決議取消しの訴えの利益とは
けつぎとりけしのうったえのりえき
決議取消しの訴えの利益とは、決議の取消しを求める判決を得ることに法律上の実益があるかという訴訟要件です。決議取消しの訴えは形成の訴えなので法律の要件を満たせば訴えの利益があるのが通常ですが、判例は、その後の事情の変化によって取消判決を得ても実益がなくなったときは、特別の事情のない限り訴えの利益を欠いて却下されるとしています。
裁判は、勝っても何も変わらないなら起こす意味がありません。決議取消しの訴えも同じで、取締役を選んだ決議を争っているうちにその取締役が全員任期を終えて新しい取締役が選ばれていれば、いまさら古い決議を取り消しても実益がなく、訴えは却下されます。逆に、決算を承認した決議は、取り消せば翌年以降の決算も土台を失って作り直しになるので、翌年の決算が承認されていても争う実益は残ります。同じ決議をもう一度正しい手続でやり直して確定させた場合や、決議に基づいて新株が発行されてしまった場合も、古い決議を争う実益はなくなります。
取締役選任決議の取消訴訟中に選任された取締役が全員退任し新たに選任されたときは、特別の事情のない限り訴えの利益を欠きます
判例は、形成の訴えは法律の定める要件を満たす限り訴えの利益があるのが通常であるが、その後の事情の変化により利益を欠くに至る場合があるという一般論を示したうえで、役員選任の総会決議取消しの訴えの係属中に、その決議に基づいて選任された取締役ら役員がすべて任期満了により退任し、その後の株主総会の決議によって新たに役員が選任され、取消しを求める決議に基づく役員がもはや現存しなくなったときは、特別の事情のない限り訴えは実益を失い訴えの利益を欠くとしました(最判昭和45年4月2日)。「取締役選任の株主総会決議取消しの訴えの係属中,その決議に基づいて選任された取締役が全て任期満了により退任し,その後の株主総会の決議によって取締役が新たに選任されたときは,特別の事情のない限り,当該決議取消しの訴えは,訴えの利益を欠くこととなる」という肢は正しいです。特別の事情とは、たとえば後の選任決議が先の決議で選ばれた取締役の招集した総会でされたため、先の決議の瑕疵が後の決議にも連鎖するような場合です。
計算書類承認決議は、翌期以後の計算書類が承認されても、再決議などの特別の事情がない限り訴えの利益を失いません
計算書類の承認決議(438条2項)の取消しの訴えについて、判例は、勝訴判決が確定すれば決議は初めに遡って無効となり、計算書類は総会の承認を欠いて利益処分も効力を失い、法律上再決議が必要になるから、その後にその議案について再決議がされたなどの特別の事情がない限り訴えの利益は失われないとしました。取り消された期の計算書類が未確定になれば、それを前提とする翌期以後の計算書類の内容も不確定になるので、翌期以後の計算書類が承認されていても同じです(最判昭和58年6月7日)。「計算書類承認の株主総会決議の取消訴訟の係属中に,翌期以後の計算書類が承認された場合であっても,…その後にその議案につき再決議がされたなどの特別の事情のない限り,訴えの利益は失われない」という肢は正しく、「その次の事業年度に係る計算書類が株主総会において承認された場合には、特別の事情がない限り、当該決議の取消しを求める訴えの利益が失われることとなる」という肢は誤りです。
同じ内容で遡って効力を生ずる第二決議が有効に確定したときや、決議に基づいて新株が発行されたときは、訴えの利益を失います
取締役に対する退職慰労金支給の決議(第一決議)の取消しを求める訴訟の係属中に、第一決議と同じ内容を持ち、第一決議の取消しが確定した場合に遡って効力を生ずるとされる決議(第二決議)がされ、第二決議について取消しの訴えの提起などがなく有効であることが確定したときは、判例は、第一決議を取り消しても判決の確定によって第二決議が第一決議に代わって効力を生ずることになるので、第一決議の取消しを求める実益はなく、特段の事情のない限り訴えの利益を欠くとしました(最判平成4年10月29日)。「第二決議について株主総会決議取消しの訴えの提起等がなく有効であることが確定したときは、特段の事情のない限り、第一決議の株主総会決議取消しの訴えは、訴えの利益を欠く」という肢は正しいです。株主以外の者に新株を有利発行する旨の決議の取消訴訟の係属中に、その決議に基づいて新株が発行されてしまったときも、判例は訴えの利益が失われるとしています(最判昭和37年1月19日)。発行された新株の効力は新株発行無効の訴えで争うべきもので、決議を取り消しても発行の効力は左右されないからです。「その決議に基づきその第三者に新株が発行されても,決議取消しの訴えの利益は失われない」という肢は誤りです。
取締役選任決議の不存在確認の訴えは、それを理由とする後の決議の不存在確認の訴えと併合されていれば確認の利益があります
取締役を選任する決議(第一決議)の不存在確認を求める訴訟の係属中に、第一決議で選任された取締役で構成される取締役会の招集決定に基づき、その取締役会で選任された代表取締役が招集した総会で新たに取締役を選任する決議(第二決議)がされた場合、後の決議が適法にされていれば先の決議の不存在確認を求める利益は通常失われます。しかし、第一決議が存在しないことを理由とする第二決議の不存在確認の訴えが提起され、第一決議の不存在確認の訴えに併合されているときは、第一決議の不存在が第二決議の効力を左右するので、特段の事情のない限り第一決議の不存在確認を求める訴えの利益は失われません(最判平成11年3月25日)。「第一決議が存在しないことを理由とする第二決議の不存在確認を求める訴えが提起され、第一決議の不存在確認を求める訴えに併合されているときは、特段の事情のない限り、第一決議の不存在確認を求める訴えの利益は失われない」という趣旨の肢は正しいです。
会社法830条1項
株主総会若しくは種類株主総会又は創立総会若しくは種類創立総会(以下この節及び第九百三十七条第一項第一号トにおいて「株主総会等」という。)の決議については、決議が存在しないことの確認を、訴えをもって請求することができる。
論文ではこう使う
論文では、訴訟の途中で事情が変わった事案で、本案の取消事由に入る前に訴えの利益を検討します。「決議取消しの訴えは形成の訴えであり、法定の要件を満たせば訴えの利益があるのが通常であるが、その後の事情の変化により実益を欠くに至れば訴えの利益を失う(最判昭和45年4月2日)」と一般論を置き、事案の型に応じて、役員の全員退任と新選任なら特別の事情(先の瑕疵が後の決議に連鎖するか)を検討し、計算書類の承認なら再決議の有無(最判昭和58年6月7日)、やり直しの第二決議なら遡及効の定めと有効確定の有無(最判平成4年10月29日)、新株の発行なら新株発行無効の訴えへの振り替え(最判昭和37年1月19日)を書きます。不存在確認の連鎖の事案では、後行決議の不存在確認の訴えと併合して提起することで確認の利益を保てる(最判平成11年3月25日)ことに触れます。
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