証拠方法各論
証人尋問・当事者尋問の補充性・鑑定・書証・文書の成立の真正・検証の各証拠方法について、条文に即して体系的に解説します。
この記事のポイント
- 民事訴訟法は5種類の証拠方法(証人・当事者・鑑定人・文書・検証物)を規定する
- 当事者尋問には補充性の原則(207条1項ただし書)が適用される
- 書証における文書の成立の真正(228条)は二段の推定が重要論点である
- 鑑定は専門的知識の報告であり証人尋問とは異なる法的性質を有する
証拠方法の体系
証拠方法とは
証拠方法とは、裁判所が証拠調べの対象とする有形物をいう。民事訴訟法は以下の5種類の証拠方法を規定している。
証拠方法 証拠調べの方法 根拠条文 証人 証人尋問 190条〜206条 当事者本人 当事者尋問 207条〜211条 鑑定人 鑑定 212条〜218条 文書 書証 219条〜231条 検証物 検証 232条〜233条証拠方法と証拠資料の区別
概念 意義 例 証拠方法 証拠調べの対象となる有形物 証人、文書 証拠資料 証拠調べの結果得られた内容 証人の供述内容、文書の記載内容 証拠原因 裁判官が心証を形成した資料 証拠資料+弁論の全趣旨証人尋問(190条〜206条)
証人義務
すべての者は、法律に別段の定めがある場合を除き、証人として出頭し、宣誓し、証言する義務を負う(190条)。
義務の内容 根拠条文 制裁 出頭義務 192条 過料(192条1項)、勾引(194条) 宣誓義務 201条 過料(201条3項・4項) 証言義務 190条 過料(200条1項)、監置(200条2項)証言拒絶権
以下の者は、一定の事項について証言を拒絶することができる。
証言拒絶権の類型 内容 根拠条文 自己負罪拒否特権 証人自身又は近親者が刑事訴追等を受けるおそれがある事項 196条 職業上の秘密 医師、弁護士等の職業上の秘密に関する事項 197条1項2号 技術又は職業の秘密 技術又は職業の秘密に関する事項 197条1項3号 公務員の秘密 公務員の職務上の秘密に関する事項 191条証人尋問の手続
証人尋問は以下の順序で行われる。
- 宣誓 — 証人は証言前に宣誓する(201条1項)
- 主尋問 — 申出当事者による尋問
- 反対尋問 — 相手方による尋問
- 再主尋問 — 申出当事者による再度の尋問
- 裁判所による補充尋問 — 必要に応じて裁判所が尋問
尋問に関する規律
規律 内容 根拠条文 誘導尋問の制限 主尋問において誘導尋問は原則禁止 規則115条 異議 不当な尋問に対して相手方は異議を申し立てることができる 規則116条 書面尋問 裁判所は相当と認めるときは書面尋問をすることができる 205条 隔離尋問 証人が他の証人の面前では十分な供述ができない場合 203条の2当事者尋問(207条〜211条)
当事者尋問の意義
当事者尋問とは、訴訟の当事者本人を証拠方法として尋問する手続をいう。当事者は訴訟の結果に利害関係を有するため、証人とは異なる規律に服する。
補充性の原則(207条1項)
207条1項ただし書は「ただし、裁判所は、相当と認めるときは、他の証拠調べに先立ち、当事者本人を尋問することができる」と定める。
この規定の反対解釈として、当事者尋問は原則として他の証拠調べの後に行われるべきものとされる(補充性の原則)。
当事者尋問 証人尋問 補充的な証拠方法 第一次的な証拠方法 当事者は訴訟の結果に利害を有する 証人は第三者 虚偽陳述に対する制裁は過料(209条1項) 偽証に対する制裁は偽証罪(刑法169条)当事者尋問の手続
- 宣誓 — 当事者は宣誓をすることができる(207条2項・209条2項)。ただし、宣誓義務は証人ほど厳格ではない
- 不出頭・陳述拒絶の効果 — 当事者が正当な理由なく出頭しない場合又は陳述を拒んだ場合、裁判所は尋問事項に関する相手方の主張を真実と認めることができる(208条)
208条の効果
208条は「当事者本人を尋問する場合において、その当事者が、正当な理由なく、出頭せず、又は宣誓若しくは陳述を拒んだときは、裁判所は、尋問事項に関する相手方の主張を真実と認めることができる」と定める。
- 「認めることができる」 — 裁判所に認定義務はなく、裁量的判断である
- 自由心証主義の枠内での不利益扱いにとどまる
鑑定(212条〜218条)
鑑定の意義
鑑定とは、裁判所の命令により、特別の学識経験を有する者(鑑定人)が、その専門的知識又はこれに基づく判断を裁判所に報告する手続をいう。
鑑定人と証人の違い
比較項目 鑑定人 証人 報告内容 専門的知識又は判断 過去の経験事実 代替可能性 代替可能(他の専門家でもよい) 代替不可能(当該事実を経験した者のみ) 選任方法 裁判所が指定(213条) 当事者が申出 忌避 忌避が可能(214条・23条〜25条準用) 忌避の規定なし 義務 鑑定義務あり(212条1項) 証人義務あり(190条)鑑定の手続
手続 内容 根拠条文 鑑定人の指定 裁判所が鑑定人を指定 213条 鑑定人の宣誓 鑑定人は宣誓する 216条・201条準用 鑑定の方法 口頭又は書面による 215条 鑑定人質問 当事者は鑑定人に対し質問することができる 215条の2鑑定の拘束力
鑑定の結果は裁判所を拘束しない。裁判所は自由心証主義(247条)に基づき、鑑定の結果を含む一切の証拠を総合的に評価して事実認定を行う。
書証(219条〜231条)
書証の意義
書証とは、文書を証拠方法として、その記載内容を証拠資料とする証拠調べをいう。
文書の分類
分類基準 種類 内容 作成者 公文書 公務員がその職務上作成した文書 私文書 公文書以外の文書 証拠力の方向 処分証書 法律行為が記載された文書(契約書等) 報告文書 作成者の認識・判断が報告された文書(日記、領収書等)文書の成立の真正(228条)
書証の証拠力が認められるためには、まず文書が真正に成立したこと(作成者の意思に基づいて作成されたこと)が証明される必要がある(228条1項)。
二段の推定
私文書の成立の真正については、二段の推定が重要な論点である。
段階 推定の内容 根拠 第1段 印影が本人の印章によって顕出された場合、その印影は本人の意思に基づいて顕出されたと事実上推定される 判例(最判昭和39年5月12日) 第2段 本人の意思に基づく押印がある場合、文書全体が真正に成立したと推定される 228条4項228条各項の内容
項 内容 1項 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない 2項 公文書は、その方式及び趣旨により真正に成立したものと推定する 3項 公文書の成立の真正について疑いがあるときは、裁判所は職権で調査することができる 4項 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する文書提出義務(220条・221条)
当事者は、以下の場合に文書の提出義務を負う。
号数 提出義務の根拠 内容 1号 引用文書 当事者が訴訟において引用した文書 2号 引渡し・閲覧請求権 挙証者が所持者に対し引渡し又は閲覧を請求できる文書 3号 利益文書・法律関係文書 挙証者の利益のために作成された文書、又は挙証者と所持者の法律関係について作成された文書 4号 一般義務 1号〜3号以外の文書(ただし除外事由あり)文書提出命令(223条)
文書の所持者が提出義務に反して提出しない場合、裁判所は文書提出命令を発することができる。
- 不提出の効果 — 裁判所は文書の記載に関する挙証者の主張を真実と認めることができる(224条1項)
- 文書の滅失等 — 文書を故意に滅失等させた場合も同様(224条3項)
検証(232条〜233条)
検証の意義
検証とは、裁判官が自らの五感(視覚・聴覚・触覚等)の作用によって事物の性状を直接認識する証拠調べをいう。
検証の対象
検証の対象となるのは文書以外のすべての有形物であり、以下のものが含まれる。
- 不動産(土地・建物)の状況
- 動産の状態
- 人の身体の状態
- 場所の状況
検証物提示義務
検証物の所持者は、文書提出義務(220条)に準じて検証物の提示義務を負う(232条1項)。
自由心証主義と証拠方法
自由心証主義(247条)
247条は「裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する」と定める。
自由心証主義のもとでは、以下の点が重要である。
- 証拠方法に制限がない — いかなる証拠方法も用いることができる(法定証拠主義の否定)
- 証拠力の評価は裁判官の自由な判断に委ねられる — 特定の証拠方法に優越的な証拠力を認める必要はない
- 弁論の全趣旨も事実認定の資料となる — 証拠調べの結果のみならず弁論の全趣旨も斟酌できる
試験対策での位置づけ
証拠方法各論は、以下の点が試験で頻出である。
- 文書の成立の真正と二段の推定 — 最重要論点。228条4項の推定と判例法理の関係
- 当事者尋問の補充性 — 207条1項ただし書の解釈
- 文書提出義務と文書提出命令 — 220条各号の提出義務の根拠、224条の不提出の効果
- 証人尋問と鑑定の区別 — 法的性質の違いと手続の違い
- 208条の効果 — 当事者不出頭の場合の裁判所の裁量
関連判例
- 最判昭和39年5月12日 — 二段の推定の第1段(印影からの事実上の推定)
- 最判昭和45年11月26日 — 二段の推定の射程
- 最決平成11年11月12日 — 文書提出命令と自己利用文書
- 最決平成12年3月10日 — 刑事事件記録の文書提出命令
- 最判昭和32年6月7日 — 鑑定の拘束力の否定
まとめ
民事訴訟法は、証人尋問・当事者尋問・鑑定・書証・検証の5種類の証拠方法を規定している。証人尋問が第一次的な証拠方法であるのに対し、当事者尋問は補充的な位置づけにある。書証においては文書の成立の真正(228条)と二段の推定が最重要論点であり、文書提出義務(220条)・文書提出命令(223条)の制度も頻出である。自由心証主義(247条)のもとで各証拠方法の証拠力は裁判官の自由な判断に委ねられるが、それぞれの証拠方法の特質と手続を正確に理解しておくことが、事実認定の適正さを担保する上で不可欠である。