共有制度の改正
2021年民法改正による共有制度の見直しを解説。管理行為の範囲拡大、所在等不明共有者の持分取得・譲渡、共有物の管理者制度を体系的に整理します。
この記事のポイント
2021年(令和3年)民法改正により、共有制度が大幅に見直された。変更行為と管理行為の区分が再整理され、「軽微変更」の概念が導入された(251条・252条改正)。所在等不明共有者がいる場合の管理行為・変更行為の特則、賛否不明共有者がいる場合の特則、共有者の持分取得制度(262条の2)及び持分譲渡制度(262条の3)が新設され、共有物の管理者制度(252条の2)も創設された。あわせて共有物の使用に関する規律(249条)や共有物分割に関する規律(258条)も整備された。これらは所有者不明土地問題への対応を中核としつつ、共有法の基本構造に関わる重要改正であり、令和5年4月1日から施行されている。
改正の背景と全体像
所有者不明土地問題
2021年改正の最大の動機は、いわゆる「所有者不明土地問題」である。所有者不明土地とは、不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない、又は判明しても連絡がつかない土地をいう。相続登記が長期間放置され、相続が繰り返されることで共有者が多数化・所在不明化し、その結果、土地の管理・利用・処分が著しく困難になる事態が全国的に深刻化した。
共有制度はこの問題の核心に位置する。なぜなら、相続による共有は典型的に共有者の所在不明を生み出し、かつ共有物の処分・変更には原則として共有者全員の同意を要するため、一人でも所在不明者がいると土地全体が「塩漬け」になってしまうからである。そこで2021年改正は、共有制度・財産管理制度・相続制度・不動産登記制度を一体的に見直し、その一環として共有法(249条〜264条)を大幅に改正した。
旧法の問題点
旧法の共有制度には、以下の問題があった。
| 問題点 | 内容 |
|---|---|
| 全員同意の困難 | 共有者の一部が所在不明の場合、変更行為に必要な全員同意を得られず、共有物の利用・処分が硬直化する |
| 管理行為の範囲の不明確さ | 変更行為と管理行為の区別が条文上必ずしも明確でなく、過半数で決せられる範囲が曖昧であった |
| 賛否不明への無対応 | 連絡はついても賛否を明らかにしない共有者がいる場合の手当てがなかった |
| 管理の担い手の不在 | 共有物を継続的に管理する者(管理者)を選任する明文の制度がなかった |
| 共有関係の解消困難 | 所在不明共有者がいる場合に共有関係を解消する手段が、価額賠償を伴う共有物分割訴訟など限られた手段しかなかった |
| 使用共有者の規律の欠如 | 共有物を単独使用する共有者の対価支払義務や善管注意義務が条文上明確でなかった |
改正の3つの柱
共有法改正は、大きく次の3つの柱から理解すると整理しやすい。
- 共有物の利用の円滑化 — 変更・管理の区分の再整理(軽微変更の導入)、賛否不明共有者の特則、管理者制度の創設。
- 所在等不明共有者への対応 — 管理・変更の裁判による特則、持分取得制度、持分譲渡制度。
- 共有関係の解消の円滑化 — 共有物分割における裁判所の権限の明確化(賠償分割の明文化等、258条)。
以下、これらを順に解説する。
変更行為と管理行為の再整理
旧法の規律
| 行為の種類 | 旧法の要件 | 条文 |
|---|---|---|
| 変更行為 | 共有者全員の同意 | 旧251条 |
| 管理行為 | 持分の価格の過半数の同意 | 旧252条本文 |
| 保存行為 | 各共有者が単独で可能 | 旧252条ただし書 |
旧法では「変更」か「管理」かで決定要件が全員同意か過半数かに分かれ、その中間がなかった。そのため、共有物の価値を維持・向上させる軽微な物理的変更(例:未舗装の通路の舗装)であっても、文言上「変更」に当たり得るため全員同意を要するのではないかという疑義があり、実務上の障害となっていた。
改正法の規律
改正法は、「変更」の中に形状又は効用の著しい変更を伴わないもの(軽微変更)というカテゴリーを設け、これを過半数決定の対象に取り込んだ。
1. 変更行為(251条1項)
共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。以下「軽微変更」を除いた変更を指す)を加えるには、共有者全員の同意が必要である。
2. 軽微変更(251条1項括弧書 → 252条1項括弧書)
形状又は効用の著しい変更を伴わない変更(軽微変更)は、変更行為であっても全員同意までは要せず、持分の価格の過半数で決定できる。条文構造としては、251条1項の括弧書で軽微変更を「変更」から除外し、252条1項括弧書で軽微変更を管理に関する事項に含めることで、過半数決定の対象としている。
3. 管理行為(252条1項)
共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決定する。改正により、軽微変更や共有物を使用する共有者の決定もここに含まれることが明確化された。
4. 保存行為(252条5項)
保存行為(共有物の現状を維持する行為。例:共有物の修繕、不法占拠者への明渡請求、共有物に対する妨害排除請求)は、各共有者が単独で行うことができる。
「形状又は効用の著しい変更」の判断
軽微変更か(過半数)/変更か(全員同意)の分水嶺は、「形状又は効用の著しい変更を伴うか否か」である。
- 形状の変更 — 物理的な外観・構造の変更。
- 効用の変更 — 機能や用途の変更。
「著しい」かどうかは、変更を加える箇所及び範囲、変更行為の態様及び程度等を総合的に考慮して判断される。一般に、共有物の価値や用途を本質的に変えてしまうものは「著しい変更」(=全員同意)、価値維持・利便性向上にとどまるものは「軽微変更」(=過半数)と整理される。
軽微変更・変更行為の具体例
| 行為 | 分類 | 決定要件 |
|---|---|---|
| 砂利道のアスファルト舗装 | 軽微変更 | 持分の過半数 |
| 共有建物の外壁塗装・屋根の修繕的塗替え | 軽微変更 | 持分の過半数 |
| 共有地に短期の砂利敷き等の整備 | 軽微変更 | 持分の過半数 |
| 共有建物の建替え | 変更行為 | 全員の同意 |
| 共有山林の樹木の全伐採(皆伐) | 変更行為 | 全員の同意 |
| 共有土地の農地から宅地への転用(造成) | 変更行為 | 全員の同意 |
| 共有建物の大規模増改築 | 変更行為 | 全員の同意 |
軽微変更の典型として、砂利道の舗装・外壁塗装は過半数で可能となった点が、改正の実務的メリットを象徴している。
共有物の使用に関する改正
共有者による使用の根拠(249条1項)
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる(249条1項)。これは旧法から維持された規律であるが、改正により使用に伴う対価・注意義務が明文化された。
使用の対価の償還義務(249条2項)
共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う(249条2項)。改正前は、共有者の一人が共有物を単独使用していても、他の共有者は当然には対価を請求できるのか不明確であった。改正法はこれを明文で肯定し、自己の持分を超えて使用している部分について対価償還義務があることを定めた。
善管注意義務(249条3項)
共有物を使用する共有者は、善良な管理者の注意をもって共有物を使用しなければならない(249条3項)。これにより、使用共有者が共有物を損傷させた場合の責任関係が明確になった。
使用者の決定と変更(252条1項後段・3項)
共有物を使用する共有者を定めることは「共有物の管理に関する事項」であり、持分の過半数で決定する(252条1項後段)。
重要なのは、既に共有物を使用している共有者がいる場合でも、持分の過半数で使用者を変更できる点である(252条3項)。旧法下では、共有者の一人が適法に使用を始めると、他の共有者が過半数を握っていても明渡しを求めにくいという問題があった。改正法は、過半数の決定によって使用者を変更し得ることを明確にした。
ただし、現に共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その共有者の承諾を得なければならない(252条3項)。「特別の影響」とは、対象となる共有物の性質に応じて、決定の変更等をする必要性と、その変更等によって使用共有者に生ずる不利益とを比較して、その不利益が受忍すべき程度を超えると認められる場合をいうと解されている。例えば、住居として使用している共有者を一方的に追い出すような場合がこれに当たり得る。
所在等不明共有者がいる場合の特則
「所在等不明共有者」とは
所在等不明共有者とは、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない共有者をいう。氏名すら不明な場合(他の共有者を知ることができない場合)と、氏名は分かるが所在が不明な場合の双方を含む。これらの者がいると全員同意が事実上不可能になるため、裁判所の関与のもとで特則が用意された。
変更行為の特則(251条2項)
共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者(所在等不明共有者)以外の共有者全員の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる(251条2項)。
要するに、所在等不明共有者を「頭数から外して」残りの共有者全員の同意で変更行為ができるようにする制度である。あくまで残りの共有者の「全員」の同意が必要であり、過半数では足りない点に注意する。
管理行為の特則(252条2項2号)
裁判所は、所在等不明共有者がいるときは、共有者の請求により、当該所在等不明共有者以外の共有者の持分の価格の過半数で管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる(252条2項2号)。
軽微変更も「管理に関する事項」に含まれるため、所在等不明共有者を除いた持分の過半数で軽微変更を決し得る。
手続の流れ(非訟事件)
これらの裁判は、非訟事件手続法に基づく非訟事件として行われる。概略は次のとおりである。
- 共有者が、共有物の所在地を管轄する地方裁判所に申立てを行う。
- 裁判所は、所在等不明であること等を確認し、公告を行う。公告では、所在等不明共有者に対し、一定期間(1か月以上)内に異議があれば届け出るべき旨等を知らせる。
- 届出期間内に所在等不明共有者からの異議等がないこと等を確認のうえ、裁判所が裁判(決定)をする。
- これにより、所在等不明共有者を除いた共有者によって変更・管理を決することができる。
所在等不明共有者がいる場合の決定要件のまとめ
| 行為の種類 | 通常 | 所在等不明共有者がいる場合 |
|---|---|---|
| 変更行為 | 全員の同意 | 所在不明者を除く全員の同意(251条2項・裁判要) |
| 軽微変更 | 持分の過半数 | 所在不明者を除く持分の過半数(252条2項・裁判要) |
| 管理行為 | 持分の過半数 | 所在不明者を除く持分の過半数(252条2項・裁判要) |
| 保存行為 | 各共有者が単独 | 変更なし(単独で可能) |
賛否を明らかにしない共有者がいる場合の特則(252条2項1号)
所在は判明し連絡もつくが、催告に応じない共有者がいる場合の手当てである。
共有物の管理に関する事項を決する場合において、共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて当該事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告したにもかかわらず、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該賛否不明共有者以外の共有者の持分の価格の過半数で管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる(252条2項1号)。
これにより、いわば「棄権」する共有者を除いて過半数を算定できる。なお、この特則は管理に関する事項(軽微変更を含む)に限られ、変更行為(全員同意を要するもの)には用いることができない点に注意を要する。
| 項目 | 所在等不明(252条2項2号) | 賛否不明(252条2項1号) |
|---|---|---|
| 対象者の状況 | 氏名・所在が不明 | 連絡はつくが賛否を示さない |
| 前置手続 | 公告 | 相当の期間を定めた催告 |
| 適用範囲 | 管理+軽微変更(変更は251条2項) | 管理+軽微変更のみ(変更には不可) |
| 共通点 | いずれも裁判所の決定を要する | いずれも裁判所の決定を要する |
所在等不明共有者の持分取得(262条の2)
制度趣旨
所在等不明共有者がいることにより共有関係の解消が困難となる問題に対応するため、共有者が裁判所の決定を得て所在等不明共有者の不動産持分を取得できる制度が新設された。これにより、所在不明者の持分を他の共有者に集約し、共有関係を解消・縮小することが可能となる。
要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 不動産の共有持分(動産は対象外) |
| 申立権者 | 共有者 |
| 所在等不明 | 共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないこと |
| 供託 | 所在等不明共有者の持分の時価相当額を供託すること(裁判所が定める額) |
| 手続 | 裁判所への申立て・公告・異議届出期間の経過を経た裁判(決定) |
裁判所の決定により、申立てをした共有者は所在等不明共有者の持分を取得する。複数の共有者が申立てをした場合は、各申立共有者がその有する持分の割合に応じて按分して取得する。
効果と所在等不明共有者の保護
所在等不明共有者は、持分を失う代わりに、供託金の還付を請求できるほか、取得した共有者に対し、自己の持分の時価相当額の支払を請求することができる(262条の2第4項)。これにより、所在不明者の財産的利益(持分の対価)が確保される建付けになっている。
相続財産に属する共有持分の特則
相続財産に属する共有持分については、相続開始の時から10年を経過していないときは、持分取得の裁判をすることができない(262条の2第3項)。
これは、相続開始から10年以内であれば、まずは遺産分割によって権利関係を確定すべきであり、共有物の処分的手続である持分取得を先行させるべきではないという趣旨に基づく。10年という期間は、改正後の遺産分割における具体的相続分の主張の期間制限(904条の3)とも平仄が合わせられている。
所在等不明共有者の持分譲渡(262条の3)
制度趣旨
共有者全員が持分を第三者に売却したいのに、所在等不明共有者がいるために全体を譲渡できない、という事態に対応する制度である。所在等不明共有者の持分も含めて第三者に譲渡する権限を、他の共有者に付与する。
要件と手続
- 共有者全員が、その有する不動産持分の全部を同一の第三者に譲渡することを前提とする(バラバラの相手への譲渡には使えない)。
- 共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明共有者の持分を当該第三者に譲渡する権限を取得する。
- 所在等不明共有者の持分の時価相当額を供託する。
- 裁判所の決定の効力が生じた後2か月以内(裁判所が伸長可)に譲渡の効力が生じない場合は、決定の効力が失われる。
持分取得との違い
持分取得(262条の2)が「他の共有者が所在不明者の持分を自分のものにする」制度であるのに対し、持分譲渡(262条の3)は「所在不明者の持分も含めて第三者に売る権限を与える」制度である点で、効果が決定的に異なる。
持分取得と持分譲渡の比較
| 項目 | 持分取得(262条の2) | 持分譲渡(262条の3) |
|---|---|---|
| 効果 | 申立共有者が持分を取得 | 第三者に持分を譲渡する権限を付与 |
| 前提 | 単独でも申立て可 | 共有者全員が全部を同一第三者へ譲渡すること |
| 対象 | 不動産の共有持分 | 不動産の共有持分 |
| 供託 | 時価相当額 | 時価相当額 |
| 期間制限 | なし | 決定の効力発生から2か月以内に譲渡 |
| 相続財産の特則 | 相続開始から10年経過後(262条の2第3項) | 相続開始から10年経過後(262条の3第2項で準用) |
| 不明者の保護 | 持分の時価相当額の支払請求権 | 譲渡対価のうち持分相当額の支払請求権 |
共有物の管理者制度(252条の2)
制度趣旨
共有物を継続的・機動的に管理する者を選任する制度が新設された。従来、共有物の管理は共有者全員による協議や個別の決定に依存しており、管理の担い手が定まらないことが利用阻害の一因であった。管理者を選任することで、日常的な管理を一元的・効率的に行えるようになる。
管理者の選任・解任
- 管理者の選任及び解任は、共有物の管理に関する事項として持分の価格の過半数で決定する(252条1項・252条の2第1項参照)。
- 管理者は共有者である必要はなく、第三者(専門業者等)でも差し支えない。
管理者の権限
| 権限 | 内容 |
|---|---|
| 管理に関する行為 | 保存行為及び管理行為を行うことができる(252条の2第1項) |
| 軽微変更 | 管理に関する事項として行い得る |
| 変更行為(重大変更) | 共有者全員の同意を得なければ、共有物に変更(軽微変更を除く)を加えることができない(252条の2第1項ただし書) |
| 共有者の決定への拘束 | 共有者が252条の決定(管理に関する事項の決定)をした場合、管理者はこれに従わなければならない(252条の2第3項) |
管理者が共有者の決定に違反して行った行為は共有者に対して効力を生じないが、善意の第三者には対抗できない(252条の2第4項)。これにより、取引の安全と共有者の意思の双方が調整されている。
管理者の義務
管理者が共有者でない場合(第三者管理者)には、管理者と共有者との関係について委任に関する規定が準用され、管理者は共有者に対して善良な管理者の注意義務を負う(644条準用)。これにより、管理者の責任関係が委任類型として整理されている。
共有物分割に関する改正(258条)の概要
共有関係の解消手段である共有物分割についても、改正で規律が整備された。改正258条は、裁判による共有物分割の方法として、(1) 現物分割、(2) 賠償分割(共有者の一人に債務を負担させて他の共有者の持分を取得させる方法、いわゆる全面的価額賠償)を条文上明記し、これらの方法によることができないとき等に限り(3) 競売分割(換価分割)によることとした。
判例(最判平成8年10月31日)は、改正前から一定の要件のもとで全面的価額賠償による分割を認めていたが、改正はこれを明文化した位置づけにある。所在等不明共有者の持分取得制度(262条の2)と相まって、共有関係の解消の選択肢が拡充された。
裁判による分割方法の優先順位
改正258条の構造を整理すると、裁判所はまず現物分割又は賠償分割を検討し、それが相当でない・できない場合に限って競売による換価分割を命じる、という段階的な枠組みになっている。
| 方法 | 内容 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 現物分割(258条2項1号) | 共有物そのものを物理的に分ける | 第一次的方法 |
| 賠償分割(258条2項2号) | 共有者の一人が他の持分を取得し、対価を支払う | 現物分割と並ぶ選択肢として明文化 |
| 競売分割(258条3項) | 競売により換価し代金を分ける | 上記によれない場合の最終手段 |
なお、共有物分割は協議による分割が原則であり、協議が調わないとき又は協議をすることができないときに裁判による分割(共有物分割の訴え)が可能となる(258条1項)。
遺産共有と通常共有の交錯
相続によって生じた共有(遺産共有)と、通常の共有(物権法上の共有)が同一物に併存する場合の処理も整理された。遺産共有持分と他の共有持分とが併存する場合、遺産共有持分については原則として遺産分割の手続によるが、相続開始から10年を経過したときは、共有物分割の訴えにおいて遺産共有持分についても分割できる場合がある(258条の2参照)。試験では「相続による共有なのに共有物分割訴訟ができるのか」という形で出題され得るため、10年という時間軸とあわせて押さえておきたい。
総合事例による具体的あてはめ
ここまでの規律を具体的な事例で確認する。
事例: 甲土地(地目:原野)をA・B・Cが各3分の1の持分で共有している。Aは甲土地に隣接する自宅で居住しており、長年Aが甲土地を資材置場として単独使用してきた。Bは遠方に転居して連絡はつくが、共有物の処分に関する照会には一切返答しない。Cは数年前から所在不明で連絡が取れない。
(1) 甲土地を駐車場として整地・舗装したい場合
原野を駐車場とするための本格的な造成・舗装は「形状又は効用の著しい変更」を伴い得るため、変更行為(251条1項)として原則全員同意を要する。もっとも、既存通路への砂利敷き等にとどまるなら軽微変更として過半数で足りる。Cが所在不明であるから、変更行為については251条2項の裁判を得てA・B(Cを除く全員)の同意により行うことになる。ただしBが賛否を示さない場合、変更行為には252条2項1号の賛否不明の特則は使えない点に注意を要する。
(2) 資材置場としての使用者をAからBに変更したい場合
使用者の決定・変更は管理に関する事項であり持分の過半数で決し得る(252条1項・3項)。もっとも、Aの使用が居住と密接に関連し「特別の影響」を及ぼすときはAの承諾が必要となる(252条3項)。本件の資材置場としての使用が居住の本質に関わらないなら、過半数の決定で変更し得る余地がある。なお、Aは自己の持分(3分の1)を超えて単独使用してきたから、他の共有者に対し超過使用分の対価償還義務を負う(249条2項)。
(3) Cの持分を集約して共有関係を整理したい場合
甲土地は不動産であり、Cは所在等不明であるから、A(又はB)は262条の2の持分取得の申立てができる。供託(時価相当額)と公告・異議届出期間の経過を経て、裁判によりCの持分を取得する。仮にA・B・Cの持分を一括して第三者Dに売却したいのであれば、262条の3の持分譲渡を用い、Cの持分も含めてDに譲渡する権限を得ることになる(決定後2か月以内の譲渡が必要)。
このように、一つの共有物をめぐって、行為類型の性質決定→決定要件→所在不明・賛否不明の特則→解消手段(持分取得・譲渡・分割)という流れで、改正法の各制度が連動して機能する。
旧法と改正法の対照(総まとめ)
| 論点 | 旧法 | 改正法 |
|---|---|---|
| 変更行為 | 全員同意(旧251条) | 全員同意(251条1項)。ただし軽微変更を除く |
| 軽微変更 | 概念なし(変更として全員同意の疑義) | 持分の過半数(251条1項括弧書・252条1項) |
| 管理行為 | 持分の過半数(旧252条本文) | 持分の過半数(252条1項)。使用者の決定も含む |
| 保存行為 | 各共有者単独(旧252条ただし書) | 各共有者単独(252条5項) |
| 所在不明者がいる場合 | 特則なし | 251条2項(変更)・252条2項2号(管理) |
| 賛否不明者がいる場合 | 特則なし | 252条2項1号 |
| 使用対価 | 明文なし | 自己の持分超過分の償還義務(249条2項) |
| 使用者の善管注意義務 | 明文なし | 明文化(249条3項) |
| 管理者制度 | なし | 新設(252条の2) |
| 所在不明者の持分取得 | なし | 新設(262条の2) |
| 所在不明者の持分譲渡 | なし | 新設(262条の3) |
| 賠償分割 | 判例(最判平8.10.31) | 明文化(258条2項2号) |
答案での書き方・論述の流れ
論文式で共有制度の改正を扱う場合、典型的には「ある共有者の行為が適法か」「過半数で決められるか・全員同意が必要か」が問われる。以下の思考枠組みで書くと安定する。
- 行為の性質決定 — 問題となる行為が、保存行為・管理行為・軽微変更・変更行為(重大変更)のいずれに当たるかを特定する。ここが論述の出発点であり、最も配点が厚い。
- 区分の基準の提示 — 変更か軽微変更かは「形状又は効用の著しい変更を伴うか」(251条1項括弧書)で判断する旨を示し、変更の箇所・範囲・態様・程度を総合考慮するという規範を立てる。
- 要件のあてはめ — 特定した行為類型に応じ、(a) 保存行為なら単独可(252条5項)、(b) 管理行為・軽微変更なら持分の過半数(252条1項)、(c) 変更行為なら全員同意(251条1項)を要する旨をあてはめる。
- 特則の検討 — 所在等不明共有者・賛否不明共有者がいる場合は、251条2項・252条2項の裁判による特則を検討する。使用共有者の変更が問題となれば252条3項の「特別の影響」を論じる。
- 結論 — 適法・違法、又は決定が有効かを示す。
論述例(骨子):「本件の外壁塗装は共有建物の現状を維持・向上させるもので、形状又は効用の著しい変更を伴わないから、軽微変更(251条1項括弧書)に当たる。したがって252条1項により持分の価格の過半数で決することができ、Xら(持分合計過半数)の決定は適法である。」というように、性質決定→条文→あてはめ→結論の順で簡潔に書く。
よくある質問(FAQ)
Q1. 軽微変更と管理行為はどう違うのか。決定要件が同じなら区別する意味はあるのか。
A. いずれも持分の過半数で決定できる点は共通する。しかし、所在等不明共有者がいる場合の特則の適用範囲を考えると区別の意味がある。また、「変更」概念に属するか「管理」概念に属するかは、管理者の権限(252条の2第1項ただし書は「変更(軽微変更を除く)」を全員同意事項とする)など他の規律と連動する。条文上は軽微変更を「変更」から除外しつつ「管理に関する事項」に取り込む構造なので、概念の所属を正確に把握しておくとよい。
Q2. 所在等不明共有者の特則と賛否不明共有者の特則の最大の違いは。
A. 適用範囲である。所在等不明(252条2項2号)は管理行為・軽微変更に使えるうえ、変更行為についても251条2項の特則がある。これに対し賛否不明(252条2項1号)は管理に関する事項(軽微変更を含む)に限られ、全員同意を要する変更行為には用いることができない。前置手続も、所在等不明は公告、賛否不明は催告という違いがある。
Q3. 持分取得(262条の2)と持分譲渡(262条の3)はどちらを使うべきか。
A. 共有関係を縮小して自分(共有者側)に持分を集めたいなら持分取得、共有物全体を第三者に売却したいなら持分譲渡を用いる。持分譲渡は「共有者全員が全部を同一の第三者に譲渡する」場合に限られ、決定後2か月以内に譲渡しないと効力を失う点に注意する。
Q4. 相続で生じた共有に持分取得・持分譲渡は使えるか。
A. 使えるが、相続開始から10年を経過していることが必要である(262条の2第3項、262条の3第2項)。10年以内はまず遺産分割で解決すべきという趣旨である。
Q5. 既に共有物を一人で住居として使っている共有者を、過半数の決定で追い出せるか。
A. 使用者の変更自体は持分の過半数で決定できる(252条3項)。ただし、現に使用する共有者に「特別の影響」を及ぼすときはその者の承諾が必要であり、住居としての使用を一方的に奪うようなケースでは承諾なしには変更できない可能性が高い。
Q6. 改正法はいつから適用されるのか。
A. 共有制度に関する改正は令和3年(2021年)に成立し、令和5年(2023年)4月1日から施行されている。施行日後の行為・申立てに適用されるのが原則である。
試験対策での位置づけ
共有制度の改正は、物権法の基礎的知識として短答式・論文式の双方で出題可能性が高い。短答式では条文の数字(過半数か全員同意か、10年か、2か月か)が、論文式では行為の性質決定とあてはめが問われやすい。
特に押さえるべきポイントは以下のとおりである。
- 保存行為・管理行為・軽微変更・変更行為の4区分と各決定要件(251条・252条)。
- 軽微変更の判断基準(「形状又は効用の著しい変更」を伴うか)と典型例(砂利道舗装・外壁塗装=軽微変更/建替え・農地転用=変更)。
- 所在等不明共有者がいる場合の管理・変更の裁判による特則(251条2項・252条2項2号)と、賛否不明共有者の特則(252条2項1号)の違い。
- 持分取得制度(262条の2)と持分譲渡制度(262条の3)の要件・効果・比較、相続財産の10年特則。
- 共有物の管理者制度(252条の2)の選任要件・権限・限界(変更には全員同意)・義務(善管注意義務)。
- 共有物の使用に関する規律(249条の対価償還義務・善管注意義務、252条3項の使用者変更と「特別の影響」)。
関連判例
- 最判昭和39年2月25日: 共有物の変更行為と管理行為の区別に関する基本判例。共有物の利用方法をめぐる判断枠組みの基礎をなす。
- 最判平成8年10月31日: 裁判による共有物分割において、一定の要件のもとで全面的価額賠償(賠償分割)を認めた判例。改正258条が明文化した賠償分割の理論的前提となる。
- 最判平成10年3月24日: 共有物の管理・利用関係に関する判例。共有者間の使用関係の処理に参照される。
- 最判平成8年11月26日: 共有物の使用と他の共有者に対する償金(対価)に関する判例。改正249条2項(使用対価の償還義務)の問題意識と連続する。
(注:判例の射程は改正前の規律を前提とする部分があるため、改正後の条文との関係を意識して理解することが望ましい。)
まとめ
2021年(令和3年)民法改正による共有制度の見直しは、所有者不明土地問題への対応を主目的としつつ、共有法全般にわたる構造的改正を行ったものである。第一に、変更・管理の区分を再整理し、軽微変更を過半数決定の対象に取り込むことで共有物の利用を円滑化した(251条・252条)。第二に、所在等不明共有者・賛否不明共有者がいる場合の裁判による特則を整備し、全員同意の壁を乗り越える道を開いた(251条2項・252条2項)。第三に、所在等不明共有者の持分取得(262条の2)・持分譲渡(262条の3)という共有関係解消の新たな手段を創設した。さらに、共有物の管理者制度(252条の2)の創設、使用共有者の対価償還義務・善管注意義務の明文化(249条)、共有物分割における賠償分割の明文化(258条)も重要である。旧法との比較を意識しつつ、改正の趣旨と各制度の要件・効果(数字を含む)を正確に理解することが、短答・論文を問わず合格答案の前提となる。
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