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用語集 / 商法 / 代表取締役の権限と代表権の制限・濫用

代表取締役の権限と代表権の制限・濫用(取締役会決議を欠く行為の効力)とは

だいひょうとりしまりやくのけんげんとだいひょうけんのせいげんらんよう

商法 取締役・取締役会・代表取締役

代表取締役の権限とは、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限のことで、この権限に加えた制限は善意の第三者に対抗できません(会社法349条4項・5項)。代表権の濫用とは、代表取締役が自己又は第三者の利益を図る目的で代表権の範囲内の行為をすることで、相手方がその目的を知り又は知ることができたときは会社に効力が及びません。取締役会決議を欠く行為とは、重要な財産の処分など取締役会の決議を要する取引を代表取締役が決議を経ずにした場合のことで、判例は原則として有効とし、相手方が決議を経ていないことを知り又は知り得たときに限り無効としています。

代表取締役は会社の顔で、会社の業務に関することなら何でも会社の名前でできます。取引の相手方は、その会社の内部で「1億円以上の契約は取締役会の承認が要る」と決まっているかまで調べられないので、内部の制限は相手方が知らない限り持ち出せません。法律が取締役会の決議を求める取引を社長が決議なしでした場合も、相手方が決議のないことを知らず知りようもなければ有効で、無効を言えるのは会社の側だけです。逆に、社長が自分の借金返済のために会社名義で金を借りる代表権の濫用は、相手方がその目的に気づけたなら会社に効力が及びません。

取引先との商談の場面。先生が社長役(札「代表取締役」)で机に座り、契約書「本社工場の売買契約」に判を押そうとしている。向かいに男性の買主(札「買主」)。社長の背後の壁に小さく貼られた社内規程「重要な財産の処分は取締役会の決議を要する(362

代表権は業務に関する一切の裁判上・裁判外の行為に及び、代表権に加えた制限は善意の第三者に対抗できません

代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有します(349条4項)。代表権は包括的で、定款や取締役会規則で「一定額以上の取引は取締役会の承認を要する」などの内部的な制限を加えることはできますが、その制限は善意の第三者に対抗できません(349条5項)。取引の相手方からは会社の内部の制限は見えないので、取引の安全を守るためです。相手方が制限を知っていれば会社は制限を主張できます。「代表取締役及び代表執行役は,いずれも,その権限に制限が加えられていない限り,会社の業務に関する一切の裁判上及び裁判外の行為をする権限を有する」という肢と、「取締役会において代表取締役の代表権に加えた制限は,善意の第三者に対抗することができない」という肢は正しいです。349条4項・5項は代表執行役に準用されます(420条3項)。会社は、代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負います(350条)。会社は代表者を通じて活動する以上、その職務上の不法行為の責任も会社が負うという規定で、使用者責任(民法715条)のような選任・監督上の無過失による免責はありません。「会社は,Aがその職務を行うについて第三者に損害を加えたときは,その損害を賠償する責任を負う」という肢(Aは代表取締役)は正しいです。

取締役会決議を欠く重要な業務執行は原則として有効で、相手方が決議を経ていないことを知り又は知り得たときに限り無効です

重要な財産の処分及び譲受けや多額の借財は取締役会の決議事項で、取締役に委任できません(362条4項)。代表取締役がこの決議を経ずに対外的な取引をした場合の効力が問題になります。判例(最判昭和40年9月22日)は、会社の一定の業務執行に関する内部的意思決定をする権限が取締役会に属する場合、代表取締役は取締役会の決議に従って法律行為をすることを要するが、代表取締役は会社の業務に関し一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する点にかんがみれば、取締役会の決議を経てすることを要する対外的な個々的取引行為を決議を経ないでした場合でも、その取引行為は内部的意思決定を欠くにとどまるから原則として有効であって、ただ相手方が決議を経ていないことを知り又は知り得べかりしときに限って無効であるとしました。定款による内部的制限(349条5項)では相手方が善意なら保護されるのに対し、法定の取締役会決議を欠く場合は相手方に過失があれば保護されないという点で違いがあります。「代表取締役が取締役会の決議を経てすることを要する対外的な個々的取引行為を取締役会の決議を経ないでした場合には、当該取引行為は、内部的意思決定を欠くため、原則として無効である」という肢は誤りです。ある取引が重要な財産の処分に当たるかについて、判例(最判平成6年1月20日)は、当該財産の価額、その会社の総資産に占める割合、当該財産の保有目的、処分行為の態様及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきものとしています。

法廷の場面。先生が裁判官役(札「裁判所」)で法壇に座る。原告席に男性(札「債務者E」)が立ち、吹き出し「会社は取締役会の決議なしで私への債権をFに譲渡した。無効だ」。被告席に男性(札「譲受人F」)。壁の板書「決議を欠く取引の無効は、原則とし

取締役会決議を欠くことによる無効は原則として会社だけが主張でき、債権譲渡の債務者などは主張できません

判例(最判平成21年4月17日)は、362条4項が重要な業務執行の決定を取締役会の決議事項とした趣旨は、代表取締役への権限の集中を抑制し、取締役相互の協議による結論に沿った業務の執行を確保することによって会社の利益を保護する点にあるとしたうえで、代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な業務執行に該当する取引をした場合、取締役会の決議を経ていないことを理由とする取引の無効は原則として会社のみが主張することができ、会社以外の者は、当該会社の取締役会が無効を主張する旨の決議をしているなどの特段の事情がない限り、これを主張することはできないとしました。会社を守るための無効なので、会社が有効なものとして扱っているのに第三者が無効を持ち出すことは許されないという趣旨です。「代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な業務執行に該当する取引をした場合には,特段の事情がない限り,その会社以外の者も,取締役会の決議を経ていないことを理由とするその取引の無効を主張することができる」という肢は誤りです。会社の重要な財産である金銭債権を代表取締役が取締役会の決議を経ずに譲渡した事案では、譲受人が決議を経ていないことを知っていれば会社は無効を主張できますが、譲渡された債権の債務者は会社以外の者なので無効を主張できません。「代表取締役が,会社を代表して,取締役会の決議を経ないで,会社の重要な財産であるEに対する金銭債権をFに譲渡した場合において,Fが取締役会の決議を経ていないことを知っていたときは,Eは,Fに対し,その債権譲渡の無効を主張することができる」という肢は誤りです。

自己の利益を図る目的でした代表行為は、相手方がその目的を知り又は知ることができたときは会社に効力が及びません

代表取締役が自分の借金の返済に充てるために会社の名前で金を借りるなど、自己又は第三者の利益を図る目的で代表権の範囲内の行為をすることを代表権の濫用といいます。行為自体は代表権の範囲内なので客観的には有効な代表行為ですが、判例(最判昭和38年9月5日)は、代表取締役が自己の利益のため表面上会社の代表者として法律行為をした場合に、相手方がその真意を知り又は知り得べきものであったときは、民法93条ただし書(当時)の規定を類推してその行為は無効であるとしました。平成29年民法改正で民法107条が新設され、代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合に、相手方がその目的を知り又は知ることができたときは、その行為は代理権を有しない者がした行為とみなすと定められました。現在は代表取締役の代表権の濫用にもこの規定が類推適用され、相手方が悪意又は有過失なら無権代理として扱われて会社に効力が及ばず、会社が追認することはできるという整理になります。結論は判例と同じです。「代表取締役が自己の利益を図る目的で会社を代表して第三者と契約をした場合には,客観的にはその行為は代表権の範囲内にあるので,当該第三者が代表取締役の目的を知っていたとしても,その契約は有効である」という肢は誤りで、「代表取締役Iが,自己の個人的利益を図る目的で,会社を代表してJから金銭を借り入れた場合において,JがIの真意を知り得べきであったときは,その借入れの効力は,会社には及ばない」という肢は正しいです。

代表取締役の行為の効力の整理

  • 定款・取締役会規則による内部的制限に違反: 有効。制限は善意の第三者に対抗できない(349条5項)。悪意の相手方には対抗できる
  • 法定の取締役会決議(362条4項)を欠く取引: 原則有効。相手方が決議を経ていないことを知り又は知り得たときに限り無効(最判昭40.9.22)。無効を主張できるのは原則として会社だけ(最判平21.4.17)
  • 代表権の濫用(自己・第三者の利益を図る目的): 相手方がその目的を知り又は知ることができたときは無権代理とみなされ会社に効力が及ばない(民法107条の類推。最判昭38.9.5 と同じ結論)
  • 代表者の職務上の不法行為: 会社が損害賠償責任を負う(350条)

会社法349条4項

代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。

会社法349条5項

前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。

会社法350条

株式会社は、代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。

論文ではこう使う

論文では、代表取締役が取締役会決議なしに会社の重要な財産を売却した事案で、①その処分が「重要な財産の処分」(362条4項1号)に当たるか(最判平6.1.20の総合考慮の基準)、②当たるとして決議を欠く取引の効力(最判昭40.9.22。原則有効、相手方の悪意・有過失で無効)、③無効を主張できる者(最判平21.4.17。原則として会社のみ)の順に書きます。②では、相手方が取引の規模や相手方会社の資産から決議の要否に気づくべきだったか、議事録の提示を求めたかなどの事実で過失を認定します。代表権の濫用が問題になる事案では、行為が代表権の範囲内であることを確認してから、民法107条の類推適用により相手方の悪意・有過失で無権代理とみなされることを書き、会社の追認(民法113条)や表見法理による相手方の保護にも触れます。

試験ではこう問われる

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