) 7 事後開示書面の備置き 801条 8 登記 921条合併契約の内容(749条)
合併契約には、以下の事項を定めなければならない。
事項 内容 存続会社の商号等 存続会社を特定する情報 合併対価 消滅会社の株主に交付する金銭等の内容 対価の割当て 消滅会社の株主に対する割当てに関する事項 効力発生日 合併の効力が発生する日合併対価
合併対価として、以下のものを交付することができる(対価柔軟化)。
対価の種類 内容 存続会社の株式 最も一般的 存続会社の社債 社債の交付 金銭 金銭のみの交付も可能(交付金合併) その他の財産 親会社株式等株主の保護
株主総会の承認
原則として、当事会社の株主総会の特別決議による承認が必要である(783条1項・795条1項・309条2項12号)。
簡易手続
対象 要件 効果 条文 存続会社(吸収合併) 交付する対価が存続会社の純資産の20%以下 株主総会の承認不要 796条2項 分割会社(吸収分割) 承継させる資産が分割会社の総資産の20%以下 株主総会の承認不要 784条2項略式手続
対象 要件 効果 条文 特別支配会社による組織再編 特別支配関係(90%以上の議決権保有)にある場合 被支配会社の株主総会の承認不要 784条1項・796条1項反対株主の株式買取請求権
組織再編に反対する株主は、会社に対して自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求できる(785条・797条等)。
項目 内容 権利者 反対株主(①総会に先立って反対を通知し、かつ②総会で反対した者、又は③議決権を行使できない株主) 価格 「公正な価格」 期間 効力発生日の20日前から効力発生日の前日まで「公正な価格」の判断
最決平23.4.19(テクモ事件): 株式買取請求における「公正な価格」について、組織再編によりシナジーが生じる場合には、シナジーの適切な分配を含んだ価格とするとした。
最決平24.2.29(インテリジェンス事件): 組織再編比率が公正でないとの立証がない限り、ナカリセバ価格(組織再編がなかったとした場合の価格)によるとした。
債権者の保護
債権者異議手続
組織再編が債権者に不利益を及ぼすおそれがある場合、債権者異議手続が必要となる(789条・799条等)。
手続 内容 官報公告 合併等をする旨の公告 個別催告 知れている債権者への個別催告 異議申述期間 1ヶ月以上 異議を述べた債権者への対応 弁済、担保提供、又は信託個別催告の省略
官報公告に加えて、定款所定の公告方法(日刊新聞紙又は電子公告)による公告を行った場合は、個別催告を省略することができる(789条3項・799条3項)。ただし、不法行為債権者への個別催告は省略できない。
組織再編の効力を争う方法
無効の訴え(828条1項7号等)
組織再編の効力は、法定の無効の訴えによってのみ争うことができる(形成訴訟)。
項目 内容 原告適格 株主、取締役、監査役、清算人、破産管財人、組織再編について承認しなかった債権者 被告 存続会社等 出訴期間 効力発生日から6ヶ月 無効判決の効力 対世効、将来効無効原因
法律上、無効原因は明示されていない。判例・学説上、以下の事由が無効原因とされる。
無効原因 内容 株主総会決議の瑕疵 株主総会の承認決議を欠く、又は決議に取消事由がある 債権者異議手続の瑕疵 債権者異議手続を欠く 合併契約の不備 法定記載事項の欠缺 合併比率の不公正 著しく不公正な合併比率(争いあり)合併比率の不公正と救済
合併比率が不公正であることが無効原因となるかは争いがある。
見解 内容 無効原因肯定説 著しく不公正な合併比率は無効原因となる 無効原因否定説(有力説) 合併比率の不公正は株式買取請求権による救済に委ねられ、無効原因とはならない差止め
組織再編が法令・定款に違反し、株主が不利益を受けるおそれがある場合、株主は事前に差止めを請求することができる(784条の2・796条の2等)。
会社分割の特殊問題
詐害的会社分割
会社分割において、分割会社に残存する債権者を害する目的で行われる会社分割(詐害的会社分割)が問題となる。
759条4項(残存債権者の保護): 吸収分割において、分割会社が承継会社に承継されない債務の債権者を害することを知って吸収分割をした場合、当該債権者は承継会社に対して、承継した財産の価額を限度として、債務の履行を請求することができる。
労働者の保護
会社分割に伴う労働者の保護については、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」(労働契約承継法)が適用される。
労働者の類型 承継の取扱い 承継事業に主として従事する労働者 分割契約に記載があれば当然に承継される 上記以外の労働者 分割契約に記載があり、異議を述べなかった場合に承継されるキャッシュアウト
キャッシュアウトの意義
キャッシュアウトとは、少数株主を会社から排除する手法の総称である。主に以下の方法がある。
方法 内容 条文 特別支配株主の株式等売渡請求 90%以上の議決権を有する特別支配株主が、他の株主に対して株式の売渡しを請求 179条〜179条の10 全部取得条項付種類株式 株主総会の特別決議により全部取得条項付種類株式を取得 171条〜173条の2 株式の併合 株式の併合により少数株主を端株株主とする 180条〜182条の6特別支配株主の株式等売渡請求(179条)
項目 内容 要件 90%以上の議決権を有する特別支配株主 手続 対象会社の取締役会の承認 価格 特別支配株主が定めた対価(公正な価格でなければ差止め・価格決定申立て) 救済手段 差止請求(179条の7)、売買価格の決定申立て(179条の8)、無効の訴え(846条の2)差止請求と価格決定申立て
救済手段 要件 条文 差止請求 法令違反又は対価が著しく不当 179条の7 価格決定申立て 売渡株主が価格に不満 179条の8試験対策での位置づけ
出題パターン
- 組織再編の手続的瑕疵: 株主総会決議の欠缺、債権者異議手続の不備
- 反対株主の株式買取請求: 「公正な価格」の判断基準
- 合併無効の訴え: 無効原因の範囲
- 詐害的会社分割: 759条4項の要件と効果
- キャッシュアウト: 差止め・価格決定の要件
答案の基本的な流れ
- 当該行為が組織再編のいずれの類型に該当するかを特定
- 手続的要件の充足を検討(株主総会決議、債権者異議手続等)
- 利害関係者の保護手段を検討(株式買取請求権、差止請求等)
- 効力を争う方法を検討(無効の訴えの原告適格、無効原因、出訴期間)
よくある質問(FAQ)
Q1. 簡易手続と略式手続の違いは?
簡易手続は対価の額が小さい場合(純資産の20%以下)に認められるもので、存続会社・分割会社側の負担軽減を図る。略式手続は特別支配関係(90%以上の議決権保有)にある場合に認められるもので、被支配会社の株主総会の承認を不要とする。
Q2. 合併比率の不公正は無効原因となるか?
争いがある。有力説は、株式買取請求権という救済手段が用意されていることから、合併比率の不公正は原則として無効原因とならないとする。もっとも、著しく不公正な場合には無効原因となりうるとする見解もある。
Q3. 債権者異議手続を欠いた合併はどうなるか?
債権者異議手続を欠くことは合併の無効原因となりうる。もっとも、個別催告を受けなかった債権者が異議を述べる機会を失ったとしても、合併後に存続会社に対して債務の履行を請求できる場合には、無効原因とならないとする見解もある。
Q4. 詐害的会社分割の場合、分割自体が無効となるか?
759条4項は分割自体を無効とするのではなく、残存債権者が承継会社に対して承継財産の価額を限度として直接請求できるという救済を定めている。これにより、分割の効力を維持しつつ債権者保護を図る仕組みとなっている。
Q5. 株式等売渡請求における「公正な価格」はどう決まるか?
売渡株主が対価に不満がある場合、裁判所に売買価格の決定を申し立てることができる(179条の8)。裁判所は公正な価格を決定するが、その際にはナカリセバ価格やDCF法等の評価方法が用いられる。
まとめ
- 組織再編には合併・会社分割・株式交換・株式移転・株式交付がある
- 手続的保障として株主総会の承認、反対株主の株式買取請求権、債権者異議手続が設けられている
- 簡易手続・略式手続により株主総会の承認を省略できる場合がある
- 組織再編の効力は無効の訴え(828条)によってのみ争うことができる
- 詐害的会社分割では残存債権者の直接請求権(759条4項)が認められる
- キャッシュアウトの主要手法は特別支配株主の株式等売渡請求(179条)
- 差止請求・価格決定申立てにより少数株主の保護が図られている