国賠法4条〜6条(民法の適用・他の法律・相互保証主義)とは
こくばいよんじょうからろくじょう
国賠法4条〜6条とは、国家賠償法のうち、1条・2条の賠償責任と民法・他の法律・外国人との関係を整える三つの規定です。4条は前三条に定めのない事項について民法の規定によるとし、5条は他の法律に別段の定めがあるときはその定めによるとし、6条は外国人が被害者である場合には相互の保証があるときに限り適用するとしています。
消防隊が引き揚げた後に残り火が再び燃え上がり、隣の家まで焼けたとします。被害者は国家賠償法1条で市に賠償を求めますが、この法律は6か条しかなく、時効も過失相殺も失火の扱いも書いていません。そこで4条が、書いていないことは民法によると決めています。さらに5条は他の法律に別段の定めがあればそちらを優先させ、6条は外国人が被害者のときは、相手の国でも日本人が同じように守られる場合に限って適用すると定めています。
4条の民法には、民法709条の特則である失火責任法も含まれます
4条は、国又は公共団体の損害賠償の責任について、前三条の規定によるほか民法の規定によると定めます。ここでいう民法は民法典の条文だけを指すのではなく、民法の不法行為の規定を修正する特別法も含みます。最判昭和53年7月17日(国家賠償法と失火責任法)は、消防職員の残火処理が不十分で再燃火災が起きた事案で、失火ノ責任ニ関スル法律が民法709条の特則であることから4条にいう民法に含まれるとし、公権力の行使に当たる公務員の失火による国又は公共団体の損害賠償責任については、当該公務員に重大な過失があることを要するとしました。したがって、「公権力の行使に当たる公務員の失火による国又は公共団体の損害賠償責任については,「失火ノ責任ニ関スル法律」は適用されず,当該公務員に重大な過失があると認められない場合であっても,国又は公共団体は,国家賠償法第1条第1項に基づく損害賠償責任を負う」という肢は誤りです。失火責任法が失火者の責任を重大な過失がある場合に限ったのは、火事は一度起きると損害が際限なく広がり、軽い不注意で全部を負わせるのは酷だからで、この理由は火を出したのが公務員でも変わりません。消防の活動で類焼させてしまった場合も同じで、この判例の事案自体が消防職員の残火処理をめぐるものでした。4条の民法に含まれるのは民法709条以下の不法行為の規定を修正する特別法である、という理由づけを押さえておけば、初めて見る特別法でも判断できます。
過失相殺・消滅時効・損害の範囲も、4条を通じて民法によります
4条により、民法の一般的な規定が国家賠償にも及びます。被害者側にも落ち度があれば過失相殺がされ(民法722条2項)、共同不法行為や使用者責任の規定も、要件を満たす限り適用されます。損害賠償請求権の消滅時効は民法724条及び724条の2によります。損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年が原則で、人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権については、知った時からの期間が5年に延びます。国の債権債務を早く決済するための会計法30条の5年の消滅時効が国に対する賠償請求にも及ぶかが争われましたが、最判昭和50年2月25日は、国が公務員に対する安全配慮義務を怠って損害を与えた事案で、会計法30条の適用を否定しました。会計法30条が5年の消滅時効を定めたのは国の権利義務を早期に決済する必要があるなど主として行政上の便宜を考慮したものであるのに対し、安全配慮義務違反による損害賠償は、被害者に生じた損害を公平の理念に従って填補する点で私人相互間の損害賠償と目的も性質も異ならないから、行政上の便宜を考慮する必要がないという理由です。当時の民法167条1項により、消滅時効期間は10年とされました。「国が,勤務中の事故により損害を被った公務員に対して,安全配慮義務違背による損害賠償の義務を負う関係には,会計法第30条は適用されず,当該関係における消滅時効期間については,民法の規定が適用される」という肢は正しく、「会計法第30条は、国の権利義務を早期に決済する必要があるなど主として行政上の便宜を考慮した規定であるとして、国の安全配慮義務違反を理由とする国家公務員の国に対する損害賠償請求権についても同条所定の消滅時効期間の適用を認めました」という肢は誤りです。安全配慮義務違反は債務不履行の構成ですが、国家賠償との振り分けも問われますから、請求の根拠を意識して読み分けます。
5条により他の法律に別段の定めがあればそれが優先しますが、憲法17条の限界があります
5条は、国又は公共団体の損害賠償の責任について、民法以外の他の法律に別段の定めがあるときは、その定めるところによるとします。国家賠償法は一般法ですから、賠償責任について特別の定めを置く法律があれば、そちらが先に適用されます。別段の定めには、賠償の範囲を広げるものも狭めるものもあり得ますが、争いになるのは狭める方向の定めです。責任を軽くする特別法は、国民の賠償請求権を制限することになりますから、憲法17条との関係が問題になります。憲法17条は、公務員の不法行為により損害を受けたときは、法律の定めるところにより国又は公共団体に賠償を求めることができると定めています。「法律の定めるところにより」とあるので、どのような要件で賠償責任を負わせるかは立法府の裁量に委ねられていますが、公務員の不法行為による国の責任を無制限に免除・制限できるわけではなく、その裁量には限界があります。5条を読むときは、別段の定めがあれば機械的にそちらを適用するのではなく、その定め自体が憲法17条に照らして許されるかまで確かめます。
郵便法の免責規定は、憲法17条が立法府に与えた裁量の範囲を逸脱し、無効とされました
最大判平成14年9月11日(郵便法違憲判決)は、郵便法が、書留郵便物について郵便業務従事者の故意又は重大な過失による不法行為に基づく損害の賠償責任を免除し、又は制限している部分と、特別送達郵便物について軽過失による不法行為に基づく損害の賠償責任を免除し、又は制限している部分は、憲法17条に違反して無効であるとしました。判断の枠組みは、免責の目的が正当か、免責の範囲が目的を達成する手段として合理性と必要性をもつかを審査するものです。郵便の役務をなるべく安い料金であまねく公平に提供するという目的は正当で、郵便物一般について賠償責任を限ることには合理性と必要性が認められます。しかし書留は、引受けから配達までの記録をとり、確実に届けることを約束して割増の料金を取る制度ですから、故意や重大な過失の場合まで免責する必要はありません。特別送達は訴訟書類を届ける郵便で、送達を受ける人には郵便局を選ぶ余地がなく、届かなければ手続上の重い不利益を受けるため、軽過失の場合でも免責は許されないとされました。5条が広く別段の定めを許すように読めても、立法目的と手段の合理性・必要性は司法審査の対象になることを示した例です。判決の後、郵便法は改正され、損害賠償の範囲が見直されています。
6条は相互保証主義を採り、外国人には相互の保証があるときに限り適用されます
6条は、この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用すると定めます。相互の保証とは、その外国人の本国において、日本人が同じような被害を受けたときに、その国が日本人に対して国家賠償と同様の賠償を認めていることをいいます。自国民が相手国で守られないのに相手国の国民だけを守るのは釣り合わないという考えから置かれた規定で、日本に長く住んでいる外国人であっても、本国との間に相互の保証がなければ国家賠償法による請求はできません。相互の保証の有無は国ごとに判断されます。もっとも、6条が働くのは国家賠償法1条と2条の責任についてです。国や公共団体が私経済作用として行った活動で損害を受けた場合は、そもそも国家賠償法ではなく民法によって請求しますから、6条は関係なく、外国人も民法で賠償を求めることができます。相互保証主義は国際的にみて当然の制度ではなく、立法論としては批判もありますが、現行法はこの立場を採っています。
国家賠償法 第4条
国又は公共団体の損害賠償の責任については、前三条の規定によるの外、民法の規定による。
国家賠償法 第5条
国又は公共団体の損害賠償の責任について民法以外の他の法律に別段の定があるときは、その定めるところによる。
国家賠償法 第6条
この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する。
論文ではこう使う
論文では、1条または2条の要件を検討した後、適用関係の条文を落とさずに拾います。失火の事案では、4条により失火責任法が適用され、公務員に重大な過失があることが必要だと述べます。時効や過失相殺も4条を根拠に民法の規定を用います。特別法に免責や制限の定めがある事案では、5条によりそれが優先することを述べたうえで、憲法17条に照らして立法目的の正当性と、目的達成の手段としての合理性・必要性を審査し、郵便法違憲判決の判断枠組みを当てはめます。外国人が原告であれば、6条の相互の保証の有無に触れておきます。適用関係の条文は、要件論を書き切った後で一言添えるだけで足りますが、落とすと検討に穴が残ります。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。