損害賠償の範囲と算定|416条と709条の損害論を横断整理
損害賠償の範囲と算定方法を横断的に解説。416条の相当因果関係、特別損害の予見可能性、不法行為の損害算定、過失相殺の処理を整理します。
この記事のポイント
損害賠償の範囲と算定は、債務不履行(416条)と不法行為(709条以下)の両場面で問題となり、共通する法理と固有の法理がある。 416条の相当因果関係説と損害賠償の算定方法の理解が重要である。
債務不履行に基づく損害賠償の範囲(416条)
通常損害(416条1項)
債務不履行によって通常生ずべき損害。因果関係の判断は不要(当然に賠償範囲に含まれる)。
特別損害(416条2項)
特別の事情によって生じた損害のうち、当事者がその事情を予見すべきであったときに限り賠償範囲に含まれる。
項目 改正前 改正後 予見の主体 争いあり(債務者説が通説) 「当事者」(明文化せず) 予見の時期 争いあり(契約時説・不履行時説) 条文上は明示せず 予見の対象 特別の事情 「当事者がその事情を予見すべきであった」相当因果関係説
学説 内容 相当因果関係説(通説) 416条は相当因果関係の法則を定めたもの 保護範囲説(有力説) 416条は損害賠償の範囲の規範的判断を定めたもの不法行為に基づく損害賠償
損害の種類
損害の種類 内容 具体例 財産的損害 積極損害 治療費、修理費、弁護士費用 消極損害(逸失利益) 休業損害、後遺障害逸失利益、死亡逸失利益 精神的損害 慰謝料 入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料損害の算定方法
算定方法 内容 差額説(通説) 不法行為がなければあったであろう状態と現在の状態の差額 損害事実説 被害者に生じた不利益な事実そのもの過失相殺
債務不履行の場合(418条)
- 裁判所は、債務不履行について債権者に過失があったときは、損害賠償の責任及びその額を定めるにつきこれを斟酌する
- 裁判所の義務的斟酌(必ず考慮しなければならない)
不法行為の場合(722条2項)
- 被害者に過失があったときは、裁判所は損害賠償の額を定めるにつきこれを斟酌することができる
- 裁判所の裁量的斟酌
被害者側の過失
- 最判昭51.3.25:被害者と身分上・生活関係上一体をなす関係にある者の過失を斟酌できる
- 幼児の不法行為による損害賠償で親の監督過失を被害者側の過失として斟酌
損益相殺
意義
損害賠償を請求する者が、損害の原因となった事実によって利益を得た場合に、その利益を損害額から控除すること。
控除されるもの
項目 控除の可否 理由 生命保険金 控除しない 対価関係のある保険料の支払い 損害保険金 控除する 損害の填補を目的 遺族年金 控除する(既払い分) 逸失利益の填補 香典 控除しない 社会儀礼上の贈与弁護士費用
不法行為の場合
- 最判昭44.2.27:不法行為訴訟の弁護士費用は、事案の難易・請求額・認容額等を斟酌して相当と認められる額が損害として認められる
- 実務上は認容額の約10%が目安
債務不履行の場合
- 原則として損害に含まれない
- ただし、労働事件等では肯定する裁判例あり
まとめ
- 416条は通常損害(1項)と特別損害(2項)を区別
- 特別損害は予見すべきであった場合に限り賠償範囲
- 不法行為の損害は財産的損害と精神的損害に分かれる
- 過失相殺は債務不履行では義務的、不法行為では裁量的
- 弁護士費用は不法行為では損害に含まれるが、債務不履行では原則含まれない
FAQ
Q1. 416条2項の予見の基準時はいつですか?
学説上は契約時説と不履行時説の対立がありますが、改正民法は明示せず。実務上は契約締結時が基準とされることが多いです。
Q2. 慰謝料の算定基準はどうなっていますか?
法律上の算定基準はありませんが、交通事故については弁護士基準(赤い本・青い本)が実務上の目安です。裁判所は事案の諸事情を総合考慮して算定します。
Q3. 中間利息の控除はどう行いますか?
改正民法417条の2で法定利率による中間利息控除が明文化されました。変動利率制の下では、損害賠償請求権が生じた時点の法定利率が適用されます。
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