/ 刑事訴訟法

【判例】伝聞と非伝聞の区別(最判昭30.12.9)

伝聞と非伝聞の区別に関する最高裁判例を解説。供述証拠の定義・要証事実との関係・伝聞法則の適用範囲について分析します。

この判例のポイント

伝聞証拠に該当するか否かは、当該供述の内容の真実性が要証事実との関係で問題となるかどうかによって決せられる。 供述の内容が真実であることを前提として要証事実を証明しようとする場合には伝聞証拠に該当するが、供述の存在自体が要証事実との関係で意味を持つ場合には非伝聞として伝聞法則の適用を受けない。


事案の概要

被告人Xは、ある犯罪事実について起訴された。検察官は、公判廷において、第三者Aの公判廷外での供述を内容とする証拠(Aの供述を記載した書面またはAの供述を伝え聞いた者の証言)を証拠として提出した。

弁護人は、当該証拠は伝聞証拠(刑訴法320条1項)に該当し、原供述者Aに対する反対尋問の機会が保障されていないから証拠能力を欠くと主張した。

これに対し検察官は、当該証拠は供述内容の真実性を立証するためではなく、供述がなされたという事実自体を立証するために用いるものであるから、伝聞証拠には該当しないと反論した。

問題は、公判廷外の供述を内容とする証拠について、伝聞証拠に該当するか否かの判断基準をどのように設定すべきかという点にあった。


争点

  • 伝聞証拠と非伝聞証拠の区別の基準
  • 供述の内容の真実性と要証事実の関係
  • 伝聞法則(刑訴法320条1項)の適用範囲

判旨

刑訴法320条1項にいう伝聞証拠とは、公判廷外における供述を内容とする証拠であって、その供述の内容の真実性を立証するために用いられるものをいう。したがって、供述の内容の真実性が問題とならない場合、すなわち、供述の存在自体が証拠としての意味を持つ場合には、伝聞法則の適用を受けない

― 最高裁判所第二小法廷 昭和30年12月9日 昭和30年(あ)第382号

最高裁は、伝聞証拠の該当性について、供述の内容の真実性が要証事実との関係で問題となるかどうかを基準として判断すべきことを示した。供述内容の真実性を前提とせずに、供述の存在自体から要証事実を推認する場合には、非伝聞として証拠能力が認められる。


ポイント解説

伝聞法則の趣旨

伝聞法則(刑訴法320条1項)は、公判廷外の供述を内容とする証拠の証拠能力を原則として否定する法則である。その趣旨は以下の点にある。

  • 反対尋問権の保障: 供述証拠の信用性を吟味するための最も有効な手段は反対尋問であり、公判廷外の供述には反対尋問の機会が保障されていない
  • 直接審理主義: 裁判官が供述者の態度・表情を直接観察して心証を形成すべきであり、伝聞証拠ではこれが不可能である
  • 供述過程の危険性: 供述は、知覚・記憶・表現・叙述の各段階で誤りが生じる可能性があり、反対尋問によってこれを検証する必要がある

伝聞と非伝聞の区別基準

伝聞証拠に該当するか否かは、以下の基準によって判断される。

  • 伝聞: 公判廷外の供述を内容とする証拠について、供述内容の真実性が要証事実との関係で問題となる場合。すなわち、供述内容が真実であることを前提として要証事実を推認しようとする場合
  • 非伝聞: 公判廷外の供述を内容とする証拠について、供述の存在自体が要証事実との関係で意味を持つ場合。すなわち、供述内容の真実性を問題とせず、供述がなされたという事実から要証事実を推認する場合

この区別は、要証事実が何であるかに依存する。同じ供述であっても、要証事実が異なれば、伝聞となる場合もあれば非伝聞となる場合もある。

非伝聞となる典型的な場合

供述が非伝聞となる典型的な場面として、以下のものが挙げられる。

  • 供述の存在自体が要証事実である場合: 「Aが『殺してやる』と言った」という供述について、Aの脅迫行為の存在自体を立証する場合。この場合、Aの発言内容が真実か(本当に殺意があったか)は問題とならず、発言がなされたこと自体が構成要件に該当する
  • 供述者の精神状態を推認する場合: 供述内容から供述者の認識・意図・精神状態を推認する場合。例えば「自分がやった」という供述から被告人の犯意を推認する場合
  • 供述の効果(言語行為)が問題となる場合: 契約の申込み・承諾など、供述自体が法律行為を構成する場合
  • 情況証拠として用いる場合: 供述の存在から間接的に別の事実を推認する場合で、供述内容の真実性を前提としない場合

要証事実との関係の重要性

伝聞・非伝聞の区別において最も重要な点は、同一の供述であっても要証事実の設定によって結論が異なりうるということである。

例えば、「Bが『Xが刃物を持っていた』と言っていた」というCの証言について考える。

  • 要証事実がXの刃物所持の事実である場合: Bの供述内容の真実性が問題となるから、伝聞証拠に該当する
  • 要証事実がBがそのような発言をしたこと自体である場合: 供述の存在が問題であり内容の真実性は問題とならないから、非伝聞に該当する

このように、伝聞・非伝聞の判断は要証事実の設定と不可分の関係にあり、証拠の提出目的を確定することが不可欠である。


学説・議論

供述証拠の定義をめぐる議論

伝聞証拠の定義について、学説上は以下の見解が存在する。

  • 内容真実性基準説(通説・判例): 公判廷外の供述を内容とする証拠であって、供述内容の真実性を立証するために用いられるものが伝聞証拠である。本判決もこの立場に立つ
  • 反対尋問欠如基準説: 反対尋問を経ていない供述証拠が伝聞証拠であるとする見解。内容真実性基準説と実質的にはほぼ同じ結論に至るが、伝聞法則の趣旨を反対尋問の保障に求める点で重点の置き方が異なる

非伝聞の範囲をめぐる問題

非伝聞の範囲については、以下の点が議論されている。

  • 心の状態の供述: 供述者の認識・意図などの心の状態を推認するために供述を用いる場合を非伝聞とすることについて、供述内容の真実性(本当にそのような心の状態であったか)が結局問題となるのではないかとの批判がある
  • 推認過程の差異: 非伝聞の場合、供述から要証事実への推認過程において供述内容の真実性が介在しないとされるが、この判断が実際には微妙なケースが少なくない
  • 要証事実の操作: 検察官が要証事実を巧みに設定することにより、本来伝聞証拠として排除すべきものを非伝聞として証拠とすることが可能となるとの批判がある(要証事実のすり替えの問題)

写真・ビデオ映像と伝聞法則

伝聞法則の適用範囲に関連して、写真・ビデオ映像が伝聞証拠に該当するかも議論されている。通説は、写真やビデオ映像は機械的記録であり供述証拠ではないとして、伝聞法則の適用を否定する。もっとも、供述を記録したものや再現写真については別途検討が必要とされる。


判例の射程

伝聞・非伝聞の区別が問題となる類型

本判決の射程は、伝聞・非伝聞の区別が問題となるあらゆる場面に及ぶ。特に以下の類型が実務上重要である。

  • 犯行計画メモ: 被告人が作成した犯行計画を記載したメモは、被告人の計画・意図を推認するために用いる場合には非伝聞と解する余地がある
  • 被害者の供述: 被害者の公判廷外供述は、原則として伝聞であるが、被害者の恐怖・苦痛等の精神状態を推認するために用いる場合には非伝聞となりうる
  • 共犯者間の連絡文書: 犯行の謀議を裏付ける共犯者間のメッセージは、その存在自体が共謀の間接事実として非伝聞と解される場合がある

伝聞例外との関係

伝聞証拠に該当する場合であっても、刑訴法321条以下の伝聞例外の要件を充たせば証拠能力が認められる。したがって、非伝聞と構成することは、伝聞例外の要件を回避するための手段として機能しうる点に留意が必要である。


反対意見・補足意見

本判決に付された特段の反対意見・補足意見は見られないが、伝聞と非伝聞の区別基準をめぐっては、その後の裁判例において個別具体的な事案ごとに判断が積み重ねられている。特に、供述者の精神状態の推認供述内容の真実性の境界線については、下級審を含め判断が微妙に分かれる場面がある。


試験対策での位置づけ

伝聞と非伝聞の区別は、司法試験・予備試験の刑事訴訟法においてA級の最重要論点の一つであり、証拠法分野の最頻出テーマである。出題パターンとしては、(1)具体的な証拠について伝聞・非伝聞の判断を求めるもの、(2)要証事実の設定によって伝聞・非伝聞の結論が変わることの説明を求めるもの、(3)伝聞証拠に該当する場合にどの伝聞例外が適用されるかを問うもの、の三つが主な類型である。答案では、要証事実を明示したうえで、供述内容の真実性が問題となるか否かを丁寧に検討することが求められる。


答案での使い方

論証パターン

伝聞証拠とは、公判廷外の供述を内容とする証拠であって、供述内容の真実性を立証するために用いられるものをいう(刑訴法320条1項、最判昭30.12.9)。伝聞証拠に該当するか否かは、当該証拠の要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となるかどうかによって判断すべきである。供述の存在自体が要証事実との関係で意味を持つ場合には、伝聞法則の適用を受けず、非伝聞として証拠能力が認められる。」

答案記述例

「本件において、Aの『Xが刃物を持って追いかけてきた』という供述を内容とするBの証言が問題となる。要証事実がXの刃物所持・追跡行為の存在である場合、Aの供述内容の真実性が問題となるから、当該証言は伝聞証拠に該当する。伝聞例外の要件を充たさない限り、証拠能力は認められない。他方、要証事実がAの恐怖心の存在である場合、Aがそのような供述をしたこと自体からAの恐怖心を推認でき、供述内容の真実性は問題とならないから、非伝聞として証拠能力が認められる。」


試験に出るポイント

  1. 伝聞証拠の定義: 公判廷外の供述を内容とする証拠で、供述内容の真実性を立証するために用いるもの
  2. 判断基準: 要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となるか否かが決定的
  3. 同一供述の二面性: 同じ供述でも要証事実の設定により伝聞にも非伝聞にもなりうる
  4. 非伝聞の典型例: 言語行為としての供述・精神状態の推認・供述の存在自体が意味を持つ場合
  5. 要証事実のすり替え問題: 検察官が要証事実を操作して伝聞法則を潜脱する危険性

覚えるべき要点

  • 伝聞法則の趣旨は反対尋問権の保障直接審理主義にある
  • 伝聞・非伝聞の区別は要証事実に依存する
  • 供述の存在自体が証拠としての意味を持つ場合は非伝聞
  • 供述の内容の真実性が立証に必要な場合は伝聞
  • 供述過程の危険(知覚・記憶・表現・叙述)が介在しない場合は非伝聞

論証への活かし方

答案では、以下の三段階の検討を行うことが効果的である。

  1. 要証事実の確定: まず当該証拠の要証事実を明示する。検察官の立証趣旨を踏まえ、何を立証しようとしているのかを特定する
  2. 伝聞・非伝聞の判断: 確定した要証事実との関係で、供述内容の真実性が問題となるかを検討する。知覚・記憶・表現・叙述の各過程の信用性が問題となるか否かも考慮する
  3. 伝聞例外の検討: 伝聞証拠に該当する場合、適用可能な伝聞例外(321条以下)の要件充足を検討する

この三段階の検討を意識することで、伝聞法則に関する答案の論理構成が明確になる。


重要概念の整理

区分 伝聞証拠 非伝聞証拠 供述内容の真実性 問題となる 問題とならない 要証事実との関係 供述内容が真実であることを前提 供述の存在自体が意味を持つ 供述過程の危険 介在する 介在しない 伝聞法則の適用 適用あり(原則排除) 適用なし 証拠能力 伝聞例外に該当しない限り否定 関連性があれば肯定

よくある質問

Q1: 伝聞と非伝聞はどのように見分ければよいですか。

最も重要な判断基準は「要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となるか」である。具体的には、供述内容が真実でなければ要証事実の立証に役立たない場合は伝聞、供述内容の真否にかかわらず供述の存在自体から要証事実を推認できる場合は非伝聞と判断する。答案では必ず要証事実を明示してから判断を示すことが重要である。

Q2: 精神状態の供述は伝聞ですか非伝聞ですか。

供述者の精神状態(意図・認識・感情等)を推認するために供述を用いる場合は、一般に非伝聞と解されている。例えば「痛い」という供述から苦痛の存在を推認する場合である。ただし、「昨日痛かった」のように過去の精神状態を述べる場合は記憶の過程が介在するため伝聞と解する見解もあり、議論がある。

Q3: 要証事実のすり替えとは何ですか。

検察官が本来の立証趣旨とは異なる要証事実を設定することにより、伝聞証拠を非伝聞と主張して証拠とすることをいう。例えば、実質的にはAの供述内容の真実性を立証したいにもかかわらず、「Aがそのような供述をしたこと自体が重要」と主張する場合である。裁判所はこのような要証事実の操作を許すべきではなく、実質的な立証趣旨に即して伝聞・非伝聞を判断すべきとされる。

Q4: メモや日記は伝聞証拠に該当しますか。

メモや日記は供述を書面化したものであるから、刑訴法320条1項の「供述に代わる書面」に該当し、原則として伝聞証拠となる。ただし、メモの存在自体が要証事実との関係で意味を持つ場合(例えば犯行計画メモの存在から計画性を推認する場合)には、非伝聞として扱う余地がある。


関連条文

第320条 第321条乃至第328条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。

― 刑事訴訟法 第320条第1項


関連判例


まとめ

伝聞と非伝聞の区別に関する本判決は、伝聞証拠とは公判廷外の供述を内容とする証拠であって供述内容の真実性を立証するために用いられるものであり、供述の存在自体が要証事実との関係で意味を持つ場合には非伝聞として伝聞法則の適用を受けないことを明確にした重要判例である。伝聞・非伝聞の区別は要証事実の設定と不可分の関係にあり、同一の供述であっても要証事実によって結論が異なりうる。証拠法分野の最重要論点として、要証事実を明示したうえで供述内容の真実性が問題となるかを丁寧に検討する姿勢が求められる。

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