横領罪と背任罪の区別|構成要件の比較と判例法理
横領罪と背任罪の区別を体系的に解説。両罪の構成要件の比較、委託信任関係、不法領得の意思の発現行為、判例による区別基準を整理します。
この記事のポイント
横領罪(刑法252条)と背任罪(247条)は、いずれも委託信任関係に基づく犯罪であり、その適用範囲の区別は刑法各論の重要論点である。 判例は、自己が占有する他人の物を不法に領得する行為は横領罪、その他の任務違背行為は背任罪として処理し、両罪は法条競合(特別関係)の関係にあるとする。本記事では、両罪の構成要件を比較したうえで、具体的な区別基準を判例とともに整理する。
横領罪の構成要件
単純横領罪(252条)
- 主体: 他人の物の占有者(身分犯)
- 客体: 自己の占有する他人の物
- 行為: 横領(不法領得の意思の発現行為)
業務上横領罪(253条)
- 主体: 業務上他人の物を占有する者
- 客体: 業務上占有する他人の物
- 行為: 横領
占有離脱物横領罪(254条)
- 主体: 遺失物等の占有者
- 客体: 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物
- 行為: 横領
横領行為の意義
横領とは、不法領得の意思を実現するすべての行為をいう(判例)。
具体的には、以下の行為が横領に該当する。
- 売却・贈与・質入れ等の処分行為
- 費消行為
- 着服・隠匿行為
- 抵当権の設定行為
「委託に基づく占有」
横領罪の成立には、行為者が委託に基づいて他人の物を占有していることが必要である。
- 委託信任関係: 契約(寄託・委任・賃貸借等)のほか、事務管理や慣習に基づく場合も含む
- 占有の態様: 事実上の占有のほか、法律上の支配(預金の管理権限等)も含む
背任罪の構成要件
247条の構造
- 主体: 他人のためにその事務を処理する者(身分犯)
- 行為: 自己もしくは第三者の利益を図り、または本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をすること
- 結果: 本人に財産上の損害を加えたこと
「他人のためにその事務を処理する者」
事務処理者は、法令・契約・慣習等により他人のために事務を処理すべき地位にある者をいう。単なる労務者は含まれない。
任務違背行為
任務に背く行為とは、委託の本旨に反する行為をいう。信任関係に基づく誠実義務に反する行為が任務違背に該当する。
図利加害目的
背任罪の成立には、図利加害目的(自己もしくは第三者の利益を図る目的、または本人に損害を加える目的)が必要である。これは故意とは別個の主観的構成要件要素である。
横領罪と背任罪の区別
判例の基準
判例は、自己の占有する他人の物を不法に領得する行為は横領罪、領得行為に該当しない任務違背行為は背任罪として区別する。
両罪の関係
判例は、横領罪と背任罪は法条競合(特別関係)にあるとし、横領罪が成立する場合には背任罪は成立しないとする。
区別が問題となる典型事例
二重抵当
不動産の所有者Aから抵当権設定の委託を受けた者Bが、Aの不動産に二重に抵当権を設定した場合。
- 横領罪説: 抵当権の設定は不動産の処分行為であり、不法領得の意思の発現として横領罪
- 背任罪説: 抵当権の設定は所有権の移転を伴わず、任務違背にとどまるため背任罪
判例は、抵当権の二重設定は背任罪が成立するとした(最判昭31.12.7)。
二重売買
不動産の売買契約後、売主が第三者に当該不動産を二重に売却した場合。
- 判例は横領罪の成立を認めている(大判大3.10.16)
預金の流用
業務上管理する預金を私的に流用した場合。
- 業務上横領罪が成立する(預金に対する法律上の支配は占有に含まれる)
具体的事例の整理
事例 罪名 理由 預かった物を売却 横領罪 他人の物の処分 預かった金銭を費消 横領罪 他人の金銭の領得 不動産の二重売買 横領罪 所有権移転の処分 不動産の二重抵当 背任罪 所有権移転を伴わない 不正融資 背任罪 任務違背による損害 会社の機密漏洩 背任罪 財産的損害があれば試験での出題ポイント
論文式試験での検討手順
- 委託信任関係の有無: 横領罪・背任罪の共通基盤
- 占有の帰属: 行為者が物を占有しているかの認定
- 不法領得の意思の発現: 処分行為・費消行為の有無
- 横領罪の成否: 自己の占有する他人の物の領得行為に該当するか
- 背任罪の検討: 横領罪が成立しない場合に任務違背行為がないかを検討
- 図利加害目的の認定: 背任罪の場合に図利加害目的の検討
まとめ
- 横領罪は自己の占有する他人の物を不法に領得する犯罪である
- 背任罪は他人のために事務を処理する者が任務に違背して損害を加える犯罪である
- 両罪は法条競合の関係にあり、横領罪が優先適用される
- 二重売買は横領罪、二重抵当は背任罪とするのが判例の立場である
- 背任罪には図利加害目的という固有の主観的要件がある
FAQ
Q1. 横領と背任の区別で最も重要なポイントは?
自己の占有する他人の物を不法に領得する行為であれば横領罪、それ以外の任務違背行為であれば背任罪です。物の所有権を移転させる処分行為かどうかが一つの基準となります。
Q2. なぜ二重売買は横領罪で二重抵当は背任罪なのですか?
二重売買は不動産の所有権を第三者に移転させる処分行為であり、不法領得の意思の発現と評価できるため横領罪です。二重抵当は所有権の移転を伴わない担保権の設定にとどまるため、任務違背として背任罪とされます。
Q3. 預金を流用した場合は横領罪ですか背任罪ですか?
判例は、預金に対する法律上の支配(管理権限)を占有と評価し、業務上横領罪の成立を認めています。預金の流用は他人の金銭の領得行為に該当するからです。