被疑者・被告人の権利とは
ひぎしゃ・ひこくにんのけんり
被疑者・被告人の権利とは、身体を拘束され刑事裁判にかけられる人のために憲法が34条から39条で具体的に定めた保障です。抑留拘禁の理由告知と弁護人依頼権(34条)、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利と証人審問権・証人喚問権(37条)、自己負罪拒否特権と自白法則(38条)、遡及処罰の禁止と一事不再理(39条)が置かれています。
逮捕された人は、外から切り離され、相手は捜査の専門家である国家です。何の理由で捕まったのか分からず、弁護士にも会えず、裁判が何年も進まないまま放置されれば、無実であっても立ち直れません。そこで憲法は、31条の適正手続を一般的に定めるだけでなく、理由の告知、弁護人への依頼、迅速で公開の裁判、証人を問いただす機会、自白の強要の禁止、処罰の遡及の禁止といった具体的な権利を一つずつ条文に書き込みました。国家と個人の力の差を手続で埋めるためです。
弁護人依頼権は、援助を受ける機会の実質的な保障を含みます
被疑者・被告人の権利は、34条から39条にかけて具体的に定められています。抑留又は拘禁には理由を直ちに告げ、弁護人に依頼する権利を与えなければならず(34条)、被告人には公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利と証人審問権、証人喚問権、弁護人依頼権が保障されます(37条)。38条は自己負罪拒否特権と自白法則を、39条は遡及処罰の禁止と一事不再理を定めます。このうち34条前段の弁護人依頼権は、官憲が弁護人の選任を妨害してはならないという消極的な意味にとどまりません。最大判平成11年3月24日は、この権利が、身体の拘束を受けている被疑者が嫌疑を晴らし人身の自由を回復するために弁護人から援助を受けられるようにすることを目的とするものだとし、弁護人を選任したうえで相談し助言を受けるなど援助を受ける機会を持つことを実質的に保障していると述べました。「憲法第34条前段の弁護人依頼権の規定は、単に被疑者が弁護人を選任することを官憲が妨害してはならないというにとどまるものではなく、弁護人から援助を受ける機会を実質的に保障しているものと解すべきであり、刑事訴訟法第39条第1項の接見交通権は、憲法第34条の趣旨にのっとり設けられたものである」という肢は正しいです。接見交通権が憲法上の権利そのものではなく、34条の趣旨にのっとって法律が設けた権利だとされている点も、正確に押さえてください。34条後段は、拘禁については正当な理由を要求し、要求があれば本人及び弁護人の出席する公開の法廷でその理由を示さなければならないと定めています。抑留が一時的な身体の拘束、拘禁がより継続的な拘束を指すという区別も、条文の読み方として確認しておいてください。
- 34条抑留・拘禁の理由の告知、弁護人依頼権、拘禁の正当な理由と公開法廷での開示
- 37条1項公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利
- 37条2項証人審問権、公費で強制的手続により証人を求める権利
- 38条1項自己に不利益な供述を強要されない
- 38条2項・3項強制・拷問・脅迫・不当に長い抑留拘禁後の自白の証拠能力否定、本人の自白が唯一の証拠なら有罪とされない
- 39条実行の時に適法だった行為や既に無罪とされた行為の処罰禁止、二重の危険の禁止
迅速な裁判の保障は、それ自体が裁判規範性を持ちます
最大判昭和47年12月20日(高田事件)は、37条1項が単に訓示的な規定ではなく、それ自体が裁判規範性を持つとし、審理の著しい遅延の結果、迅速な裁判を受ける被告人の権利が害されたと認められる異常な事態が生じた場合には、法律上の具体的な規定がなくても審理を打ち切るべきだとしました。「迅速な裁判を受ける権利を保障する憲法第37条第1項は,それ自体が裁判規範性を有しており,審理の著しい遅延の結果,被告人の上記権利が害される異常な事態が生じた場合には,法律上の具体的な根拠がなくても審理を打ち切るべきである」という肢は正しいです。逆に、「迅速な裁判を一般的に保障する憲法第37条第1項は,それ自体が裁判規範性を有するものではないので,現実にこの保障に明らかに反し,迅速な裁判を受ける被告人の権利が害されたと認められる事態が生じた場合には,これに対処すべき法律上の規定があるときに限ってその審理を打ち切ることができる」という肢は誤りです。この事件では審理が約15年にわたって実質的に中断しており、審理を打ち切る形式は免訴判決とされました。異常な事態といえるかは、遅延の期間だけでなく、その原因、被告人が受けた不利益の程度、被告人の側に遅延の責任があるかといった事情を総合して判断されます。単に審理が長期に及んだというだけで打ち切られるわけではありません。
証人喚問権は、被告人の請求する証人を全員尋問することまで求めません
37条2項後段は、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を保障します。もっとも、これは被告人が申請した証人をすべて採用しなければならないという意味ではありません。最大判昭和23年7月29日は、裁判所は当該事件の裁判をなすに必要適切な証人を喚問すれば足り、どの証人が必要適切かは事件の性格や諸般の事情を考慮して裁判所が決めるべき事柄だとしました。「刑事被告人は,公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する(憲法第37条第2項)から,裁判所は刑事被告人が自身の弁護のために必要であると主張している証人全員の尋問を採用しなければならない」という肢は誤りです。また、公費でという文言は、終局的に国が費用を負担することまで意味しません。最大判昭和23年12月27日は、証人の旅費や日当を訴訟の進行中に被告人に支弁させないことで防御権を十分に行使させる趣旨であり、有罪の言渡しを受けた被告人に訴訟費用の負担を命じてはならないという趣旨ではないとしました。「有罪判決を受けた刑事被告人に対し,裁判所に出廷させた証人に旅費,日当及び宿泊料を負担させることは,「刑事被告人は,公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する」と定める憲法第37条第2項の規定に違反しない」という肢は正しいです。
遮へい措置やビデオリンク方式でも、証人審問権と裁判の公開は害されません
37条2項前段の証人審問権との関係では、証人尋問の方法が問題になります。最判平成17年4月14日(遮へい措置・ビデオリンク方式による証人尋問)は、ビデオリンク方式によることとされた場合でも、被告人は映像と音声の送受信を通じて証人の姿を見ながら供述を聞き、自ら尋問することができるから、証人審問権は侵害されていないとしました。決め手は被告人自身が尋問できることにあり、弁護人が尋問できることではありません。「いわゆるビデオリンク方式を採用することによって被告人は自ら尋問することができないが,それは証人が受ける精神的圧迫を回避するためであり,弁護人は尋問できるのであるから,被告人の証人審問権を侵害しているとはいえない」という肢は誤りです。また同判決は、傍聴人と証人との間で遮へい措置が採られ、あるいはビデオリンク方式によることとされ、さらにその両方が採られても、審理が公開されていることに変わりはないとして、37条1項にも82条1項にも反しないとしました。公開原則の例外を設けたものではなく、公開されたままだという理由づけです。「ビデオリンク方式による証人尋問は,犯罪被害者等の保護の要請から,裁判の公開原則の例外として定められたものであり,公開裁判を受ける権利を保障した憲法第37条第1項,裁判の公開を定めた憲法第82条第1項に反しない」という肢は誤りです。
公判廷の自白にも補強法則が及び、余罪の処罰は許されません
38条3項は、本人の自白が唯一の証拠である場合には有罪とされないと定めます。判例は、公判廷における自白は38条3項にいう本人の自白に含まれず、憲法上は補強証拠を要しないとする立場を採っていますが、刑事訴訟法319条2項は公判廷の自白にも補強証拠を求めており、起訴されていない事実の扱いとは区別が必要です。最大判昭和41年7月13日は、起訴されていない余罪を実質上処罰する趣旨で量刑に用いることは、不告不理の原則に反して31条に違反するだけでなく、証拠裁判主義に反し、自白と補強証拠に関する38条3項の制約を免れることとなるおそれがあって許されないとしました。「起訴されていない余罪を被告人が自認している場合に余罪を実質上処罰する趣旨で被告人を重く処罰することは,憲法第31条に由来する不告不理の原則に反するが,憲法第38条第3項の規定する補強法則との関係では問題は生じない」という肢は誤りです。自認しているだけの余罪を処罰の対象とすることは、補強法則の潜脱にもなるからです。余罪を情状として考慮すること自体は許されるので、実質上処罰する趣旨での考慮との区別が問われます。
遡及処罰の禁止は、判例の変更による不利益には及びません
39条前段は、実行の時に適法であった行為については刑事上の責任を問われないと定めます。もっとも、保障が及ぶのは法令の遡及的な適用であって、判例の変更には及びません。判例は成文の法規と異なり裁判官を法律上拘束するものではないからです。「憲法第39条前段は,何人も,実行の時に適法であった行為については刑事上の責任を問われない旨を規定しているが,行為の時に最高裁判所の判例が示していた法解釈に従えば無罪となるべき行為を処罰することは,同規定に違反するものではない」という肢は正しいです(最判平成8年11月18日)。また、二重の危険の禁止についても、刑罰と追徴税の併科が問題となりますが、最大判昭和33年4月30日(刑罰と追徴税の併科)は、追徴税が過少申告への行政上の措置であって刑罰ではないとして、併科は39条に反しないとしました。制裁の性質が刑罰かどうかが、判断の分かれ目になります。同じ発想から、重加算税と刑罰の併科も二重処罰には当たらないとされています。他方、検察官の上訴については、一個の危険が継続していると捉えることで、二重の危険の禁止に反しないと解されてきました。危険をどの単位で数えるかという理解の違いが、結論を分けます。
憲法 第34条
何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
論文ではこう使う
論文では、問題となる場面に対応する条文を正確に選ぶことが出発点です。身体拘束下の防御であれば34条と接見交通、審理の遅延であれば37条1項と免訴、証拠の採否であれば37条2項、供述の強要であれば38条1項、自白の証拠能力であれば38条2項と3項、処罰の可否であれば39条という対応を押さえます。保障の内容が法律によって具体化されている場合には、憲法上の権利そのものと法律上の権利を区別し、法律の解釈が憲法の趣旨に適合するかという形で論じます。制裁の性質が争われる場面では、目的、要件、手続から刑罰といえるかを評価します。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。