【判例】訴訟係属中の権利変動と承継人(最判昭41.3.22)
訴訟係属中の権利変動と承継人に関する最高裁判例を解説。当事者恒定主義の趣旨と限界、訴訟承継の要件、口頭弁論終結前の承継人の取扱いを網羅的に分析します。
この判例のポイント
訴訟係属中に訴訟物たる権利関係が第三者に移転した場合であっても、当事者恒定主義により原則として従前の当事者間で訴訟が続行される。しかし、権利の承継人が訴訟に参加しまたは訴訟が引き受けられた場合には訴訟承継が生じる。本判決は、訴訟係属中の権利変動の場合の訴訟法上の処理について、当事者恒定主義の原則と訴訟承継の制度を明確にした重要判例である。
事案の概要
Xは、Yに対して不動産の所有権に基づく明渡請求訴訟を提起した。訴訟係属中にYは当該不動産をZに譲渡し、所有権移転登記を完了した。
Xは、Yが訴訟係属中に不動産を譲渡したことにより、Yに対する訴訟で勝訴判決を得ても強制執行が困難になることを懸念し、Zに対して訴訟引受けの申立て(民訴法51条)をするとともに、Yに対する訴訟の続行を主張した。
Zは、自己は当該訴訟の当事者ではなく、Yから不動産を適法に取得した独立の所有者であると主張して争った。
本件の核心は、訴訟係属中に訴訟物たる権利が第三者に移転した場合、従前の訴訟はどのように処理されるべきか、また承継人に対してどのような訴訟法上の措置が可能かという点にあった。
争点
- 訴訟係属中に訴訟物たる権利が第三者に移転した場合の訴訟法上の処理
- 当事者恒定主義の意義と効果
- 訴訟引受け(民訴法51条)の要件と効果
- 訴訟承継と既判力の主観的範囲の関係
判旨
訴訟の係属中に訴訟の目的である権利又は義務が移転した場合には、裁判所は、相手方の申立てにより、訴訟を承継人に引き受けさせることができる
― 最高裁判所第三小法廷 昭和41年3月22日 昭和39年(オ)第363号
最高裁は、訴訟係属中に訴訟物たる権利が第三者に移転した場合について、以下のとおり判示した。
第一に、訴訟係属中の権利移転があっても、当事者恒定主義により従前の当事者間で訴訟を続行することができる。
第二に、相手方(本件ではX)は、訴訟引受けの申立て(民訴法51条)により、承継人(Z)に訴訟を引き受けさせることができる。
第三に、訴訟引受けがなされた場合には、承継人は訴訟の当事者となり、従前の訴訟状態を承継する。
ポイント解説
当事者恒定主義の意義
当事者恒定主義とは、訴訟係属中に訴訟物たる権利義務が第三者に移転した場合であっても、従前の当事者間で訴訟を続行することを認める原則をいう。
当事者恒定主義の趣旨は以下のとおりである。
- 訴訟経済: 権利移転のたびに訴訟当事者が変更されると、それまでの訴訟の成果が無駄になり、訴訟手続が著しく遅延する
- 訴訟手続の安定: 訴訟係属中の権利移転により当事者が自由に変わると、訴訟手続の安定性が損なわれる
- 相手方の利益保護: 権利移転により訴訟の相手方が不当に不利益を被ることを防止する
訴訟承継の制度
訴訟承継とは、訴訟係属中に訴訟物たる権利義務が第三者に移転した場合に、その第三者(承継人)が訴訟当事者の地位を承継することをいう。訴訟承継には以下の類型がある。
- 参加承継(民訴法49条・50条): 承継人が自ら訴訟に参加する場合。権利承継人による独立当事者参加(49条)または訴訟参加(50条)がこれに当たる
- 引受承継(民訴法51条): 相手方当事者の申立てにより、承継人に訴訟を引き受けさせる場合
訴訟引受けの要件と効果
訴訟引受け(民訴法51条)の要件は以下のとおりである。
- 訴訟係属中に訴訟の目的である権利又は義務が移転したこと
- 相手方の申立てがあること
訴訟引受けの効果は以下のとおりである。
- 承継人は訴訟の当事者となる
- 承継人は従前の訴訟状態を承継する(訴訟状態承継主義)。すなわち、承継前の訴訟行為の効果、証拠調べの結果、時機に後れた攻撃防御方法の却下などが承継人にも及ぶ
- 判決の効力は承継人に及ぶ
当事者恒定主義と既判力の主観的範囲
当事者恒定主義のもとで従前の当事者間で判決がなされた場合、その判決の既判力が口頭弁論終結前の承継人に及ぶかが問題となる。
民訴法115条1項3号は「口頭弁論終結後の承継人」に既判力が及ぶと規定するが、口頭弁論終結前の承継人については直接の規定がない。この点については、以下の議論がある。
- 当事者恒定主義の効果として既判力が及ぶとする見解: 当事者恒定主義の趣旨は、権利移転後も従前の当事者間で有効な判決を得ることにあるから、その判決の既判力は口頭弁論終結前の承継人にも及ぶとする
- 既判力は及ばないとする見解: 115条1項3号は「口頭弁論終結後の承継人」にのみ既判力の拡張を認めており、口頭弁論終結前の承継人には及ばないとする。口頭弁論終結前の承継人は、訴訟参加の機会があったにもかかわらずこれを行使しなかった者であるが、そのことから直ちに既判力の拡張を認める根拠にはならないとする
訴訟告知と承継人の手続保障
当事者恒定主義のもとで訴訟が続行される場合、承継人の手続保障が問題となる。承継人に対する訴訟告知(民訴法53条)により訴訟の存在を知らせ、参加の機会を保障することが重要であるが、訴訟告知がなされなかった場合の承継人の地位については議論がある。
学説・議論
当事者恒定主義の根拠と射程をめぐる学説
当事者恒定主義の根拠については以下の学説がある。
- 訴訟経済説: 当事者恒定主義の主たる根拠は訴訟経済にあるとする。権利移転のたびに訴訟当事者を変更すると訴訟の遅延を招くため、従前の当事者間で訴訟を続行することが合理的であるとする
- 相手方利益保護説: 当事者恒定主義は訴訟の相手方の利益を保護するための制度であるとする。相手方は従前の当事者との間で訴訟を追行してきたのであり、権利移転により不利益を被るべきではないとする
- 判決効保障説: 当事者恒定主義の本質は、従前の当事者間で得られる判決の効力を承継人にも及ぼす基盤を提供する点にあるとする
訴訟承継の対象となる「権利又は義務の移転」の範囲
訴訟承継の対象となる「権利又は義務の移転」の範囲については、以下の見解がある。
- 狭義説: 訴訟物たる権利義務そのものの移転に限られるとする。例えば、所有権に基づく明渡請求訴訟においては、所有権の移転が訴訟承継の対象となる
- 広義説: 訴訟物たる権利義務の移転のみならず、紛争の目的物の移転も訴訟承継の対象となるとする。例えば、明渡請求訴訟の被告が第三者に占有を移転した場合にも訴訟承継が生じうるとする
訴訟状態承継主義の内容
訴訟承継が生じた場合に承継人が承継する「訴訟状態」の内容については、以下の議論がある。
- 前主が行った訴訟行為の効果(自白、認諾、放棄など)が承継人にも及ぶか
- 前主に対してなされた証拠調べの結果が承継人に対しても効力を有するか
- 時機に後れた攻撃防御方法の却下の効果が承継人にも及ぶか
通説は、訴訟状態承継主義のもとで、上記の各効果は原則として承継人にも及ぶとする。もっとも、承継人固有の攻撃防御方法については別途主張する機会が保障されるべきである。
判例の射程
債権譲渡と訴訟承継
本判決の射程は、不動産の譲渡に限らず、債権譲渡の場面にも及ぶ。訴訟係属中に原告が訴訟物たる債権を第三者に譲渡した場合、当事者恒定主義により従前の当事者間で訴訟が続行されるが、譲受人は参加承継または引受承継により訴訟に参加することができる。
相続と訴訟承継
訴訟係属中に当事者が死亡した場合には、訴訟手続の中断と受継(民訴法124条)の問題となる。相続は一般承継であり、特定承継の場合の訴訟承継(49条~51条)とは異なる規律に服する。
法人の合併と訴訟承継
法人の合併の場合にも一般承継として訴訟承継が生じるが、この場合は当事者の変更は法律上当然に生じるため、訴訟引受けの申立てを要しない。
反対意見・補足意見
本判決には特段の反対意見・補足意見は付されていない。当事者恒定主義と訴訟承継の制度は民事訴訟法の基本的な仕組みであり、その適用についての裁判官間の見解の相違は大きくないと解される。
試験対策での位置づけ
訴訟係属中の権利変動と訴訟承継は、民事訴訟法の論文式試験において頻出の論点である。特に、当事者恒定主義の原則と訴訟承継の制度の関係、および口頭弁論終結前の承継人に対する既判力の問題は繰り返し出題されている。
主な出題パターンは以下のとおりである。
- 訴訟係属中の権利移転の処理: 当事者恒定主義の原則と訴訟承継の選択
- 訴訟引受けの要件と効果: 相手方の申立てによる引受承継の処理
- 口頭弁論終結前の承継人と既判力: 115条1項3号との関係
- 参加承継と引受承継の選択: いずれの手段を用いるべきかの判断
- 訴訟状態承継主義の内容: 承継人が承継する訴訟状態の範囲
答案作成のポイントとしては、当事者恒定主義の趣旨を示したうえで、訴訟承継の制度による対応を正確に論じ、既判力の主観的範囲との関連を意識した論述をすることが求められる。
答案での使い方
論証パターン
訴訟係属中の権利変動と訴訟承継を答案で展開する際の基本的な論証の流れは以下のとおりである。
まず、当事者恒定主義の原則を示す。
「訴訟係属中に訴訟物たる権利義務が第三者に移転した場合であっても、当事者恒定主義により、従前の当事者間で訴訟を続行することができる。その趣旨は、権利移転のたびに訴訟当事者が変更されると訴訟の遅延を招き、また相手方の利益が害されることにある。」
次に、訴訟承継の制度を示す。
「もっとも、相手方は訴訟引受けの申立て(民訴法51条)により、承継人に訴訟を引き受けさせることができる。訴訟引受けがなされた場合には、承継人が訴訟の当事者となり、従前の訴訟状態を承継する。」
答案記述例
「XがYに対して所有権に基づく明渡請求訴訟を提起した後、YはZに当該不動産を譲渡した。訴訟係属中の権利移転であるが、当事者恒定主義により、XY間で訴訟を続行することができる。もっとも、Xは承継人Zに対して訴訟の引受けを申し立てることができ(民訴法51条)、これによりZが訴訟の当事者となる。Zは従前の訴訟状態を承継し、YがXとの間で行った訴訟行為の効果もZに及ぶ。」
重要概念の整理
訴訟承継の類型
類型 根拠条文 主体 内容 参加承継(権利承継人の参加) 民訴法49条 承継人 承継人が自ら独立当事者参加する 参加承継(訴訟参加) 民訴法50条 承継人 承継人が訴訟に参加する 引受承継 民訴法51条 相手方 相手方の申立てにより承継人に訴訟を引き受けさせる当事者恒定主義と既判力の関係
場面 既判力の帰趨 根拠 口頭弁論終結後の承継人 既判力が及ぶ 民訴法115条1項3号 口頭弁論終結前の承継人(訴訟承継あり) 当事者として既判力が及ぶ 訴訟承継により当事者となるため 口頭弁論終結前の承継人(訴訟承継なし) 争いあり 学説上の対立訴訟承継と関連制度の比較
制度 適用場面 効果 訴訟承継(49-51条) 訴訟係属中の権利移転(特定承継) 承継人が当事者の地位を承継 訴訟手続の中断・受継(124条) 当事者の死亡等(一般承継) 相続人等が訴訟を受継 訴えの変更(143条) 当事者の意思による訴訟物の変更 訴訟の対象が変更発展的考察
訴訟承継の現代的課題
第一に、事業譲渡と訴訟承継の問題がある。企業の事業譲渡や会社分割に伴い、訴訟物たる権利義務が移転する場合の訴訟承継の処理は、実務上重要な問題である。特に、会社分割の場合の訴訟承継については会社法上の規律との関連で議論がある。
第二に、訴訟係属中の権利移転と詐害的意図の問題がある。訴訟の相手方が敗訴を回避するために権利を第三者に移転し、当事者恒定主義を悪用して判決の実効性を減殺しようとする場合の対応が課題となっている。
第三に、知的財産権の移転と訴訟承継の問題がある。特許権や著作権などの知的財産権が訴訟係属中に移転した場合の訴訟承継の処理は、知的財産訴訟の増加に伴い重要性を増している。
第四に、国際的な権利移転と訴訟承継の問題がある。訴訟係属中に権利が外国在住者に移転した場合の訴訟承継の処理や、外国裁判所に係属中の訴訟の目的物が日本で移転した場合の処理など、国際的な場面での訴訟承継が課題となっている。
よくある質問
Q1: 当事者恒定主義のもとで従前の当事者間で判決を得た場合、その判決は承継人に対して執行できますか。
当事者恒定主義のもとで従前の当事者(例えばY)に対して勝訴判決を得た場合、その判決の既判力が承継人(Z)に及ぶかは前述のとおり議論があるが、仮に既判力が及ぶとしても、判決の名宛人はYであるため、直ちにZに対して強制執行をすることはできない。Zに対する強制執行を行うためには、承継執行文の付与(民執法27条2項)を受ける必要がある。
Q2: 参加承継と引受承継の違いは何ですか。
参加承継は承継人自身の主動的な訴訟参加であるのに対し、引受承継は相手方当事者の申立てにより承継人を訴訟に引き込む制度である。参加承継は承継人の意思に基づくが、引受承継は承継人の意思にかかわらず行われうる。
Q3: 訴訟状態承継主義とは何ですか。
訴訟状態承継主義とは、訴訟承継が生じた場合に、承継人は承継時点における訴訟の状態をそのまま引き継ぐとする原則をいう。すなわち、前主が行った訴訟行為の効果、証拠調べの結果、手続上の効果などが承継人にも及ぶ。承継人は、承継時点以後の訴訟行為は自由に行うことができるが、それ以前の訴訟状態を覆すことは原則として許されない。
Q4: 訴訟係属中に被告が目的物を第三者に譲渡した場合、原告はどのような手段をとれますか。
原告は、(1)当事者恒定主義のもとで従前の被告に対する訴訟を続行するか、(2)訴訟引受けの申立て(民訴法51条)により承継人に訴訟を引き受けさせるか、の選択ができる。また、(3)処分禁止の仮処分を申し立てて被告による権利移転を防止することも考えられる。
関連条文
訴訟の係属中その訴訟の目的である権利の全部又は一部を承継したことを主張する第三者は、民事訴訟法第47条の規定により訴訟に参加することができる。
― 民事訴訟法 第49条
訴訟の係属中第三者がその訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継したときは、裁判所は、当事者の申立てにより、決定で、その第三者に訴訟を引き受けさせることができる。
― 民事訴訟法 第51条
関連判例
- 既判力の主観的範囲に関する判例 - 口頭弁論終結後の承継人に対する既判力の拡張
- 債権者代位訴訟に関する判例 - 訴訟担当と訴訟承継の関係
まとめ
訴訟係属中の権利変動と訴訟承継に関する本判決は、当事者恒定主義の原則と訴訟引受けの制度について明確な判断を示した重要判例である。当事者恒定主義により、訴訟係属中に権利が移転しても従前の当事者間で訴訟を続行できるが、相手方は訴訟引受けの申立てにより承継人を訴訟に引き込むことができる。訴訟承継がなされた場合には承継人は訴訟状態を承継し、判決の効力は承継人にも及ぶ。口頭弁論終結前の承継人に対する既判力の帰趨については議論があるが、当事者恒定主義と訴訟承継の制度は、訴訟経済と当事者の利益保護を調和させる民事訴訟法の基本的な仕組みとして重要な意義を有する。