国家賠償法の体系|1条責任と2条責任の全体像
国家賠償法を体系的に解説。1条1項の公権力行使に基づく責任、2条1項の営造物責任の要件、違法性の判断基準、公務員個人の責任まで司法試験対策として整理します。
この記事のポイント
国家賠償法は、国又は公共団体の不法行為責任を定める法律であり、1条責任(公権力の行使に基づく責任)と2条責任(営造物の設置・管理の瑕疵に基づく責任)の二本柱で構成される。 1条では「違法性」の判断基準として職務行為基準説が判例の立場であり、規制権限の不行使の違法性も重要論点である。2条の「瑕疵」は客観的に安全性を欠くことを意味し、無過失責任の性質を有する。本記事では、国賠法の全体像を体系的に解説する。
国家賠償法の概要
法律の趣旨
国家賠償法は、憲法17条(「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる」)を具体化した法律である。
法律の構造
条文 内容 性質 1条 公権力の行使に基づく責任 過失責任(代位責任説が通説) 2条 公の営造物の設置・管理の瑕疵に基づく責任 無過失責任 3条 費用負担者の責任 設置者・管理者以外の費用負担者の責任 4条 民法の適用 国賠法に定めのない事項は民法による 5条 他の法律の適用 民法以外の法律に別段の定めがある場合 6条 相互保証 外国人が被害者の場合の相互保証1条1項の責任
条文
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
要件
要件 内容 ①公権力の行使 国又は公共団体の作用のうち私経済作用と2条の営造物管理作用を除いたすべて ②公務員 国又は公共団体のために公権力を行使する者(広義) ③職務行為性 「その職務を行うについて」 ④故意又は過失 主観的要件 ⑤違法性 客観的に法規範に反すること ⑥損害 被害者に損害が発生していること ⑦因果関係 行為と損害の間に因果関係があること「公権力の行使」の範囲
「公権力の行使」は、国賠法1条では広義に解されている。
見解 範囲 狭義説 権力的作用のみ 広義説(判例・通説) 私経済作用と2条の営造物管理作用を除くすべて広義説によれば、行政指導、公立学校における教育活動、公立病院における医療行為なども「公権力の行使」に含まれる。
「職務を行うについて」
「職務を行うについて」の解釈について、判例は外形標準説を採用する。
最判昭31.11.30: 「職務を行うについて」とは、客観的に職務行為の外形を備える行為を含む。公務員の個人的な動機に基づく行為であっても、外形上職務の執行と認められる限り、職務行為性が肯定される。
1条の「違法性」の判断基準
学説の対立
見解 内容 特徴 結果不法説 加害行為が結果として法的に保護された利益を侵害したこと 民法709条と同様 職務行為基準説(判例) 公務員の行為が職務上の法的義務に違反したこと 行為の態様に着目判例の立場
最判昭60.11.21(在宅投票制度廃止事件): 「国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けない」とした。
最判平17.9.14(在外邦人選挙権制限事件): 在外選挙制度を設けなかった立法不作為について、上記の例外に当たるとして国賠法上の違法性を認めた。
規制権限の不行使と違法性
問題の所在
行政庁が法律上の規制権限を行使しなかったこと(不作為)により損害が発生した場合に、国賠法1条1項の「違法」に当たるかが問題となる。
判例の判断枠組み
最判平16.4.27(筑豊じん肺訴訟):
「国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国家賠償法1条1項の適用上違法となる。」
考慮要素
要素 内容 被害の重大性 生命・身体への被害か、財産的被害か 予見可能性 行政庁が被害を予見し又は予見しえたか 結果回避可能性 規制権限の行使により被害を回避できたか 期待可能性 規制権限を行使することが期待できたか 被害者の側の事情 自己防衛の可能性等重要判例
最判平16.10.15(水俣病関西訴訟): 水質二法に基づく規制権限の不行使について、水俣病の被害の重大性に鑑み、規制権限の不行使が著しく合理性を欠くとして違法と判断した。
最判平26.10.9(アスベスト泉南訴訟): じん肺防止のための規制権限の不行使について、被害の重大性と予見可能性を認め、国賠法上の違法性を肯定した。
公務員個人の責任
判例の立場
最判昭30.4.19: 国賠法1条1項に基づく賠償責任は国又は公共団体が負い、公務員個人は被害者に対して直接の賠償責任を負わない。
この判例により、被害者は公務員個人を被告として損害賠償請求訴訟を提起することはできない。被害者の救済は国又は公共団体に対する国賠法1条の請求によることとなる。
求償権
国又は公共団体は、賠償責任を果たした後、公務員に故意又は重大な過失があった場合に限り、当該公務員に対して求償権を行使することができる(1条2項)。
2条1項の責任
条文
道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
要件
要件 内容 ①公の営造物 国又は公共団体により直接に公の目的に供される有体物 ②設置又は管理の瑕疵 営造物が通常有すべき安全性を欠いていること ③損害 被害者に損害が発生していること ④因果関係 瑕疵と損害の間に因果関係があること「公の営造物」の範囲
公の営造物は、国又は公共団体が所有するものに限られず、管理する動産も含まれる。
営造物の例 判例 道路 最判昭45.8.20(高知落石事件) 河川 最判昭59.1.26(大東水害訴訟) 公立学校の施設 テニスの審判台等 自衛隊車両 動産も含まれる「設置又は管理の瑕疵」
最判昭45.8.20(高知落石事件): 「国家賠償法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、これに基づく国及び公共団体の賠償責任については、その過失の存在を必要としない。」
この判例により、2条責任は無過失責任であることが明確にされた。
瑕疵の判断基準
考慮要素 内容 営造物の構造 設計上の欠陥の有無 用法 通常の用法において安全か 場所的環境 自然的条件、周辺環境 利用状況 通常予想される利用者の行動道路と河川の瑕疵
道路の瑕疵
道路の管理の瑕疵については、比較的厳格に安全性が要求される。
最判昭45.8.20(高知落石事件): 防護柵を設置していなかったことにより落石が車両に当たった事案で、「防護柵を設置するとか、山側に金網を張るとか、危険を通行者に知らせて被害を未然に防止する等の措置」を講じなかった道路管理に瑕疵があるとした。予算上の制約は抗弁とならないとしている。
河川の瑕疵
河川については、道路とは異なる基準が適用される。
最判昭59.1.26(大東水害訴訟): 河川の管理の瑕疵について、「河川管理の特質に由来する財政的、技術的及び社会的諸制約の下での同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていると認められるかどうかを基準として判断すべき」として、過渡的安全性(段階的安全性)の基準を示した。
営造物 安全性の基準 道路 通常有すべき安全性(厳格) 河川 過渡的安全性(財政的・技術的制約を考慮)機能的瑕疵
営造物の物理的な欠陥だけでなく、営造物の利用に伴い第三者に危害を及ぼす危険性(機能的瑕疵)も「瑕疵」に含まれるかが問題となる。
最判平5.3.30(大阪空港訴訟差戻後): 空港の供用に伴う騒音被害について、営造物としての空港の設置・管理の瑕疵を認めた。
費用負担者の責任(3条)
3条の趣旨
設置者・管理者と費用負担者が異なる場合、費用負担者も賠償責任を負う。被害者の救済の実効性を確保する趣旨である。
被告 責任 設置者・管理者 2条に基づく責任 費用負担者 3条に基づく責任(設置者・管理者と連帯)損失補償との関係
国家補償の全体像
制度 根拠 要件 性質 国家賠償 国賠法1条・2条 違法な行為による損害 不法行為責任 損失補償 憲法29条3項 適法な行為による特別の犠牲 公平負担の原則谷間の問題
適法でも違法でもない行為(国賠法の要件を満たさず、損失補償の要件も満たさない場合)による損害について、救済の谷間が生じうる。この問題に対しては、違法性の概念を拡大する方法や、憲法29条3項の直接適用による補償を認める方法が主張されている。
試験対策での位置づけ
答案の基本的な流れ(1条)
- 「公権力の行使」該当性を認定
- 「職務を行うについて」の該当性(外形標準説)
- 「違法」の判断(職務行為基準説に基づく検討)
- 「故意又は過失」の認定
- 損害及び因果関係の認定
答案の基本的な流れ(2条)
- 「公の営造物」該当性を認定
- 「設置又は管理の瑕疵」の検討(通常有すべき安全性を欠くか)
- 道路か河川かにより判断基準を区別
- 損害及び因果関係の認定
よくある質問(FAQ)
Q1. 国賠法1条の責任の性質は代位責任か自己責任か?
通説は代位責任説(公務員の行為の責任を国が代位して負う)に立つ。もっとも、自己責任説(国の組織体としての責任)も有力に主張されている。判例は必ずしも明示的にいずれかの立場をとっていないが、公務員の特定を要求しない運用は自己責任説に親和的である。
Q2. 立法行為が国賠法上違法となるのはどんな場合か?
最判昭60.11.21によれば、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反している場合など例外的な場合に限られる。最判平17.9.14はこの例外に該当すると判断した。近年は立法不作為についても違法性が認められる事例が蓄積されている。
Q3. 2条の「瑕疵」は無過失で認定されるのか?
そのとおり。2条責任は無過失責任であり、管理者の過失の有無にかかわらず、営造物が通常有すべき安全性を欠いていれば瑕疵が認められる(最判昭45.8.20)。
Q4. 予算不足は瑕疵の抗弁となるか?
道路については否定される(最判昭45.8.20)。河川については、財政的制約を考慮した過渡的安全性の基準が適用されるため、間接的に予算制約が考慮される(最判昭59.1.26)。
Q5. 国賠法と民法の関係は?
国賠法4条により、国賠法に定めのない事項は民法の規定が適用される。したがって、損害の範囲、過失相殺、消滅時効等については民法の規定による。
まとめ
- 1条責任: 公権力の行使に当たる公務員の故意・過失による違法な加害行為
- 違法性の判断は職務行為基準説による
- 規制権限の不行使も「著しく合理性を欠く」場合に違法となる
- 公務員個人は被害者に対して直接の責任を負わない
- 2条責任: 公の営造物の設置・管理の瑕疵による無過失責任
- 道路は通常の安全性、河川は過渡的安全性が基準
- 3条により費用負担者も賠償責任を負う
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