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選挙訴訟と事情判決の法理とは

せんきょそしょう

憲法 参政権と選挙

選挙訴訟とは、選挙の効力に関する争いを裁判で解決する手続で、選挙人または公職の候補者が高等裁判所に提起する客観訴訟です(公職選挙法204条)。事情判決の法理とは、定数配分規定が違憲とされた場合に、選挙を無効とせず請求を棄却したうえで主文で選挙の違法を宣言する処理をいいます。

選挙のあとで、一票の重さが選挙区によって大きく違ったとして、有権者が高等裁判所に選挙のやり直しを求めることがあります。自分が損をしたからではなく、選挙という公の作用が法律どおりに行われたかを正す訴えです。ただ、本当に選挙を無効にすると、議員のいない状態で法律を直すことになります。そこで裁判所は、定数配分規定を違憲と判断しながら選挙は無効とせず、違法であることだけを判決の主文で宣言してきました。

高等裁判所の受付窓口の場面。先生が有権者役(札「選挙人」)で、「選挙無効の訴え(公職選挙法204条)」と書いた訴状を差し出し、相手方の席に「選挙管理委員会」の札の男性が座っている。壁の掲示に「選挙の日から30日以内」「第一審は高等裁判所」。

選挙訴訟は選挙の効力を争う客観訴訟で、争える範囲が限られます

選挙訴訟とは、選挙の効力に関する争いを裁判で解決する手続をいいます。選挙人または公職の候補者が、選挙の日から30日以内に、当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会を被告として高等裁判所に提起します(公職選挙法204条)。自分の権利利益の救済を目的とするのではなく、選挙という公の作用の適正を確保するための客観訴訟で、法律に定めがあるから提起できる民衆訴訟です(行政事件訴訟法5条・42条)。無効原因は、選挙の規定に違反することがあるとき、すなわち選挙の管理執行に関する規定への違反です(公職選挙法205条1項)。客観訴訟である以上、法律が予定した範囲でしか争えません。「判例によれば、公職選挙法の規定において、一定の者につき選挙権を制限していることの憲法適合性については、当該者が自己の選挙権の侵害を理由にその救済を求めて提起する訴訟においてこれを争うことの可否はおくとしても、同法第204条の選挙無効訴訟において選挙人らが他者の選挙権の制限に係る当該規定の違憲を主張してこれを争うことは法律上予定されていない」という肢は正しいです。最決平成26年7月9日は、204条の選挙無効訴訟は、選挙権を有するものとされている選挙人らによる投票の結果としての選挙の効力を、選挙人又は候補者が無効原因の存在を主張して争う争訟方法だと述べて、他者の選挙権の制限を持ち出すことはできないとしました。在外国民の選挙権が問題になったときに、自分の選挙権の侵害を理由とする訴えと、選挙無効訴訟とが区別されたのはこの理由によります。もっとも、定数配分規定の違憲を選挙人が主張できるのは、投票価値の平等が選挙人自身の選挙権の内容に関わるからで、この点は他人の権利の援用にはあたりません。何が争えて何が争えないかは、公職選挙法が選挙訴訟に何を委ねたかという解釈で決まります。

  • 原告選挙人または公職の候補者。自己の法律上の利益は要件でない
  • 管轄と期間高等裁判所が第一審。選挙の日から30日以内に提起する
  • 当選訴訟当選の効力を争う訴訟(公職選挙法208条)。選挙自体の効力を争う選挙訴訟とは別
  • 事情判決の法理定数配分規定が違憲でも、選挙を無効とせず主文で違法を宣言する処理

事情判決の法理は、選挙を無効とすることによる不都合を避けるために用いられます

最大判昭和51年4月14日(衆議院議員定数不均衡事件)は、選挙区間の投票価値の較差が約1対4.99に達していた定数配分規定を、合理的期間内の是正を経ないまま続いていたとして全体として違憲と判断しました。しかし、定数配分規定を違憲としても選挙を無効にすれば、直ちに違憲状態が是正されるわけではなく、議員のいない状態で是正の立法をしなければならなくなります。「一般的な法の基本原則に基づくものとして事情判決の法理を適用して,選挙を無効とせず違法の宣言にとどめるのは,当該選挙を無効とすることによって憲法が所期していない結果を生じることを回避するためである」という肢は正しいです。選挙を無効とする判決の効果が及ぶ範囲、選挙のやり直しに要する時間、その間の国会の機能といった不都合を、まとめて避けるための処理です。判決は請求を棄却しますから、形のうえでは原告が敗れます。それでも主文で違法が宣言されることで、国会に是正を促す効果が生まれる、というのがこの処理のねらいです。違憲の判断が判決理由にとどまらず主文に現れる点が、通常の違憲判断と異なります。同じ処理は最大判昭和60年7月17日でも採られ、以後の定数訴訟でも、違憲状態と判断しながら選挙を無効としない判断が続いています(最大判平成27年11月25日)。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で判決文を読み上げ、判決文に「主文:請求を棄却する/本件選挙は違法である」と書かれている。左に選挙人の男性(札「原告」)、右に「定数配分規定 違憲」と書いた札。先生の吹き出し「定数配分規定は違憲だ。

行政事件訴訟法31条は準用が排除されており、一般的な法の基本原則として用いられます

「衆議院の議員定数配分規定が選挙権の平等に反して違憲と判断された場合,行政事件訴訟法の事情判決の規定には,一般的な法の基本原則に基づくものとして理解すべき要素も含まれていると考えられ,公職選挙法も選挙関係訴訟については上記規定の準用を明示的に排除していないため,事情判決の法理により,その選挙の違法を主文で宣言することができる」という肢は誤りです。公職選挙法219条1項は、選挙の効力に関する訴訟について行政事件訴訟法31条の準用を明文で排除しています。判例はこれを正面から認めたうえで、31条1項の規定は法政策的考慮に基づくものであると同時に、行政処分の取消しの場合に限られない一般的な法の基本原則に基づくものとして理解すべき要素も含まれているとし、その法の基本原則を適用するという形をとりました。準用が排除されている理由は、単なる公職選挙法違反という個別的な瑕疵を帯びるにとどまり、直ちに再選挙ができる場合を立法者が想定していたことにあります。選挙が憲法に違反する法律に基づいて行われたという一般性をもつ瑕疵で、法律の改正なしには是正できない場合には、この立法者の判断は必ずしも拘束力をもたないというのが判例の説明です。条文を準用したのではなく、条文に含まれる法の基本原則を適用したのだという違いは、準用を排除した219条1項と矛盾しないための理屈ですから、判例の構造そのものとして押さえます。それにもかかわらず一般的な法の基本原則として持ち出したことには、立法者の判断を回避するものだという批判があり、判決にも反対意見が付されています。

法廷の裁判官席の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で二冊の法令集を持つ。左の法令集「公職選挙法219条1項:行政事件訴訟法31条は準用しない」に深紅の×印、右の法令集「行政事件訴訟法31条1項に含まれる一般的な法の基本原則」に深紅の○印。

一部無効と将来効という代替案には、それぞれ難点があります

「議員定数配分規定が,憲法の要求する投票価値の平等に反し,違憲であると判断される場合,そのことを理由として当該規定に基づく選挙全体を無効としても,これによって直ちに違憲状態が是正されるわけではなく,かえって憲法の所期するところに適合しない結果を生ずるから,行政事件訴訟法第31条の定める事情判決の制度を類推して,議席を過小に配分された選挙区の選挙のみを無効とすべきである」という肢は誤りです。判例は事情判決の制度を類推したのではなく一般的な法の基本原則として適用し、定数配分規定は選挙区割りと定数の配分が有機的に関連して全体として一体をなすものだから、その違憲の瑕疵はすべての選挙区の選挙に及ぶとして、選挙自体を無効としませんでした。一部無効の難点は、「定数配分規定の違憲判断を選挙の効力と結び付けず,訴訟が提起された選挙区の選挙だけを無効とする手法は,投票価値が不平等であるとされた選挙区からの代表者がいない状態で定数配分規定の是正が行われるという問題がある」という肢が正しいとおり、当該選挙区の代表者がいない異常な状態で是正が行われる点にあります。同じ違憲の瑕疵をもつ選挙の一部だけが無効とされ、他は有効なまま残るという不均衡も生じます。将来効については、「選挙権の平等に反する定数配分規定を是正するための合理的期間が経過したにもかかわらず,現行規定のままで選挙が施行された場合,判決確定により直ちに当該選挙を無効とすることが相当でないとみられるときは,選挙を無効とするがその効果は一定期間経過後に初めて発生するという内容の判決をすることも許される」という肢は、判例の採用した処理ではないため誤りとされます。最大判昭和60年7月17日の補足意見がそのような判決もできないわけのものではないと述べたにとどまり、判例がこの手法を採ったことはありません。もっとも、「定数配分規定の違憲判断を選挙の効力と結び付けない判決の将来効の法理は,再選挙を執行することが事実上不可能であることや,事情判決を繰り返すことによって生じる司法審査制自体への弊害という問題にも対処しようとするものである」という肢は正しく、将来効の法理が何を解決しようとしているかは理解しておきます。違憲判断を選挙の効力に直結させれば全国の選挙が無効になって再選挙を適時に執行することが事実上不可能になり、それを避けて事情判決の法理を繰り返すと、違法の宣言が形骸化して司法審査そのものへの信頼が損なわれます。将来効はこの二つに応えようとするもので、参議院の事案でも個別意見の中で主張されてきました。

教室の黒板の前の場面。先生が講師役(札「先生」)で黒板に三つの案を並べて書いている。左「選挙全体を無効」の下に議員のいない空っぽの議席の絵と札「議員のいない状態で法律を直す」。中央「一部の選挙区だけ無効」の下に一つだけ空いた議席の絵と札「代

当選訴訟の結果は、内閣の地位にも影響します

「内閣総理大臣は、国会議員でなければならないから、国会議員の当選の効力に関する訴訟の結果、自己の当選が無効となったときは、憲法第70条の「内閣総理大臣が欠けたとき」に当たり、内閣は、総辞職をしなければならない」という肢は正しいです。内閣総理大臣は国会議員の中から指名され(67条1項)、この要件は指名の時点だけでなく在職の要件でもあると解されています。内閣が国会に対して連帯して責任を負う議院内閣制のもとで、内閣の首長が国会に議席をもたない状態は許されないからです。70条の「内閣総理大臣が欠けたとき」とは、死亡や辞職のほか、除名や当選無効によって国会議員の地位を失った場合を含み、病気や海外滞在のような一時的な故障は含みません。選挙や当選の効力を争う訴訟は、議員の地位を通じて統治の他の場面にも影響します。なお、選挙訴訟の審理で誰が誰に投票したかを調べることは原則として許されません。投票の秘密との関係は投票の秘密で扱い、較差の判断の枠組みは議員定数不均衡で扱います。

最大判昭和51年4月14日(衆議院議員定数不均衡事件)

行政事件訴訟法三一条一項の規定に含まれる法の基本原則の適用により、選挙を無効とする旨の判決を求める請求を棄却するとともに、当該選挙が違法である旨を主文で宣言するのが相当である。

論文ではこう使う

論文では、定数配分規定の違憲を論じたあと、救済の場面で必ず選挙の効力に触れます。公職選挙法204条の訴訟であること、219条1項が行政事件訴訟法31条の準用を排除していること、それでも同条に含まれる一般的な法の基本原則を適用できることを順に示し、選挙を無効とすることによる不都合を具体的に挙げて、違法の宣言にとどめる結論を導きます。将来効判決や一部無効を採る立場をとるなら、それぞれの難点に先回りして答えておきます。

試験ではこう問われる

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