第三者の違憲主張適格とは
だいさんしゃのいけんしゅちょうてきかく
第三者の違憲主張適格とは、訴訟の当事者が、自分に適用される法令ではなく第三者に適用される部分の違憲性を主張できるかという問題です。付随的審査制のもとでは自己の権利に関わる限りで違憲を主張するのが原則ですが、第三者所有物没収事件(最大判昭和37年11月28日)のように例外が認められる場合があります。
自分の成績のことで先生に抗議するのは当然ですが、友だちの成績のつけ方がおかしいと自分の話として持ち出すのは筋が違います。裁判でも、当事者は自分の権利に関わる範囲で法令の違憲を主張するのが原則です。ただし、密輸の被告人が、告知も弁解の機会もないまま没収された他人の荷物について違憲を主張した事件では、最高裁判所は例外を認めました。被告人自身にも不利益があり、荷物の持ち主には自分で争う手段がなかったからです。
原則として、自己に適用される法令の違憲性のみを主張できます
付随的審査制の目的は個人の権利保護にあります。そこから、他人の権利侵害を持ち出して法令を争うことは筋が違う、という原則が導かれます。もっとも、この原則を裏返して、主張できる争点が当事者の権利に限られると言い切ることはできません。「付随的違憲審査制は,個人の権利保護を主たる目的とする私権保障型の憲法裁判制度であり,客観的な憲法秩序の保障を主目的とする抽象的違憲審査制とは制度趣旨が異なる,したがって,付随的違憲審査制の訴訟で主張できるのは,訴訟当事者の権利に限られる」という肢は誤りです。原則は原則であって、例外を一切認めないという意味ではありません。第三者の憲法上の権利が現実に侵害される場合、その主張を当事者にさせることが適切な状況がありえますし、文面上無効の法理による主張も認められえます。原則を機械的に貫くと、誰も違憲を争えない規定が残ってしまうという不都合が生じます。
- 原則自己に適用される法令の違憲性のみを主張できる。他人の権利に干渉して救済を求めることは許されない
- 例外の要件第三者の権利の重要性、当事者と第三者の関係の密接さ、第三者が別に権利を争う手段をもたないことなどを考慮して、例外的に主張を認める
第三者所有物没収事件は、この原則に例外を認めました
最大判昭和37年11月28日(第三者所有物没収事件)は、密輸事件で第三者の所有物が没収された事案について、被告人が第三者の権利を援用して違憲を主張することを認めました。「第三者の所有物を没収する言渡しを受けた被告人は,当該第三者の権利を援用して,所有者に対し何ら告知,弁解,防御の機会を与えることなくその所有権を奪うことは憲法に違反する旨主張することはできない」という肢は誤りです。同じ内容を判例の趣旨として問う「判例によれば、関税法の没収規定に基づき、密輸しようとした第三者の所有物について没収の言渡しを受けた被告人が、当該規定が、第三者の財産について、第三者に何らの告知、弁解、防御の機会を与えることなく所有権を奪うものであるとし、第三者の権利を援用して違憲の主張をすることは、訴訟において他人の権利に干渉し救済を求めるものであるから許されない」という肢も誤りです。いずれも、他人の権利に干渉して救済を求めるものだから許されない、という理由づけで結論を反対にしています。判決は、没収の対象が第三者の所有物であっても、被告人に対する附加刑として言い渡される以上、被告人自身がその違憲性を争う利益をもつとみました。
例外を支えるのは、第三者が別に争う手段をもたないことです
この事案で例外が認められた理由は二つあります。第一に、被告人は没収によって当該物を占有し使用する権利を失い、また第三者から賠償を求められる可能性があるため、自身の利益が害されるという点です。第二に、第三者は刑事手続の当事者ではなく、自分で告知と聴聞を求める手段をもたないという点です。この二つがそろうことで、他人の権利に干渉するという非難が当たらなくなります。逆にいえば、第三者が自分で争う道をもつ場面では、例外を認める必要がありません。この判決は、31条の保障が行政手続にも及ぶかという議論や、告知と聴聞の機会の保障という論点の出発点にもなっており、違憲主張適格の話だけで終わる判例ではありません。
選挙無効訴訟で他者の選挙権の制限を争うことはできません
最決平成26年7月9日(違憲の争点を提起しうる当事者適格――選挙無効訴訟)は、成年被後見人の選挙権の制限をめぐって、選挙人が公職選挙法204条の訴訟でこれを争えるかを判断しました。「判例によれば、公職選挙法の規定において、一定の者につき選挙権を制限していることの憲法適合性については、当該者が自己の選挙権の侵害を理由にその救済を求めて提起する訴訟においてこれを争うことの可否はおくとしても、同法第204条の選挙無効訴訟において選挙人らが他者の選挙権の制限に係る当該規定の違憲を主張してこれを争うことは法律上予定されていない」という肢は正しいです。選挙無効訴訟は民衆訴訟(行政事件訴訟法5条)であり、法律に定める者が法律に定める場合に限り提起できるもので、選挙の管理執行に関する規定への違反を無効原因として選挙の効力を争う訴訟として法律が設けたものです。そこで他者の選挙権の制限を争うことは法律上予定されていない、という理由づけです。制限を受けた本人が自ら争う道があることも、例外を認めない方向に働きます。第三者所有物没収事件との違いは、当事者自身の不利益があるか、第三者に別の救済手段があるか、という二点に現れています。同じ違憲主張適格の問題でも、訴訟の型によって結論が変わる例です。
過度に広汎な規制の文面上無効の主張は、別の枠組みです
表現の自由の分野では、自分の行為が規制されてもやむをえない場合でも、法令が広汎にすぎることを理由に文面上無効を主張できるとされます。これは第三者の権利を援用する場面に似ていますが、根拠は違います。広汎な規制が存在すること自体が萎縮効果を生み、自分を含めた表現活動を縮ませるからです。「裁判所は,処罰対象となる行為が過度に広汎であることが争われている罰則の合憲性の判断に当たり,その規制目的や当該目的達成の手段としての合理性等を審査する場合がある」という肢は正しく、最判平成19年9月18日は、条例の文言が過度に広汎だと争われた事案で規制の対象を限定的に解釈したうえで、規制目的の正当性、手段の合理性、得られる利益と失われる利益の均衡を検討しました。過度に広汎かどうかは、目的と手段を確定して初めて判定できるからです。第三者の権利の援用と文面上無効の主張は、根拠の異なる別の枠組みです。
違憲主張適格は、訴えの適法性ではなく主張の許否の問題です
用語に「適格」とあるため訴訟要件の話と混同しやすいのですが、ここで問われているのは、適法に係属している訴訟の中でどの主張を取り上げるかという問題です。訴えが不適法として却下されるわけではなく、その主張が判断の対象にならないにとどまります。選挙無効訴訟の事案でも、訴え自体は適法に係属しており、他者の選挙権の制限という争点を審理の対象としない、という形で処理されています。答案では、訴訟要件の検討を終えたうえで、本案の主張として取り上げられるかを論じる、という順序を守ります。
最大判昭和37年11月28日(第三者所有物没収事件)
第三者の所有物を没収する場合において、その没収に関して当該所有者に対し、何ら告知、弁解、防禦の機会を与えることなく、その所有権を奪うことは、著しく不合理であつて、憲法の容認しないところであるといわなければならない。
論文ではこう使う
論文では、当事者が自分以外の者への適用を問題にする場面で使います。まず付随的審査制から原則を示し、そのうえで例外を認める要素として、第三者の権利の重要性、当事者と第三者の関係、第三者が別に争う手段をもつかどうかを挙げます。第三者所有物没収事件では、被告人自身の不利益と第三者の手続保障の欠如の二つがそろっていた点を具体的に指摘します。表現の自由の事案では、第三者の違憲主張適格ではなく文面審査の枠組みで論じるほうが素直なことが多いので、どちらの問題かを冒頭で確定します。原則から入って例外の要素を一つずつ検討する形をとれば、結論がどちらでも説得力のある答案になります。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。