【判例】訴訟係属中の権利変動と承継人(最判昭41.3.22)
訴訟係属中の権利変動と承継人に関する最高裁判例を解説。当事者恒定主義の趣旨と限界、訴訟承継の要件、口頭弁論終結前の承継人の取扱いを網羅的に分析します。
この判例のポイント
訴訟係属中に訴訟物たる権利関係が第三者に移転した場合であっても、当事者恒定主義により原則として従前の当事者間で訴訟が続行される。しかし、権利の承継人が訴訟に参加しまたは訴訟が引き受けられた場合には訴訟承継が生じる。本判決は、訴訟係属中の権利変動の場合の訴訟法上の処理について、当事者恒定主義の原則と訴訟承継の制度を明確にした重要判例である。
そして、これらの議論はすべて「訴訟係属」という概念を出発点とする。訴訟係属とは何か、いつ生じ、いつ消滅するのか、そして訴訟係属が生じている「係属中」の状態にどのような法的効果が結びつくのか――その中心的効果の一つが、二重起訴の禁止(民訴法142条)である。本稿ではまず訴訟係属・係属中の意義を正面から定義し、二重起訴の禁止を詳説したうえで、本判例の論点である訴訟係属中の権利変動と訴訟承継へとつなげる。
訴訟係属とは(定義)
訴訟係属(そしょうけいぞく)とは、特定の請求(訴訟物)について、特定の当事者間で、特定の裁判所において審判が行われている状態をいう。 簡潔にいえば「ある事件が、ある裁判所に、現に裁判の対象として掛かっている状態」である。
訴訟係属は、次の三つの要素が裁判所において結合した状態として理解される。
- 当事者(誰と誰の間の紛争か)
- 訴訟物(どのような権利関係についての審判要求か)
- 裁判所(どの裁判所が審判するか)
この三要素の組み合わせを基準にして、後述の二重起訴の禁止における「同一事件」の判断や、訴訟係属の消滅の判断が行われる。
「係属中」とは
「係属中」とは、訴訟係属が発生してから消滅するまでの間、すなわち事件が現に裁判所に掛かっている期間をいう。 「訴訟係属中」「係属中の事件」という表現は、いずれもこの期間に置かれた状態を指す。
実務・条文上、「訴訟の係属中」という文言は数多く登場する。例えば、
- 補助参加(民訴法42条):「訴訟の結果について利害関係を有する第三者は……訴訟係属中、当事者の一方を補助するため参加できる」
- 訴訟参加・訴訟引受け(民訴法49条~51条):「訴訟の係属中その訴訟の目的である権利……を承継した……第三者」
- 二重起訴の禁止(民訴法142条):「裁判所に係属する事件については……更に訴えを提起することができない」
このように、多くの訴訟法上の効果は「係属中であること」を要件としており、訴訟係属の始期・終期を正確に押さえることが各論点の前提となる。
訴訟係属の発生時期
訴訟係属は、訴状が被告に送達された時に発生すると解するのが通説・実務である。
訴えの提起自体は、訴状を裁判所に提出することによって行われる(民訴法133条)。しかし、訴え提起の時点ではまだ被告は手続に取り込まれておらず、当事者間の対立的審判という訴訟係属の実質は備わっていない。被告に訴状が送達されて初めて、当事者双方が特定の裁判所において特定の請求をめぐり対峙する状態が生じる。そこで、訴状送達時を訴訟係属の発生時とするのが一般的な理解である。
もっとも、効果ごとに基準時が異なる点には注意を要する。
- 時効の完成猶予:訴え提起の時(訴状提出時)に生じる(民法147条1項1号、民訴法147条参照)。訴訟係属の発生時(送達時)ではない。
- 二重起訴の禁止の基準時:後述のとおり、係属の先後(どちらの事件が先に係属したか)が問題となる。
訴訟係属の消滅時期
訴訟係属は、次のような事由により消滅する。
- 判決の確定:終局判決が確定すれば、その審級・その事件についての訴訟係属は消滅する。確定により既判力が生じる。
- 訴えの取下げ(民訴法261条):訴えが取り下げられると、訴訟は初めから係属していなかったものとみなされる(民訴法262条1項)。これにより訴訟係属は遡って消滅する。
- 訴訟上の和解・請求の放棄・認諾(民訴法267条):和解調書・放棄認諾調書の記載は確定判決と同一の効力を有し、訴訟係属は消滅する。
なお、上訴があった場合には事件は上級審に移審し、その審級における訴訟係属が観念される。下級審の訴訟係属が消滅して上級審の訴訟係属が発生する、という移行関係として捉えられる。
二重起訴の禁止とは(定義)
二重起訴の禁止(重複起訴の禁止)とは、すでに裁判所に係属している事件については、当事者が更に同一の訴えを提起することができないとする原則をいう(民訴法142条)。 「二重訴訟の禁止」「重複訴訟の禁止」とも呼ばれる。
民訴法142条は次のように定める。
裁判所に係属する事件については、当事者は、更に訴えを提起することができない。
― 民事訴訟法 第142条
すなわち、ある事件が係属中であることを前提として、それと重複する別訴の提起が禁じられる。ここに「係属中」概念が二重起訴の禁止の中核要件として組み込まれている。
二重起訴の禁止の趣旨
二重起訴を禁止する趣旨は、一般に次の三点に整理される。
- 既判力の矛盾抵触の防止:同一事件について複数の判決がなされると、相矛盾する既判力が生じ、法的安定性が害される。
- 訴訟経済:同一事件について重複した審理を行うことは、裁判所・当事者双方にとって無駄であり、司法資源の浪費となる。
- 被告の応訴の煩(応訴の負担):同一事件について二重に応訴を強いられる被告の負担を回避する。
判例・通説は、これら複数の趣旨を総合的に考慮しつつ、後述の「事件の同一性」の判断基準を定めている。
二重起訴の要件
二重起訴の禁止に抵触するためには、前訴と後訴とが「同一事件」であることを要する。「同一事件」性は、伝統的に次の二つの観点から判断される。
- 当事者の同一
- 審判の対象(訴訟物・請求)の同一
(1) 当事者の同一
前訴と後訴の当事者が同一であることを要する。原告・被告の地位が入れ替わっている場合(前訴の被告が後訴の原告になる場合など)でも、当事者が実質的に同一であれば同一性が認められる。
また、既判力の主観的範囲(民訴法115条)が及ぶ者、たとえば口頭弁論終結後の承継人や、訴訟担当における利益帰属主体などにも、二重起訴禁止の趣旨が及ぶと解される場面がある。例えば、債権者代位訴訟が係属中に、債務者自身が同一債権について訴えを提起することの可否などが論じられる。
(2) 審判対象(訴訟物)の同一
前訴と後訴の審判対象(請求・訴訟物)が同一であることを要する。もっとも、訴訟物が完全に一致する場合に限らず、主要な争点が共通し、審理の重複・判断の矛盾が生じるおそれが大きい場合にまで禁止を及ぼすべきかが議論される。ここから「審判対象の同一」をどこまで広げるか、という解釈論が展開する(後述「学説・議論」参照)。
二重起訴に違反した場合の効果
二重起訴の禁止に違反して提起された後訴は、訴訟要件を欠く不適法な訴えとして、原則として却下される。二重起訴に当たるか否かは職権調査事項であり、裁判所は当事者の主張をまたず職権で調査する。
なお、後訴が誤って審理され判決が確定してしまった場合の処理(前訴・後訴の判決が矛盾する場合の優劣)については、確定判決の効力に関する一般理論(再審事由該当性等)に従って処理される。
二重起訴の禁止をめぐる典型論点
相殺の抗弁と二重起訴の禁止
二重起訴の禁止に関して最も議論が多いのが、相殺の抗弁との関係である。
問題状況は次のようなものである。AがBに対して甲債権の支払を求める別訴を提起している(甲債権が別訴の訴訟物として係属中)。一方、BがAに対して提起した乙債権請求訴訟において、Aが甲債権を自働債権とする相殺の抗弁を提出した場合、これは甲債権について別訴で審判を求めつつ、本訴でも甲債権の存否について判断を求めることになり、二重起訴の禁止に抵触しないかが問題となる。
これが論点となるのは、相殺の抗弁についての判断には既判力が生じる(民訴法114条2項)ためである。相殺に供した自働債権の存否について既判力が及ぶ結果、別訴の判決と本訴における相殺の判断との間で矛盾が生じうる。
この問題については、
- 別訴先行型(自働債権につき別訴係属後に、その債権を本訴で相殺の抗弁に供する場合)
- 抗弁先行型(先に相殺の抗弁として主張した債権を、後に別訴で請求する場合)
などの場面に分けて議論される。学説には、142条を直接適用または類推適用して相殺の抗弁を許さないとする見解、審理の段階的調整(弁論の併合や弁論制限)で処理すべきとする見解などがあり、見解が分かれている。詳細な結論は事案類型ごとに分かれるため、答案では問題文の事実関係(どちらが先行しているか、訴訟物の関係はどうか)を丁寧に拾うことが重要である。
一部請求と残部請求
債権の一部についてのみ訴えを提起した場合(明示の一部請求)に、残部について別訴を提起することが二重起訴の禁止に抵触するかも論じられる。明示の一部請求の訴訟物は当該一部に限られると解する立場からは、残部請求は訴訟物を異にし二重起訴に当たらないとされ得る。もっとも、紛争の蒸し返しや審理の重複という観点から別途の制約(信義則等)が問題となる場面がある。
反訴との関係
同一の権利関係について、別訴を提起すれば二重起訴に当たる場合でも、係属中の訴訟手続内で反訴(民訴法146条)として提起すれば、同一手続内で統一的に審理されるため、二重起訴の弊害(判断の矛盾・審理の重複)は生じない。そこで、別訴では二重起訴に抵触する請求であっても、反訴によることで適法に審判を求めうる場合がある。この点は、二重起訴の禁止の趣旨(矛盾防止・訴訟経済)から説明される。
事案の概要
Xは、Yに対して不動産の所有権に基づく明渡請求訴訟を提起した。訴訟係属中にYは当該不動産をZに譲渡し、所有権移転登記を完了した。
Xは、Yが訴訟係属中に不動産を譲渡したことにより、Yに対する訴訟で勝訴判決を得ても強制執行が困難になることを懸念し、Zに対して訴訟引受けの申立て(民訴法51条)をするとともに、Yに対する訴訟の続行を主張した。
Zは、自己は当該訴訟の当事者ではなく、Yから不動産を適法に取得した独立の所有者であると主張して争った。
本件の核心は、訴訟係属中に訴訟物たる権利が第三者に移転した場合、従前の訴訟はどのように処理されるべきか、また承継人に対してどのような訴訟法上の措置が可能かという点にあった。
争点
- 訴訟係属中に訴訟物たる権利が第三者に移転した場合の訴訟法上の処理
- 当事者恒定主義の意義と効果
- 訴訟引受け(民訴法51条)の要件と効果
- 訴訟承継と既判力の主観的範囲の関係
判旨
訴訟の係属中に訴訟の目的である権利又は義務が移転した場合には、裁判所は、相手方の申立てにより、訴訟を承継人に引き受けさせることができる
― 最高裁判所第三小法廷 昭和41年3月22日 昭和39年(オ)第363号
最高裁は、訴訟係属中に訴訟物たる権利が第三者に移転した場合について、以下のとおり判示した。
第一に、訴訟係属中の権利移転があっても、当事者恒定主義により従前の当事者間で訴訟を続行することができる。
第二に、相手方(本件ではX)は、訴訟引受けの申立て(民訴法51条)により、承継人(Z)に訴訟を引き受けさせることができる。
第三に、訴訟引受けがなされた場合には、承継人は訴訟の当事者となり、従前の訴訟状態を承継する。
ポイント解説
当事者恒定主義の意義
当事者恒定主義とは、訴訟係属中に訴訟物たる権利義務が第三者に移転した場合であっても、従前の当事者間で訴訟を続行することを認める原則をいう。
当事者恒定主義の趣旨は以下のとおりである。
- 訴訟経済: 権利移転のたびに訴訟当事者が変更されると、それまでの訴訟の成果が無駄になり、訴訟手続が著しく遅延する
- 訴訟手続の安定: 訴訟係属中の権利移転により当事者が自由に変わると、訴訟手続の安定性が損なわれる
- 相手方の利益保護: 権利移転により訴訟の相手方が不当に不利益を被ることを防止する
訴訟承継の制度
訴訟承継とは、訴訟係属中に訴訟物たる権利義務が第三者に移転した場合に、その第三者(承継人)が訴訟当事者の地位を承継することをいう。訴訟承継には以下の類型がある。
- 参加承継(民訴法49条・50条): 承継人が自ら訴訟に参加する場合。権利承継人による独立当事者参加(49条)または訴訟参加(50条)がこれに当たる
- 引受承継(民訴法51条): 相手方当事者の申立てにより、承継人に訴訟を引き受けさせる場合
訴訟引受けの要件と効果
訴訟引受け(民訴法51条)の要件は以下のとおりである。
- 訴訟係属中に訴訟の目的である権利又は義務が移転したこと
- 相手方の申立てがあること
訴訟引受けの効果は以下のとおりである。
- 承継人は訴訟の当事者となる
- 承継人は従前の訴訟状態を承継する(訴訟状態承継主義)。すなわち、承継前の訴訟行為の効果、証拠調べの結果、時機に後れた攻撃防御方法の却下などが承継人にも及ぶ
- 判決の効力は承継人に及ぶ
当事者恒定主義と既判力の主観的範囲
当事者恒定主義のもとで従前の当事者間で判決がなされた場合、その判決の既判力が口頭弁論終結前の承継人に及ぶかが問題となる。
民訴法115条1項3号は「口頭弁論終結後の承継人」に既判力が及ぶと規定するが、口頭弁論終結前の承継人については直接の規定がない。この点については、以下の議論がある。
- 当事者恒定主義の効果として既判力が及ぶとする見解: 当事者恒定主義の趣旨は、権利移転後も従前の当事者間で有効な判決を得ることにあるから、その判決の既判力は口頭弁論終結前の承継人にも及ぶとする
- 既判力は及ばないとする見解: 115条1項3号は「口頭弁論終結後の承継人」にのみ既判力の拡張を認めており、口頭弁論終結前の承継人には及ばないとする。口頭弁論終結前の承継人は、訴訟参加の機会があったにもかかわらずこれを行使しなかった者であるが、そのことから直ちに既判力の拡張を認める根拠にはならないとする
訴訟告知と承継人の手続保障
当事者恒定主義のもとで訴訟が続行される場合、承継人の手続保障が問題となる。承継人に対する訴訟告知(民訴法53条)により訴訟の存在を知らせ、参加の機会を保障することが重要であるが、訴訟告知がなされなかった場合の承継人の地位については議論がある。
学説・議論
当事者恒定主義の根拠と射程をめぐる学説
当事者恒定主義の根拠については以下の学説がある。
- 訴訟経済説: 当事者恒定主義の主たる根拠は訴訟経済にあるとする。権利移転のたびに訴訟当事者を変更すると訴訟の遅延を招くため、従前の当事者間で訴訟を続行することが合理的であるとする
- 相手方利益保護説: 当事者恒定主義は訴訟の相手方の利益を保護するための制度であるとする。相手方は従前の当事者との間で訴訟を追行してきたのであり、権利移転により不利益を被るべきではないとする
- 判決効保障説: 当事者恒定主義の本質は、従前の当事者間で得られる判決の効力を承継人にも及ぼす基盤を提供する点にあるとする
訴訟承継の対象となる「権利又は義務の移転」の範囲
訴訟承継の対象となる「権利又は義務の移転」の範囲については、以下の見解がある。
- 狭義説: 訴訟物たる権利義務そのものの移転に限られるとする。例えば、所有権に基づく明渡請求訴訟においては、所有権の移転が訴訟承継の対象となる
- 広義説: 訴訟物たる権利義務の移転のみならず、紛争の目的物の移転も訴訟承継の対象となるとする。例えば、明渡請求訴訟の被告が第三者に占有を移転した場合にも訴訟承継が生じうるとする
訴訟状態承継主義の内容
訴訟承継が生じた場合に承継人が承継する「訴訟状態」の内容については、以下の議論がある。
- 前主が行った訴訟行為の効果(自白、認諾、放棄など)が承継人にも及ぶか
- 前主に対してなされた証拠調べの結果が承継人に対しても効力を有するか
- 時機に後れた攻撃防御方法の却下の効果が承継人にも及ぶか
通説は、訴訟状態承継主義のもとで、上記の各効果は原則として承継人にも及ぶとする。もっとも、承継人固有の攻撃防御方法については別途主張する機会が保障されるべきである。
判例の射程
債権譲渡と訴訟承継
本判決の射程は、不動産の譲渡に限らず、債権譲渡の場面にも及ぶ。訴訟係属中に原告が訴訟物たる債権を第三者に譲渡した場合、当事者恒定主義により従前の当事者間で訴訟が続行されるが、譲受人は参加承継または引受承継により訴訟に参加することができる。
相続と訴訟承継
訴訟係属中に当事者が死亡した場合には、訴訟手続の中断と受継(民訴法124条)の問題となる。相続は一般承継であり、特定承継の場合の訴訟承継(49条~51条)とは異なる規律に服する。
法人の合併と訴訟承継
法人の合併の場合にも一般承継として訴訟承継が生じるが、この場合は当事者の変更は法律上当然に生じるため、訴訟引受けの申立てを要しない。
反対意見・補足意見
本判決には特段の反対意見・補足意見は付されていない。当事者恒定主義と訴訟承継の制度は民事訴訟法の基本的な仕組みであり、その適用についての裁判官間の見解の相違は大きくないと解される。
試験対策での位置づけ
訴訟係属中の権利変動と訴訟承継は、民事訴訟法の論文式試験において頻出の論点である。特に、当事者恒定主義の原則と訴訟承継の制度の関係、および口頭弁論終結前の承継人に対する既判力の問題は繰り返し出題されている。
主な出題パターンは以下のとおりである。
- 訴訟係属中の権利移転の処理: 当事者恒定主義の原則と訴訟承継の選択
- 訴訟引受けの要件と効果: 相手方の申立てによる引受承継の処理
- 口頭弁論終結前の承継人と既判力: 115条1項3号との関係
- 参加承継と引受承継の選択: いずれの手段を用いるべきかの判断
- 訴訟状態承継主義の内容: 承継人が承継する訴訟状態の範囲
答案作成のポイントとしては、当事者恒定主義の趣旨を示したうえで、訴訟承継の制度による対応を正確に論じ、既判力の主観的範囲との関連を意識した論述をすることが求められる。
答案での使い方
論証パターン
訴訟係属中の権利変動と訴訟承継を答案で展開する際の基本的な論証の流れは以下のとおりである。
まず、当事者恒定主義の原則を示す。
「訴訟係属中に訴訟物たる権利義務が第三者に移転した場合であっても、当事者恒定主義により、従前の当事者間で訴訟を続行することができる。その趣旨は、権利移転のたびに訴訟当事者が変更されると訴訟の遅延を招き、また相手方の利益が害されることにある。」
次に、訴訟承継の制度を示す。
「もっとも、相手方は訴訟引受けの申立て(民訴法51条)により、承継人に訴訟を引き受けさせることができる。訴訟引受けがなされた場合には、承継人が訴訟の当事者となり、従前の訴訟状態を承継する。」
答案記述例
「XがYに対して所有権に基づく明渡請求訴訟を提起した後、YはZに当該不動産を譲渡した。訴訟係属中の権利移転であるが、当事者恒定主義により、XY間で訴訟を続行することができる。もっとも、Xは承継人Zに対して訴訟の引受けを申し立てることができ(民訴法51条)、これによりZが訴訟の当事者となる。Zは従前の訴訟状態を承継し、YがXとの間で行った訴訟行為の効果もZに及ぶ。」
二重起訴の禁止の論証パターン
二重起訴の禁止を答案で論じる際は、まず142条の趣旨から出発し、「同一事件」性を当事者・審判対象の両面から論じる流れが基本である。
「民訴法142条は、すでに裁判所に係属する事件について更に訴えを提起することを禁じる。その趣旨は、同一事件についての審判の重複による既判力の矛盾抵触を防止し、訴訟経済を図り、被告が二重に応訴を強いられる煩を回避する点にある。したがって、前訴と後訴が『同一事件』といえるか否かは、当事者の同一および審判の対象(訴訟物)の同一を基礎としつつ、上記趣旨に照らして判断すべきである。」
「本件では、前訴と後訴の当事者は〔同一/実質的に同一〕であり、審判対象も〔同一/主要な争点を共通にし判断の矛盾を生じるおそれが大きい〕。したがって後訴は二重起訴の禁止に抵触し、不適法として却下を免れない。なお、これは職権調査事項であるから、裁判所は当事者の主張をまたず職権で調査する。」
相殺の抗弁が絡む場合には、相殺の判断に既判力が生じること(114条2項)を指摘し、別訴と本訴の先後関係を踏まえて、142条の直接・類推適用の可否、弁論の併合等による調整の可否を、142条の趣旨に立ち返って論じる。
重要概念の整理
訴訟承継の類型
| 類型 | 根拠条文 | 主体 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 参加承継(権利承継人の参加) | 民訴法49条 | 承継人 | 承継人が自ら独立当事者参加する |
| 参加承継(訴訟参加) | 民訴法50条 | 承継人 | 承継人が訴訟に参加する |
| 引受承継 | 民訴法51条 | 相手方 | 相手方の申立てにより承継人に訴訟を引き受けさせる |
当事者恒定主義と既判力の関係
| 場面 | 既判力の帰趨 | 根拠 |
|---|---|---|
| 口頭弁論終結後の承継人 | 既判力が及ぶ | 民訴法115条1項3号 |
| 口頭弁論終結前の承継人(訴訟承継あり) | 当事者として既判力が及ぶ | 訴訟承継により当事者となるため |
| 口頭弁論終結前の承継人(訴訟承継なし) | 争いあり | 学説上の対立 |
訴訟承継と関連制度の比較
| 制度 | 適用場面 | 効果 |
|---|---|---|
| 訴訟承継(49-51条) | 訴訟係属中の権利移転(特定承継) | 承継人が当事者の地位を承継 |
| 訴訟手続の中断・受継(124条) | 当事者の死亡等(一般承継) | 相続人等が訴訟を受継 |
| 訴えの変更(143条) | 当事者の意思による訴訟物の変更 | 訴訟の対象が変更 |
訴訟係属の始期・終期の整理
| 局面 | 内容 | 基準時 |
|---|---|---|
| 訴え提起 | 訴状を裁判所に提出 | 訴状提出時(時効完成猶予はここ) |
| 訴訟係属の発生 | 当事者間の対立的審判状態の成立 | 訴状の被告への送達時 |
| 係属中 | 事件が現に裁判所に掛かっている期間 | 発生~消滅の間 |
| 訴訟係属の消滅 | 判決確定/訴え取下げ/和解・放棄・認諾 | 各事由の発生時 |
二重起訴の禁止(142条)の整理
| 要件・効果 | 内容 |
|---|---|
| 前提 | 前訴が現に係属中であること |
| 当事者の同一 | 原告被告が入れ替わっていても実質同一なら該当 |
| 審判対象の同一 | 訴訟物の同一を基礎に、争点共通・矛盾のおそれを考慮 |
| 趣旨 | 既判力の矛盾防止/訴訟経済/被告の応訴の煩の回避 |
| 違反の効果 | 後訴は不適法却下(職権調査事項) |
| 適法に併合審理する手段 | 反訴(146条)・弁論の併合(152条) |
発展的考察
訴訟承継の現代的課題
第一に、事業譲渡と訴訟承継の問題がある。企業の事業譲渡や会社分割に伴い、訴訟物たる権利義務が移転する場合の訴訟承継の処理は、実務上重要な問題である。特に、会社分割の場合の訴訟承継については会社法上の規律との関連で議論がある。
第二に、訴訟係属中の権利移転と詐害的意図の問題がある。訴訟の相手方が敗訴を回避するために権利を第三者に移転し、当事者恒定主義を悪用して判決の実効性を減殺しようとする場合の対応が課題となっている。
第三に、知的財産権の移転と訴訟承継の問題がある。特許権や著作権などの知的財産権が訴訟係属中に移転した場合の訴訟承継の処理は、知的財産訴訟の増加に伴い重要性を増している。
第四に、国際的な権利移転と訴訟承継の問題がある。訴訟係属中に権利が外国在住者に移転した場合の訴訟承継の処理や、外国裁判所に係属中の訴訟の目的物が日本で移転した場合の処理など、国際的な場面での訴訟承継が課題となっている。
よくある質問
Q1: 当事者恒定主義のもとで従前の当事者間で判決を得た場合、その判決は承継人に対して執行できますか。
当事者恒定主義のもとで従前の当事者(例えばY)に対して勝訴判決を得た場合、その判決の既判力が承継人(Z)に及ぶかは前述のとおり議論があるが、仮に既判力が及ぶとしても、判決の名宛人はYであるため、直ちにZに対して強制執行をすることはできない。Zに対する強制執行を行うためには、承継執行文の付与(民執法27条2項)を受ける必要がある。
Q2: 参加承継と引受承継の違いは何ですか。
参加承継は承継人自身の主動的な訴訟参加であるのに対し、引受承継は相手方当事者の申立てにより承継人を訴訟に引き込む制度である。参加承継は承継人の意思に基づくが、引受承継は承継人の意思にかかわらず行われうる。
Q3: 訴訟状態承継主義とは何ですか。
訴訟状態承継主義とは、訴訟承継が生じた場合に、承継人は承継時点における訴訟の状態をそのまま引き継ぐとする原則をいう。すなわち、前主が行った訴訟行為の効果、証拠調べの結果、手続上の効果などが承継人にも及ぶ。承継人は、承継時点以後の訴訟行為は自由に行うことができるが、それ以前の訴訟状態を覆すことは原則として許されない。
Q4: 訴訟係属中に被告が目的物を第三者に譲渡した場合、原告はどのような手段をとれますか。
原告は、(1)当事者恒定主義のもとで従前の被告に対する訴訟を続行するか、(2)訴訟引受けの申立て(民訴法51条)により承継人に訴訟を引き受けさせるか、の選択ができる。また、(3)処分禁止の仮処分を申し立てて被告による権利移転を防止することも考えられる。
Q5: 訴訟係属はいつ発生し、いつ消滅しますか。
訴訟係属は、訴状が被告に送達された時に発生すると解するのが通説・実務である。訴え提起(訴状提出)の時点ではまだ被告が手続に取り込まれておらず、当事者間の対立的審判という実質が備わっていないためである。消滅事由は、判決の確定、訴えの取下げ(取下げにより初めから係属しなかったものとみなされる。民訴法262条1項)、訴訟上の和解・請求の放棄・認諾(民訴法267条)などである。
Q6: 訴え提起の時と訴訟係属の発生時は同じですか。
異なる。訴え提起は訴状の裁判所への提出によって行われ(民訴法133条)、時効の完成猶予などはこの時点を基準とする。これに対し、訴訟係属の発生は訴状の被告への送達時である。効果ごとに基準時が異なる点に注意が必要である。
Q7: 二重起訴の禁止とは何ですか。違反するとどうなりますか。
二重起訴の禁止とは、すでに裁判所に係属している事件について当事者が更に同一の訴えを提起することを禁じる原則である(民訴法142条)。趣旨は、既判力の矛盾抵触の防止、訴訟経済、被告の応訴の煩の回避にある。違反して提起された後訴は、訴訟要件を欠く不適法な訴えとして却下される。二重起訴該当性は職権調査事項であり、当事者の主張をまたず裁判所が職権で調査する。
Q8: 係属中の債権を別訴で相殺の抗弁に用いることは二重起訴に当たりますか。
相殺の抗弁の判断には既判力が生じる(民訴法114条2項)ため、別訴で係属中の自働債権を本訴で相殺の抗弁に供すると、判断の矛盾が生じうる。この場面が二重起訴の禁止(142条)に抵触するかは学説上争いがあり、別訴先行型・抗弁先行型などの場面ごとに議論される。直接適用・類推適用説、弁論の併合等による調整説などがあり、答案では問題文の先後関係・訴訟物の関係を丁寧に拾って論じる必要がある。
関連条文
裁判所に係属する事件については、当事者は、更に訴えを提起することができない。
― 民事訴訟法 第142条
訴訟の係属中その訴訟の目的である権利の全部又は一部を承継したことを主張する第三者は、民事訴訟法第47条の規定により訴訟に参加することができる。
― 民事訴訟法 第49条
訴訟の係属中第三者がその訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継したときは、裁判所は、当事者の申立てにより、決定で、その第三者に訴訟を引き受けさせることができる。
― 民事訴訟法 第51条
関連判例
- 既判力の主観的範囲に関する判例 - 口頭弁論終結後の承継人に対する既判力の拡張
- 債権者代位訴訟に関する判例 - 訴訟担当と訴訟承継の関係
まとめ
これらの議論の出発点は、いずれも「訴訟係属」という概念である。訴訟係属とは、特定の請求について特定の当事者間で特定の裁判所において審判が行われている状態をいい、原則として訴状の被告への送達時に発生し、判決確定・訴え取下げ・和解等により消滅する。そして、この「係属中」であることが、補助参加・訴訟引受けなど多くの効果の要件となり、とりわけ二重起訴の禁止(民訴法142条)の前提をなす。二重起訴の禁止は、すでに係属中の事件と同一の事件について重ねて訴えを提起することを禁じ、既判力の矛盾防止・訴訟経済・被告の応訴の煩の回避を図る制度である。
そのうえで、訴訟係属中の権利変動と訴訟承継に関する本判決は、当事者恒定主義の原則と訴訟引受けの制度について明確な判断を示した重要判例である。当事者恒定主義により、訴訟係属中に権利が移転しても従前の当事者間で訴訟を続行できるが、相手方は訴訟引受けの申立てにより承継人を訴訟に引き込むことができる。訴訟承継がなされた場合には承継人は訴訟状態を承継し、判決の効力は承継人にも及ぶ。口頭弁論終結前の承継人に対する既判力の帰趨については議論があるが、当事者恒定主義と訴訟承継の制度は、訴訟経済と当事者の利益保護を調和させる民事訴訟法の基本的な仕組みとして重要な意義を有する。訴訟係属・係属中・二重起訴の禁止という基本概念を正確に押さえることが、これら応用論点を論じる前提となる。
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