/ 刑法

原因において自由な行為|構成要件モデルと例外モデルの対立

原因において自由な行為の法理を体系的に解説。構成要件モデルと例外モデルの対立、実行行為と責任能力の同時存在原則の修正を判例とともに整理します。

この記事のポイント

原因において自由な行為(actio libera in causa)とは、行為者が自ら責任無能力または限定責任能力の状態を招き、その状態で犯罪を行った場合に、完全な責任を問う法理である。 同時存在の原則(実行行為時に責任能力が必要)の例外として位置づけられる。


問題の所在

同時存在の原則

刑法上、犯罪の成立には実行行為の時点で責任能力が存在することが必要である(同時存在の原則)。

事例

飲酒すると暴力を振るう癖のあるAが、大量に飲酒して心神喪失の状態に陥り、その状態でVを殴打して傷害を負わせた場合。

  • 実行行為(殴打)の時点ではAは心神喪失 → 39条1項により無罪?
  • しかし、飲酒時点ではAは完全な責任能力を有していた
  • 責任を問うべきではないか → 原因において自由な行為の法理

学説の対立

構成要件モデル(間接正犯類似説)

項目 内容 実行行為 原因行為(飲酒等)を実行行為と捉える 理論構成 自己を道具として利用する間接正犯に類似 同時存在原則 維持される(原因行為時に責任能力あり) 問題点 原因行為に実行行為性を認めることの困難

批判:飲酒行為を傷害罪の実行行為とすることは、実行行為概念の希薄化につながる。

例外モデル

項目 内容 実行行為 結果行為(殴打等)が実行行為 理論構成 同時存在原則の例外を認める 根拠 原因行為に意思決定の自由があった 問題点 同時存在原則の例外を認める理論的根拠

批判:同時存在原則は責任主義の核心であり、その例外を安易に認めるべきでない。

相当原因行為説(折衷説)

原因行為と結果行為の間に相当因果関係がある場合に限り、原因行為時の責任能力に基づいて完全な責任を問う。


判例の立場

最決昭26.1.17

飲酒酩酊して暴行に及んだ事案で、原因において自由な行為の法理を適用し、完全な責任を肯定した。

最判昭43.2.27

大量飲酒後に殺人を犯した事案。裁判所は以下のように判示した。

飲酒の際、病的酩酊に陥る危険性を認識しながら、敢えて飲酒して心神喪失の状態に陥り、他人に暴行を加えた場合、原因において自由な行為として処罰しうる。

判例の特徴

  • 理論的根拠を明示せず、結論として完全な責任を肯定
  • 構成要件モデルか例外モデルかの立場を明言していない
  • 病的酩酊の危険性の認識を要件としている

原因において自由な行為の要件

故意犯の場合

  1. 原因行為時の故意:結果行為に出ることの認識・認容
  2. 原因行為時の責任能力:完全な責任能力の存在
  3. 因果関係:原因行為と結果行為の間の因果関係
  4. 結果の発生:構成要件該当結果の発生

過失犯の場合

  1. 原因行為時の予見可能性:心神喪失状態で犯罪行為に出ることの予見可能性
  2. 原因行為時の責任能力
  3. 結果回避義務違反:飲酒を控える等の義務の違反
  4. 因果関係と結果の発生

関連問題

限定責任能力の場合

原因において自由な行為は、心神喪失のみならず心神耗弱の場合にも適用される。心神耗弱に陥ることを予見して原因行為を行った場合、39条2項の刑の減軽を受けずに処罰される。

実行の着手時期

モデル 着手時期 理由 構成要件モデル 原因行為時 原因行為が実行行為 例外モデル 結果行為時 結果行為が実行行為

実行の着手時期の違いは、未遂犯の成否に影響する。


まとめ

  • 原因において自由な行為は同時存在原則の修正・例外として機能する
  • 構成要件モデルは原因行為を実行行為とし、例外モデルは結果行為を実行行為とする
  • 判例は理論構成を明示せず結論として完全責任を肯定
  • 故意犯と過失犯で要件が異なる
  • 実行の着手時期がモデルによって異なる点に注意

FAQ

Q1. 答案ではどのモデルを採用すべきですか?

構成要件モデルが答案で書きやすいとされますが、実行行為概念の希薄化の批判に応答する必要があります。例外モデルを採る場合は同時存在原則の例外の根拠を示す必要があります。

Q2. 飲酒運転の事案にも適用されますか?

過失犯としての原因において自由な行為は理論的に可能ですが、実務では通常、飲酒時の過失として処理されることが多いです。

Q3. 覚醒剤の使用により責任能力を失った場合は?

覚醒剤使用による責任能力低下は、原因において自由な行為の法理により、39条の適用が排除される可能性があります。


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