債権者代位権の転用(423条の7・登記請求権・妨害排除請求権)とは
さいけんしゃだいいけんのてんよう
債権者代位権の転用とは、債務者の責任財産を保全するという本来の目的を離れて、登記請求権や賃借権のような特定の債権を実現するために債権者代位権を使うことで、債務者の無資力は要件になりません。登記請求権の代位は423条の7で明文化され、賃借人による妨害排除請求権の代位や抵当権者による代位は判例で認められています。
債権者代位権は、本来はお金を貸した人が債務者の財産を守るための制度です。ところが判例は、土地を転々と買った人が登記を移してもらう、借家人が不法占拠者を追い出す、といった場面でもこの制度を使えるとしてきました。お金の回収とは関係がないので、債務者がお金に困っているかどうかは問いません。これを債権者代位権の転用といい、改正で登記請求権の代位が条文になりました。どこまで転用できるかは判例が線を引いています。
転用型の代位では、実現したい債権が特定の権利なので、債務者の無資力は要件になりません
金銭債権を保全するための代位で債務者の無資力が求められるのは、責任財産が足りないときにだけ他人の財産に介入させるためです。これに対し、登記請求権や賃借権のように、債務者の特定の権利が行使されなければ実現できない債権では、債務者にお金があっても債権者は救われません。そのため、転用型では無資力は要件になりません。判例は、土地の賃借人は賃借権を保全するため、賃貸人に代位して不法占拠者に妨害排除を請求でき、賃貸人の無資力は要らないとしています(大判昭和4年12月16日)。「Aは,Bが無資力でなければ,その土地の不法占拠者Cに対する物権的請求権を代位行使することができない」という肢は誤りです。金銭債権の保全でも、実現の障害が責任財産の不足にない場合は同じで、判例は、売主の地位を共同相続した相続人の一人が、登記に応じない他の相続人のせいで買主から同時履行の抗弁を出されている場合に、自己の代金債権を保全するため、買主の資力の有無を問わず、買主に代位して他の相続人に対する所有権移転登記手続請求権を行使できるとしました(最判昭和50年3月6日)。「Cは,…Bに代位して,BのDに対する所有権移転登記手続請求権を行使することはできない」という肢は誤りです。
不動産が順次譲渡されたとき、譲受人は譲渡人が前主に対して持つ登記手続請求権を代位行使でき、登記は譲渡人の名義に移すにとどまります
423条の7は、登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗できない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは、その権利を行使できると定めています(改正前から判例が認めていたものの明文化です。大判明治43年7月6日)。甲土地がA→B→Cと売却されて登記名義がAのままなら、CはBに代位して、Aに対しAからBへの所有権移転登記手続を請求できます。「Cは,Bに代位して,Aに対し,AからBへの所有権移転登記手続を請求することはできない」という肢は誤りで、BがAに対する登記請求権を行使しないときにCがこれを代位行使できるとする肢は正しいです。ただし、代位で実現するのは債務者Bの権利なので、登記はBの名義に移り、Cは続いてBからCへの登記を受けます。「登記を直接Aに移転すべき旨をCに請求することができる」という肢は誤りです。中間者の同意なしに前主から直接自分に登記を移すこと(中間省略登記)を求められるかは、登記請求権の語で扱います。
不動産の賃借人は対抗要件の有無にかかわらず、賃貸人の不法占拠者に対する明渡請求権を代位行使でき、直接自己への明渡しを求めることができます
賃借人は、賃貸人に対して目的物を使用収益させるよう求める債権を持っているので、この賃借権を保全するため、賃貸人が所有者として持つ不法占拠者への返還請求権や妨害排除請求権を代位行使できます。対抗要件を備えた不動産の賃借人は自ら妨害停止や返還を請求できますが(605条の4)、代位はそれとは別の手段なので、対抗要件がなくても使えます。賃借権について対抗要件を具備しているか否かにかかわらず、賃貸人の所有権に基づく返還請求権を代位行使できるとする肢は正しいです。判例は、建物の賃借人が賃貸人に代位して不法占拠者に明渡しを請求する場合、直接自己に対して明け渡すよう請求できるとしています(最判昭和29年9月24日)。賃貸人に明け渡させても賃借人が使えないままになるからです。その旨の肢は正しいです。
抵当権者は、抵当不動産を適切に維持保存するよう所有者に求める請求権を保全するため、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使でき、直接自己への明渡しも求められます
判例は、第三者が抵当不動産を不法占有して競売手続の進行が害され売却価額が下がるおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は所有者に対しその状態を是正して抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を持ち、この請求権を保全する必要があるときは、民法423条の法意に従い、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使できるとしました(最大判平成11年11月24日)。所有者が受け取ることが期待できない場合には、抵当権者は直接自己に明け渡すよう求めることもできます。「抵当権者は,…所有者の不法占拠者に対する妨害排除請求権を代位行使することはできない」という肢は誤りで、抵当権者が代位行使して直接自己に建物を明け渡すよう求めることができるとする肢は正しいです。抵当権そのものに基づく妨害排除請求は、抵当権侵害の語で扱います。
借地上の建物の賃借人は、建物の賃貸人である借地権者が土地の賃貸人に対して持つ建物買取請求権を代位行使することはできません
判例は、借地上の建物の賃借人が、その賃借権を保全するため、建物の賃貸人(借地権者)に代位して土地の賃貸人に対する建物買取請求権を行使することはできないとしています(最判昭和38年4月23日)。買取請求権を行使しても建物の賃貸人が得るのは代金債権という金銭債権にすぎず、それによって建物の賃借権が保全されるという関係にないからです。建物賃借人が建物買取請求権を代位行使できるとする肢は、いずれも誤りです。転用が認められるかどうかは、代位で行使する権利と保全したい債権との間に、その権利を行使すれば債権が実現するという関係があるかで決まります。
民法423条の7
登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは、その権利を行使することができる。この場合においては、前三条の規定を準用する。
論文ではこう使う
論文で債権者代位権の転用を使うときは、①保全したい債権が金銭債権ではなく(又は責任財産の不足と関係のない)特定の債権であること、②その実現のために債務者の特定の権利の行使が必要であること(代位で行使する権利と保全したい債権の関連)、③債務者がその権利を行使していないことを示し、無資力は要しないと書きます。登記請求権なら423条の7を根拠に、賃借人の妨害排除なら判例(大判昭和4年12月16日)を根拠にし、明渡しの相手(直接自己へか債務者へか)と登記の名義(債務者名義)を区別します。抵当権者の代位は最大判平成11年11月24日の要件(交換価値の実現の妨げ、維持保存請求権の保全の必要)を当てはめます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。