条約の締結と国会の承認(61条・73条3号)とは
じょうやくのていけつとこっかいのしょうにん
条約の締結と国会の承認とは、内閣が条約を締結し(73条3号)、これについて事前に、時宜によっては事後に国会の承認を経る仕組みです。承認には衆議院の優越が及び(61条)、批准書の認証と条約の公布は天皇の国事行為です(7条8号・1号)。
会社が他社と大きな契約を結ぶとき、交渉して契約書にサインするのは社長ですが、会社の財産や社員の仕事に関わる契約なら、取締役会や株主総会の承認が要ります。国と国の約束である条約も同じで、交渉して締結するのは内閣ですが、国民の権利義務や国の財政に関わる約束を内閣だけで決めさせないために、国会の承認を経ることになっています。誰が締結し、誰が承認し、承認が得られなかったらどうなるのかが、この用語の中身です。
締結権は内閣にあり、国会の承認が要件になります
「条約を締結する権限は内閣にあるが,批准を要する条約についての批准書の認証は天皇の国事行為である」という肢は正しいです。天皇は国政に関する権能をもたず、内閣の助言と承認により国事行為を行うだけなので、締結の主体は内閣、認証の主体は天皇と分かれます。もっとも、すべての条約が批准を要するわけではありません。「締結について国会の承認を要する条約は,条約,規約,協約,協定,議定書,宣言,憲章など名称の如何を問わず,国会による承認の手続のほかに,天皇の国事行為としての批准書の認証を要する」という肢は誤りで、署名だけで成立する条約もあり、その場合に批准書の認証はありません。「条約は,国会による承認及び内閣による締結の後,天皇が国事行為としてこれを公布することによって有効に成立する」という肢も誤りです。公布は、すでに成立した条約を国民に周知し、国内で法として適用できる状態に置くための手続であって、条約の成立要件ではありません。
- 締結署名(調印)と批准という二段階の場合と、署名だけで成立する場合がある
- 国会の承認事前が原則。時宜によっては事後でもよい。承認は条約が国内法的効力をもつための要件
- 衆議院の優越両院協議会は必要的。協議が調わないとき、または参議院が30日以内に議決しないとき、衆議院の議決が国会の議決となる
- 天皇の国事行為批准書その他の外交文書の認証(7条8号)と、条約の公布(7条1号)
承認を要するのは、国家間のすべての合意ではありません
「憲法は,文書による国家間の合意の全てについて,国会の承認を要すると定めたものではなく,既に有効に成立している条約の委任に基づいた細部の取決めについては,国会の承認まで要しない」という肢は正しいです。国会の承認を要するのは、法律事項を含む国際約束、財政支出を伴う国際約束、政治的に重要な国際約束であり、既存の条約の委任に基づく細目の取決めや、法律と既定の予算の範囲内で処理できる行政取極めは、承認を要しません。「内閣が締結する条約とは,名称を問わず,広く文書による国家間の合意をいう,したがって,私法上の契約の性質を持つ国家間の合意文書も,条約の委任に基づく国家間の合意文書も,事前に,時宜によっては事後に国会の承認を経ることが必要となる」という肢は誤りです。私法上の契約の性質をもつ合意文書まで承認の対象とするのは行き過ぎです。98条2項との関係でも、「憲法第98条第2項にいう「条約」は、その名称を問わず、日本国と外国との間の文書による合意を広く含むところ、同項にいう「日本国が締結した条約」は、全て国会の承認を経て成立したものである」という肢は誤りで、承認を経ていない合意も同項の「条約」に含まれます。98条2項は国際協調主義から誠実に遵守すべき対象を広く定めた規定であり、73条3号の承認の要否とは別だからです。
衆議院の優越は予算と同じ形で及び、先議権はありません
「条約締結の国会承認については,衆議院の優越が認められており,条約承認の議案は,先に衆議院に提出しなければならない」という肢は誤りです。61条が準用するのは60条2項だけで、先に衆議院に提出するという60条1項は準用されていないからです。優越の内容についても、「条約の締結に必要な国会の承認については,予算の場合と同様,衆議院の優越が認められており,両議院が異なる議決をした場合,衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときは,条約が承認される」という肢は誤りです。条約では再議決の制度がなく、両院協議会を開いても意見が一致しないとき、または参議院が受け取った後30日以内に議決しないときに、衆議院の議決がそのまま国会の議決になります。出席議員の3分の2以上の再議決は、法律案だけの仕組みです。手続の詳細は衆議院の優越で扱います。
国会に修正権があるかは争われます
条約の内容を確定するのは内閣ですから、国会にできるのは承認か不承認かに限られるとする見解が有力です。「条約の内容を確定するのは,内閣の職務に属することであるから,国会が行うことができるのは承認か不承認に限られ,国会は犯罪人引渡条約に新たな条項を加えることは認められていない」という肢は、この立場に立つ説明として正しいとされています。他方、修正権を認める立場からは、「国会の条約承認手続において両院協議会の手続が認められていることからして,犯罪人引渡条約に新たな条項を付する決議は,国会に認められた権限である」という説明が根拠になります。修正を付した議決の効果については、「新たな条項を付して承認するとの国会の議決は,内閣に対し,新たな条項を含んだ条約の締結交渉を政治的責務として課すことになる」という肢が正しく、修正を付した議決は法的には不承認と同じで、内閣に再交渉の政治的責務を課すにとどまります。
事後の承認が得られなければ、国内法上の効力は認められません
「条約の締結は内閣の権限であるが、事前に国会の承認を求めたのに得られなかった条約を内閣が締結することはできず、また、事後に国会の承認を得られなかった条約は国内法的にその効力を有しない」という肢は正しいです。国際法上の効力については、憲法の要求する手続が相手国にとって明白であった場合に限って無効を主張できるとする条件付無効説が有力です。事前の承認については、「条約の締結に際して,内閣が事前に国会の承認を受けることは条約の成立要件であるから,この犯罪人引渡条約は,新たな条項の有無にかかわらず国内法上効力が認められない」という肢は、承認は事前に限らず時宜によっては事後でもよいのに、事前の承認を成立要件とする点で誤りとされます。「条約に国会の承認が必要なのは今日の民主国家には共通のことであり,内閣案のとおりに国会の承認を受けることができなかった犯罪人引渡条約は,結局は不承認を意味することになるから国内法としては無効と考えざるを得ない」という肢は正しいです。条約の違憲審査については、最大判昭和34年12月16日(砂川事件)が、高度の政治性を理由に一見極めて明白に違憲無効でない限り審査の範囲外だとしました。
憲法 第73条 第3号
条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
論文ではこう使う
論文では、条約が争われるとき、承認の要否、承認の効果、違憲審査の可否の三つに分けて書きます。承認の要否は、国会の財政や立法の権能に関わる内容を含むかで判断します。事後の不承認の効力は、国内法上の効力を否定したうえで、国際法上は条件付無効説により相手国の認識を問題にする、という二段構えで論じます。違憲審査については、憲法優位説を前提に81条の列挙に条約がないことを乗り越え、そのうえで統治行為論による限界を検討します。条約は、統治機構の手続と、憲法と条約の効力関係という二つの領域にまたがる分野です。答案では、どちらの領域の問題なのかを冒頭で確定してから書き進めます。承認の要否を検討するときは、その合意が国民の権利義務や国の財政に関わるかという実質から考えます。承認を経ていない合意にも98条2項の適用があることは、承認の要否と効力の議論を分けて書く手がかりになります。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。