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用語集 / 行政法 / 国賠法1条「公権力の行使」

国賠法1条「公権力の行使」とは

こくばいいちじょうこうけんりょくのこうし

行政法 国家賠償・損失補償

国賠法1条「公権力の行使」とは、国家賠償法1条1項が賠償責任の対象とする国又は公共団体の作用の範囲を画す要件です。判例と通説は、純粋な私経済作用と2条の対象となる公の営造物の設置管理作用を除く一切の作用を含むとする広義説に立ちます。

市立中学校の体育の授業で、教師の指導を受けてプールに飛び込んだ生徒が大けがをしたとします。授業は命令でも強制でもありませんが、生徒は市の公務員である教師の指導に従う立場にあります。被害者が市に賠償を求めるときの入口が、国家賠償法1条1項の公権力の行使です。国家賠償法は、公務員の活動で生じた損害について加害公務員個人ではなく国・公共団体に責任を集中させ、被害者の救済を確実にするために置かれました。その趣旨からすると、対象を命令や強制のような権力的作用に限る理由は乏しく、判例と通説は公権力の行使を広く読みます。

市立中学校のプールサイドの場面。先生が体育教師役(札「教師(市の公務員)」)で、笛を首に掛けてスタート台の脇に立ち、飛び込んで頭を打った生徒の男性(札「生徒」)がプールの縁で頭を押さえている。プールの向こうに小さく市役所の建物と札「市(公共

判例と通説は、私経済作用と営造物の設置管理作用を除く一切の作用を公権力の行使に含めます

国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときに、国又は公共団体が賠償の責に任ずると定めます。この公権力の行使をどこまで広く読むかで、学説は三つに分かれます。命令や強制を伴う権力的作用に限る狭義説、純粋な私経済作用と2条の営造物の設置管理作用を除く一切の公行政作用を含む広義説、私経済作用まで含める最広義説です。判例と通説は広義説に立ちます。国家賠償法が民法の特別法として置かれた趣旨は、公務員の活動によって生じた損害について、加害公務員個人ではなく国・公共団体に責任を集中させ、被害者の救済を確実にすることにあります。そこから、対象を権力的作用に限る理由は乏しいと考えられてきました。

  • 狭義説命令・強制を伴う権力的作用に限る。非権力的な行政活動は民法によることになる
  • 広義説(判例・通説)純粋な私経済作用と、2条の営造物の設置管理作用を除く、一切の公行政作用を含む
  • 最広義説私経済作用も含め、国・公共団体の活動のすべてを含む

公立学校の教育活動のような非権力的作用も公権力の行使に含まれます

広義説の実益は、命令や強制を伴わない行政活動にも1条を及ぼせる点にあります。最判昭和62年2月6日(学校事故と国家賠償責任)は、公立中学校の体育の授業で教師がプールのスタート台からの飛び込みを指導した際に生徒が重い傷害を負った事案について、公立学校における教師の教育活動も国家賠償法1条1項にいう公権力の行使に含まれるとしました。授業や部活動の指導は権力的な命令ではありませんが、私人間の契約関係でもなく、公の営造物の設置管理とも異なるからです。「国家賠償法第1条第1項にいう「公権力の行使」には,公立学校における教師の教育活動も含まれる」という肢は正しく、「中学校における教師の教育活動は、当該学校が市立学校であるとしても」公権力の行使に該当しないという肢は誤りです。市立か県立かといった設置主体の違いは結論を左右しません。私立学校の教師であれば話は別で、学校法人の民法715条の使用者責任の問題になります。学校事故では、教師に生徒の生命身体の安全を守る注意義務があったか、事故の発生を予見できたかが過失の中身になり、プールの飛び込み指導だけでなく課外のクラブ活動でも同じ枠組みで判断されます。

市役所の窓口の場面。先生が市の職員役(札「市の職員」)で、カウンター越しに事業主の男性(札「事業主」)へ「教育施設負担金の寄付をお願いします」と書かれた紙を差し出している。先生の後ろの壁に「寄付しない事業者には給水しません」と書かれた掲示。

行政指導も公権力の行使に当たり、違法なら国家賠償の対象になります

行政指導は相手方の任意の協力を前提とする事実行為ですから、処分ではありません。しかし処分でないことと、1条の公権力の行使でないこととは別です。行政指導は許認可の権限などを背景に相手方へ事実上強い影響を及ぼす公行政の活動であり、広義説のもとでは公権力の行使に含まれます。最判平成5年2月18日は、指導要綱に基づいて事業主に教育施設負担金の寄付を求めた行政指導について、給水の拒否などを背景に事実上寄付を強制したものであり、任意に寄付を求めるべき行政指導の限度を超える違法な公権力の行使であるとして、市の賠償責任を認めました。「行政指導とは,指導,勧告,助言その他の行為であって処分に該当しないものをいうから,行政指導が国家賠償法第1条第1項にいう「公権力の行使」に当たることはない」という肢は誤りです。「行政指導は法的拘束力を有しない事実行為に過ぎないことから,国家賠償法第1条第1項にいう公権力の行使には当たらず,違法な行政指導によって損害を受けた者は同法に基づき損害賠償請求をすることはできない」という肢も誤りです。建築確認が行政指導のために遅延させられた事案でも、「事実行為であって法的拘束力を有しないことから」損害賠償を請求することはできないという肢は誤りです。最判昭和60年7月16日は、建築主が行政指導に応じられない意思を真摯かつ明確に表明した後は、行政指導を理由に建築確認を留保することが原則として違法になるとし、その留保は国家賠償法上も違法の評価を受けるとしました。行政指導の限界そのものは行政指導の項目で扱います。

左右二場面。左は市立病院の診察室で、先生が医師役(札「市立病院の医師」)が患者の男性(札「患者」)を診ており、上に札「医療行為=私経済作用」と看板「民法709条・715条で争う」。右は市役所の窓口で、先生が職員役(札「市の職員」)で許可書を

私経済作用は公権力の行使に当たらず、民法によって処理されます

国や公共団体が私人と同じ立場で行う活動は、広義説でも1条から外れます。国公立病院で行われる医療行為、庁舎の建築工事の発注、物品の購入、公営住宅の賃貸借がこれに当たり、被害者は民法709条や715条で争います。国家賠償法4条が民法の適用を定めるのは、1条・2条が適用される場面を民法で補うためであり、私経済作用をそもそも1条に取り込む趣旨ではありません。国公立病院の医療事故を国家賠償法1条1項で処理するという肢は、この線引きを外しています。もっとも、病院であっても精神保健福祉法上の強制入院の措置のように権力的な作用が問題になる場面は、1条の対象になります。私経済作用に振り分けられると、加害者本人に民法709条の責任が残り、使用者も715条で責任を負い、被害者は加害者個人にも請求できます。責任が国・公共団体に集中するか、加害者個人にも及ぶかという違いが生じるので、この振り分けは結論を左右します。

公務員かどうかは身分ではなく、公権力の行使を委ねられているかで決まります

1条の公務員は国家公務員法や地方公務員法上の身分を指しません。公権力の行使を委ねられた者であれば、民間人でも公務員に当たります。最判平成19年1月25日(児童養護施設における事故と損害賠償責任)は、児童福祉法に基づく県の措置により社会福祉法人の児童養護施設に入所した児童に対する施設職員の養育監護行為について、本来県が行うべき事務が委ねられたものであるから、県の公権力の行使に当たる公務員の職務行為であるとしました。そして国又は公共団体が1条1項の責任を負う以上、「E個人が民法第709条に基づく損害賠償責任を負わないのみならず,使用者であるCも同法第715条に基づく損害賠償責任を負わない」という肢は正しいです。1条1項が公務員個人の対外的な責任を排除して行政主体に責任を集中させた以上、その公務員を雇う民間の法人にも715条の責任が残らないからです。最決平成17年6月24日(指定確認検査機関による確認事務の帰属)も、指定確認検査機関がした建築確認の事務は建築主事が置かれた地方公共団体に帰属するとしました。市区町村長が弁護士法第23条の2に基づく照会に応じて前科及び犯罪経歴を報告することも公権力の行使に当たり(最判昭和56年4月14日)、これに該当しないとする肢は誤りです。この事件では、前科等をみだりに公開されない利益が法律上保護されるとされ、犯罪の種類や軽重を問わず漫然と前科等のすべてを報告した点に違法が認められました。民間人であっても法令の根拠に基づいて公の事務を担う以上は公務員に当たる、という発想を押さえれば足ります。

児童養護施設の食堂の場面。先生が施設職員役(札「社会福祉法人の職員」)で、けがをした子どもの手当てをしている。壁に「児童福祉法に基づく県の措置で入所」と書かれた掲示。右奥に小さく県庁の建物と札「県」。先生の吹き出し「私は県の職員ではない。で

不作為も公権力の行使に含まれ、規制権限の不行使が問題になります

1条は作為だけを対象とするものではありません。行政庁が権限を行使しなかったこと自体が、公権力の行使の在り方として違法と評価されることがあります。薬害・じん肺・公害の各事件で認められてきたのがこの場面で、権限を定めた法令の趣旨・目的や権限の性質に照らし、不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くときに違法となります。申請に対する応答が遅れた場合の遅延も同様で、水俣病認定申請の処理遅延について、「認定要件を満たす者が被る損害は,認定されることにより解消されることになるから,申請処理の遅延による精神的苦痛について国家賠償法に基づく慰謝料請求は認められない」という肢は誤りです。認定を待たされる間の不安や焦りは、後に認定されても消えないからです。不作為を捉えるときは、権限の根拠法令が誰の利益を守るために置かれたかを確かめ、その法令の趣旨から作為義務を導く筋道になります。この検討は規制権限の不行使の項目で扱います。

国家賠償法 第1条 第1項

国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

論文ではこう使う

論文では、まず問題となる行為が1条の対象かを切り分けます。私経済作用なら民法、営造物の物的な瑕疵なら2条、それ以外の公行政作用なら1条という順で処理し、広義説の理由として、命令強制を伴わない行政活動にも被害者救済を及ぼす必要があることを一言添えます。行為者が民間人であっても、法令により公権力の行使を委ねられていれば公務員に当たると認定し、そこから加害者個人と使用者の民法上の責任が排除されるという帰結まで書きます。そのうえで違法性と過失の検討に進みます。

試験ではこう問われる

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