不法行為の応用論点
不法行為の応用論点を解説。共同不法行為の主観的・客観的関連共同、使用者責任の求償関係、工作物責任と国賠法2条、名誉毀損・プライバシー侵害を整理します。
この記事のポイント
不法行為法の応用論点として、共同不法行為(719条)、使用者責任(715条)、工作物責任(717条)は試験上最重要のテーマである。共同不法行為における主観的関連共同と客観的関連共同の区別、使用者責任における使用者の求償権と逆求償、工作物責任と国家賠償法2条の関係は、いずれも判例法理の正確な理解が求められる。名誉毀損・プライバシー侵害も現代型不法行為として出題頻度が高い。
共同不法行為(719条)
719条の構造
民法719条は、以下の3つの規定を含む。
| 項 | 内容 | 要件 |
|---|---|---|
| 1項前段 | 共同不法行為(狭義) | 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたこと |
| 1項後段 | 加害者不明の共同不法行為 | 共同行為者のうちいずれの者が損害を加えたか知ることができないこと |
| 2項 | 教唆者・幇助者 | 教唆者及び幇助者は共同行為者とみなす |
関連共同性の判断
719条1項前段の「共同の不法行為」の成立要件としての関連共同性について、学説上以下の対立がある。
| 見解 | 内容 |
|---|---|
| 主観的関連共同説 | 共同行為者間の意思の連絡(共謀等)を要する |
| 客観的関連共同説(判例・通説) | 客観的に行為が関連共同していれば足り、意思の連絡は不要 |
客観的関連共同の判断基準
判例は、客観的関連共同性を広く認める傾向にある。
- 行為の場所的・時間的近接性
- 行為の態様の類似性
- 損害の不可分性
- 社会通念上一体の行為と評価できること
共同不法行為の効果
共同不法行為が成立すると、各共同行為者は連帯して損害賠償責任を負う(719条1項)。
| 効果 | 内容 |
|---|---|
| 連帯責任 | 被害者は各加害者に全額を請求可能 |
| 因果関係の推定 | 1項後段は加害者の因果関係を推定 |
| 求償 | 加害者間では過失割合に応じた求償が可能 |
加害者不明の共同不法行為(1項後段)
複数の者が共同行為を行い、そのうち誰の行為が損害を生じさせたか不明な場合、因果関係の立証責任が転換される。加害者でないことを立証しなければ責任を免れない。
使用者責任(715条)
成立要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 使用関係 | ある事業のために他人を使用する関係 |
| 事業の執行について | 被用者が使用者の事業の執行について不法行為を行ったこと |
| 免責事由の不存在 | 使用者が選任・監督に相当の注意をしたこと等の立証(実際上、免責は認められない) |
「事業の執行について」の判断基準
判例は、外形理論(外形標準説)を採用する。すなわち、被用者の行為が外形的・客観的に見て職務の範囲内の行為と認められれば、「事業の執行について」の要件を満たす。
- 被用者の行為が職務権限内で行われたものである必要はない
- 行為の外形から判断し、被用者の主観的意図は問わない
使用者の求償権と逆求償
使用者から被用者への求償
使用者が被害者に損害賠償を行った場合、使用者は被用者に対して求償できる(715条3項)。
ただし、判例は、求償の範囲を信義則上相当と認められる限度に制限する(最判昭和51年7月8日・茨石事件)。
| 考慮要素 | 内容 |
|---|---|
| 事業の性格・規模 | リスクの引受けの程度 |
| 被用者の業務内容 | 危険性の程度 |
| 労働条件 | 給与水準等 |
| 加害行為の態様 | 故意か過失か、過失の程度 |
| 加害行為の予防・損失分散 | 保険加入の有無等 |
被用者から使用者への逆求償
最判令和2年2月28日は、被用者が被害者に対して損害賠償を行った場合に、使用者に対する逆求償を認めた。
被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、その損害を賠償した場合には、被用者は、使用者の事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる額について、使用者に対して求償することができる
工作物責任(717条)
成立要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 土地の工作物 | 土地に接着して人工的に設置された物 |
| 設置又は保存の瑕疵 | 工作物が通常有すべき安全性を欠くこと |
| 損害の発生 | 工作物の瑕疵により他人に損害が生じたこと |
| 因果関係 | 瑕疵と損害との間に因果関係があること |
責任主体
| 責任主体 | 責任の性質 | 免責の可否 |
|---|---|---|
| 占有者(1項前段) | 中間責任 | 損害発生防止に必要な注意をしたことの立証により免責可能 |
| 所有者(1項後段) | 無過失責任 | 免責不可 |
占有者が免責される場合、所有者が無過失責任を負う。所有者は、自らに過失がないことを立証しても免責されない。
「土地の工作物」の範囲
- 建物(柱、壁、屋根等の構造物を含む)
- 道路、橋梁、トンネル
- 塀、擁壁
- 電柱、看板
- 樹木の支持工作物
国家賠償法2条との関係
公の営造物(国・公共団体が管理する工作物)の設置又は管理の瑕疵については、国家賠償法2条が適用される。
| 項目 | 民法717条 | 国賠法2条 |
|---|---|---|
| 対象 | 土地の工作物 | 公の営造物 |
| 責任主体 | 占有者・所有者 | 設置・管理者(国・公共団体) |
| 責任の性質 | 占有者は中間責任、所有者は無過失責任 | 無過失責任 |
| 免責 | 所有者は免責不可 | 免責不可 |
| 求償 | 717条3項 | 国賠法2条2項(設置・管理費用負担者への求償) |
名誉毀損
不法行為としての名誉毀損
名誉毀損は、民法709条に基づく不法行為を構成する。
違法性阻却事由
名誉毀損については、以下の3要件を満たす場合、違法性が阻却される(最判昭和41年6月23日)。
- 公共の利害に関する事実に係ること(公共性)
- もっぱら公益を図る目的に出たこと(公益目的)
- 摘示された事実が真実であること(真実性)又は真実であると信じたことに相当の理由があること(相当性)
損害賠償と名誉回復措置
| 救済手段 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 損害賠償(金銭賠償) | 精神的損害の賠償 | 709条・710条 |
| 名誉回復処分 | 謝罪広告等の適当な処分 | 723条 |
プライバシー侵害
不法行為としてのプライバシー侵害
プライバシーの侵害は、判例上、不法行為(709条)を構成しうる(東京地判昭和39年9月28日「宴のあと」事件)。
プライバシー権の保護範囲
| 保護対象 | 具体例 |
|---|---|
| 私生活上の事実 | 病歴、前科、家族関係 |
| 他人に知られたくない事実 | 住所、電話番号 |
| 肖像・氏名 | みだりに公開されない利益 |
| 自己情報コントロール権 | 個人情報の取扱いに関する利益 |
プライバシー侵害と表現の自由の調整
プライバシー侵害が問題となる場合、表現の自由との調整が必要となる。判例は、公表された事実の性質・内容、公表の範囲、被害者の社会的地位等を総合的に考慮して判断する(最判平成15年3月14日・長良川リンチ殺人事件報道訴訟等)。
試験対策での位置づけ
不法行為の応用論点は、論文式試験で最も出題頻度の高いテーマの一つである。
特に押さえるべきポイントは以下の通りである。
- 共同不法行為の関連共同性の判断基準(客観的関連共同説)
- 加害者不明の共同不法行為と因果関係の推定
- 使用者責任の「事業の執行について」の外形理論
- 使用者の求償権の制限(茨石事件)と逆求償(令和2年最判)
- 工作物責任の占有者(中間責任)と所有者(無過失責任)の二段階構造
- 名誉毀損の違法性阻却の3要件
- プライバシー侵害と表現の自由の調整基準
関連判例
- 最判昭和43年4月23日: 共同不法行為の関連共同性
- 最判昭和51年7月8日(茨石事件): 使用者の求償権の制限
- 最判令和2年2月28日: 被用者から使用者への逆求償
- 最判昭和41年6月23日: 名誉毀損の違法性阻却
- 東京地判昭和39年9月28日: 「宴のあと」事件(プライバシー侵害)
まとめ
不法行為法の応用論点である共同不法行為、使用者責任、工作物責任、名誉毀損・プライバシー侵害は、いずれも判例法理の蓄積が豊富であり、試験上も極めて重要なテーマである。各制度の成立要件・効果を正確に理解した上で、判例の立場と学説の対立点を押さえることが求められる。特に使用者責任における逆求償を認めた令和2年最判は、近時の重要判例として注目すべきである。
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