抵当権侵害(妨害排除請求・抵当権者への直接明渡し・損害賠償・期限の利益の喪失)とは
ていとうけんしんがい
抵当権侵害とは、抵当不動産の損傷・不法占有・競売妨害目的の占有など、抵当不動産の交換価値の実現を妨げ、抵当権者の優先弁済請求権の行使を困難にする行為のことです。抵当権者は、妨害排除請求・所有者の妨害排除請求権の代位行使・損害賠償請求・期限の利益の喪失の主張で対抗できます。
抵当権は、建物や土地を所有者に使わせたまま、いざというときに競売して優先的に回収できるようにしておく担保です。所有者がどう使うかには口を出せないのが原則ですが、山林の木を勝手に切られたり、競売を妨げるために占有屋が居座ったりすると、競売の値段が下がって回収できなくなります。そこで判例は、交換価値の実現が妨げられるときは、抵当権者自身が侵害を止めさせ、場合によっては自分に明け渡すよう求めることまで認めています。
抵当権の効力が及ぶ物を損なう行為には、被担保債権の弁済期の前でも、抵当権に基づいてその禁止を請求できます
抵当権の効力は抵当地に付加して一体となっている物に及び(370条)、土地上の樹木も、立木法の登記や明認方法がなければ土地の一部として抵当権の目的になります。権原なく樹木を伐採する行為は、抵当権がつかんでいる交換価値を減らす侵害行為なので、抵当権者は抵当権に基づく物権的請求権としてその禁止を求められます。判例は、抵当物に危害を加えようとする者に対しては所有者か第三者かを問わずその行為の禁止を請求できるとし(大判昭和7年4月20日)、被担保債権の弁済期が来ているかどうかにかかわらず侵害行為の排除を求められるとしています(大判昭和6年10月21日)。「Bは,被担保債権の弁済期前であっても,Cに対して伐採の禁止を請求することができる」という肢は正しいです。
不法占有で交換価値の実現が妨げられるときは、抵当権者は所有者の妨害排除請求権を代位行使でき、抵当権に基づく妨害排除請求もできます
抵当権は占有を伴わない担保なので、第三者が抵当不動産を占有しているだけでは侵害にはなりません。しかし判例は、第三者が抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進行が害され適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、所有者に対し、その状態を是正し抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を持つとしました(最大判平成11年11月24日)。この請求権を保全する必要があるときは、423条の法意に従い、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使でき、抵当権者は直接自己に明け渡すよう求めることができます。被保全債権は被担保債権ではなく、この維持保存を求める請求権です。「抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を保全するためであっても,所有者の不法占拠者に対する妨害排除請求権を代位行使することはできない」という肢は誤りで、代位行使して「直接自己に甲建物を明け渡すよう求めることができる」という肢は正しいです。同じ判決は、この状態があるときは抵当権に基づく妨害排除請求として状態の排除を求めることも許されると述べています。代位の転用は債権者代位権の転用の語で扱います。
所有者から占有権原を得た占有者でも競売妨害目的があれば妨害排除の相手になり、所有者に維持管理を期待できなければ直接自己への明渡しを求められます
判例は、抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者についても、その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、その状態の排除を求めることができるとしました(最判平成17年3月10日)。さらに、抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができます。競売妨害目的の賃借人に対して「直接自己に甲建物の明渡しを求めることはできない」という肢や、不法占有者に対して「直接自己に明け渡すよう求めることはできない」という肢は誤りで、維持管理を期待できないときは「直接自己への抵当不動産の明渡しを請求することができる」という肢は正しいです。他方、維持管理を期待できるかという条件を外して、妨害の排除を求めるばかりでなく常に自己への明渡しまで求められるとする肢は誤りです。
- 侵害行為の禁止(伐採・搬出)被担保債権の弁済期の前でも、抵当権に基づいて請求できます
- 所有者の妨害排除請求権の代位行使交換価値の実現が妨げられる状態があり、維持保存を求める請求権を保全する必要があるとき、直接自己への明渡しまで求められます(最大判平成11年11月24日)
- 抵当権に基づく妨害排除請求(占有権原のある占有者)競売妨害目的と交換価値の実現を妨げる状態があれば、排除を求められます(最判平成17年3月10日)
- 直接自己への明渡し所有者に適切な維持管理を期待できない場合に限られます(最判平成17年3月10日)
- 不法行為に基づく損害賠償抵当不動産の価値が下がって被担保債権を回収できなくなる限度で認められ、実行前でも請求できます
- 期限の利益の喪失債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき、債務者は期限の利益を主張できません(137条2号)
損害賠償は被担保債権を回収できなくなる限度で認められ、債務者自身が担保を損なえば期限の利益を主張できなくなります
抵当不動産を損傷した第三者に対し、抵当権者は不法行為に基づく損害賠償を請求できますが、損害があるといえるのは、目的物の価値が下がって被担保債権の満足を得られなくなる場合です(大判昭和3年8月1日)。残った価値で全額を回収できるなら損害はありません。判例は、抵当権の実行前でも損害賠償を請求できるとしています(大判昭和7年5月27日)。なお、競売妨害目的の占有者に直接自己への明渡しを認めた判例も、抵当権者は抵当不動産を自ら使用収益する権利を持たないので、第三者の占有によって賃料額相当の損害を被るものではないとしています(最判平成17年3月10日)。所有者が取得する損害賠償請求権への物上代位という方法もあります。債務者自身が担保を損なった場合は、137条2号により、債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたときは、債務者は期限の利益を主張することができないので、抵当権者は直ちに抵当権を実行できます。「期限の到来前に担保を滅失させた債務者は、期限の利益を主張することができない」という肢は正しいです。期限の利益の全体は期限と期限の利益の語で扱います。
民法369条1項
抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
民法137条
次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。 一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。 二 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。 三 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。
最判平成17年3月10日
抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができるものというべきである。
論文ではこう使う
論文では、抵当権が非占有担保であるため占有だけでは侵害にならないことを確認したうえで、交換価値の実現が妨げられ優先弁済請求権の行使が困難となる状態があるかを、競売の進行への影響・売却価額の下落のおそれ・高額の敷金や短期の賃貸借などの事実から当てはめます。占有者が所有者から占有権原を得ている場合は競売妨害目的を認定し、明渡しの相手を抵当権者自身とするには所有者に適切な維持管理を期待できない事情(所有者と占有者の関係など)を挙げます。代位構成をとるときは、被保全債権を担保価値維持請求権とする点を書きます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。