民事訴訟法の応用論点10選
反射効・争点効・信義則による遮断効など、民事訴訟法の応用論点10テーマを横断的に整理し、試験対策に役立つ形で解説します。
この記事のポイント
- 民事訴訟法の応用論点は基本原理の深い理解の上に成り立つ
- 反射効・争点効・信義則による遮断効は既判力の拡張に関する発展論点である
- 二重起訴の禁止と相殺、将来給付の訴えなど条文解釈上の重要問題を整理する
- 各論点の学説対立と判例の立場を正確に把握することが試験対策の鍵である
1. 反射効
反射効の意義
反射効とは、確定判決の既判力が及ばない第三者に対して、事実上又は法律上の影響が及ぶ効果をいう。既判力の主観的範囲(115条1項)の外にある問題である。
具体例
- 債権者Aが保証人Bに対する訴訟で敗訴し、主債務の不存在が確定した場合、主債務者Cに対してもその判決の効果が及ぶか
- 債権者Aが主債務者Cに対する訴訟で敗訴した場合、保証人Bは当該判決を援用できるか
学説の状況
学説 内容 肯定説 保証人は主債務者に有利な判決の効果を援用できる 否定説 既判力が及ばない以上、反射効も認めるべきでない 折衷説 実体法上の従属関係がある場合に限り反射効を認める判例の立場
判例は反射効について正面から認めた最高裁判例はなく、個別の事案に即した判断がなされている。
2. 争点効
争点効の意義
争点効とは、前訴の判決理由中で判断された重要な争点について、後訴において当事者が矛盾する主張をすることが許されないとする効力をいう。新堂幸司教授が提唱した理論である。
争点効の要件
要件 内容 前訴で争点となったこと 当事者が主要な争点として争ったこと 裁判所が実質的に判断したこと 判決理由中で判断が示されたこと 判決の結論に影響する争点であること 傍論ではなく判決の結論を直接導く争点であること 当事者に手続保障が与えられたこと 十分な攻撃防御の機会が保障されたこと判例の立場
判例は争点効を否定する立場をとっている。最判昭和44年6月24日は「判決理由中の判断には既判力は生じない」ことを前提とし、争点効理論を採用していない。
3. 信義則による遮断効
信義則による遮断効の意義
信義則(2条)に基づき、前訴で主張しなかった事実を後訴で主張することが信義に反するとして許されないとする効力をいう。
具体例
- 前訴で相殺の抗弁を提出しなかった被告が、後訴で同一の債権に基づく請求をすることが信義則に反するとされる場合
- 前訴で主張すべき攻撃防御方法を故意に留保して後訴で主張する場合
判例
- 最判昭和51年9月30日 — 前訴の蒸し返しとなる後訴の提起が信義則に反するとして排斥された事例
- 最判平成10年6月12日 — 前訴で認定された事実と矛盾する主張が信義則に反するとされた事例
4. 二重起訴の禁止と相殺
問題の所在
142条の二重起訴の禁止と相殺の抗弁の関係は、民事訴訟法の最重要論点の一つである。
問題の類型
類型 具体例 結論 別訴先行型 Xが甲債権で訴え、Yが乙債権で別訴を先行提起し、Xの訴訟でYが乙債権を自働債権として相殺の抗弁を提出 判例は二重起訴に該当しうるとする 相殺先行型 先に相殺の抗弁が提出された後、自働債権について別訴が提起された場合 同上判例(最大判平成3年12月17日)
最大判平成3年12月17日は、以下のように判示した。
- 相殺の抗弁を提出した場合、自働債権の存否が既判力をもって確定される(114条2項)
- 同一の債権について別訴で請求し、かつ相殺の抗弁として主張することは、判決の矛盾抵触を招くおそれがある
- したがって、別訴の提起は142条の趣旨に反し許されない
5. 将来給付の訴え
将来給付の訴えの意義
将来給付の訴えとは、口頭弁論終結時にはまだ履行期が到来していない給付請求について、あらかじめ判決を求める訴えをいう(135条)。
要件
135条は「将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる」と定める。
問題となる類型
類型 具体例 許否 期限付請求権 将来の賃料請求 不払いの蓋然性があれば肯定 条件付請求権 将来の不法行為に基づく損害賠償 原則否定 継続的不法行為 騒音・振動等の将来損害の賠償 判例は厳格な要件を設定判例(最大判昭和56年12月16日)
大阪国際空港訴訟において、最高裁は将来の損害賠償請求について以下の要件を示した。
- 請求権の基礎となる事実関係・法律関係が既に存在すること
- その継続が予測されること
- 請求権の成否及び内容につき債務者に有利な影響を生ずる事由が予め明確に予測できること
6. 選定当事者
選定当事者の意義
選定当事者とは、共同の利益を有する多数の者の中から、全員のために訴訟を追行する者として選定された当事者をいう(30条)。
要件
要件 内容 共同の利益 共同訴訟人となりうる関係にあること(38条前段) 多数の者 数人以上であること 選定行為 多数の者が全員のために訴訟追行者を選定すること選定当事者の効果
- 選定者は訴訟から脱退する(30条3項)
- 選定当事者の訴訟行為は選定者全員に効力を及ぼす
- 判決の効力は選定者全員に及ぶ(115条1項2号)
7. 訴えの主観的追加的併合
問題の所在
訴えの主観的追加的併合とは、訴訟係属中に新たな当事者を追加して訴えを併合することをいう。民事訴訟法にはこれを正面から認める規定がない。
学説の状況
学説 内容 否定説(判例) 明文の規定がなく、新当事者の審級の利益を害するため否定 肯定説 訴訟経済と紛争の一回的解決の観点から認めるべき判例
- 最判昭和62年7月17日 — 訴えの主観的追加的併合を認めない旨を判示
8. 中間確認の訴え
中間確認の訴えの意義
中間確認の訴えとは、訴訟の進行中に、本案の請求に関する法律関係の成立又は不成立の確認を求める訴えをいう(145条)。
要件
要件 内容 係属中の訴訟の存在 本案訴訟が係属していること 先決関係 確認を求める法律関係が本案の先決問題であること 確認の利益 確認判決を得ることに法律上の利益があること中間確認の訴えの効果
- 判決理由中の判断に既判力を生じさせることができる(114条2項の相殺の抗弁とは異なるアプローチ)
- 紛争の根本的解決に資する
9. 和解の効力
裁判上の和解の意義
裁判上の和解とは、訴訟係属中に当事者が裁判所においてする訴訟の終了を目的とした合意をいう(89条・267条)。
和解調書の効力
267条は「和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する」と定める。
和解の瑕疵と効力
和解の瑕疵(錯誤・詐欺等)がある場合の取扱いについて、以下の争いがある。
見解 救済手段 制限的既判力説 再審の訴え(338条)による 期日指定申立説 期日の指定を申し立てて訴訟を続行する 新訴提起説 和解無効確認の訴えを提起する 判例 和解無効確認の訴え又は期日指定の申立てを認める判例
- 最判昭和33年6月14日 — 和解に錯誤がある場合の救済手段
- 最判昭和43年2月15日 — 和解の瑕疵を理由とする期日指定の申立て
10. 送達の瑕疵と判決の効力
問題の所在
訴状の送達に瑕疵がある場合、被告は訴訟の存在を知らないまま判決がなされることがある。この場合の判決の効力が問題となる。
送達の瑕疵の類型
類型 内容 判決の効力 送達が全く行われていない場合 送達の手続自体が欠如 判決は無効(絶対的無効) 送達の方式に瑕疵がある場合 送達手続は行われたが方式に違反 原則として有効(再審事由となりうる) 公示送達の要件を欠く場合 公示送達がなされたが要件不備 再審事由(338条1項3号)再審による救済
送達の瑕疵により被告に訴訟の存在を知る機会が与えられなかった場合、以下の再審事由に該当しうる。
- 338条1項3号 — 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと
- 338条1項6号 — 判決の基礎となった刑事上罰すべき他人の行為があったこと
試験対策での位置づけ
応用論点は、以下の観点から試験対策上重要である。
- 論文式試験 — 反射効・争点効・信義則による遮断効は既判力の応用問題として頻出
- 二重起訴と相殺 — 最大判平成3年12月17日は最重要判例の一つ
- 将来給付の訴え — 大阪国際空港訴訟判決の要件の正確な理解
- 和解の瑕疵 — 救済手段の学説対立と判例の立場
- 短答式試験 — 選定当事者・中間確認の訴え・送達の瑕疵に関する条文知識
関連判例
- 最大判平成3年12月17日 — 二重起訴の禁止と相殺の抗弁
- 最大判昭和56年12月16日 — 将来給付の訴えの要件(大阪国際空港訴訟)
- 最判昭和44年6月24日 — 争点効の否定
- 最判昭和51年9月30日 — 信義則による後訴の遮断
- 最判昭和33年6月14日 — 和解の錯誤と救済手段
まとめ
民事訴訟法の応用論点は、基本原理の正確な理解を前提として、その射程を問う高度な問題群である。反射効・争点効・信義則による遮断効は既判力の主観的・客観的範囲の限界を問う問題であり、二重起訴と相殺・将来給付の訴えは訴訟の構造に関する原理的な問題である。これらの論点は、判例の立場を正確に把握した上で、学説の対立軸を理解し、自分なりの立場から論理的に論じられるようにしておくことが、論文式試験での高得点につながる。