議員の不逮捕特権・免責特権・歳費(49条〜51条)とは
ぎいんのとっけん
議員の不逮捕特権・免責特権・歳費とは、国会議員が、法律の定める場合を除いて会期中逮捕されない(50条)、議院で行った演説・討論・表決について院外で責任を問われない(51条)、国庫から相当額の歳費を受ける(49条)という三つの特権です。いずれも議員個人の利益のためではなく、議院の審議を確保し、議員の職務執行の自由を守るために置かれています。
会社の会議で、上司の失敗を率直に指摘した社員が、後で訴えられたり、会議の日に警察に連れて行かれたりするなら、誰も本当のことを言わなくなります。国会はまさに、国の政治について率直に言い合う場です。そこで憲法は、国会議員が会期中に逮捕されず、議院での発言や表決について院外で責任を問われず、生活の心配なく職務に専念できるよう歳費を受けると定めました。議員を特別扱いするためではなく、議院の審議を守るための仕組みです。
不逮捕特権の例外は、院外の現行犯と議院の許諾がある場合です
「憲法第50条は,両議院の議員は「法律の定める場合を除いては」国会の会期中逮捕されないと定めており,それを受けて,国会法は,議員が国会の会期中に逮捕され得る場合として,院外における現行犯の場合とその院の許諾のある場合を挙げている」という肢は正しいです。院内の現行犯が除かれているのは、院内の秩序維持が議院の自律権に委ねられているからです。許諾の判断について、「不逮捕特権を定める目的が議院の審議権の確保にあるとする見解に立つと,国会議員に対する逮捕請求の理由が正当であっても,議院は,議員の逮捕を許諾しないことができる」という肢は正しいです。この特権の目的を議院の審議権の確保に求める立場からは、逮捕の理由が正当でも、その議員の出席が審議に必要だという判断で許諾を拒めることになります。逆に、目的を議員個人の身体の自由の保障に求める立場からは、理由が正当なら拒めないことになります。許諾に期限を付せるかについては、東京地決昭和29年3月6日(期限付逮捕許諾事件)が、条件や期限を付すことはできないとしました。
- 不逮捕特権の例外院外における現行犯の場合と、その議院の許諾がある場合(国会法33条)
- 釈放要求会期前に逮捕された議員は、議院の要求があれば会期中釈放される(50条後段)
- 免責の対象演説・討論・表決のほか、国会における意見の表明とみられる行為や職務行為に付随する行為
- 免責の内容刑事責任と民事責任。議院による懲罰や政党による処分は免責されない
- 歳費相当額の歳費を国庫から受ける。減額されないという保障は裁判官と異なり存在しない
免責特権は職務行為に付随する行為にも及びます
「免責特権を定める目的が議員の職務執行の自由の保障にあるとする見解に立つと,地方公聴会における行為まで免責の対象とならない」という肢は誤りです。免責の目的を議員の職務執行の自由の保障に求めるなら、議場での発言に限らず、地方公聴会のように議院の活動として行われる場での行為にも及ぶと考えるのが筋です。東京地判昭和37年1月22日(第1次国会乱闘事件)も、職務行為に付随する行為を含むという枠組みをとりました。ただし、暴力行為のように職務とはいえない行為までは免責されません。「議院で行った」とは場所ではなく、議員としての職務を行ったかどうかを指すからです。
免責されるのは法的責任で、政党による処分は別です
「免責特権の趣旨は,議院内で行った発言を理由に院外で法的責任を問われないというものであり,その発言を理由に所属政党から除名されることはある」という肢は正しいです。「憲法第51条は,国会議員が「議院で行った演説,討論又は表決について,院外で責任を問はれない」と定めているので,議員が所属する政党が,議員の院内での表決などを理由に除名処分を行うことは憲法上許されないが,政党の除名処分が司法審査の対象とならないため,実際にはそうした憲法第51条違反の除名処分に法的統制が及ばないことになっている」という肢は誤りです。51条が免除するのは、一般の国民であれば負う民事上・刑事上の法的責任です。政党が政治的・道義的な責任を問うことは妨げられませんし、議院が院内で懲罰することも免責の対象外です。この肢の後半も誤りで、政党の除名処分が議員の一般市民としての権利利益を侵害するときは、手続が適正であったかについて法的統制が及びます。
免責特権があっても、国の賠償責任が生じる余地はあります
国会議員の発言で名誉を害された者が国に賠償を求める場面では、最判平成9年9月9日が基準になります。この判決は、質疑等は多数決で国家意思を形成する行為そのものではなく国家意思の形成に向けられた行為であるとしたうえで、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いて行使したと認め得る特別の事情がある場合に限り、国家賠償法1条1項の違法があるとしました。「最高裁判所は,議員が院内での質疑等によって個人の名誉を低下させる発言をしたとしても,国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある場合に限り,国家賠償法第1条第1項にいう違法な行為があったとして国の損害賠償責任が認められると判示した」という肢は正しいです。「国会議員が,質疑等において,職務と無関係に違法又は不当な目的をもって事実を摘示し,あるいは,あえて虚偽の事実を摘示して,個別の国民の名誉を毀損したと認められる特別の事情がある場合には,国家賠償法第1条第1項に基づいて,国に賠償を求めることができることもある」という肢は正しいです。「国会議員は,議院で行った演説,討論又は表決に加えて,国会における意見の表明とみられる行為や,職務行為に付随する行為に関しては,国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり,個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないから,国会議員の上記の行為そのものが国家賠償法上の違法の評価を受けることはない」という肢は誤りで、国家賠償法上の違法の評価を一切受けないとまでは言えません。「国会議員が,立法,条約締結の承認,財政の監督等の審議や国政に関する調査の過程で行う質疑等は,多数決原理により国家意思を形成する行為そのものではなく,国家意思の形成に向けられた行為であり,質疑等の内容が個別の国民の権利等に直接関わることも起こり得るので,質疑等において個人の権利を侵害した国会議員は,当該個人に対して損害賠償責任を負う」という肢も誤りで、国家賠償法1条1項は国が公務員に代位して責任を負う仕組みなので、責任を負うのは国であって議員個人ではありません。「公務員がその職務を行うに当たり、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えた場合、国は当該公務員に代位して賠償責任を負う,しかし、国会議員には憲法第51条で発言及び表決に対する免責特権が保障されているから、議員が国会で行った質疑等において個人の名誉を毀損する発言を行っても責任を問われることはないので、国が賠償責任を負うこともない」という肢も誤りです。免責特権は議員個人の法的責任を免除するにとどまり、国の賠償責任まで否定するものではないからです。
地方議会議員には、免責特権も不逮捕特権も及びません
「憲法上、国会に広範な議院自律権が認められ、国会議員の発言について免責特権が保障されているが、地方議会についても、その機能を適切に果たさせるために、国会と同様の議会自治・議会自律の権能が認められることから、地方議会の議員の発言についても、免責特権が認められる」という肢は誤りです。「地方公共団体の議会の議員は、憲法上、免責特権も不逮捕特権も保障されておらず、法律上、住民による解職請求が認められています」という肢は正しいです。憲法がこれらの特権を定めたのは国会議員についてであり、最大判昭和42年5月24日は、国会に広範な議院自律権と免責特権が認められるからといって、その理をそのまま地方議会に当てはめ、地方議会議員の発言に免責特権を憲法上保障していると解すべき根拠はないとしました。むしろ地方議会議員には住民による解職請求があり、地位の保障の在り方が異なります。緊急集会中の参議院議員について、「緊急集会の期間中における参議院議員は,国会の会期中とは異なり,法律の定める場合を除いて逮捕されないという特権や,議院での発言及び表決に対し院外で責任を問われないという特権を有しない」という肢が誤りであるとおり、特権は及びます。緊急集会も参議院という議院の活動の場面であり、国会法100条が緊急集会中の不逮捕と免責を確認しているからです。
憲法 第51条
両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。
論文ではこう使う
論文では、議員の発言による名誉毀損が問題になる事案がよく出ます。まず51条の趣旨を職務執行の自由の保障に求め、免責の及ぶ範囲を職務行為とこれに付随する行為に画します。そのうえで、国家賠償法1条1項の違法性を、議員個人の責任と国の責任に分け、国の責任については、議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認めうる特別の事情があるかで判断します。虚偽と知りながら事実を摘示した場合など、当てはめの手がかりを具体的に拾います。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。