資本金の額の減少(決議・債権者異議・無効の訴え)とは
しほんきんのがくのげんしょう
資本金の額の減少とは、株式会社が株主総会の決議で、減少する資本金の額・準備金とする額・効力発生日を定めて資本金の額を減らすことです(会社法447条1項)。資本金は債権者のために会社に留め置く財産の基準なので、減少には必ず債権者異議手続が要り(449条)、その無効は効力発生日から6か月以内に訴えをもってのみ主張できます(828条1項5号)。
資本金は、株主が出した財産を会社に留め置くための基準額で、この額までは配当で外に出せません。事業がうまくいかず欠損が出た会社がこの数字を下げて配当できる状態に戻したり、数字を準備金に振り替えたりするのが資本金の額の減少です。会社から財産が直接出ていくわけではありませんが、配当できる枠が広がるので、会社財産だけを当てにしている債権者には影響があります。そこで株主総会の決議だけでなく、債権者に知らせて異議を述べる機会を与える手続が必ず求められ、手続に不備があった場合の争い方も訴えに限られています。
原則は株主総会の特別決議で、減少額の全部を準備金とする場合や欠損の範囲内の減少でも株主総会の決議は要ります
資本金の額を減少するには、株主総会の決議によって、減少する資本金の額、減少額の全部又は一部を準備金とするときはその旨と準備金とする額、効力発生日を定めなければなりません(447条1項)。減少する額は効力発生日の資本金の額を超えることができません(447条2項)。この決議は特別決議です(309条2項9号)。例外として、定時株主総会で定め、かつ減少する額がその定時株主総会の日における欠損の額を超えない場合は、特別決議の対象から外れて普通決議で足ります(309条2項9号イ・ロ)。欠損を埋めるだけで分配可能額を新たに生み出さない減少だからです。減少額を配当に回さず全部を準備金に振り替える場合も、447条1項2号が正面から予定する資本金の額の減少であり、株主総会の決議が要ることに変わりはありません。「取締役会設置会社が資本金の額を減少する場合において,減少する資本金の額の全部を準備金とするときは,その資本金の額の減少については,株主総会決議を要せず,取締役会決議によってこれを行うことができる」という肢は誤りです。
株式の発行と同時にする減少で効力発生日後の資本金の額が前を下回らないときは取締役会の決議でできますが、その場合も債権者は異議を述べられます
株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合で、減少の効力発生日後の資本金の額がその日前の資本金の額を下回らないときは、株主総会の決議に代えて取締役の決定(取締役会設置会社では取締役会の決議)で行うことができます(447条3項)。発行による増加と減少が打ち消し合って資本金の額が目減りしないので、株主の利益を害するおそれが乏しいからです。「取締役会設置会社が株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合において,当該資本金の額の減少の効力が生ずる日後の資本金の額が当該日前の資本金の額を下回らないときは,取締役会の決議により資本金の額を減少することができる」という肢は正しいです。ただし、この緩和は株主総会の決議についてだけで、債権者異議手続は省けません。449条1項が債権者異議手続を不要とするのは、減少する準備金の額の全部を資本金とする場合と、準備金の額のみを減少する場合で定時株主総会において欠損の額を超えない範囲で定めるときに限られ、資本金の額の減少はどちらにも当たらないからです。「会社が資本金の額を減少する場合には,それと同時に株式の発行が行われることにより,その資本金の額の減少の効力が生ずる日後の資本金の額がその日前の資本金の額を下回らないときであっても,その会社の債権者は,その資本金の額の減少について異議を述べることができる」という肢は正しく、「株式会社が株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合において,当該資本金の額の減少の効力が生ずる日後の資本金の額が当該日前の資本金の額を下回らないときは,当該株式会社の債権者は,当該株式会社に対し,当該資本金の額の減少について異議を述べることができない」という肢は誤りです。同じ理由で、「会社が定時株主総会の決議により資本金の額を減少する場合において,減少する資本金の額が当該定時株主総会の日における欠損の額を超えないときは,当該会社の債権者は,当該会社に対し,資本金の額の減少について異議を述べることができない」という肢も誤りで、欠損の範囲内の減少で緩むのは決議要件だけです。
決議機関と債権者異議手続(447条・449条・309条2項9号)
- 原則: 株主総会の特別決議+債権者異議手続
- 定時株主総会で欠損の額を超えない範囲で減少: 株主総会の普通決議+債権者異議手続
- 減少額の全部を準備金とする: 株主総会の特別決議+債権者異議手続(取締役会決議では不可)
- 株式の発行と同時にし、効力発生日後の資本金の額が前を下回らない: 取締役の決定・取締役会の決議+債権者異議手続
- 資本金の額の減少で債権者異議手続が不要になる場合はない
債権者には官報公告と各別の催告で1か月以上の異議期間を与え、手続が終わるまで効力は生じません
債権者が異議を述べることができる場合、会社は、資本金の額の減少の内容、計算書類に関する事項、債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨を官報に公告し、かつ知れている債権者には各別に催告しなければならず、この期間は1か月を下ることができません(449条2項)。官報のほか、定款の定めに従い日刊新聞紙又は電子公告で公告するときは、各別の催告を省くことができます(449条3項)。期間内に異議を述べなかった債権者は承認したものとみなされ(449条4項)、異議を述べた債権者には、減少をしてもその債権者を害するおそれがないときを除き、弁済するか、相当の担保を提供するか、信託会社等に相当の財産を信託しなければなりません(449条5項)。「会社が資本金の額を減少する場合には,その会社の債権者は,その会社に対し,これについて異議を述べることができる」という肢と「株式会社が資本金の額を減少する場合には,会社債権者に異議を述べる機会を与えなければならない」という肢は正しいです。資本金の額の減少は株主総会で定めた効力発生日に効力を生じますが、債権者異議手続が終了していないときは効力を生じません(449条6項)。「資本金の額の減少は,債権者異議手続が終了していないときは,その効力を生じない」という肢は正しいです。会社は効力発生日の前であればいつでもその日を変更できます(449条7項)。社債権者が異議を述べるには、社債管理者が置かれていない社債では社債権者集会の決議によらなければならず(740条1項)、社債管理者が置かれていれば社債管理者が社債権者のために異議を述べることができます(740条2項)。「社債管理者の設置がされていない社債の社債権者が,当該社債を発行した株式会社に対し,資本金の額の減少について異議を述べるには,社債権者集会の決議によらなければならない」という肢は正しいです。
無効は効力発生日から6か月以内に訴えによってのみ主張でき、提起できるのは株主等・破産管財人と承認しなかった債権者に限られます
資本金の額の減少は会社の組織に関する行為として828条に列挙されており、その無効は、効力が生じた日から6か月以内に、訴えをもってのみ主張することができます(828条1項5号)。減少の後に行われた配当や計算関係を誰でもいつでも覆せるとすると法律関係が安定しないからです。「資本金の額の減少の無効は,訴えをもってのみ主張することができる」という肢は正しいです。これに対して準備金の額の減少は828条に列挙されていないので、訴えによらずに無効を主張できます。「資本金又は準備金の額の減少は,その手続に違法がある場合であっても,当然には無効とならず,その無効は,訴えをもってのみ主張することができる」という肢は、準備金の額の減少まで含めている点で誤りです。提訴権者は、当該株式会社の株主等(株主・取締役・清算人、監査役設置会社では監査役、指名委員会等設置会社では執行役を含む)、破産管財人、又は資本金の額の減少について承認をしなかった債権者です(828条2項5号)。「株式会社における資本金の額の減少について承認をしなかった債権者は、資本金の額の減少の無効の訴えを提起することができる」という肢は正しく、異議期間内に異議を述べず承認したものとみなされた債権者(449条4項)は承認をしなかった債権者に当たらないので、「株式会社における資本金の額の減少について承認をしたものとみなされた債権者は,当該資本金の額の減少の無効の訴えを提起することができない」という肢は正しいです。監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある会社は監査役設置会社に当たらないので(2条9号)、その監査役は828条2項の株主等に含まれません。「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある会社の監査役は,資本金の額の減少の無効の訴えを提起することができない」という肢は正しいです。なお、資本金の額は登記事項なので(911条3項5号)、減少したときは2週間以内に本店の所在地で変更の登記をしなければなりませんが(915条1項)、令和元年改正で支店の所在地における登記は廃止されたので、「会社が資本金の額を減少したときは,その会社は,その本店の所在地のみならず,その支店の所在地においても,変更の登記をしなければならない」という肢は誤りです(出題当時も支店所在地での登記事項は商号・本店の所在場所・支店の所在場所に限られていたので、資本金の額について支店所在地での変更の登記は要りませんでした)。「株式会社は,資本金の額を減少した場合には,変更の登記をしなければならない」という肢は正しいです。
会社法447条1項
株式会社は、資本金の額を減少することができる。この場合においては、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。一 減少する資本金の額 二 減少する資本金の額の全部又は一部を準備金とするときは、その旨及び準備金とする額 三 資本金の額の減少がその効力を生ずる日
会社法447条3項
株式会社が株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合において、当該資本金の額の減少の効力が生ずる日後の資本金の額が当該日前の資本金の額を下回らないときにおける第一項の規定の適用については、同項中「株主総会の決議」とあるのは、「取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)」とする。
会社法449条1項
株式会社が資本金又は準備金(以下この条において「資本金等」という。)の額を減少する場合(減少する準備金の額の全部を資本金とする場合を除く。)には、当該株式会社の債権者は、当該株式会社に対し、資本金等の額の減少について異議を述べることができる。ただし、準備金の額のみを減少する場合であって、次のいずれにも該当するときは、この限りでない。
会社法449条6項
次の各号に掲げるものは、当該各号に定める日にその効力を生ずる。ただし、第二項から前項までの規定による手続が終了していないときは、この限りでない。
会社法828条1項5号
株式会社における資本金の額の減少 資本金の額の減少の効力が生じた日から六箇月以内
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。