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行政法の重要条文ガイド|行訴法・行手法・国賠法の条文整理

行政法の重要条文を試験利用の観点から厳選整理。行政事件訴訟法・行政手続法・行政不服審査法・国家賠償法の条文をまとめます。

この記事のポイント

行政法には「行政法」という名前の単一の法典は存在しない。 行政事件訴訟法・行政手続法・行政不服審査法・国家賠償法・地方自治法など、数多くの個別法と、判例・学説によって積み上げられた一般理論の総体を「行政法」と呼ぶ。そのため、答案でも実務でも「どの法律の何条を引くか」を正確に特定できるかが、論述の質を決定づける。

この記事では、まず「行政法の条文の読み方」という総論を押さえたうえで、試験で頻出する条文を法律別に、条文の文言・要件・関連判例とセットで整理する。検索意図に正面から答えるべく、最初に用語の定義から入る。


「行政法の条文」とは何か(定義)

行政法という分野の定義

行政法とは、行政の組織・作用・救済に関する国内公法の総称をいう。 民法や刑法のように1本の法典があるわけではなく、次の3領域に対応する多数の個別法から構成される。

  • 行政組織法:行政の組織・権限を定める法(国家行政組織法、内閣法、地方自治法の組織規定など)
  • 行政作用法:行政が国民に対して行う活動を規律する法(行政手続法、各種業法、租税法など)
  • 行政救済法:違法・不当な行政活動から国民を救済する法(行政事件訴訟法、行政不服審査法、国家賠償法)

このうち試験で「行政法」として正面から問われるのは、主に作用法の一般法である行政手続法と、救済法(行訴法・行不審法・国賠法)である。

「条文の読み方」の前提となる構造

行政法の条文を読むときは、次の3層構造を意識する。

  1. 一般法と特別法の関係:行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法は「一般法」であり、個別の業法に特別の手続規定があればそちらが優先する。例えば行政手続法3条・行政不服審査法7条には適用除外規定が置かれている。
  2. 定義規定の確認:行政手続法2条、行政事件訴訟法3条のように、各法の冒頭近くに「処分」「申請」「不利益処分」「行政指導」等の定義規定がある。要件該当性は必ずこの定義に立ち返って判断する。
  3. 要件・効果の分解:1つの条文を「主語(誰が)/要件(どのような場合に)/効果(何をできる・しなければならない)」に分解して読む。特に救済法は要件が条文に詳細に列挙されているため、要件の脱落が致命傷になる。

行政法の条文の読み方(総論)

「義務」の強度を文言で区別する

行政法令では、規定が法的義務努力義務かで効果が大きく変わる。文言で読み分けるのが鉄則である。

文言 意味 例 「〜しなければならない」 法的義務(違反は違法評価につながる) 行手法5条(審査基準)、8条・14条(理由提示) 「〜するよう努めなければならない」 努力義務(直ちに違法とはならない) 行手法6条(標準処理期間)、12条(処分基準) 「〜することができる」 権限・裁量の付与 行訴法25条2項(執行停止) 「〜してはならない」 禁止 行手法32条2項(行政指導の継続強制の禁止)

審査基準(5条)の設定・公表が「しなければならない」とされているのに対し、処分基準(12条)が「努めなければならない」とされている差は、頻出の引っかけポイントである。

「処分性」「原告適格」など要件は判例で具体化されている

条文の文言だけでは内容が確定しない概念(不確定概念・要件概念)は、判例が判断枠組みを示している。条文を引いたうえで判例の規範を重ねるのが、行政法答案の基本作法である。代表例は次のとおり。

  • 「処分」(行訴法3条2項)の意義 → 処分性の判例(後述)
  • 「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)→ 原告適格の判例
  • 「裁量権の範囲をこえ又はその濫用」(行訴法30条)→ 裁量統制の判例

準用・読替え規定に注意する

行政事件訴訟法は、取消訴訟の規定を他の訴訟類型に準用する形をとる。例えば無効等確認訴訟・当事者訴訟には38条が、民事訴訟法の規定には7条が、それぞれ準用・適用の橋渡しをする。条文番号だけを覚えるのではなく「この規定はどこから準用されてくるか」を辿れると、未知の問題にも対応できる。

「みなし」「推定」と「適用しない」を読み分ける

条文中の「〜とみなす」は反証を許さない擬制、「〜と推定する」は反証で覆る、「適用しない」は適用除外を意味する。行政手続法3条は同法の規定を「適用しない」処分・手続を列挙しており、ここに該当すると行手法の手続保障(理由提示や聴聞)が及ばないことになる。要件該当性を論じる前に、まず適用除外に当たらないかを確認する習慣をつけると、論点の取りこぼしが減る。

「その他」と「その他の」を区別する

立法技術上、「Aその他B」はAとBが並列の例示であるのに対し、「Aその他のB」はAがBの一例(AはBに包含される)という関係を示す。行政法令の条文を精密に読む際には、この一字の違いが概念の包含関係を左右することがあるため、定義規定の文言を写経する感覚で正確に押さえておきたい。


行政法の体系と条文の位置関係

個別の条文に入る前に、各法が行政過程のどの段階を規律しているかを俯瞰しておくと、条文を引く順番に迷わなくなる。

  • 処分がされる前(事前手続):行政手続法が、申請に対する処分(審査基準5条・標準処理期間6条・理由提示8条)と不利益処分(処分基準12条・聴聞13条・理由提示14条)の手続を規律する。
  • 処分がされた後(事後救済):行政庁内部での見直しを求めるなら行政不服審査法(審査請求2条・期間18条)、裁判所に救済を求めるなら行政事件訴訟法(取消訴訟3条2項ほか)を用いる。両者は自由選択が原則(自由選択主義)だが、個別法で審査請求前置が定められている場合がある。
  • 損害の塡補:違法な行政活動で損害を受けたなら国家賠償法(公権力の行使は1条、営造物は2条)で金銭賠償を求める。

このように「事前手続 → 事後救済 → 損害塡補」という時間軸で各法を配置すると、事案を見たときにどの法律の条文を開けばよいかが直感的に分かる。条文を孤立して暗記するのではなく、この流れの中に位置づけて覚えるのが、効率的な学習法である。

行政事件訴訟法の重要条文

訴訟類型(2条・3条・4条)

行政事件訴訟法は、抗告訴訟・当事者訴訟・民衆訴訟・機関訴訟の4類型を定める(2条)。このうち抗告訴訟(公権力の行使に関する不服の訴訟=3条1項)が中心で、内部に複数の訴訟類型を含む。

条項 訴訟類型 定義のポイント 3条2項 取消訴訟(処分の取消しの訴え) 「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」の取消し 3条3項 裁決の取消しの訴え 審査請求等に対する裁決の取消し 3条4項 無効等確認訴訟 処分・裁決の存否・効力の確認 3条5項 不作為の違法確認訴訟 申請に対し相当期間内に処分をしない不作為 3条6項 義務付け訴訟 行政庁が処分をすべき旨を命ずることを求める 3条7項 差止訴訟 処分をすべきでない旨を命ずることを求める 4条 当事者訴訟 形式的当事者訴訟・実質的当事者訴訟

訴訟要件

取消訴訟の訴訟要件は、処分性・原告適格・狭義の訴えの利益・被告適格・出訴期間・管轄などからなる。条文ごとに整理する。

条文 内容 読み方のポイント 9条1項 原告適格(法律上の利益を有する者) 処分の名宛人以外の第三者で問題化 9条2項 第三者の原告適格の考慮事項 2004年改正で追加。法令の趣旨・目的、被侵害利益の内容・性質等を考慮 11条 被告適格 原則として処分をした行政庁の所属する国・公共団体 14条 出訴期間 処分を知った日から6か月(1項)、処分の日から1年(2項)。正当な理由があれば例外 25条 執行不停止の原則と執行停止 1項で不停止原則、2項以下で例外的な執行停止の要件

訴訟要件を要件として分解する

取消訴訟の訴訟要件は、本案の主張に入る前提として裁判所が職権で調査する事項である。条文に明示されているもの(被告適格=11条、出訴期間=14条、管轄=12条、教示・審査請求前置=8条)と、条文の解釈から導かれるもの(処分性=3条2項の「処分」概念、狭義の訴えの利益=9条1項括弧書き)に整理できる。答案では、まず「本件訴えは適法か」を訴訟要件のレベルで検討し、要件を満たして初めて本案(処分の違法性)に進む、という二段構えを崩さないことが重要である。

執行停止(25条)の要件の読み方

25条2項は、執行停止の積極要件として「処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」を定める。さらに同条4項は消極要件として「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるとき」は執行停止をすることができないとする。条文を読むときは、積極要件と消極要件を分けて拾い、両者を満たして初めて執行停止が認められる構造を意識する。

義務付け訴訟・差止訴訟(2004年改正で法定)

条文 内容 要件のキーワード 37条の2 非申請型(直接型)義務付け訴訟 重大な損害を生ずるおそれ・補充性 37条の3 申請型義務付け訴訟 不作為の違法確認訴訟または取消訴訟・無効等確認訴訟の併合提起 37条の4 差止訴訟 重大な損害を生ずるおそれ・補充性 37条の5 仮の義務付け・仮の差止め 「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」

本案・判決に関する条文

条文 内容 30条 裁量処分の取消し(裁量権の逸脱・濫用) 31条 事情判決(請求棄却だが主文で違法を宣言) 32条 取消判決の第三者効(対世効) 33条 取消判決の拘束力(行政庁を拘束) 36条 無効等確認訴訟の原告適格

行政事件訴訟法の重要判例(正確に)

行訴法の条文を読むうえで外せない最高裁判例を、要件概念ごとに整理する。

処分性

  • 大田区ごみ焼却場設置事件(最判昭和39年10月29日 民集18巻8号1809頁):行政庁の処分とは「公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの」をいうとした、処分性の古典的定義。
  • 病院開設中止勧告事件(最判平成17年7月15日 民集59巻6号1661頁):医療法上の勧告について、これに従わないと保険医療機関の指定を受けられなくなるという仕組みを踏まえ、処分性を肯定した。
  • 浜松市土地区画整理事業計画事件(最大判平成20年9月10日 民集62巻8号2029頁):土地区画整理事業計画の決定について、従来の判例を変更して処分性を肯定した。

原告適格(9条)

  • 小田急高架化訴訟(最大判平成17年12月7日 民集59巻10号2645頁):都市計画事業認可の取消訴訟につき、騒音・振動等により健康・生活環境に著しい被害を直接的に受けるおそれのある周辺住民の原告適格を肯定。9条2項の考慮要素に沿った判断を示したリーディングケース。
  • 主婦連ジュース事件(最判昭和53年3月14日 民集32巻2号211頁):景品表示法上の一般消費者の利益は、原則として反射的利益にとどまり、原告適格を基礎づけないとした。

裁量統制(30条)

  • マクリーン事件(最大判昭和53年10月4日 民集32巻7号1223頁):在留期間更新の不許可処分について、判断が全く事実の基礎を欠くか社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかな場合に限り裁量権の逸脱・濫用として違法となるとした。
  • 日光太郎杉事件(東京高判昭和48年7月13日 行集24巻6=7号533頁):本来最も重視すべき諸要素を不当に軽視した判断過程の誤りを理由に処分を違法とした、判断過程審査の代表例。

行政手続法の重要条文

行政手続法は、処分・行政指導・届出・命令等制定に関する手続の一般法である(1条・3条参照)。試験では「申請に対する処分」と「不利益処分」の手続の差が頻出する。

条文 内容 義務の性質 2条 定義(処分・申請・不利益処分・行政指導等) — 5条 審査基準の設定・公表 法的義務(設定は義務、公表も原則義務) 6条 標準処理期間 努力義務 8条 申請拒否処分の理由の提示 法的義務 12条 処分基準の設定・公表 努力義務 13条 聴聞と弁明の機会の付与の区別 不利益処分の重さで手続を分ける 14条 不利益処分の理由の提示 法的義務 32条 行政指導の一般原則(任意性・不利益取扱いの禁止) — 33条 申請に関連する行政指導(申請者の意思の尊重) — 35条 行政指導の方式(趣旨・内容・責任者の明示) — 36条の2 行政指導の中止等の求め —

理由提示に関する判例

  • 一級建築士免許取消事件(最判平成23年6月7日 民集65巻4号2081頁):行政手続法14条1項の理由提示の程度につき、いかなる事実関係に基づきいかなる法令適用で処分がされたかを、名宛人がその記載自体から了知しうるものでなければならないとした。理由提示が不十分であれば処分は違法となる。

聴聞・弁明の区別(13条)

13条1項は、許認可等の取消しなど重い不利益処分には聴聞(口頭・対審的手続)を、それ以外には原則として弁明の機会の付与(書面審理が原則)を要求する。「資格・地位の直接の剥奪」「許認可の取消し」は聴聞、という対応を押さえる。聴聞手続では文書等の閲覧(18条)や口頭での意見陳述・質問(20条)が保障されるのに対し、弁明は原則として弁明書の提出という書面審理で完結する点が、両手続の手続保障の濃淡を示している。

理由提示の趣旨から要件を導く

行政手続法8条・14条の理由提示が要求される趣旨は、一般に①行政庁の判断の慎重・合理性を担保して恣意を抑制する点(恣意抑制機能)と、②処分の相手方に不服申立ての便宜を与える点(争訟便宜機能)に求められる。どの程度詳しい理由が必要かは、この趣旨に照らし、処分の性質や根拠法令の規定の仕方を踏まえて判断される。条文の文言(「理由を示さなければならない」)だけでは程度が定まらないため、趣旨から要件を具体化するという行政法の典型的な思考過程を踏む。


行政不服審査法の重要条文

行政不服審査法は2014年(平成26年)改正で大きく刷新され、2016年4月から施行された。審査請求への一元化、審理員制度、行政不服審査会への諮問が柱である。

条文 内容 読み方のポイント 2条 処分についての審査請求 原則として審査請求に一元化 4条 審査請求をすべき行政庁 処分庁に上級行政庁がない場合は処分庁自身 等 9条 審理員の指名 改正で導入。処分に関与しない職員が審理を主宰 18条 審査請求期間 処分を知った日の翌日から3か月(主観)・処分の日の翌日から1年(客観) 43条 行政不服審査会等への諮問 第三者機関のチェック 45条・46条 裁決(却下・棄却・認容) 45条が処分以外、46条が処分の取消し等 52条 裁決の拘束力 関係行政庁を拘束 82条 教示 不服申立てができる旨等を書面で教示

行政事件訴訟法の出訴期間が「6か月」であるのに対し、行政不服審査法の審査請求期間は「3か月」である点は、数字の引っかけとして頻出なので必ず区別する。

2014年改正の3つの柱を条文で押さえる

改正法が導入した制度は、条文とセットで覚えると整理しやすい。

  • 審理員制度(9条):処分に関与しなかった職員を審理員に指名し、中立的に審理を主宰させることで、審査の公正性を高める。
  • 行政不服審査会等への諮問(43条):審査庁は、審理員意見書の提出を受けた後、原則として第三者機関である行政不服審査会等に諮問しなければならない。
  • 審査請求への一元化:旧法の異議申立てを廃止し、不服申立てを審査請求に一本化した。これにより、まずどの手続を使うかという入口の判断が簡明になった。

これらは「公正性の確保」という改正の理念から導かれる制度であり、個々の条文を理念と結びつけて理解すると記憶に定着しやすい。

不服申立てと取消訴訟の関係(自由選択主義)

処分に不服がある者は、審査請求(行不審法)と取消訴訟(行訴法)のいずれを先に選んでもよいのが原則である(自由選択主義)。ただし個別法で「審査請求に対する裁決を経た後でなければ取消訴訟を提起できない」とする審査請求前置が定められている場合があり、その場合は行訴法8条1項ただし書を根拠に前置の要否を検討する。条文を読むときは、一般法の原則(自由選択)と個別法の例外(前置)の二段階で確認する。


国家賠償法の重要条文

国家賠償法は全6条の短い法律だが、要件が凝縮されており、1条と2条の要件を分けて理解することが要点である。

条文 内容 要件のキーワード 1条1項 公権力の行使に基づく損害賠償責任 公権力の行使/公務員/職務を行うについて/故意・過失/違法/損害 1条2項 加害公務員への求償権 故意又は重大な過失があったとき 2条1項 公の営造物の設置・管理の瑕疵に基づく責任 設置・管理の瑕疵(通常有すべき安全性の欠如)/無過失責任 2条2項 営造物責任における求償 損害の原因について責任を負う者への求償 3条 費用負担者の責任 設置・管理者と費用負担者が異なる場合 6条 相互保証主義 外国人が被害者である場合

国家賠償法の重要判例

  • 2条「瑕疵」の意義(最判昭和45年8月20日 民集24巻9号1268頁・高知落石事件):営造物の設置・管理の瑕疵とは「営造物が通常有すべき安全性を欠いていること」をいい、過失の存在を必要としない(無過失責任)とした。
  • 規制権限の不行使(最判平成16年4月27日 民集58巻4号1032頁・筑豊じん肺訴訟、最判平成16年10月15日 民集58巻7号1802頁・水俣病関西訴訟):規制権限の不行使が、その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使は国家賠償法1条1項の適用上違法となるとした。

地方自治法の重要条文

条文 内容 14条 条例の制定(法令に違反しない限りで) 242条 住民監査請求 242条の2 住民訴訟(4号請求が頻出)

住民監査請求(242条)を経たことが住民訴訟(242条の2)の訴訟要件となる(監査請求前置主義)点が、両条文の関係として重要である。


具体例で見る条文の使い方(あてはめ)

抽象的な条文整理だけでは答案は書けない。ここでは典型的な事例を素材に、どの条文をどう引くかを示す。

事例1:申請を拒否されたケース

Xは営業許可を申請したが、行政庁Yから拒否処分を受けた。拒否処分には「要件を満たさない」とだけ書かれていた。

  • 手続の瑕疵:申請拒否処分には理由の提示が義務づけられる(行政手続法8条1項)。本件の理由は「要件を満たさない」という抽象的なもので、いかなる事実にいかなる基準を適用したかが名宛人に了知できない。一級建築士免許取消事件(最判平成23年6月7日)の枠組みに照らせば、理由提示として不十分であり、処分は手続上違法となりうる。
  • 審査基準との関係:Yは審査基準を設定・公表すべき法的義務を負う(同5条)。審査基準が存在するなら、拒否処分の理由は通常その基準のどの項目に該当しないかを示すべきである。
  • 争い方:Xは拒否処分の取消訴訟(行訴法3条2項)を提起できる。さらに許可を得たいのであれば、申請型義務付け訴訟(同37条の3)を取消訴訟と併合提起することが考えられる。

事例2:第三者が処分を争うケース

産業廃棄物処理施設の設置許可がされ、周辺住民Zが健康被害を懸念して許可の取消しを求めたい。

  • 訴訟類型:許可処分の取消訴訟(行訴法3条2項)。
  • 原告適格:Zは処分の名宛人ではない第三者なので、9条1項「法律上の利益を有する者」に当たるかが問題となる。9条2項に従い、根拠法令の趣旨・目的、考慮されるべき利益の内容・性質、害される態様・程度を考慮する。小田急高架化訴訟(最大判平成17年12月7日)の枠組みを用い、Zが施設から生ずる健康・生活環境上の著しい被害を直接的に受けるおそれのある範囲の住民といえれば、原告適格が肯定される方向となる。
  • 本案:許可が裁量処分であれば、30条により裁量権の逸脱・濫用があるかを審査する。マクリーン事件(最大判昭和53年10月4日)の基準(事実の基礎を欠くか、社会通念上著しく妥当性を欠くか)を踏まえつつ、日光太郎杉事件型の判断過程審査も視野に入れる。

事例3:道路の陥没で負傷したケース

Wは市道の陥没穴に足を取られて転倒し負傷した。

  • 適用条文:道路は「公の営造物」であり、その設置・管理の瑕疵が問題となるから、国家賠償法2条1項を用いる。
  • 要件:高知落石事件(最判昭和45年8月20日)に従い、「通常有すべき安全性」を欠いていたかを判断する。過失の有無は要件ではなく、無過失責任である点が1条との決定的な違いである。
  • 費用負担者:道路の管理者と費用負担者が異なる場合は、3条により費用負担者に対しても賠償を求めうる。

法律別・要件の比較表

混同しやすい「期間」と「義務の性質」を横断的に比較しておく。

不服申立て・出訴の期間

法律 条文 主観的期間 客観的期間 行政不服審査法 18条 処分を知った日の翌日から3か月 処分の日の翌日から1年 行政事件訴訟法 14条 処分を知った日から6か月 処分の日から1年

行政手続法における義務の性質

制度 条文 性質 審査基準 5条 法的義務 処分基準 12条 努力義務 標準処理期間 6条 努力義務 申請拒否の理由提示 8条 法的義務 不利益処分の理由提示 14条 法的義務

答案での条文の書き方

「法律名+条文番号+項・号」をセットで引く

行政法は複数の法律にまたがるため、単に「9条」と書くと、行訴法9条なのか行不審法9条なのか判別できない。初出では必ず「行政事件訴訟法9条1項(以下、行訴法という)」のようにフルネームを示し、略称を定義する

条文→規範(判例)→あてはめの順で書く

  1. 条文の提示:「原告適格は『法律上の利益を有する者』に認められる(行訴法9条1項)。」
  2. 規範の定立:「処分の名宛人以外の第三者については、当該処分の根拠法令の趣旨・目的、考慮されるべき利益の内容・性質を考慮し(同条2項)、個別的利益として保護されているといえるかで判断する。」
  3. あてはめ:具体的事実を規範の要素に対応させて評価する。
  4. 結論:要件充足・不充足を明示する。

準用関係を明示する

無効等確認訴訟や当事者訴訟で取消訴訟の規定を使うときは、「行訴法38条1項により準用される同法33条」のように、準用の経路を示すと正確さが伝わる。

よくある減点ポイント

  • 条文番号の取り違え(行訴法14条「6か月」と行不審法18条「3か月」の混同)
  • 「処分基準(12条)」を法的義務と誤る
  • 義務付け訴訟で37条の2(非申請型)と37条の3(申請型)を取り違える
  • 判例の事件名・結論だけ書いて、根拠条文を示さない

条文の文言を「写経」して引用する

行政法の答案で説得力を高めるには、規範を自分の言葉で要約するだけでなく、条文の重要な文言をそのまま引用することが効く。例えば原告適格なら「『法律上の利益を有する者』(行訴法9条1項)」、裁量なら「『裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合』(同30条)」、執行停止なら「『重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき』(同25条2項)」のように、括弧書きで文言+条文を添える。文言を正確に引けることは、条文を読み込んでいることの何よりの証拠になる。

法律名の略称を一貫させる

答案中で行政事件訴訟法を一度「行訴法」と定義したら、その後は表記を揺らさない。「行政事件訴訟法」「行訴法」「行政訴訟法」が混在すると、採点者に条文操作の精度を疑われる。略称は初出時に「(以下『行訴法』という。)」と明示し、以後統一する。

訴訟要件と本案を混同しない

「処分が違法だから原告適格がある」といった論理の混線は典型的な失点である。原告適格(行訴法9条)は訴訟要件であり、処分の違法性(本案)とは別個に判断される。条文の位置づけ(訴訟要件か本案か)を意識して項目を立てると、構成が崩れない。


よくある質問(FAQ)

Q. 「行政法」という名前の法律はあるのですか?

いいえ。「行政法」は学問上・実務上の分野名であり、その名の単一の法典はありません。行政事件訴訟法・行政手続法・行政不服審査法・国家賠償法・地方自治法などの個別法と、判例・学説による一般理論の総体を指します。

Q. 条文を読むとき、最初に確認すべきことは何ですか?

その規定が一般法か特別法か、そして定義規定(行手法2条、行訴法3条など)でキーワードがどう定義されているかです。要件該当性の判断は必ず定義規定に立ち返ります。

Q. 審査請求と取消訴訟の期間はどう違いますか?

審査請求(行不審法18条)は処分を知った日の翌日から3か月、取消訴訟(行訴法14条)は処分を知った日から6か月です。数字の取り違えが頻出の失点源なので注意してください。

Q. 審査基準と処分基準の違いは?

審査基準(行手法5条)は「申請に対する処分」の基準で設定・公表が法的義務、処分基準(同12条)は「不利益処分」の基準で設定・公表は努力義務です。文言(「しなければならない」か「努めなければならない」か)で区別します。

Q. 国家賠償法1条と2条はどう使い分けますか?

1条は公務員の活動(公権力の行使)による損害、2条は公の営造物(道路・河川・公の施設等)の設置・管理の瑕疵による損害に適用します。1条は故意・過失を要する過失責任、2条は瑕疵を要件とする無過失責任です。

Q. 判例の年月日まで覚える必要はありますか?

答案では事件名と規範(判旨)を正確に書ければ年月日は必須ではありませんが、本記事のように正確な年月日・出典が分かるものは、復習時の参照に役立ちます。不確実な番号や年月日を創作するのは厳禁で、その場合は判例の趣旨・一般論にとどめるべきです。


まとめ

  • 「行政法」は単一の法典ではなく、複数の個別法と一般理論の総体。答案では法律名と条文番号を必ずセットで引く。
  • 条文は「一般法/特別法 → 定義規定 → 要件・効果の分解」の順で読む。「しなければならない」(法的義務)と「努めなければならない」(努力義務)の文言差を見落とさない。
  • 行訴法は3条(訴訟類型)・9条(原告適格)・30条(裁量)が最重要。処分性は大田区ごみ焼却場事件、原告適格は小田急高架化訴訟、裁量統制はマクリーン事件を押さえる。
  • 行手法は5条・8条・12条・13条・14条・32条を正確に。理由提示は一級建築士免許取消事件。
  • 行不審法は2014年改正の9条(審理員)・18条(3か月)、行訴法14条(6か月)との期間の違いに注意。
  • 国賠法は1条(過失責任)と2条(無過失責任)を分けて理解する。
  • 条文は「条文→規範(判例)→あてはめ→結論」の流れで使うと、説得力のある答案になる。

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