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二重の基準論と審査基準とは

にじゅうのきじゅんろん

憲法 憲法訴訟・憲法保障

二重の基準論とは、精神的自由に対する制約の合憲性は、経済的自由に対する制約の合憲性よりも厳しい基準によって審査されるべきだとする考え方です。精神的自由が制約されると民主政の過程による回復が期待できないことと、裁判所が社会経済政策の当否を判断する能力に限界があることが根拠とされ、審査基準は厳格審査・中間審査・合理性の基準に分かれます。

学校で、生徒が意見を言う自由を先生が制限するのと、購買部の営業時間を制限するのとでは、後で生徒が「おかしい」と声を上げて正せるかどうかが違います。意見を言う自由が奪われれば、正す手段そのものが失われるからです。憲法の世界でも同じで、表現の自由のような精神的自由が制約されると、選挙や議論を通じて法律を改めさせる民主政の過程が働かなくなります。だから裁判所は精神的自由の制約を厳しく審査し、経済的自由の制約は立法府の判断を尊重して緩やかに審査します。

裁判所の法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座り、目の前に二つの秤。左の秤は「精神的自由(表現の自由 21条)」で、深紅の細かい目盛りと札「厳格な審査」。右の秤は「経済的自由(職業の自由 22条・財産権 29条)」で、粗い目盛

二重の基準論は、精神的自由と経済的自由で審査密度を変えます

同じ「公共の福祉」による制約でも、制約される権利の性質によって裁判所の審査の厳しさが変わります。「職業活動の自由についても精神的自由についても,国の積極的な社会経済政策のために規制することが許されるのは同様であるが,前者の自由を規制する場合には立法府の裁量的判断が広く認められる点が異なる」という肢は誤りです。積極的な社会経済政策による規制が許されるのは経済的自由についてであって、精神的自由について同じことはいえません。最大判昭和47年11月22日(小売市場事件)は、個人の経済活動の自由に関する限り、個人の精神的自由等に関する場合と異なって、社会経済政策の実施の一手段として合理的な規制措置を講ずることは憲法が予定し許容するところだとしており、前半で両者を同列に置いている点が誤りです。精神的自由を積極的な政策目的で制約することは、原則として許されません。

  • 厳格審査の基準目的がやむにやまれぬ利益であり、手段がそのために必要不可欠であることを要求する。精神的自由の内容規制など
  • 中間審査の基準目的が重要であり、手段が目的と実質的な関連性をもつことを要求する。表現の時・場所・方法の規制や消極目的の経済規制など
  • 合理性の基準目的が正当であり、手段が目的と合理的な関連性をもてば足りる。積極目的の経済規制では、著しく不合理であることが明白な場合に限り違憲とする明白性の原則まで緩められる

根拠は、民主政の過程による回復が期待できるかどうかにあります

二重の基準論の中心的な根拠は、精神的自由が民主政の過程そのものを支える点にあります。「二重の基準論の一つの根拠として、精神的自由への制約の場合は、民主政の過程自体がゆがめられるから裁判所の積極的な審査が要請されるが、経済的自由への制約の場合は、裁判所は民主的手続の中でなされた立法者の判断の合理性を尊重すべきである、ということが挙げられる」という肢は正しいです。表現の自由が失われると、その制約の不当を訴えて法律を改めさせる道まで閉ざされます。これに対し経済的自由の制約は、選挙と立法の過程を通じて是正する余地が残ります。裁判所が積極的に介入すべき場面を、この違いで説明します。民主的正統性をもたない裁判所が立法を覆すことへの疑問に対しても、この根拠は答えになります。民主政の過程が正常に働かなくなる場面でこそ、裁判所の出番だという説明です。

先生が憲法の先生役(札「二重の基準の根拠」)で黒板の前に立ち、黒板に循環の図。「国民」→「選挙」→「国会・法律」→「国民」の輪が描かれ、「表現の自由・参政権」の札が輪の矢印そのものに貼られている。輪の一か所に深紅の×印と「精神的自由の制約:

裁判所の判断能力の限界も、経済的自由の審査を緩める理由です

もう一つの根拠は、社会経済政策の当否を判断する資料と能力を裁判所がもたないことです。この発想が最も強く現れるのが明白性の原則です。「財産権規制の目的が公共の福祉に合致しないことが明らかであるか,規制手段が規制目的を達成する手段として必要性や合理性に欠けていることが明らかであって,立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り,当該規制立法は違憲となる」という肢は正しいです。最大判昭和62年4月22日(森林法共有林事件)が示したこの枠組みは、規制目的が公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、手段の必要性・合理性に欠けることが明らかである場合に限って違憲とするもので、審査密度が最も低い形です。もっとも同判決は、共有林の分割請求を制限する規定について、この緩やかな枠組みを用いながら違憲の結論に至っています。明白性の原則を掲げれば必ず合憲になるわけではありません。

判例は、間接的・付随的制約に厳格な審査を及ぼしていません

二重の基準論を採るからといって、精神的自由に関わるすべての規制が厳格に審査されるわけではありません。「判例は、精神的自由に対する制約の合憲性を経済的自由に対する制約の合憲性より厳しく審査すべきであるという二重の基準論を採用し、表現活動に対する制約については、表現内容に基づく制約だけでなく、間接的・付随的制約の合憲性についても厳格な審査を及ぼしている」という肢は誤りです。最大判昭和49年11月6日(猿払事件)は、禁止の対象が表現そのものではなく公務員の政治的行為であることから、制約は意見表明そのものの制約ではなくそれに伴う間接的・付随的なものにすぎないとして、合理的関連性の基準で判断しました。判例が二重の基準論を採っているかはともかく、制約の態様を理由に審査密度を下げた例です。学説からは、公務員の政治的表現そのものを狙った規制ではないかという批判が強く向けられています。表現の内容に着目しない規制であっても、実際に制約される行為が表現であることに変わりはないからです。

先生が最高裁判所の裁判官役(札「最高裁判所」)で法壇に座り、被告席に郵便局員の男性(札「現業公務員:勤務時間外に選挙ポスター掲示」)。先生の机に二枚の札。「表現内容に基づく制約」には細かい目盛りの秤と「厳格な審査」、「間接的・付随的制約:禁

経済的自由の内部でも、規制目的によって審査密度が分かれます

経済的自由の中でも、消極目的の規制と積極目的の規制で基準が分かれるとされてきました。最大判昭和47年11月22日(小売市場事件)は積極目的について明白性の原則を用い、最大判昭和50年4月30日(薬局距離制限事件)は消極目的について厳格な合理性の基準を用いています。もっとも、この二分論で割り切れない事例もあります。「酒類販売業免許制は、一部地域における販売店の乱立による過当競争のために経済的基盤の弱い小売商の経営が不安定となることを防止するとともに、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという目的で実施されたものであって、その必要性と合理性があり、立法府の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理であるとまでは断定し難いから、憲法第22条第1項に違反しない」という肢は誤りで、最判平成4年12月15日が酒類販売の免許制について挙げた目的は、小売商の保護ではなく酒税の適正かつ確実な賦課徴収という財政目的でした。

先生が憲法の先生役(札「経済的自由の規制目的」)で黒板の前に立ち、黒板に三本の柱。「積極目的(経済的弱者の保護など):明白性の原則 小売市場事件 最大判昭47.11.22」「消極目的(安全・秩序の維持):厳格な合理性の基準 薬事法距離制限

「公共の福祉」を一元的に理解すると、広い裁量論に流れる危険があります

審査基準を立てることの意味は、制約の許否を場当たり的な衡量から救い出すところにあります。「すべての人権に論理必然的に内在する「公共の福祉」は,人権相互間に生じる矛盾・衝突の調節を図るための実質的公平の原理であり,例えば,社会権を実質的に保障するために自由権を制約する場合には必要な限度の規制が認められるという見解がある,しかし,この見解では,憲法第22条,第29条の「公共の福祉」が,結局,国の経済的・社会的政策という意味でとらえられることになり,広汎な裁量論の下で経済的自由権と社会権の保障が不十分になるおそれがある」という肢は誤りです。前段の見解は一元的内在制約説ですが、この説では人権を制約する根拠は人権にしかなく、22条と29条の「公共の福祉」は特段の意味をもたないことになります。したがって、これらの「公共の福祉」が国の経済的・社会的政策の意味に捉えられて広汎な裁量論に流れるという後段の批判は、この説には当たりません。この説に向けられる批判は、人権の範囲はそれほど広くなく、人権相互の調整だけで社会権の実現のための制約を説明しきれるのか、というものです。

最大判昭和50年4月30日(薬局距離制限事件)

職業の自由に対する規制措置は、事情に応じた各種各様のものがありうるのであり、その規制措置が憲法二二条一項にいう公共の福祉のために要求されるものとして是認されるかどうかは、これを一律に論ずることができず、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによつて制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量したうえで慎重に決定されなければならない。

論文ではこう使う

論文では、審査基準を設定する場面で使います。まず制約される権利の性質を示し、精神的自由であれば民主政の過程による回復が期待できないことを理由に厳格な審査を導きます。経済的自由であれば、規制の目的が消極目的か積極目的かを確認したうえで、判例の用いた基準に合わせます。権利の分類だけで基準を決めないようにします。制約の態様が直接的か間接的か、規制が内容に着目するかどうかも、審査密度を左右します。猿払事件のように、精神的自由でありながら緩やかな基準が用いられた例を踏まえて、基準の選択理由を具体的に書きます。

試験ではこう問われる

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