予算の法的性格とは
よさんのほうてきせいかく
予算の法的性格とは、内閣が作成し国会の議決を経る予算(86条)が、法律とは異なる独自の法形式か、それとも法律の一種かをめぐる議論です。通説の予算法形式説と予算法律説が対立し、国会の修正権の範囲や予算と法律の不一致の処理をどう説明するかが変わります。
生徒会の年間予算は、総会で承認された年度の計画であって、生徒一人ひとりを縛る規則ではありません。国の予算も、政府の一年間のお金の使い方を定めるもので、国民を直接縛る法律とは違って見えます。ところが国会が議決する点では法律と同じです。そこで予算は法律とは別の独自の形式なのか、それとも法律の一種なのかが争われ、その答えによって、国会が予算をどこまで修正できるのか、予算と法律が食い違ったらどうなるのかの説明が変わってきます。
予算法形式説は、提出権と先議権の特則を根拠にします
通説である予算法形式説は、憲法が予算について法律と異なる扱いをしていることを手がかりにします。「予算法規範説は,提出権が内閣に属すること,衆議院に先議権があることなどを根拠とする」という肢は正しいです。これに対して予算法律説は、予算の制定手続が一般の法律と異なるのは59条1項の「憲法に特別の定のある場合」に当たるにすぎないと反論します。法律案であれば議員も提出でき、先議権もありません。それにもかかわらず予算にだけ特則が置かれているのは、予算が法律とは別の法形式だからだ、という論法です。予算の議決が法律の議決と別に定められていること自体が、この説の出発点になります。効力の面でも、予算は政府を拘束するだけで国民を直接拘束しません。国民の権利義務を定めるのは、租税を課す法律や給付を定める法律のほうであり、予算はその裏づけとなる財源の配分を決めるにとどまります。この効力の違いも、独自の法形式と解する理由に挙げられます。
- 予算行政説予算は国会が政府に与える承認にすぎず、法規範性をもたない。国会は政府の行為を承認するだけで、予算に法的な拘束力はないとする古い見解
- 予算法形式説(予算法規範説)予算は政府を拘束する法規範ではあるが、法律とは異なる独自の法形式である。通説
- 予算法律説予算は法律の一種である。議決の手続についても、憲法に特別の定めがある部分を除いて法律案の規定が適用される
予算法律説は、予算の議決に法律案の手続が原則として適用されるとみます
予算法律説は、財政民主主義(83条)を徹底し、国民の負担につながる予算も国会が法律の形で定めるべきだとします。「予算法律説に立つと、予算の議決には原則として法律案の議決について定める憲法第59条第1項が適用され、この規定の「憲法に特別の定のある場合」として憲法第60条の衆議院の先議権と衆議院の優越が適用されると解される」という肢は正しいです。59条1項の「この憲法に特別の定のある場合を除いては」という文言に、60条の特則を読み込む構成です。この説からは、予算の内容と矛盾する法律が後に成立すれば、後法優位で予算が変更されることになります。国会の修正権も広く認められ、内閣の提出した原案に縛られません。批判としては、予算には一会計年度という時間的な限定があり、国民を直接拘束しない点で法律と性質が異なることが指摘されます。
修正権の範囲は、説の違いで逆になります
国会の修正権については、予算を独自の法形式とみる説のほうが制限を認め、法律とみる説のほうが自由を認める、という関係になります。「国会が予算に対してどこまで修正をなし得るかについて,予算法規範説は修正に制限は存しないとする,それに対して,予算法律説は,予算の同一性を損なうような大修正はできないとする」という肢は誤りで、二つの説の結論が入れ替わっています。予算法形式説からは、内閣の提出権を実質的に奪うような大修正はできないという限界が導かれることが多いです。もっとも、その範囲はきわめて不明確であり、国会は予算を否認することもできるのだから、予算法形式説に立っても財政民主主義を強調して修正に制限はないと解する見解もあります。したがって「予算法形式説に立つと、予算に対する国会の修正に制限は存しないと解することはできない」という肢も誤りです。
増額修正も減額修正も認められますが、限界があります
修正の可否そのものについては、減額修正も増額修正も認められるというのが通説です。「日本国憲法においては,予算発案権は内閣に専属する,しかし,憲法第83条の趣旨からして,国会は,提出された予算案につき,減額修正,増額修正のいずれもなし得ると解されており,国会法や財政法には,増額修正を想定した規定が置かれている」という肢は正しいです。「国会は,予算の議決に際し,減額修正を行うことができるが,内閣に予算の作成提出権が専属していることに照らし,予算の款や項目を削除することは許されない」という肢は誤りで、減額修正に款項の削除を除くという限定はありません。他方で「国会は,予算の議決に際し,増額修正を行うことができるが,予算の作成・提出権が内閣に専属していることから,原案に新たな項を加えることはいかなる場合も許されない」という肢も誤りです。新たな項を加えることが「いかなる場合も」許されないとまではいえず、予算の同一性を損なう程度に至るかどうかが基準になります。
予算と法律の不一致は、予算の性質論とは別の問題です
予算はあるのに法律がない、法律はあるのに予算がない、という食い違いは、予算の提出権が内閣に専属し議決の手続も法律案と違うことから生じるもので、予算をどう性質決定するかとは次元の異なる問題です。「予算は法律であるとする予算法律説の立場に立てば,予算措置を必要とする法律が成立したのに,それを執行するための予算が伴わないという事態は生じ得ないこととなる」という肢は誤りで、予算法律説に立っても、法律と予算では提出権者と議決の手続・要件が異なる以上、不一致は生じえます。「予算措置を必要とする法律が成立したのにそれを執行するための予算が伴わないという事態は、予算法律説とは異なり、予算法形式説に立つと生じない」という肢も誤りで、予算法形式説に立っても同じく不一致は生じえます。実際の処理としては「予算の裏付けを必要とする法律が成立しているにもかかわらず、その執行に必要となる予算が不存在ないし不成立の場合、法律を誠実に執行すべき内閣としては、補正予算の提出、経費の流用、予備費の支出などにより、対処することが求められる」という肢が正しく、内閣は誠実執行義務(73条1号)を果たすために予算措置をとることになります。
予算が成立しないときの暫定予算も、国会の議決を要します
新年度の開始までに予算が成立しないことがあります。この場合に備えて財政法30条が暫定予算を定めていますが、これも予算である以上、国会の議決を経なければ執行できません。「予算が新年度の開始前に成立しない場合には,内閣は,一会計年度のうちの一定期間に係る暫定予算を編成し,国会の議決を経ることなく執行することができる」という肢は誤りです。国会の議決なしに財政を処理できるとすれば、83条の財政民主主義が骨抜きになります。前年度の予算をそのまま施行するという明治憲法の制度は、日本国憲法には引き継がれていません。暫定予算は本予算が成立すれば効力を失い、すでにした支出は本予算に吸収されます。予算の不成立という事態を国会の議決なしに処理する余地は、憲法上残されていません。
憲法 第86条
内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。
論文ではこう使う
論文では、国会が予算をどこまで修正できるかを問われたときに使います。まず86条と60条の特則から、予算が法律とは異なる扱いを受けていることを示し、予算法形式説と予算法律説を対置します。自説を予算法形式説に置くなら、内閣の予算提出権を実質的に失わせない範囲で修正できる、という基準を立て、問題の修正が予算の同一性を損なうかを当てはめます。予算と法律の不一致を論じるときは、どちらが欠けているのかを確定してから、誠実執行義務と財政民主主義のどちらが前面に出る場面かを見極めます。
この用語が出た過去問の肢を、正誤を選んで解説で確かめられます。