【判例】訴訟物と訴えの利益(最判昭32.2.28)
訴訟物と訴えの利益に関する最高裁判例を解説。訴訟物理論・給付の訴えの利益・確認の利益の要件と判断基準を分析します。
この判例のポイント
訴えの利益は、訴訟物に対する本案判決をすることの必要性と実効性を意味し、確認の訴えにおいては確認の利益として、原告の権利又は法的地位に危険・不安が現に存在し、その除去のために確認判決をすることが有効適切であることが要求される。給付の訴えにおいても、将来の給付の訴え(135条)については給付判決の必要性が要求される。
事案の概要
XはYに対して、XがYとの間の雇用契約上の地位を有することの確認を求める訴え(地位確認訴訟)を提起した。Yは、Xを懲戒解雇したと主張し、XにはYとの間の雇用契約上の地位がないと争った。
原審はXの請求を認容したが、Yは上告し、その上告理由として、Xには賃金の支払を求める給付の訴えが可能であるから、わざわざ確認の訴えを提起する利益はないと主張した。
問題の核心は、給付の訴えが可能な場合に確認の訴えを提起することが許されるか、すなわち確認の利益の有無の判断基準にあった。
争点
- 給付の訴えが可能な場合における確認の訴えの利益の有無
- 確認の利益の判断基準
- 雇用契約上の地位確認訴訟における訴えの利益
判旨
確認の訴えは、原告の権利又は法的地位に危険、不安が存する場合に、その危険、不安を除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切であるときに許される。給付の訴えが可能であるからといって直ちに確認の利益が失われるものではない
― 最高裁判所第一小法廷 昭和32年2月28日 昭和30年(オ)第597号
最高裁は、確認の利益について、(1)原告の権利又は法的地位に危険・不安が現に存在すること、(2)その除去のために確認判決を得ることが必要かつ適切であること、という判断基準を示したうえで、給付の訴えが可能であっても、確認の訴えによる紛争解決が有効適切である場合には確認の利益が認められると判示した。
ポイント解説
訴えの利益の体系的位置づけ
訴えの利益は、訴訟要件(本案判決をするための要件)の一つであり、訴えの利益が欠ける場合は訴えが却下される。訴えの利益は訴えの類型に応じて以下のように整理される。
訴えの類型 訴えの利益の内容 給付の訴え 原則として常に認められる(現在の給付の訴え)。将来の給付の訴えについては「あらかじめその請求をする必要がある場合」に限る(135条) 確認の訴え 確認の利益の存在が必要(最も厳格) 形成の訴え 法律が認める場合に限り許される確認の利益の三要素
確認の利益の有無は、一般に以下の三つの要素によって判断される。
第一に、確認対象の選択の適否である。確認の訴えは、現在の権利又は法律関係を対象とすることが原則であり、過去の事実や法律関係の確認は原則として許されない。ただし、過去の法律関係の確認が紛争解決に有効適切である場合には例外的に許容される。
第二に、即時確定の利益である。原告の権利又は法的地位に危険・不安が現に存在し、かつ、確認判決を得ることによってその危険・不安を有効に除去できることが必要である。
第三に、方法選択の適否である。紛争解決のために確認の訴えが最も有効適切な手段であるかが問題となる。給付の訴えや形成の訴えで紛争を解決できる場合に、あえて確認の訴えを選択することが許されるかという問題がここに含まれる。
給付の訴えと確認の訴えの関係
従来の通説は、給付の訴えが可能な場合には確認の利益が原則として否定されるとの立場をとっていた(給付の訴え優先の原則)。その根拠は、給付判決には執行力があるのに対し、確認判決にはこれがないため、給付判決の方が紛争解決に実効的であるという点にあった。
しかし、本判決は、給付の訴えが可能であっても、確認の訴えによる紛争解決が有効適切である場合には確認の利益を否定しないとの立場を示した。雇用契約上の地位確認訴訟のように、基本的法律関係の確認が紛争の抜本的解決につながる場合には、給付の訴え(賃金請求)よりも確認の訴えの方がむしろ適切である。
学説・議論
訴訟物理論との関係
訴えの利益の議論は、訴訟物の理論と密接に関連する。訴訟物(訴訟上の請求)の特定と範囲の画定は、訴えの利益の判断の前提となる。
訴訟物の特定について、旧訴訟物理論(旧説)と新訴訟物理論(新説)の対立がある。
- 旧訴訟物理論: 実体法上の請求権ごとに訴訟物が異なる。同一の給付を求める場合でも、請求権の法的根拠(契約、不法行為等)が異なれば訴訟物は別個である
- 新訴訟物理論: 同一の給付を求める限り、請求権の法的根拠にかかわらず訴訟物は一つである。紛争の一回的解決を重視する立場
判例・実務は旧訴訟物理論を前提としているとされるが、訴えの利益の判断においては実質的に紛争の統一的解決が考慮されており、新訴訟物理論的な発想も見られる。
確認の利益の拡大傾向
近年の判例は、確認の利益を比較的広く認める傾向にある。
- 遺言無効確認訴訟: 過去の法律関係(遺言の効力)の確認であるが、相続をめぐる紛争の抜本的解決に有効であるとして確認の利益を肯定(最判昭47.2.15)
- 債務不存在確認訴訟: 消極的確認の訴えであるが、原告の法的地位の不安定を除去する有効な手段として確認の利益を肯定
- 株主総会決議不存在確認訴訟: 決議の存否そのものを確認することが会社法上の法律関係の安定に資するとして確認の利益を肯定
将来の給付の訴えの要件
給付の訴えの利益については、現在の給付の訴えでは原則として常に訴えの利益が認められるが、将来の給付の訴え(135条)については「あらかじめその請求をする必要がある場合」に限定される。
将来の給付の訴えの必要性が認められる典型例として、以下のものがある。
- 定期金(賃料、養育費等)の将来分の請求
- 建物明渡しの期限到来を条件とする将来の明渡請求
- 継続的不法行為に基づく将来の損害賠償請求
判例の射程
地位確認訴訟の展開
本判決の射程は、雇用契約上の地位確認訴訟にとどまらず、広く法律関係の確認の訴えに及ぶ。特に以下の訴訟類型において確認の利益の判断が問題となる。
- 賃借権確認訴訟: 賃貸借契約の存続が争われている場合
- 親子関係存否確認訴訟: 身分関係の確認
- 株主権確認訴訟: 株主の地位の確認
訴えの利益の消滅
訴訟提起後に訴えの利益が消滅した場合、訴えは不適法として却下される。例えば、地位確認訴訟の係属中に原告が任意退職した場合や、債務不存在確認訴訟の係属中に相手方が債権を放棄した場合がこれに当たる。
反対意見・補足意見
本判決には特段の反対意見・補足意見は付されていない。確認の利益の判断基準については、その後の判例において個別の事案に即した判断が蓄積されている。
試験対策での位置づけ
訴訟物と訴えの利益は、司法試験・予備試験の民事訴訟法においてA級の重要論点であり、確認の利益の三要素の検討が繰り返し出題されている。論文式試験では、確認の訴えの利益が問われる設問が頻出であり、特に「給付の訴えが可能な場合に確認の利益が認められるか」という形での出題が多い。
出題実績としては、新司法試験では平成18年、平成22年、平成27年、令和2年、令和4年に関連する出題がなされ、予備試験でも複数回出題されている。
主な出題パターンは、(1)確認の利益の三要素(確認対象の適否・即時確定の利益・方法選択の適否)の検討、(2)給付の訴えとの方法選択の問題、(3)過去の法律関係の確認の可否、(4)将来の給付の訴えの必要性の判断、の四つが主な類型である。
答案での使い方
論証パターン
「確認の訴えが適法であるためには、確認の利益が認められる必要がある。確認の利益は、(1)確認対象の選択が適切であること、(2)原告の権利又は法的地位に危険・不安が現に存し、確認判決によってこれを除去することが有効であること(即時確定の利益)、(3)確認の訴えが紛争解決の方法として適切であること(方法選択の適否)、を要する。給付の訴えが可能であっても、確認の訴えによる紛争解決が有効適切である場合には確認の利益は否定されない(最判昭32.2.28)。」
答案記述例
「Xが雇用契約上の地位確認の訴えを提起した場合の確認の利益について検討する。(1)確認対象は現在の法律関係(雇用契約上の地位の有無)であり適切である。(2)YがXの懲戒解雇を主張してXの地位を争っている以上、Xの法的地位に危険・不安が現に存在する。(3)方法選択の適否について、Xには未払賃金の給付の訴えが可能であるが、雇用契約上の地位の存否を確認することにより、将来にわたる賃金請求権の基礎となる法律関係が確定され、紛争の抜本的解決に資する。したがって、Xの地位確認の訴えには確認の利益が認められる。」
試験に出るポイント
- 確認の利益は、確認対象の選択の適否、即時確定の利益、方法選択の適否の三要素で判断する
- 給付の訴えが可能であっても、確認の訴えによる紛争解決が有効適切であれば確認の利益は認められる
- 確認の訴えの対象は原則として現在の権利又は法律関係であるが、過去の法律関係の確認が紛争解決に有効な場合は例外的に許容される
- 将来の給付の訴えは「あらかじめその請求をする必要がある場合」に限り許される(135条)
- 訴訟物理論(旧説・新説)の対立は訴えの利益の判断の前提として理解が不可欠である
覚えるべき要点
- 確認の利益の三要素 = 確認対象の適否 + 即時確定の利益 + 方法選択の適否
- 給付の訴え優先は絶対ではない(確認の訴えが有効適切なら肯定)
- 過去の法律関係の確認 → 原則不可、例外的に許容(最判昭47.2.15)
- 将来の給付の訴え → 135条「あらかじめ請求の必要」
- 旧訴訟物理論 = 請求権基礎ごとに訴訟物が異なる(判例・実務)
論証への活かし方
訴えの利益の論証においては、以下の構成が有効である。
第1段階として、訴えの類型(給付・確認・形成)を特定し、その類型に応じた訴えの利益の判断枠組みを示す。
第2段階として、確認の訴えの場合は三要素(確認対象の適否・即時確定の利益・方法選択の適否)を順に検討する。方法選択の適否の部分では、給付の訴えとの比較が特に重要である。
第3段階として、具体的事案へのあてはめを行い、確認の利益の有無について結論を導く。
確認の利益の論証は、事案の特性に応じた丁寧なあてはめが評価されるため、三要素を形式的に並べるだけでなく、なぜ確認の訴えが紛争解決に有効であるかを実質的に論じることが重要である。
重要概念の整理
訴えの類型と訴えの利益
訴えの類型 定義 訴えの利益 判決の効力 給付の訴え 被告に一定の作為・不作為を求める 原則肯定(将来の給付は135条) 既判力+執行力 確認の訴え 法律関係の存否の確認を求める 確認の利益が必要 既判力のみ 形成の訴え 法律関係の変動を求める 法定されている場合に限定 既判力+形成力訴訟物理論の比較
比較項目 旧訴訟物理論 新訴訟物理論 訴訟物の単位 実体法上の請求権 給付を求める地位(受給権) 同一給付・別根拠 訴訟物は別個 訴訟物は一つ 判例・実務 採用 採用されていない 長所 請求の特定が明確 紛争の一回的解決に資するよくある質問
Q1: 確認の訴えはどのような場合に使われますか。
確認の訴えは、法律関係の存否を確認することで紛争を解決する場合に使われる。典型例として、雇用契約上の地位確認訴訟、所有権確認訴訟、債務不存在確認訴訟、遺言無効確認訴訟などがある。給付判決の執行力によらず、法律関係の確認によって紛争が解決される場合に有効である。
Q2: 過去の法律関係の確認はなぜ原則として許されないのですか。
確認の訴えは、現在の権利又は法的地位の危険・不安を除去するために行われるものであるから、原則として現在の法律関係を対象とすべきである。過去の法律関係を確認しても、その後の法律関係の変動により紛争が直接解決されるとは限らないからである。ただし、過去の法律関係の確認が紛争解決に有効適切である場合は例外的に許容される。
Q3: 旧訴訟物理論と新訴訟物理論の違いを答案でどう扱えばよいですか。
答案では、旧訴訟物理論が判例・実務の立場であることを前提としつつ、新訴訟物理論との対立にも言及するのが望ましい。ただし、訴訟物理論の議論自体を長々と展開する必要はなく、訴えの利益や既判力の範囲の問題に関連づけて簡潔に触れれば足りる。
Q4: 将来の給付の訴えの「必要性」はどのような場合に認められますか。
将来の給付の訴えは、「あらかじめその請求をする必要がある場合」に限り許される(135条)。具体的には、履行期が未到来であるが期限の到来が確実であり、かつ、あらかじめ請求しておかなければ権利の実現が困難となるおそれがある場合に必要性が認められる。定期金の将来分の請求が典型例である。
関連条文
確認の訴えは、法律関係を証する書面の成立の真否を確認するためにも提起することができる。
― 民事訴訟法 第134条
将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる。
― 民事訴訟法 第135条
関連判例
まとめ
訴訟物と訴えの利益に関する本判決は、確認の利益の判断基準として、原告の権利又は法的地位に危険・不安が現に存し、確認判決によってその除去が有効適切であることを要求するとともに、給付の訴えが可能であっても確認の利益が直ちに否定されるものではないことを明らかにした重要判例である。確認の利益は、確認対象の選択の適否、即時確定の利益、方法選択の適否の三要素によって判断され、訴訟物理論との関連も含めて民事訴訟法の基礎をなす重要論点である。確認の訴えの利用範囲は近年拡大傾向にあり、紛争解決の実効性という観点から確認の利益が柔軟に認められる傾向にある。