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国務請求権とは

こくむせいきゅうけん

憲法 人身の自由・国務請求権

国務請求権とは、裁判を受ける権利(32条)、請願権(16条)、国家賠償請求権(17条)、刑事補償請求権(40条)のように、国家に対して積極的な行為を求める権利をまとめた呼び名です。いずれも法律の定めるところにより具体化されますが、その法律が憲法の趣旨に反すれば違憲となります。

書留で送った大切な書類を郵便局員がわざと捨てても、かつての郵便法では国に賠償を求められませんでした。国が公務員の不法行為の責任を負うこと自体は憲法17条が決めていて、法律はその中身を定めるだけだからこそ、最高裁は故意や重大な過失まで免責する規定を違憲としました。裁判を受ける権利、請願権、刑事補償請求権も同じで、国に行為を求める権利は法律で形が決まりますが、法律が憲法の趣旨を骨抜きにすることは許されません。

国の庁舎の前の場面。奥に大きな建物と看板「国」。左に市民の男性(札「国民」)が4枚の紙を掲げており、それぞれに「裁判を受ける権利(32条)」「請願権(16条)」「国家賠償請求権(17条)」「刑事補償請求権(40条)」。男性の吹き出し「国に賠

国務請求権は、国家に積極的な行為を求める権利で、法律による具体化を予定しています

国務請求権は、国家に対して積極的な行為を求める権利の総称です。裁判を受ける権利(32条)、請願権(16条)、国家賠償請求権(17条)、刑事補償請求権(40条)がこれにあたります。国家に干渉しないことを求める自由権と異なり、国家に裁判や賠償という行為をしてもらう権利なので、誰がどの手続でどれだけ受けられるかを法律で定めなければ動きません。17条と40条が「法律の定めるところにより」と書いているのはそのためです。その半面、制度の設計を法律に委ねる部分が大きいため、立法裁量の限界をどこに引くかが中心的な論点になります。

  • 裁判を受ける権利(32条)政治権力から独立した裁判所に権利義務の争いの裁判を求める権利
  • 請願権(16条)損害の救済や法律の制定改廃などを求めて請願する権利。応答義務は生じない
  • 国家賠償請求権(17条)公務員の不法行為により損害を受けた場合に賠償を求める権利
  • 刑事補償請求権(40条)抑留又は拘禁の後、無罪の裁判を受けた場合に補償を求める権利

17条は、賠償責任の免除や制限を立法裁量に全面的に委ねてはいません

17条は、法律の定めるところにより賠償を求めることができると規定しており、具体化を法律に委ねています。しかし、それは立法府に全面的な裁量を認める趣旨ではありません。最大判平成14年9月11日(郵便法違憲判決)は、17条は国又は公共団体が公務員の行為による不法行為責任を負うことを原則とした上、公務員のどのような行為によりいかなる要件で損害賠償責任を負うかを立法府の政策判断にゆだねたものであって、立法府に無制限の裁量権を付与するといった法律に対する白紙委任を認めているものではないと述べました。「憲法第17条は,公務員の不法行為による国又は公共団体の損害賠償責任を免除又は制限する法律が立法権の裁量を逸脱したものである場合には,これを違憲無効とする効力を持つ規定である」という肢は正しいです。したがって、「これは公務員のどのような行為によりいかなる要件で賠償責任を負うかを全面的に立法府の裁量判断に委ねる趣旨であるから,このような法律の定めが同条に反することはないと解される」という肢は誤りです。同判決は、書留郵便物について郵便業務従事者の故意又は重大な過失による不法行為に基づく損害賠償責任まで免除又は制限している部分を、立法の裁量の範囲を逸脱するとして違憲としました。判断の枠組みは、行為の態様、侵害される法的利益の種類と侵害の程度、免責又は責任制限の範囲と程度に応じ、規定の目的の正当性と、目的達成の手段として免責を認めることの合理性と必要性を総合的に考慮するというものです。郵便業務の特殊性から一定の責任制限が許されることは認めたうえで、故意または重大な過失の場合にまで免責を及ぼすことに合理性がないとした点が、この判決の核心です。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座っている。左に郵便局の窓口の男性(札「郵便業務従事者」)が「書留」と書かれた封筒をごみ箱に放り込んでいる小さな絵。先生の前に差出人の男性(札「差出人」)が立ち、吹き出し「故意で書留を失くさ

17条の意義は、国家無答責の原則を否定した点にあります

明治憲法には国又は公共団体の賠償責任を定める規定がなく、公権力の行使による損害について国は責任を負わないという国家無答責の原則が妥当すると解されていました。もっとも、公の施設の管理のような非権力的な管理作用については、大審院の判例上、民法の不法行為の規定を適用して賠償責任がある程度認められていました。17条の意義は、権力作用についても国家無答責の原則を否定し、賠償責任を明記した点にあります。「国又は公共団体の行為が,いわゆる非権力的な管理作用に属する場合は,大日本帝国憲法下でも判例上民法第709条以下の規定による不法行為責任がある程度まで認められていた」と前置きしたうえで「それゆえ,日本国憲法第17条の意義は,権力作用に属する不法行為との関係で国家無答責の原則を否定し,国家の賠償責任を明記した点にあるということができる」と続ける肢は正しいです。また、17条の公務員の不法行為には、権力作用によるものだけでなく非権力作用によるものも含まれます。「憲法第17条が定める「公務員の不法行為」には,権力作用によるものばかりでなく,非権力作用によるものも含まれる」という肢は正しいです。17条は公務員の不法行為と書くだけで、作用の性質を権力的なものに限る文言を置いていないからです。これを受けた国家賠償法1条1項の公権力の行使も、純粋な私経済作用と同法2条が対象とする営造物の設置管理作用を除くすべての作用を含むと解されています。国会議員の立法行為が国家賠償法上違法となるかという問題も、17条の具体化の一場面として扱われ、立法の内容が違憲であることと、立法行為が国家賠償法上違法であることは区別されます。

裁判を受ける権利は、上訴の制限や手続の簡略化まで禁ずるものではありません

32条は、権利義務の争いについて裁判所の判断を求める道を保障するものであって、審級の数や手続の形式まで定めるものではありません。どの範囲で上訴を認めるかは審級制度の問題として立法府の合理的な裁量に委ねられます。最判平成13年2月13日(上告理由の制限と裁判を受ける権利)は、上告理由を限定する民事訴訟法の規定を合憲としました。最判平成21年7月14日は、即決裁判手続の判決に対して犯罪事実の誤認を理由とする控訴を制限する規定について、そのような上訴を許すと上訴に備えて必要以上の証拠調べが行われ手続の趣旨が損なわれるおそれがあるとして、32条に反しないとしました。「即決裁判手続は,争いがなく明白かつ軽微な事件について,簡易かつ迅速に公判の審理及び裁判を行うことにより,手続の合理化や効率化を図るものであり,一般の事件と異なる上訴制限を定めることに合理的理由があるから,裁判を受ける権利を侵害しているとはいえない」という肢は正しいです。他方で、非訟事件の手続で実質的に権利義務を確定することは許されず、最大決昭和35年7月6日(純然たる訴訟事件につきなされた強制調停と公開裁判の原則)は、純然たる訴訟事件について公開の法廷における対審及び判決によらずに裁判することは32条及び82条に違反するとしました。手続を簡略にしてよいのは、権利義務の存否そのものを争う場面を公開の対審から外さない限度においてです。なお、外国人にも裁判を受ける権利は等しく保障され、日本国民との間で保障の程度に差を設けることは許されません。「外国人の場合には,我が国との関係が日本国民とは異なるので,日本国民に比べて裁判を受ける権利の保障の程度に差を設けることも許される」という肢は誤りです。32条は何人もと定めており、裁判を受ける権利は、権利が侵害されたときに救済を求める最後の手段であって、権利の性質上日本国民のみを対象とするとは解されないためです。刑事被告人については37条1項が迅速な裁判を受ける権利を別に保障しており、最大判昭和47年12月20日(高田事件)は、審理の著しい遅延によりこの保障条項に反する異常な事態が生じたときは、免訴の判決で手続を打ち切ることができるとしました。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座っている。前に立つ被告人の男性(札「被告人」)が「即決裁判手続 判決」と書かれた紙を持ち、吹き出し「事実誤認を理由に控訴できないのは、裁判を受ける権利の侵害だ」。先生の吹き出し「32条は裁

刑事補償は、無罪の裁判を受けた者に対する公平の見地からの補償です

40条の刑事補償は、公務員の違法行為や故意過失の有無にかかわらず、抑留又は拘禁された後に無罪の裁判を受けた者に補償を与える制度です。合理的な嫌疑に基づいて身体を拘束し起訴すること自体は国の正当な職務行為なので、後に無罪となっても拘束が違法になるわけではありませんが、それだけでは本来必要のなかった身体の拘束を受けた者の不利益が埋まらないため、結果に対して補償することで公平を図ります。「刑事補償請求制度は,憲法第31条以下の刑事手続に関する諸権利の保障によってもなお生じる国民の不利益に対する補償を定めたものであって,公務員の違法行為や故意・過失の有無に関わりなく,結果に対する補償請求を認めており,抑留又は拘禁された後,結果として無罪の裁判を受けた者に対し,相応の補償をすることによって,公平の要請を満たそうとするものである」という肢は正しいです。刑事補償法5条1項は、補償を受けるべき者が国家賠償法により損害賠償を請求することを妨げないと定めています。「抑留又は拘禁の上,起訴された者が無罪となった場合,刑事補償に加えて国家賠償も請求することができるが,後者が公務員の故意・過失を要件とするのに対して,前者はそれらを要件としない」という肢は正しいです。対象となる抑留又は拘禁の範囲も問われます。最大決昭和31年12月24日(別件勾留中の取調べと刑事補償事件)は、40条は抑留又は拘禁された後に無罪の裁判を受けたときと定めているから、被疑事実が不起訴となった場合には補償の問題を生じないとしつつ、不起訴となった事実に基づく抑留又は拘禁であっても、そのうちに実質上は無罪となった事実についてのものと認められるものがあるときは、その部分は補償の対象になるとしました。「最高裁判所の判例によれば,抑留又は拘禁の理由となった被疑事実が不起訴となった場合には,憲法第40条の補償問題は生じないが,実質上は無罪となった事実についての抑留又は拘禁と認められるものがあるときは,その部分は刑事補償の対象となり得る」という肢は正しいです。「最高裁判所は,抑留又は拘禁された後,起訴されずに釈放された者は刑事補償の対象とならないが,不起訴となった事実に基づく抑留又は拘禁であっても,そのうちに実質上は無罪となった事実についての抑留又は拘禁であると認められるものがあるときは,その部分の抑留及び拘禁は刑事補償の対象となると解している」という肢も正しいです。他方、最決平成3年3月29日(少年審判手続における不処分決定と刑事補償)は、刑事補償法1条1項の無罪の裁判とは刑事訴訟法上の手続における無罪の確定裁判をいうとしたうえで、不処分決定は刑事訴訟法上の手続とは性質を異にする少年審判の手続における決定であり、その決定を経た事件について刑事訴追をし又は家庭裁判所の審判に付することを妨げる効力もないから、非行事実が認められないことを理由とするものであっても無罪の裁判には当たらないとしました。「最高裁判所の判例によれば,刑事訴訟法上の手続における無罪の確定裁判に限らず,少年審判手続における不処分決定事件でも,非行事実が認められないことを理由とする不処分決定である場合には,憲法第40条の「無罪の裁判」に含まれる」という肢は誤りです。「最高裁判所は、緊急逮捕され少年鑑別所に収容された後、非行事実が認められないという理由で不処分決定を受けた少年が行った刑事補償請求につき、不処分決定は刑事訴訟法上の手続とは性質を異にする少年審判の手続における決定であることなどを理由として刑事補償の対象となる「無罪の裁判」には当たらないと判示した」という肢は正しいです。刑事補償の請求についての裁判は決定でされるため、この二つの判例はいずれも決定です。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座っている。左に「無罪」と書かれた紙を持つ男性(札「無罪の裁判を受けた者」)の吹き出し「勾留された日数分の補償を求める。捜査官に落ち度があったかは問わないでほしい」。先生の吹き出し「刑事補償

請願権には、受理と誠実な処理の義務しか伴いません

16条の請願権は、何人も平穏に請願する権利を有し、いかなる差別待遇も受けないと定めます。請願法5条は、請願を受けた官公署はこれを受理し誠実に処理しなければならないと定めており、受理と誠実な処理の義務は生じますが、請願の内容について審理し判定する義務、すなわち応答義務までは生じません。請願権は、参政権が十分でなかった時代に国民の声を届ける手段として発達したもので、現在では、選挙権を持たない者や少数者にとっての意味が大きい権利です。国務請求権のなかでも、法律による具体化の度合いがもっとも低い権利といえます。請願を受けた側が回答をしなかったとしても、それだけで16条違反になるわけではありません。応答義務があるとする肢は誤りです。

最大判平成14年9月11日(郵便法違憲判決)

公務員の不法行為による国又は公共団体の損害賠償責任を免除し、又は制限する法律の規定が同条に適合するものとして是認されるものであるかどうかは、当該行為の態様、これによって侵害される法的利益の種類及び侵害の程度、免責又は責任制限の範囲及び程度等に応じ、当該規定の目的の正当性並びにその目的達成の手段として免責又は責任制限を認めることの合理性及び必要性を総合的に考慮して判断すべきである。

論文ではこう使う

論文では、まずどの国務請求権が問題になるかを条文とともに特定します。国家賠償の制限が問題であれば、17条が立法裁量を全面的に委ねる趣旨ではないことを述べ、行為の態様、侵害される法的利益の種類と侵害の程度、免責や責任制限の範囲と程度に応じて、目的の正当性と手段の合理性、必要性を総合的に考慮する枠組みを立てます。裁判を受ける権利では、争いが純然たる訴訟事件かどうかを区別し、対審と判決の公開が必要かを検討します。刑事補償では、抑留又は拘禁が実質上無罪となった事実についてのものといえるかを、事実関係から当てはめます。

試験ではこう問われる

「国務請求権」が短答式でどう出題されてきたか、ひっかけの型9件と関係する過去問の肢12本は、無料のアカウントでログインすると読めます。

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