不法行為の全体像|709条の要件と特殊不法行為の体系
民法709条の不法行為の成立要件を体系的に解説。過失の判断基準、因果関係、損害、使用者責任、工作物責任など特殊不法行為を整理します。
この記事のポイント
不法行為(民法709条)は、故意または過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者に損害賠償義務を課す制度である。 一般不法行為(709条)のほか、使用者責任(715条)、工作物責任(717条)、共同不法行為(719条)などの特殊不法行為が規定されている。本記事では、709条の各要件と特殊不法行為の体系を整理する。
一般不法行為(709条)の要件
要件の構造
- 故意または過失
- 権利又は法律上保護される利益の侵害(違法性)
- 損害の発生
- 因果関係(行為と損害との間)
- 責任能力
故意・過失
故意: 結果の発生を認識・認容していること
過失: 結果の発生を予見すべきであったにもかかわらず、結果回避措置をとらなかったこと
過失の判断基準については、抽象的過失説(通常人を基準に判断)が通説である。
権利侵害(違法性)
改正前709条は「権利を侵害した」と規定していたが、判例は「大学湯事件」(大判大14.11.28)以降、法律上保護される利益の侵害も含むとしていた。現行709条はこれを明文化した。
違法性の判断: 被侵害利益の種類と侵害行為の態様を相関的に判断する(相関関係説)。
損害
- 差額説: 不法行為がなかった場合の財産状態と現在の財産状態の差額
- 損害事実説: 不法行為によって生じた不利益な事実そのもの
因果関係
- 事実的因果関係: 行為がなければ結果は生じなかったという条件関係
- 相当因果関係: 416条の類推適用により、通常生ずべき損害と予見可能な特別損害に限定
特殊不法行為
使用者責任(715条)
要件:
1. 使用者と被用者の間に使用関係があること
2. 被用者が事業の執行について第三者に損害を加えたこと
3. 使用者が選任・監督に相当の注意をしたこと(免責事由・立証責任は使用者)
「事業の執行について」の判断: 判例は外形標準説を採用し、行為の外形から客観的に判断する(最判昭40.11.30)。
求償: 使用者は被用者に対して求償できる。ただし、信義則上相当な範囲に制限される(最判昭51.7.8)。
工作物責任(717条)
要件:
1. 土地の工作物の設置・保存に瑕疵があること
2. その瑕疵により他人に損害が生じたこと
責任の構造:
- 占有者: 過失責任(損害防止に必要な注意をしたことの立証で免責)
- 所有者: 無過失責任(占有者が免責された場合に補充的に責任を負う)
共同不法行為(719条)
1項前段(共同不法行為): 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたとき、各自が連帯して損害賠償責任を負う。
- 「共同」の意義: 主観的関連共同性(共同の認識)は不要で、客観的関連共同性で足りるとするのが判例(最判昭43.4.23)
1項後段(共同行為者の推定): 共同行為者のうち誰の行為が損害を加えたか知ることができないときも、同様とする。
監督義務者の責任(714条)
責任無能力者が不法行為をした場合、その監督義務者が損害賠償責任を負う。監督義務者が監督を怠らなかったこと等を立証すれば免責される。
損害賠償の範囲と算定
財産的損害
- 積極損害: 不法行為により被害者が現実に支出した費用(治療費等)
- 消極損害: 不法行為がなければ得られたであろう利益(逸失利益等)
精神的損害(慰謝料)
710条により、財産以外の損害についても賠償を請求できる。生命侵害の場合は711条により近親者固有の慰謝料請求権が認められる。
過失相殺(722条2項)
被害者に過失があった場合、裁判所は損害賠償の額を減額することができる。債務不履行の過失相殺(418条)と異なり、任意的な考慮事項である。
消滅時効
起算点 期間 損害及び加害者を知った時 3年(人の生命・身体は5年) 不法行為の時 20年試験での出題ポイント
- 709条の要件認定: 過失・違法性・因果関係の認定
- 使用者責任: 外形標準説による「事業の執行について」の判断
- 工作物責任: 占有者の過失責任と所有者の無過失責任
- 共同不法行為: 客観的関連共同性の判断
- 過失相殺: 被害者側の過失の範囲
まとめ
- 709条の要件は故意過失・違法性・損害・因果関係・責任能力の5つ
- 使用者責任は外形標準説により「事業の執行について」を判断する
- 工作物責任の所有者は無過失責任を負う
- 共同不法行為は客観的関連共同性で足りるとするのが判例
- 消滅時効は知った時から3年(生命身体は5年)、行為時から20年
FAQ
Q1. 不法行為と債務不履行はどう使い分けますか?
契約関係がある場合は債務不履行(415条)、契約関係がない場合は不法行為(709条)が問題となります。両方が成立する場合は請求権競合として処理されます。
Q2. 使用者責任で使用者が免責されることはありますか?
理論上は715条1項ただし書により免責の余地がありますが、判例上免責が認められた事例はほとんどなく、事実上の無過失責任に近いとされています。
Q3. 工作物責任の「瑕疵」とは何ですか?
工作物が通常有すべき安全性を欠いていることをいいます。設置の瑕疵(当初から安全性を欠く場合)と保存の瑕疵(その後の管理不備により安全性を欠くに至った場合)があります。