将来債権の譲渡(466条の6)とは
しょうらいさいけんのじょうと
将来債権の譲渡とは、意思表示の時にまだ発生していない債権を譲渡することで、その時に債権が現に発生していることは要らず、譲受人は債権が発生した時に当然に取得します(466条の6第1項・2項)。
開業したばかりの診療所が、これから8年間に保険機関から受け取る診療報酬をまとめて譲渡して、開業資金を借りることがあります。まだ診療もしていない以上、その債権は生まれていませんが、民法はこうした将来の債権も譲渡できると定めています。債権が実際に生まれたときに譲受人が当然に取得し、対抗要件も今のうちに備えられます。将来の売上げを担保に資金を集める企業金融を支えるための仕組みです。
将来発生すべき債権も譲渡でき、締結時に発生が確実に期待されることは要件ではありません
債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しません(466条の6第1項)。改正前の判例は、将来発生すべき診療報酬債権の譲渡について、締結時に目的債権が発生する可能性が低かったとしても、そのことは譲渡契約の効力を当然には左右せず、債権が発生しなかったときの譲受人の不利益は譲渡人の契約上の責任で清算されるとしました(最判平成11年1月29日)。期間の長さで一律に制限することもしていません。「その締結時において目的債権の発生が確実に期待されるものでなければ,効力を生じない」という肢は誤りです。ただし同じ判例は、締結時の事情から、譲渡人の営業活動に対して社会通念に照らし相当な範囲を著しく逸脱する制限を加え、又は他の債権者に不当な不利益を与えるものと見られる特段の事情がある場合には、公序良俗に反するなどとして契約の効力の全部又は一部が否定されることがあるとしています。
譲渡の目的とされる債権は、発生原因や金額、期間の始期と終期などで他の債権と識別できるように特定されなければなりません
判例は、将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約では、譲渡の目的とされる債権が発生原因や譲渡に係る額などで特定されるべきで、一定期間内に発生し又は弁済期が到来する債権を目的とするときは、期間の始期と終期を明確にするなどして特定されるべきだとしています(最判平成11年1月29日)。他の債権と識別できればよいので、債務者が特定されていなくても、譲渡の対象とされる債権の範囲が特定されていれば譲渡できます。将来の多数の債権をまとめて担保に入れる集合債権の譲渡担保も、この特定ができれば有効で、その対抗要件は集合動産・集合債権の譲渡担保の語で扱います。
譲受人は発生した債権を当然に取得し、対抗要件は債権の発生前に通知又は承諾で備えられます
債権が譲渡された場合に、その意思表示の時に債権が現に発生していないときは、譲受人は、発生した債権を当然に取得します(466条の6第2項)。債権が発生するたびに改めて譲渡の手続をする必要はありません。債権の譲渡は、現に発生していない債権の譲渡を含めて、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗できません(467条1項)。将来債権の譲渡でも、債権の発生前に確定日付のある証書による通知又は承諾をすれば、第三者に対する対抗要件を備えられます(同条2項)。二重譲渡の優劣は債権譲渡の対抗要件の語で扱います。
対抗要件具備時までに譲渡制限の意思表示がされれば譲受人は悪意とみなされ、具備後にされた譲渡制限は譲受人に対抗できません
将来債権が譲渡された場合に、譲渡人が通知をし又は債務者が承諾をした時(対抗要件具備時)までに譲渡制限の意思表示がされたときは、譲受人その他の第三者がそのことを知っていたものとみなして、466条3項が適用されます(466条の6第3項)。債務者は譲渡に関与していないので、譲渡を知るまでは弁済の相手方を固定する利益を守る趣旨です。預貯金債権なら466条の5第1項が適用され、悪意とみなされた譲受人には譲渡制限を対抗できます(同項括弧書)。逆に、通知が債務者に届いた後に譲渡人と債務者が譲渡禁止の特約をしても、債務者は譲受人を悪意とみなして履行を拒むことはできません。「Bは,Cに対し,Cがその特約の存在を知っていたものとみなして,債務の履行を拒むことができる」という肢(通知の後に特約)は誤りです。
民法466条の6第1項
債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。
民法466条の6第2項
債権が譲渡された場合において、その意思表示の時に債権が現に発生していないときは、譲受人は、発生した債権を当然に取得する。
民法466条の6第3項
前項に規定する場合において、譲渡人が次条の規定による通知をし、又は債務者が同条の規定による承諾をした時(以下「対抗要件具備時」という。)までに譲渡制限の意思表示がされたときは、譲受人その他の第三者がそのことを知っていたものとみなして、第四百六十六条第三項(譲渡制限の意思表示がされた債権が預貯金債権の場合にあっては、前条第一項)の規定を適用する。
論文ではこう使う
論文では、長期間の将来債権の包括的な譲渡や譲渡担保の効力が争われる場面で使います。466条の6第1項で将来債権の譲渡が許されることを示し、目的債権の特定(発生原因・金額・始期と終期)を事実に当てはめ、発生の確実性は要件でないとする判例を示します。そのうえで、譲渡人の営業を過度に拘束し又は他の債権者を不当に害する特段の事情がないかを、期間・範囲・譲渡人の資産状況から検討し、公序良俗違反(90条)による制限の有無を論じます。将来の賃料債権を譲渡した後に賃貸不動産が譲渡された場合に、新所有者のもとで生じる賃料に譲渡の効力が及ぶかも、見解が分かれる論点として問われます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。