内閣総理大臣の権限とは
ないかくそうりだいじんのけんげん
内閣総理大臣の権限とは、内閣の首長(66条1項)として内閣総理大臣がもつ、国務大臣の任免権(68条)、内閣を代表しての議案の提出・国務の報告・行政各部の指揮監督(72条)、国務大臣の訴追に対する同意権(75条)などの権限です。明治憲法下の同輩中の首席と異なり、内閣の一体性と統一性を支える地位にあります。
部長が課長たちと同格で、誰も課長を交代させられないなら、部の方針はまとまりません。明治憲法の内閣総理大臣はそういう同輩中の首席で、閣内が割れると内閣は簡単に倒れました。日本国憲法はこれを改め、内閣総理大臣を内閣の首長とし、国務大臣を一人で任命し罷免できる権限や、内閣を代表して行政各部を指揮監督する権限を与えました。内閣が一体となって国会に責任を負うためには、まとめ役に実際の力が要るからです。
内閣総理大臣は同輩中の首席ではなく、内閣の首長です
首長としての地位が与えられた趣旨は、内閣をばらばらにさせないことにあります。「大日本帝国憲法において内閣総理大臣は同輩中の首席にすぎなかったのに対し,日本国憲法が内閣総理大臣に首長としての地位を認め,その権限を強化しているのは,内閣の一体性と統一性を確保し,内閣の国会に対する連帯責任の強化を図るものである」という肢は正しいです。内閣が国会に対して連帯して責任を負う以上、内閣の意思が一つにまとまっていなければ責任の取りようがありません。内閣の成立時期についても問われます。「内閣は,内閣総理大臣及びその他の国務大臣により構成される合議体である,国務大臣の任命は天皇により認証されるが,認証は効力要件ではないから,内閣総理大臣が国務大臣を任命した時点で,合議体としての内閣が成立する」という肢は正しく、天皇の認証(7条5号)は効力要件ではありません。
- 国務大臣の任免権(68条)任命も罷免も内閣総理大臣が単独で決定できる。閣議も他の大臣の同意も要らない
- 行政各部の指揮監督権(72条)内閣を代表して行使する。本来は内閣の権限であり、閣議にかけた方針に基づいて行う
- 議案の提出・国務の総理・外交関係の報告(72条)内閣を代表して国会に対して行う
- 国務大臣の訴追に対する同意権(75条)在任中は同意がなければ訴追されない。ただし訴追の権利は害されない
国務大臣の罷免は専権であり、閣議にかける必要はありません
国務大臣の任免権は内閣総理大臣の専権です。任命に他の大臣の同意は要りませんし、罷免も同じです。「内閣総理大臣は,国務大臣の任免権を有するから,その意思に反しても一方的にこれを罷免することはできる,ただし,国務大臣を罷免する場合には,閣議において他の国務大臣の承認を求めなければならない」という肢は誤りです。後段の「閣議において他の国務大臣の承認を求めなければならない」という部分が誤りで、承認を要するとすれば、罷免されようとしている大臣が反対して罷免を阻めることになってしまいます。同じ理由で「内閣は,行政権の行使について,国会に対し連帯して責任を負うことから,閣議によってその職権を行うことが求められ,したがって,国務大臣の罷免については,閣議にかけて決定しなければ,行うことができない」という肢も誤りです。閣議によって職権を行うのは内閣であって、任免権は内閣ではなく内閣総理大臣の権限です。
閣議決定した方針がなくても、行政各部に指示を与えられます
最大判平成7年2月22日(ロッキード事件丸紅ルート)は、内閣総理大臣の職務権限の範囲を示した重要な判例です。内閣総理大臣が行政各部に指揮監督権を行使するには閣議にかけて決定した方針があることを要しますが、流動的で多様な行政需要に遅滞なく対応するため、方針がない場合でも指導・助言等の指示を与える権限があるとしました。「判例によれば,内閣総理大臣は,閣議にかけて決定した方針が存在しない場合においても,少なくとも内閣の明示の意思に反しない限り,行政各部に対し,随時その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導,助言等の指示を与える権限を有する」という肢は正しいです。これに対して「最高裁判所の判例の趣旨に照らすと、内閣総理大臣は、憲法第72条に規定された行政各部の指揮監督権限を閣議にかけて決定した方針に基づいて行使する必要があり、行政各部に対してその所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与えたとしても、内閣としての事前の方針決定がなければ、事実上の影響力を行使したものにすぎず、内閣総理大臣の職務権限に属するものではない」という肢は誤りで、判例と正反対のことを述べています。閣議決定がなければ事実上の影響力にとどまる、という結論にすると、職務権限の範囲が狭くなりすぎます。
指揮監督は本来内閣の権限で、総理大臣は内閣を代表して行います
72条は「内閣を代表して」と書いており、行政各部の指揮監督が本来は内閣の権限であることを示しています。「憲法第72条は,内閣総理大臣が内閣を代表して行政各部の指揮監督を行うと規定しているが,行政各部の指揮監督は,本来,内閣の権限である,したがって,内閣は,行政各部の行為についても,国会に対して連帯して政治責任を負う」という肢は正しいです。内閣法6条も、内閣総理大臣は閣議にかけて決定した方針に基いて行政各部を指揮監督すると定めています。指揮監督の及ぶ範囲も問われます。「最高裁判所の判例の趣旨によれば,内閣総理大臣は,行政各部に対する指揮監督権を有するので,各国務大臣が所管事項についてする行政指導に対し指示を与えることも内閣総理大臣の権限の範囲内というべきである」という肢は正しく、各大臣が所管事項について行う行政指導も指揮監督の対象になります。
専権事項と閣議を要する事項は区別されます
内閣総理大臣の権限のうち、どこまでが専権かを区切る問題です。「内閣総理大臣は国務大臣の任免権,国務大臣の訴追に対する同意権及び予算の作成・提出権を有するが,これらはすべて内閣総理大臣の専権事項であるので,閣議にかけて決定する必要はない」という肢は誤りです。国務大臣の任免権と訴追に対する同意権は内閣総理大臣の権限ですが、予算の作成・提出は73条5号が定める内閣の権限であり、閣議による決定を要します。内閣の権限は閣議によって行われ(内閣法4条1項)、内閣総理大臣の権限は内閣総理大臣が単独で行います。政令の制定(73条6号)や条約の締結(73条3号)、衆議院の解散の決定も、予算と同じく内閣の権限です。
首長であることは、内閣総理大臣が欠けたときの総辞職にもつながります
内閣総理大臣が欠けたときは内閣が総辞職します(70条)。「内閣総理大臣が欠けたときは,内閣は総辞職しなければならない,なぜなら,憲法は,内閣総理大臣に「首長」たる地位を与えており,これが欠けた場合には内閣の一体性が失われることになるからである」という肢は正しいです。首長が欠ければ内閣の一体性が保てないというのが理由ですから、この帰結は首長性から素直に導けます。国務大臣が欠けても内閣は総辞職しません。訴追に対する同意権(75条)も、内閣の一体性を訴追から守るための制度です。ただし同条ただし書は訴追の権利が害されないと定めており、同意が得られない間は公訴時効の進行が停止すると解されています。なお、内閣総理大臣が欠けた場合でも、新たな内閣総理大臣が任命されるまでは引き続き職務を行います(71条)。行政に空白を作らないための規定です。
憲法 第72条
内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。
論文ではこう使う
論文では、内閣総理大臣の行為の職務権限該当性を論じる場面で使います。まず66条1項と72条から首長としての地位を示し、次に72条の指揮監督権が内閣を代表して行使されるものであることを確認します。そのうえで、閣議決定した方針がない場合でも、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に指導・助言等の指示を与える権限があるという判例の枠組みを立て、問題の行為がその範囲に収まるかを当てはめます。権限の主体が内閣なのか内閣総理大臣なのかという仕分けを最初に示しておくと、議論が整理されます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。