憲法判断の方法(回避・合憲限定解釈・適用違憲)とは
けんぽうはんだんのほうほう
憲法判断の方法とは、違憲の疑いのある法令をめぐって、裁判所が憲法判断そのものを避ける憲法判断の回避、意味を限定して読むことで合憲とする合憲限定解釈、当該事案に適用する限りで違憲とする適用違憲、法令そのものを違憲とする法令違憲という選び方です。付随的審査制のもとでは、法令違憲は最後の手段と位置づけられます。
生徒が校則違反で処分されたとき、先生にはいくつかの対応があります。校則に触れる行為ではないと読んで処分を取り消す、校則の言葉を狭く読んで今回の行為は対象外とする、校則は残しつつこの生徒への適用だけを不当とする、校則そのものを無効とする、という順に踏み込み方が強くなります。裁判所も、違憲の疑いのある法律を扱うとき、事件の解決に必要な範囲で、できるだけ踏み込みの小さい方法を選び、法令そのものを違憲とするのは最後の手段にします。
憲法判断の回避は、事件の解決に必要でなければ判断しないという作法です
付随的審査制のもとでは、憲法判断は事件の解決に必要な限りで行われます。札幌地判昭和42年3月29日(恵庭事件)は、自衛隊法121条にいう「その他の防衛の用に供する物」に通信線が当たらないとして無罪とし、同法の合憲性には触れませんでした。憲法判断を避けること自体が司法の自制として評価される一方、憲法問題を含む事件で判断を示さないことは、憲法保障の役割を放棄するものだという批判もあります。必要性の判断は、事件の性質と憲法問題の重大性を見比べて行われます。
- 憲法判断の回避憲法問題に触れなくても事件を解決できるときは、憲法判断をしない。札幌地判昭和42年3月29日(恵庭事件)が構成要件に該当しないとして無罪とした例
- 合憲限定解釈法令の意味を合憲となる範囲に限定して解釈し、法令違憲の判断を避ける
- 適用違憲法令自体は合憲としつつ、当該事案に適用する限りで違憲とする
- 法令違憲法令そのものを違憲無効とする。限定解釈が困難な場合の最後の手段
合憲限定解釈は、法令違憲の判断を避ける手段の一つです
法令の文言が広すぎて違憲の疑いが生じるとき、意味を絞って読むことで規定を生かす方法があります。「合憲限定解釈は,合憲性が争われている法令について法令違憲との判決を下すことを回避する手段の一つである」という肢は正しいです。最大判昭和44年4月2日(都教組事件)は、争議行為のあおり行為を処罰する規定について、違法性の強い行為に限るという二重の絞りをかけて合憲としました。法令を無効にせずに済む点で、立法権への敬譲にかなう手法とされます。最大判昭和59年12月12日(税関検査事件)も、「風俗を害すべき書籍、図画」の意味をわいせつな書籍等に限定して読み、明確性の要請を満たすとしました。
合憲限定解釈には、立法権の簒奪と明確性の面から批判があります
もっとも、この手法には二つの弱点があります。「合憲限定解釈に対しては,立法者の意思を超えて法文の意味を書き換えてしまう可能性があり,立法権の簒奪につながりかねないという問題がある」という肢は正しく、また「合憲限定解釈に対しては,当該解釈が不明確であると,犯罪構成要件の保障的機能を失わせ,憲法第31条違反の疑いを生じさせるという問題がある」という肢も正しいです。刑罰法規について限定解釈をすると、条文を読んだだけでは処罰の範囲がわからないという事態が生じます。都教組事件の二重の絞りが後に最大判昭和48年4月25日(全農林警職法事件)で否定されたのも、不明確な限定解釈はかえって犯罪構成要件の保障的機能を失わせ、明確性を要請する31条に違反する疑いすら存するという、この批判を受けてのことでした。
限定解釈が困難な場合には、法令違憲の判断に進みます
限定解釈にも限界があります。「判例は,集会の自由の規制が問題となった広島市暴走族追放条例について,条例の改正が立法技術上困難でないから,あえて合憲限定解釈をする必要はないとした」という肢は誤りです。最判平成19年9月18日(広島市暴走族追放条例事件)は、条例全体の趣旨や施行規則の規定を総合して規制対象を本来的な意味の暴走族とその類似集団に限定し、合憲としました。改正が容易だから限定解釈をしない、という判断ではありません。他方で「合憲的な適用であることが明らかである場合には,適用された法令に合憲的に適用できる部分と違憲的に適用される可能性のある部分とが不可分の関係で含まれていたとしても,法令違憲と判断する余地はないことになる」という肢は誤りで、合憲的に適用できる部分と違憲的に適用される部分が不可分であれば、法令違憲の判断に進む余地があります。
適用違憲は、当該事案に適用する限りで違憲とする手法です
旭川地判昭和43年3月25日(違憲判断の方法――猿払事件第一審)は、非管理職の現業公務員が勤務時間外に行った政治的行為に罰則を適用することは、必要最小限度を超えて違憲であるとしました。「公務員の政治的行為の禁止を定める国家公務員法第102条第1項及び人事院規則14-7それ自体は憲法第21条に違反しないとしても,当該公務員の行為のもたらす弊害が軽微なものについてまで一律に罰則を適用することは,必要最小限の域を超えるものであって,憲法第21条及び第31条に違反する」という肢は、この適用違憲の考え方を述べたものですが、判例の趣旨に照らせば誤りとされます。最大判昭和49年11月6日(猿払事件)は、禁止規定を合理的で必要やむをえない限度を超えないものとしたうえで、罰則についても立法機関の裁量の範囲を著しく逸脱しているとは認められないとして、第一審の適用違憲の判断を覆したからです。「最高裁判所は,公務員による政党機関誌の配布が国家公務員法違反に問われた堀越事件(最高裁判所平成24年12月7日第二小法廷判決,刑集66巻12号1337頁)において,被告人の配布行為には公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められず,当該配布行為に罰則規定が適用される限りにおいて憲法第21条第1項及び第31条に違反すると判示した」という肢も誤りです。最判平成24年12月7日(堀越事件)は、罰則規定の適用を違憲としたのではなく、被告人の行為が構成要件に当たらないとして無罪としました。
判例は、法令の合憲性を維持したまま処分を違憲とすることがあります
法令ではなく個別の行為を違憲とする形を処分違憲と呼びます。「最高裁判所は,市有地を無償で神社施設の敷地利用に供していた行為が政教分離原則に違反するかが問われた空知太神社訴訟(最高裁判所平成22年1月20日大法廷判決,民集64巻1号1頁)において,同じ市による別の神社敷地の譲与行為に対する合憲判断と異なり,当該事案における敷地利用提供行為については憲法第89条及び第20条第1項後段に違反すると判示した」という肢は正しいです。最大判平成22年1月20日(空知太神社事件)は、市有地を神社施設の敷地として無償で提供する行為そのものを違憲としました。これに対し「最高裁判所は,郵便法の損害賠償責任免除・制限規定が憲法第17条に違反するかが問われた訴訟(最高裁判所平成14年9月11日大法廷判決,民集56巻7号1439頁)において,当該事案では郵便業務従事者の重過失により損害が生じており,郵便法はそのような場合にまで賠償責任の免除・制限を予定するものではないので,郵便法の上記規定が当該事案に適用される限りにおいて憲法第17条に違反すると判示した」という肢は誤りで、郵便法違憲判決は、法令の規定自体を17条に違反するとした法令違憲の例です。郵便法違憲判決は、郵便業務従事者の故意または重大な過失による損害についてまで賠償責任を免除・制限する規定は17条に反するとして、規定自体を違憲としました。
最大判昭和44年4月2日(都教組事件)
法令が、その規定の文言上、適用の範囲が広きに失し憲法上の疑義を生ずる場合において、当該規定を限定的に解釈することにより違憲の疑いを除き得るときは、そのような限定解釈をすべきである。
論文ではこう使う
論文では、違憲の結論を出す段階でどの形をとるかを選ぶときに使います。法令の文言が広すぎる事案では、まず限定解釈によって違憲の疑いを除けるかを検討し、その際、限定の基準が条文や立法趣旨から読み取れるか、刑罰法規であれば処罰範囲が明確になるかを確かめます。読み取れなければ法令違憲に進みます。事案限りの救済で足りるときは適用違憲を選び、法令の合憲性は維持したうえで、当該適用が必要最小限度を超えることを具体的に示します。どの形をとったのかを自覚して書くことが、結論の説得力につながります。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。