仮執行宣言と仮の地位を定める仮処分
仮執行宣言(259条)の要件と効果、仮差押え・係争物仮処分・仮の地位を定める仮処分の比較、保全の必要性の判断基準を解説します。
この記事のポイント
- 仮執行宣言(259条)は判決確定前の執行を可能にする民事訴訟法上の制度である
- 民事保全は仮差押え・係争物に関する仮処分・仮の地位を定める仮処分の3類型に分かれる
- 保全命令の発令には被保全権利の存在と保全の必要性の疎明が必要である
- 仮の地位を定める仮処分は最も要件が厳格であり、口頭弁論又は審尋が原則として必要である
仮執行宣言(259条)
仮執行宣言の意義
仮執行宣言とは、判決が確定する前であっても、その判決に基づいて強制執行をすることができる旨を宣言する裁判をいう(民事訴訟法259条)。
仮執行宣言の要件
要件 内容 根拠条文 財産権上の請求に関する判決 金銭支払い、物の引渡し等の給付判決 259条1項 裁判所の裁量又は申立て 裁判所が相当と認めるとき(職権)、又は当事者の申立て 259条1項 担保の提供(任意的) 裁判所は担保を立てることを条件とすることができる 259条2項仮執行宣言が必ず付される場合
以下の判決には、裁判所は必ず仮執行の宣言をしなければならない。
- 手形・小切手訴訟の判決(259条1項参照、商法・手形法関連)
- 少額訴訟の判決(374条1項)
- 支払督促に対する仮執行宣言(391条)
仮執行宣言の効果
効果 内容 執行力の付与 判決確定前に強制執行を開始できる 仮の執行 本案判決が変更されれば原状回復が必要 執行停止の可能性 控訴提起と担保の提供により執行停止が認められうる(403条)仮執行宣言の失効
仮執行宣言付判決が上訴審で変更された場合、仮執行宣言は失効する。この場合、既になされた執行は不当利得の問題となり、原状回復と損害賠償が認められる(260条2項)。
民事保全の体系
民事保全法の目的
民事保全法は、民事訴訟の本案の権利の実現を保全するために、暫定的な措置を講じる手続を規律する法律である。
保全命令の3類型
類型 目的 根拠条文 仮差押え 金銭債権の将来の強制執行を保全する 民事保全法20条 係争物に関する仮処分 係争物の現状変更を防止する 民事保全法23条1項 仮の地位を定める仮処分 争いある権利関係について暫定的な地位を定める 民事保全法23条2項仮差押え(民事保全法20条)
仮差押えの意義
仮差押えとは、金銭の支払いを目的とする債権について、将来の強制執行を保全するため、債務者の財産の処分を禁止する保全命令をいう。
仮差押えの要件
要件 内容 被保全権利 金銭債権(又は金銭に換算可能な債権) 保全の必要性 強制執行ができなくなるおそれ、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるとき(20条1項) 疎明 被保全権利と保全の必要性について疎明が必要(13条2項)仮差押えの効果
- 債務者の財産について処分禁止の効力が生じる
- 仮差押えに反する処分は、仮差押債権者に対抗できない
- 仮差押えの対象は不動産・動産・債権等
係争物に関する仮処分(民事保全法23条1項)
係争物に関する仮処分の意義
係争物に関する仮処分とは、係争物の現状の変更により、権利の実現が不能又は著しく困難となるおそれがあるときに、現状変更を禁止する保全命令をいう。
具体例
種類 内容 処分禁止の仮処分 不動産の所有権移転登記請求権を保全するため、所有権移転を禁止する 占有移転禁止の仮処分 建物明渡請求権を保全するため、占有の移転を禁止する 登記請求権保全の仮処分 所有権移転登記請求権を保全するため、処分禁止の登記をする要件
要件 内容 被保全権利 物の引渡し・明渡し等の非金銭債権 保全の必要性 係争物の現状変更により権利の実現が不能又は著しく困難となるおそれ(23条1項) 疎明 被保全権利と保全の必要性の疎明仮の地位を定める仮処分(民事保全法23条2項)
仮の地位を定める仮処分の意義
仮の地位を定める仮処分とは、争いがある権利関係について、債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるために、暫定的な法律上の地位を定める保全命令をいう。
具体例
類型 具体例 地位保全の仮処分 解雇された労働者の労働契約上の地位の仮の確認 賃金仮払いの仮処分 解雇争い中の労働者に対する賃金の仮払い 出版差止めの仮処分 名誉毀損のおそれがある出版物の差止め 建築禁止の仮処分 日照権侵害のおそれがある建築の差止め要件
要件 内容 被保全権利 争いがある権利関係の存在 保全の必要性 債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるため必要があること(23条2項) 疎明 被保全権利と保全の必要性の疎明仮の地位を定める仮処分の特殊性
仮の地位を定める仮処分は、他の保全命令と比較して以下の点で特殊である。
- 口頭弁論又は審尋が必要 — 原則として、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければならない(23条4項)
- 満足的仮処分の問題 — 仮処分によって本案と同様の結果が事実上実現される場合がある(いわゆる満足的仮処分)
- 担保の要否 — 裁判所の裁量により担保を命じることができる
3類型の比較
比較項目 仮差押え 係争物に関する仮処分 仮の地位を定める仮処分 被保全権利 金銭債権 非金銭債権(物の引渡し等) 争いがある権利関係 保全の必要性 執行不能・著しい困難のおそれ 現状変更による権利実現の不能・困難のおそれ 著しい損害又は急迫の危険 審尋の要否 不要(密行性重視) 不要(原則) 必要(23条4項) 担保 通常必要 裁判所の裁量 裁判所の裁量 満足的性格 なし 原則なし あり得る保全命令の手続
保全命令の申立て
項目 内容 申立先 本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物・係争物の所在地を管轄する地方裁判所(12条) 申立方法 書面による(規則1条) 疎明の程度 一応確からしい程度の証明(完全な証明は不要)担保の提供
保全命令の発令に際し、裁判所は担保の提供を命じることができる(14条)。
- 仮差押え — 担保提供が通常命じられる
- 仮処分 — 裁判所の裁量による
- 担保の趣旨 — 保全命令が不当であった場合の債務者の損害賠償請求権を担保する
保全異議・保全取消し
保全命令に対する不服申立てとして、以下の手続がある。
手続 内容 根拠条文 保全異議 保全命令に不服がある債務者が異議を申し立てる 26条 保全取消し 事情変更等を理由に保全命令の取消しを求める 37条〜39条 保全抗告 保全異議・保全取消しの裁判に対する不服申立て 41条仮執行宣言と民事保全の比較
比較項目 仮執行宣言 民事保全(仮差押え・仮処分) 根拠法 民事訴訟法259条 民事保全法 前提 判決の存在 判決前(本案訴訟に先立つ場合が多い) 目的 判決確定前の執行 将来の強制執行の保全・暫定的措置 審理 本案訴訟の審理を経ている 疎明による迅速な審理 終局性 判決変更で失効 本案訴訟で確定試験対策での位置づけ
仮執行宣言と民事保全は、以下の点が試験で重要である。
- 仮執行宣言の要件 — 259条の財産権上の請求の意義、担保の位置づけ
- 3類型の保全命令の比較 — 被保全権利・保全の必要性・審尋の要否
- 仮の地位を定める仮処分の特殊性 — 満足的仮処分の問題、口頭弁論又は審尋の必要性
- 保全異議と保全取消しの区別 — 不服申立ての方法
- 短答式試験 — 民事保全法の条文知識
関連判例
- 最判昭和43年3月15日 — 仮処分の被保全権利と保全の必要性
- 最判昭和56年12月16日 — 仮の地位を定める仮処分と満足的仮処分
- 最決平成4年2月18日 — 保全の必要性の判断基準
- 最判平成24年2月23日 — 仮差押えと損害賠償の関係
まとめ
仮執行宣言(259条)は判決確定前の暫定的執行を可能にする民事訴訟法上の制度であり、民事保全は本案判決前の段階で権利の保全を図る制度である。民事保全の3類型である仮差押え・係争物に関する仮処分・仮の地位を定める仮処分は、それぞれ被保全権利・保全の必要性・手続の要件が異なる。特に仮の地位を定める仮処分は、満足的仮処分としての性格を有しうるため、口頭弁論又は審尋が原則必要とされ、発令基準も厳格である。これらの制度の相互関係と要件・効果を体系的に理解しておくことが、民事訴訟法・民事保全法の学習において重要である。