弁済の充当(488条〜491条)とは
べんさいのじゅうとう
弁済の充当とは、債務者の給付が債務の全部を消滅させるのに足りないときに、その給付をどの債務又はどの部分に当てるかを決めることで、合意があればそれにより、なければ弁済者・受領者の指定、それもなければ法定の順序によりますが、元本・利息・費用の間は合意がない限り費用、利息、元本の順になります(488条〜490条)。
同じ相手から二口のお金を借りていて、手元のお金では両方を返しきれないとき、払ったお金をどちらの借金に当てるかで、残る利息や担保の扱いが変わります。これを決めるのが弁済の充当です。民法は、当事者の合意があればそれに従い、なければまず払う側が指定でき、払う側が指定しなければ受け取る側が指定できるとしています。どちらも指定しなければ、債務者に有利な順に法律が決めます。ただし、一つの借金の元本と利息と費用のあいだの順序は、合意がない限り一方の指定では変えられません。
数個の債務がある場合は、弁済する者が給付の時に指定でき、指定しなければ受領する者が受領の時に指定できます
488条1項は、債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合に、弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないときは、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができると定めています。弁済期が来ていない債務でも、債務者は期限の利益を放棄して弁済できるので(136条2項)、「Aは,Bに100万円を支払うと同時に,これを乙債務の弁済に充当することを指定することができる」という肢は正しいです。2項は、弁済をする者が指定しないときは、弁済を受領する者がその受領の時に指定できるが、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときはこの限りでないとしています。受領者の指定に対して直ちに異議を述べれば「債権者のした指定は効力を有しない」という肢は正しいです。ただし、異議を述べた弁済者が改めて指定できるわけではなく、どちらの指定もない状態として4項の法定充当になります。「Aは,直ちに異議を述べて,乙債務の弁済に充当することを指定することができる」という肢は誤りです。指定は相手方に対する意思表示によってします(3項)。
当事者のどちらも指定しなければ、弁済期にあるもの、債務者に利益が多いもの、弁済期が先のものの順に法定充当されます
488条4項は、どちらも指定しないときの充当を定めています。1号は、債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは弁済期にあるものに先に充当するとし、2号は、全ての債務が弁済期にあるとき又は弁済期にないときは債務者のために弁済の利益が多いもの(利息付きのもの、利率の高いものなど)に先に充当するとし、3号は、利益が相等しいときは弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当するとし、4号は、それも等しいときは各債務の額に応じて充当するとしています。「全ての債務が弁済期にあるときは,その給付は,債務者のために弁済の利益が多い債務に先に充当される」という肢は正しいです。弁済期にある無利息の甲債務と弁済期にない利息付きの乙債務があるときは、1号で弁済期にある甲債務が先になるので、「150万円全額が乙債務の弁済に充当される」という肢は誤りです。判例は、どちらも期限の定めがない債務は常に弁済期にあるものとして先に成立した債務を先に弁済期が来たものとみるので、先に成立した100万円の甲債務に先に充当されて残りの50万円が乙債務に充当され、「50万円が甲債務の弁済に,100万円が乙債務の弁済に充当される」という肢は誤りです。
元本のほか利息と費用を払うべき場合は、合意がない限り、費用、利息、元本の順に充当され、一方の指定では変えられません
489条1項は、債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならないと定めています。元本を先に減らすと以後の利息が生じなくなって債権者が不利になるので、一方の当事者の指定でこの順序を変えることはできません。条文どおりの「順次に費用,利息及び元本に充当される」という肢と、当事者間の別段の合意がない限り「順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない」という肢は正しいです。債務者が「その給付を元本に充当する旨を指定すれば,その給付は元本に充当される」とする肢、両債務とも利息付きのときに「乙債務の元本の弁済に充当することを指定することができる」とする肢、借主が「まず元本に充当することを指定することができ,貸主が直ちに異議を述べない限り」有効とする肢は、いずれも誤りです。費用・利息・元本のどれかを全部消滅させるのに足りないときは、その中で488条を準用します(489条2項)。
当事者に充当の順序についての合意があれば、法定の順序よりも合意が優先します
490条は、前二条の規定にかかわらず、弁済をする者と弁済を受領する者との間に弁済の充当の順序に関する合意があるときは、その順序に従い、その弁済を充当すると定めています。489条の順序も合意なら変えられるので、「債権者と債務者がその給付を利息に充当する旨を合意すれば,その給付は利息に充当される」という肢は正しいです。1個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合(分割払いなど)にも488条から490条までが準用されます(491条)。相殺をするときの充当は512条・512条の2が別に定めていて、合意がなければ相殺に適するようになった時期の順序に従って消滅します。代位弁済をした保証人に債務者が一部弁済をした場合の扱いは弁済による代位の語で扱います。
民法488条
債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないとき(次条第一項に規定する場合を除く。)は、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。2 弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。3 前二項の場合における弁済の充当の指定は、相手方に対する意思表示によってする。4 弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも第一項又は第二項の規定による指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。二 全ての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。
民法489条
債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(債務者が数個の債務を負担する場合にあっては、同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る。)において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。
民法490条
前二条の規定にかかわらず、弁済をする者と弁済を受領する者との間に弁済の充当の順序に関する合意があるときは、その順序に従い、その弁済を充当する。
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