独立行政委員会とは
どくりつぎょうせいいいんかい
独立行政委員会とは、内閣から一定の独立性をもって職権を行使する合議制の行政機関です。人事院や公正取引委員会などがあり、行政権は内閣に属するとする65条との整合が論じられます。
会社の中に、社長の意向で左右されないように独立した監査部門を置くことがあります。社長が自分に都合よく監査を止められたら、監査の意味がなくなるからです。国も、公務員の人事、独占禁止法の運用、警察行政のように、時の政権から距離を置くべき仕事があり、これを合議制の委員会に任せて、内閣の指揮監督から独立させています。行政権は内閣に属すると憲法65条が定めているのに、なぜこれが許されるのかが、この用語の中心の問題です。
準立法的作用は、41条に反しません
委員会が規則を定めることは、国会を唯一の立法機関とした41条に反しないかが問われます。「独立行政委員会が規則制定という準立法的作用を行うことは,国会を唯一の立法機関と定める憲法第41条に反するものではない」という肢は正しいです。41条が禁じているのは国会以外の機関が実質的意味の立法を行うことであり、法律の委任に基づく規則の制定は委任立法の一場面にすぎません。授権が具体的であれば、委員会の規則も政令と同じ枠組みで説明できます。むしろ、専門技術的な事項について細目を定めるには、所管の委員会のほうが適任だという実質的な理由もあります。議院規則や最高裁判所規則のように、憲法自身が国会以外の機関に規則の制定を認めている例もあり、41条は国会以外のあらゆる規範定立を禁じているわけではありません。問題は、授権の範囲を超えていないか、白紙委任になっていないかという点に移ります。
- 独立性の内容委員の身分保障、合議制、職権行使についての内閣の指揮監督の排除
- 内閣による統制委員の任命権、予算の編成権、国会の同意を要する任命手続などを通じた間接的な統制
- 準立法的作用規則を定める権限。人事院規則や公正取引委員会規則など
- 準司法的作用審判や裁決を行う権限。裁判所への出訴の道が開かれている
準司法的作用も、76条1項に反しません
審判や裁決を行うことは、すべて司法権が裁判所に属するとした76条1項に反しないかが問われます。「独立行政委員会が裁決や審決という準司法的作用を行うことは,たとえ前審であっても,全て司法権は裁判所に属する旨を定める憲法第76条第1項に反し,許されない」という肢は誤りです。76条2項後段は、行政機関が終審として裁判を行うことを禁じているにとどまり、前審としてならば許されます。裁決に不服がある者が裁判所に出訴できる仕組みであれば、司法権は裁判所に留保されています。あわせて、委員会が特別裁判所に当たるのではないかという疑問も生じますが、通常裁判所の系列から独立した裁判機関ではなく行政機関ですから、76条2項前段の問題にもなりません。
職務全般に内閣の直接の指揮監督が及ぶわけではありません
独立性は、職権の行使について内閣の指揮監督を受けないという意味に限られます。「行政権は内閣に属すると定める憲法第65条により,独立行政委員会の職務全般に対しては,内閣の直接的な指揮監督権が及ぶ」という肢は誤りです。職務全般に指揮監督が及ぶのであれば、独立行政委員会という制度を設ける意味がなくなります。具体的な事件の処理について内閣の指示を受けないことが、この制度の眼目です。他方で、まったく統制が及ばないわけでもありません。委員の任命は内閣が行い、多くは国会の同意を要します。予算も内閣が編成します。独立性は、職権行使の場面に限られた相対的なものです。委員会が国会に対して報告する義務を負う例もあり、民主的な統制の経路は複数用意されています。独立性を語るときは、どの機関からの独立なのかを特定することが必要です。内閣からの独立と、国会からの独立は別のことであり、委員会に認められているのは前者です。
65条は、すべての行政に指揮監督が及ぶことまで要求しません
65条は「行政権は、内閣に属する」と定めるだけで、41条の「唯一の」や76条1項の「すべて」のような独占を示す文言を置いていません。この文言の違いから、合憲性を説明する道はいくつかあります。行政権に属さない作用だとする説、65条が内閣に属さない例外を許容するとする説、内閣が委員の任命権と予算の編成権を通じて統制していれば足りるとする説です。通説は最後の説をとります。「行政権が内閣に属する旨を定める憲法第65条によれば,あらゆる行政を内閣が自ら行う必要まではないとしても,全ての行政について内閣が直接に指揮監督権を持つことが要求される」という肢は誤りです。また「憲法第65条第1項は,「行政権は,内閣に属する」と規定している,行政権とは全ての国家作用のうちから立法作用と司法作用を除いた残りの作用であるとすると,立法作用と司法作用以外の全ての国家作用について内閣が自ら行うことが必要となる」という肢も誤りで、控除説から内閣が自ら行うべきことは導かれません。65条が定めるのは行政権の帰属主体であって、内閣が自らのコントロールの下に置いていれば足り、天皇が行う内閣総理大臣の任命(6条1項)のように憲法自身が他の機関に委ねた作用もあるからです。福井地判昭和27年9月6日(内閣の行政権と独立行政委員会)も、こうした理解を前提に合憲としています。
独立性の程度は、機関ごとに違います
独立行政委員会と一口にいっても、独立性の強さは一様ではありません。人事院は内閣の所轄の下に置かれ、公正取引委員会も内閣総理大臣の所轄の下にありますが、いずれも職権の行使については独立しています。国家公安委員会は委員長を国務大臣が務めており、内閣との結びつきが強い形です。会計検査院は憲法90条が内閣に対し独立の地位を認めた機関で、法律によって設けられた委員会とは位置づけが異なります。どの機関について論じているのかで、65条との整合の検討の仕方が変わります。所轄の下に置かれるという関係があることは、内閣の統制が及んでいることの一つの手がかりになります。
中立性が求められる職務であることが、独立を正当化します
委員会に独立性が認められるのは、職務の性質上、政権の意向から距離を置く必要があるからです。公務員の人事、独占禁止法の運用、警察行政、労働争議の調整は、時の多数派の判断に委ねると公正さが疑われる分野です。逆にいえば、中立性の要請が乏しい分野で内閣の統制を外すことは、65条に反する疑いが生じます。政策の遂行そのものを担う機関を内閣の外に置けば、国会に対する連帯責任の仕組みが働かなくなるからです。独立性の程度と職務の性質の対応を検討することが、この制度の合憲性を論じる鍵になります。国会が委員の任命に同意を与える仕組みも、民主的な統制を補う役割を果たします。内閣の統制が薄い分を国会の関与で補うという発想であり、行政権が内閣に属するという原則と、国会に対する責任という原則の両方に目配りした説明になります。民主的正統性の経路が内閣を通るか国会を通るかの違いにすぎない、という理解です。
憲法 第65条
行政権は、内閣に属する。
論文ではこう使う
論文では、新たな独立機関を設ける法律の合憲性を検討する場面で使います。まず65条の行政権が内閣に属することを確認し、次に、内閣が当該機関を統制する手段として何が用意されているかを、委員の任命権、予算の編成権、国会の同意といった観点から拾います。そのうえで、当該職務が政治的中立性や専門技術的判断を要するかを検討し、独立の必要性と統制の程度が釣り合っているかを判断します。準立法的作用と準司法的作用については、41条と76条の条文の建て付けから、それぞれ委任立法と前審の問題に落とし込みます。合憲とする結論を採るとしても、統制の手段が一つも用意されていない機関であれば違憲の余地があることを示しておくと、当てはめに意味が生まれます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。