立法不作為の違憲性とは
りっぽうふさくい
立法不作為の違憲性とは、国会が憲法上必要とされる立法をしないこと、または違憲な状態を是正せずに放置することが憲法違反になるかという問題です。立法の内容が違憲であることと、国会議員の立法行為が国家賠償法上違法であることは別に判断され、争い方としては国家賠償請求と権利があることの確認の訴えが用いられます。
学校が「全員に体育館の使用を認める」と決めているのに、車いすの生徒が使えるスロープを何年も付けないままなら、決まりに反する状態を放置していることになります。国会も、憲法が保障する権利を行使できない状態を法律を作らずに放置することがあり、これが立法不作為です。裁判所は国会に立法を命じることはできないので、放置された人が国に損害賠償を求めたり、次の選挙で投票できる地位の確認を求めたりする形で争います。違憲かどうかと、賠償が認められるかは別の問題です。
立法内容の違憲性と、国賠法上の違法性は別の問題です
最判昭和60年11月21日(在宅投票制度廃止事件)は、国会議員の立法行為は立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき例外的な場合でない限り国賠法上違法の評価を受けないとしました。違憲であることと、国会議員の行為が違法であることを切り離す枠組みです。国会議員の立法行為は国民全体に対する政治的責任を負うにとどまり、個々の国民の権利に対応した法的義務を負うものではない、というのがその理由でした。この枠組みのもとでは、賠償が認められる場面はほとんどありません。実際、同判決は在宅投票制度を廃止し復活させなかった国会の対応について、違法とはいえないとしました。「前記判決は,在外日本国民の選挙権行使を制限する公職選挙法の規定について違憲と判断したものであるが,「仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても,それゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない」として,立法不作為を理由とする国家賠償請求は認めなかった」という肢は誤りです。引用されている一節自体は最大判平成17年9月14日の判文に実在しますが、判決はその直後に「しかしながら」と続けて例外を示し、本件の著しい不作為はその例外的な場合に当たるとして国家賠償請求を認容しました。引用が途中で断ち切られている点が誤りです。
- 国家賠償請求立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法となるかを争う。立法内容の違憲性とは区別して判断される
- 確認の訴え次回の選挙で選挙権を行使できる地位にあることの確認など、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして提起する
- 違憲確認訴訟立法不作為そのものの違憲確認を求める訴え。具体的事件性を欠くとして、一般には認められない
在外国民選挙権訴訟は、国賠請求を認めました
最大判平成17年9月14日(在外日本人選挙権訴訟)は、在宅投票制度廃止事件の厳格な枠組みを実質的に緩め、権利行使の機会を確保するために立法措置が必要不可欠であることが明白であるのに正当な理由なく長期にわたって怠った場合には違法になるとしました。そのうえで、在外国民の選挙権を制限していた公職選挙法の規定を違憲とし、賠償を認めています。長期にわたり是正の措置がとられなかったこと、通信技術の発達により在外投票の技術的な困難が解消されていたことが、判断を支えました。「最高裁判所は、立法不作為により在外国民が選挙権を行使することができない場合に、立法不作為の違憲を理由とする国家賠償請求を認めるほか、次回の選挙において選挙権を行使する権利を有することの確認を求める訴えについても、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして適法であるとして、これを認めている」という肢は正しいです。
確認の訴えによる救済も認められました
同判決のもう一つの意義は、救済方法を広げた点にあります。次回の選挙において在外国民が選挙権を行使できる地位にあることの確認を求める訴えを、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして適法としました。金銭賠償にとどまらず、将来の権利行使そのものを確保する道を開いた判断です。立法不作為を争う場面では、どの訴訟形式を選ぶかが実際上の勝敗を分けるので、賠償と確認の二本立てになります。
選挙権の制限には、やむをえない事由が必要です
同判決は、選挙権またはその行使を制限するには、そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不可能または著しく困難であると認められる場合でなければならないとしました。「前記判決は,国政選挙の選挙権について,「国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として議会制民主主義の根幹を成すものであり,民主国家においては,一定の年齢に達した国民の全てに平等に与えられるべきものである」と指摘しているが,同判決の考え方に従ったとしても,自ら選挙の公正を害する行為をした者の選挙権について一定の制限をすることまで違憲となるわけではない」という肢は正しいです。他方で「比例代表選出議員の選挙と異なり,衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙については,選挙権を行使する者が日本国内の特定地域に現に居住していることを前提としているから,上記判決の考え方に従ったとしても,衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙における在外日本国民の選挙権の行使を制限することまで違憲となるわけではない」という肢は誤りで、同判決は、遅くとも判決言渡し後に初めて行われる総選挙または通常選挙の時点では、衆議院小選挙区選出議員の選挙と参議院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票を認めないことにやむを得ない事由があるとはいえず違憲だとしました。通信技術の発達で候補者情報の提供が可能になったからです。
立法不作為そのものの違憲確認は、具体的事件性を欠くとされます
立法不作為が違憲であることの確認だけを求める訴えは、付随的審査制のもとでは認められないのが原則です。具体的な権利義務の争いの形をとっておらず、抽象的に立法の当否を裁判所に問うものだからです。そのため、実際の争い方は、賠償請求か、具体的な地位の確認という形をとることになります。在外国民選挙権訴訟が確認の訴えを適法としたのも、次回の選挙で選挙権を行使できる地位という具体的な法律関係を対象としていたからです。訴訟形式の選び方が救済の成否を左右する分野です。給付を求める訴えや、処分の取消しを求める訴えの形をとれるかも、あわせて検討します。
社会権では、立法不作為の違憲確認は認められにくいです
選挙権の分野と異なり、社会権の実現に必要な立法を怠っていることを理由に違憲確認を求める道は開かれていません。「憲法第27条の勤労の権利は,これを直接根拠として行政庁に対してその実現を求め得る具体的請求権であるとは解せないものの,立法府が勤労の機会を実質的に確保するため最低限度の立法をしないときには,憲法第27条に基づいて,立法不作為の違憲確認訴訟を提起できる」という肢は誤りです。どのような制度を設けるかが立法裁量に委ねられている以上、裁判所が不作為の違憲を宣言しても、どの立法をすべきかまでは示せないからです。27条の勤労の権利も、直接の請求権を基礎づけるものではありません。もっとも、熊本地判平成13年5月11日(ハンセン病国家賠償訴訟)は、隔離政策を定めた法律を長期にわたり改廃しなかったことについて、立法不作為の違法を認めました。
最大判平成17年9月14日(在外日本人選挙権訴訟)
立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法一条一項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。
論文ではこう使う
論文では、必要な立法がされていないことを争う場面で使います。まず立法内容の違憲性を論じ、次にそれとは別に国賠法上の違法性を検討する、という二段構えを明示します。違法性の判断では、在外国民選挙権訴訟の枠組みを立て、権利行使の機会の確保に立法が必要不可欠か、それが明白か、正当な理由なく長期にわたり放置されたかを順に当てはめます。救済方法としては、賠償に加えて確認の訴えの可能性にも触れます。社会権の分野では立法裁量が広く、同じ枠組みで書いても違法が認められにくいことを踏まえた結論にします。権利の性質が、不作為を違法と評価できるかどうかを大きく左右します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。