持分の譲渡と社員の加入・退社とは
もちぶんのじょうととしゃいんのかにゅうたいしゃ
持分の譲渡とは、持分会社の社員がその社員としての地位を他人に移転することで、他の社員の全員の承諾が無ければできず、業務を執行しない有限責任社員の持分だけは業務を執行する社員の全員の承諾で足ります(会社法585条)。社員の加入とは新たな社員を迎えることで、その社員に係る定款の変更をした時に効力を生じ(会社法604条)、退社とは社員が会社の存続中に社員の地位を失うことで、任意退社・法定退社・除名などがあり、退社した社員は持分の払戻しを受けます(会社法606条〜611条)。
株式は原則として自由に売れますが、持分会社の持分はそうはいきません。仲間の信頼で成り立つ会社なので、誰かが抜けて知らない人が入るには、残る社員全員が承諾する必要があります。例外は、経営に加わらず責任も出資の範囲にとどまる有限責任社員で、この人の交代は経営者である業務執行社員全員の承諾で足ります。社員が入れば定款に名前を書き足し、抜ければ持分を払い戻します。やめたい社員を他の社員が多数決だけで追い出すことはできず、裁判所に除名の訴えを起こして判決をもらう仕組みです。
持分の譲渡は他の社員全員の承諾が原則で、業務を執行しない有限責任社員の持分だけが業務執行社員全員の承諾で足ります
社員は、他の社員の全員の承諾がなければ、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができません(585条1項)。社員の交代は会社の人的な基盤を変えるので、残る社員全員の承諾を要求したものです。「持分会社の無限責任社員は,定款に別段の定めがある場合を除き,他の社員の全員の承諾がなければ,その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができない」という肢と、「合名会社の社員は,定款に別段の定めがない限り,他の社員の全員の承諾がなければ,その持分を他人に譲渡することができない」という肢はいずれも正しいです。これに対し、業務を執行しない有限責任社員は、業務執行に関わらず対外的な責任も出資の価額にとどまるので、業務を執行する社員の全員の承諾があればその持分の全部又は一部を譲渡することができ(同条2項)、それに伴う定款の変更も業務執行社員全員の同意でできます(同条3項)。「業務を執行しない有限責任社員は、定款に別段の定めがある場合を除き、業務を執行する社員の全員の承諾があるときは、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができる」という肢と、「合資会社における業務を執行しない有限責任社員は,定款に別段の定めがない限り,業務を執行する社員の全員の承諾があれば,その持分を他人に譲渡することができる」という肢はいずれも正しいです。この例外は有限責任社員に限られ、業務を執行しない無限責任社員には及びません。「業務を執行しない無限責任社員は,業務を執行する社員の全員の承諾があれば,その持分の全部を他人に譲渡することができる」という肢は誤りです。合資会社には有限責任社員がいるので、「合資会社の社員は,他の社員の全員の承諾がなければ,その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができない」という肢は、常に全員の承諾が要るとする点で誤りです。これらはいずれも定款で別段の定めをすることができます(同条4項)。持分の全部を譲渡した社員は、その登記前に生じた会社の債務について従前の責任の範囲内で責任を負います(586条)。
持分会社は自己の持分を譲り受けることができず、取得した持分は取得の時に消滅します
持分会社は、その持分の全部又は一部を譲り受けることができません(587条1項)。株式会社が財源規制と手続規制の下で自己株式を取得し保有できるのと違い、持分会社では自己持分の取得が端的に禁じられています。他の社員全員の承諾があっても会社への譲渡はできないので、「持分会社の無限責任社員は、他の社員の全員の承諾があるときは、その持分の全部又は一部を当該持分会社に譲渡することができる」という肢は誤りです。相続や合併などで会社自身に持分が帰属した場合も、その持分は会社が取得した時に消滅し(同条2項)、自己持分として保有することはできません。「持分会社が当該持分会社の持分を取得した場合には,当該持分は,当該持分会社がこれを取得した時に,消滅する」という肢は正しいです。
社員の加入は定款の変更をした時に効力を生じ、やむを得ない事由があればいつでも退社できます
持分会社は新たに社員を加入させることができ、社員の加入はその社員に係る定款の変更をした時に効力を生じます(604条1項・2項)。社員の氏名・住所が定款の絶対的記載事項だからです(576条1項4号)。「会社が新たに社員を加入させる場合,定款の変更をしなければならない」という肢は正しいです。合同会社では、定款変更の時に出資を履行していない者は履行を完了した時に社員になります(604条3項)。加入した社員は加入前の債務にも責任を負います(605条)。退社には任意退社と法定退社があります。存続期間を定款で定めなかった場合やある社員の終身の間存続すると定めた場合には、各社員は6か月前に予告して事業年度の終了時に退社でき(606条1項)、存続期間を定めていた場合でも、各社員はやむを得ない事由があるときはいつでも退社することができます(同条3項)。社員が投下資本を回収する最低限の道を確保したものです。「合同会社の存続期間を定款で定めた場合であっても,合同会社の社員は,やむを得ない事由があるときは,いつでも退社することができる」という肢は正しいです。法定退社事由は、定款で定めた事由の発生、総社員の同意、死亡、合併による消滅、破産手続開始の決定、解散、後見開始の審判、除名です(607条1項)。社員の持分を差し押さえた債権者も、6か月前に予告して事業年度の終了時にその社員を退社させることができます(609条1項)。社員が退社した時は、その社員に係る定款の定めを廃止する定款の変更をしたものとみなされます(610条)。
除名は他の社員の同意だけではできず、過半数の決議に基づく訴えによります
社員について、出資の義務を履行しないこと、競業の禁止に違反したこと、業務を執行するに当たって不正の行為をし又は業務を執行する権利が無いのに業務の執行に関与したこと、代表に当たって不正の行為をし又は代表権が無いのに代表して行為をしたこと、その他重要な義務を尽くさないことがあるときは、持分会社は、対象社員以外の社員の過半数の決議に基づき、訴えをもってその社員の除名を請求することができます(859条)。除名は社員の地位を奪う重大な効果を持つので、他の社員の意思表示だけでは効力を生じず、裁判所の判決によることとしたものです。「合同会社の業務を執行するに当たって不正の行為をした社員は,他の社員の全員の同意によって除名することができる」という肢は誤りです。他の社員の決議は全員の同意ではなく過半数で足り、その決議だけで除名できるのではなく訴えが要ります。業務執行社員について同じ事由や著しい不適任があるときは、業務執行権又は代表権の消滅の訴えによることもできます(860条)。除名による退社では、持分の払戻しの計算は除名の訴えを提起した時の財産の状況により、会社は提訴日後の法定利率による利息も支払います(611条5項・6項)。
死亡は退社事由ですが相続人が持分を承継する旨を定款で定めることができ、持分の差押えは持分払戻請求権にも及びます
社員の死亡は法定退社事由で(607条1項3号)、相続人が当然に社員になるのではなく、原則として持分の払戻請求権を相続するにとどまります。もっとも、持分会社は、社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合にその相続人その他の一般承継人が持分を承継する旨を定款で定めることができ(608条1項)、この定めがあれば一般承継人は持分を承継した時に社員となり(同条2項)、その時にその者に係る定款の変更をしたものとみなされます(同条3項)。「持分会社は,その社員が死亡した場合に当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継する旨の定款の定めを設けることはできない」という肢は誤りで、「持分会社の社員が死亡した場合にはその相続人が当該社員の持分を承継する旨の定款の定めがあるときは,当該相続人が持分を承継した時に,当該相続人に係る定款の変更をしたものとみなされる」という肢は正しいです。退社した社員は、出資の種類を問わず持分の払戻しを受けることができ、金銭で払い戻すことができます(611条1項・3項)。退社した社員と会社との計算は退社の時の会社財産の状況によります(同条2項)。社員の持分の差押えは、持分の払戻しを請求する権利に対してもその効力を有します(同条7項)。持分そのものを換価しにくい債権者に、退社による払戻しから回収する道を与えたものです。「債権者が合資会社の社員の持分を差し押さえたときは,その差押えは,持分の払戻しを請求する権利に対しても,その効力を有する」という肢は正しいです。
持分の譲渡・加入・退社の規律
- 持分の譲渡(585条): 他の社員全員の承諾。業務を執行しない有限責任社員は業務執行社員全員の承諾。定款で別段の定め可。全部譲渡した社員は登記前の債務に従前の責任(586条)
- 自己持分(587条): 譲受け禁止。取得した持分は取得時に消滅
- 加入(604条・605条): 定款変更の時に効力。合同会社は出資履行の完了時。加入前の債務にも責任
- 任意退社(606条): 存続期間の定めが無い等なら6か月前の予告で事業年度末に退社。やむを得ない事由があればいつでも
- 法定退社(607条1項): 定款の事由・総社員の同意・死亡・合併・破産手続開始の決定・解散・後見開始の審判・除名。差押債権者による退社(609条)
- 除名(859条): 対象社員以外の社員の過半数の決議に基づく訴え。同意だけでは不可
- 死亡(607条1項3号・608条): 退社が原則。定款で一般承継人の承継を定められ、承継時に定款変更とみなす
- 持分の払戻し(611条): 出資の種類を問わず、金銭で可。退社時の財産状況で計算。差押えは払戻請求権に及ぶ(7項)。退社社員は登記前の債務に2年間従前の責任(612条)
会社法585条1項
社員は、他の社員の全員の承諾がなければ、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができない。
会社法585条2項
前項の規定にかかわらず、業務を執行しない有限責任社員は、業務を執行する社員の全員の承諾があるときは、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができる。
会社法859条柱書
持分会社の社員(以下この条及び第八百六十一条第一号において「対象社員」という。)について次に掲げる事由があるときは、当該持分会社は、対象社員以外の社員の過半数の決議に基づき、訴えをもって対象社員の除名を請求することができる。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。